投稿者「uterium」のアーカイブ

『孤独と不安のレッスン』 著:鴻上尚史

二十台の前半の頃は本当に頭でっかちだったなと思います.「理性」で何でも何とかできると思っていたのです.一種の中二病だったのかもしれないです,大学生なのに….二十台の半ばくらいでどうも理性だけでは上手くいかないなぁと言うか,「感情」の存在の大きさに気づき.今はだんだん20代前半に比べると無理が利かなくなってきて,「体」の影響が結構あるんだなぁと思い始めています.
ということで,鴻上尚史さんの『孤独と不安のレッスン』です.ドキッとするタイトルですね.僕もなんて自分にぴったりくるタイトルなんだろうか,と思いました.むしろ自分に引きつけすぎていて,レビューが上手く書けないです.
要は,孤独と不安と他の人から人間はどうあっても逃れられないのだから,それと上手く付き合う方法を探しましょうという本です.本書では,孤独には「本物の孤独」と「ニセモノの孤独」が,不安には「前向きの不安」と「後ろ向きの不安」が,他の人には「他者」と「他人」があるとして,まずはそれらを区別することから始めます.本書では,前者をいかに取り扱うかが孤独と不安のレッスンであると説かれています.レッスンというだけに,演劇をやっている人だけに,頭で考えるだけではなくて体を使った自分のコントロールの仕方が書かれているのが印象的でした.
頭で分かっていても,体で分かっていない言葉は軽いというか,相手に通じないというか,自分にすら通じないというか,軽いものです.レッスンと題されているとおり,この本に書かれていることもその類でしょう.おそらく生きている限り,孤独と不安のレッスンは続くのです.

孤独と不安のレッスン (だいわ文庫) 孤独と不安のレッスン (だいわ文庫)
(2011/02/09)
鴻上 尚史

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『灼熱の小早川さん』 著:田中ロミオ 挿画:西邑

田中ロミオ先生の新作.しかしヒロインがメガネ,黒髪,委員長,どんだけ俺を萌え殺す気かと.
この作品を読んでいると,高校2年の時のクラスを思い出す.思い返せばこの作品の1年B組のような感じで,割と居心地が悪かったのだ.多分個人個人は善良だったのだけど,集団行動に無気力で規律や秩序はない,みたいなね.
勉強,スポーツ,人間関係,何事もそつなく器用にこなす主人公飯嶋直幸は,入学した高校でヒロイン小早川千尋に出会う.学級崩壊気味のクラスに掉さした彼女と深くかかわることになった主人公は…という話.
ヒロインを好きになった主人公の気持ちはすごく分かる.というか頑張ってる女の子の余裕のない様子を見たら,なんとか力になってあげたいとか思って好きになってしまうわい.往々にして,男の側の勘違い空回りだったりするけどな!
ヒロイン観察系,というあおり文句のとおり主人公の心理描写は比較的あるんだけど,ヒロインの心情は主人公がたまたま見つけたヒロインが管理人のブログへの書き込みでしか語られず,そしてそれは途中から出てこなくなる.ラストが駆け足なのは多分そのせいで,あそこはまさにずっと小早川さんのターンなのだ.あそこで彼女が何を考えているのか?ということを想像するのは個人的には楽しかったけど,逆に彼女の一人称で補完する話を読んでみたいなぁとも思う.きっと自分の気持ちと,主人公の裏切りと,自分を助けてくれたという事実で,心は千々に乱れたのだろうな.
タイトルとモチーフは明らかに『灼眼のシャナ』だよなぁと.炎の剣だし….
色々掘り下げが足りない気もするけど,田中ロミオの流れるような筆致に加えて,とにかく小早川さんが可愛い.久しぶりにグッと来てしまった.
あと,ヒロインは絶対ムッツリスケベだと思う.

灼熱の小早川さん (ガガガ文庫) 灼熱の小早川さん (ガガガ文庫)
(2011/09/17)
田中 ロミオ

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『アゲイン!!(1)』

もしたられば,誰でも一度は思ったことがあるはず.最近では思うことは少なくなりましたが,大学入りたての頃はずいぶん高校時代に戻りたいなぁと思っていたモノでした(当時環境がすごく変わって,さらに第一志望の大学に受からなくてちょっと凹んでいたのです.)
ということで,『モテキ』で非モテ男の心をえぐった久保ミツロウ先生の新作は『アゲイン』という名のごとく,高校生活をもう一度やり直せるとしたら?というタイムスリップ物です.高校の三年間,部活もせず,友達もおらず過ごした主人公は,卒業式の日にとあるきっかけで入学式の日にタイムスリップしてしまいます.実は彼には卒業式の日に思い出すような心残りがありました,それは入学式で気になった応援団の,女子部長のことでした.三年間をやり直せることになった彼は,このまま行けば何も起こらないことが分かっている砂漠のような日々を変えるために,ある行動に出るのでした…という形で話が始まります.
主要キャラクターが何人かいるのですが,どうもいろいろ事情を抱えている様子,それがこれからどう転んでいくのか?物語はまだ始まったばかりです.というか,そもそも主人公は高校三年間をきちんとやり直せるのかもよく分からず(途中で戻ってしまう可能性も当然ありますよね?),本当に話がどう転がるのか分かりません.二巻が待ち遠しい!!
掲載誌が少年誌と言うことで,現役の高校生に向けて描いているようなことが後書きに書かれていますが,何となく自分のような青春コンプレックスを多少なりとも煩っている人もターゲットなんじゃないかなぁと思わなくもありません.A5版?ですしね.
もし高校時代に戻れたら,僕は何をするだろうなぁ(遠い目).

アゲイン!!(1) (KCデラックス) アゲイン!!(1) (KCデラックス)
(2011/09/16)
久保 ミツロウ

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理系のための日本近代史私的選書

自分の個人的な経験を一般化するのはどうかと思うのですが,理系の皆さまには歴史にアレルギーを持っておられる方が多いのではないかと思います.自分自身も高校時代,年号の暗記に嫌気がさして歴史をまともに学ぶ気がなかった人間だったのですが,最近私的に再学習をしています.
この記事では,自分が近代史の再学習のために読んだ本を紹介したいと思います.比較的偏っている自覚はあるので,もっと色々な史観の本を読むべきなんでしょうが.ご紹介いただけると幸いです.
驕れる白人と闘うための日本近代史
江戸時代の日本の封建制度は、当時の西洋人が思っていた以上に良くできていたのだ、という本。日本のサービス業が異常にサービスがいいのは江戸時代以来らしい。

驕れる白人と闘うための日本近代史 (文春文庫) 驕れる白人と闘うための日本近代史 (文春文庫)
(2008/09/03)
松原 久子

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逝きし世の面影
上の本と同じく江戸時代の日本社会の完成度の高さを、こちらは当時の来日した外国人の手記などを徹底的に引用して書いている本。ある筋では有名な本らしい。

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー) 逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)
(2005/09)
渡辺 京二

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夜這いの民俗学,性愛論
近代日本社会に特有の人口再生産システム、「夜這い」の実相を実体験を基に示す。客観性がないという批判はありつつも、夜這いという単語に抱きがちな背徳的な印象を覆す。

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論 夜這いの民俗学・夜這いの性愛論
(2004/06/10)
赤松 啓介

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マクニール世界史
世界史の本の中では比較的読みやすいと言われる本。一応欧米の帝国主義の文脈の中で、日本近代の維新が触れられています。 世界の流れの中での日本をざっと見るにはいいかも。

世界史 下 (中公文庫 マ 10-4) 世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)
(2008/01)
ウィリアム・H. マクニール

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日本語が亡びるときー英語の世紀の中で
日本語のこれからを述べる本なのですが、論は明治時代の知識人層がいかにして西洋の学問を輸入したのか、に立脚しています。現在でも日本語で文学や学問ができるのは、この頃の日本人の非凡な努力あってのことなのです。

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で 日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で
(2008/11/05)
水村 美苗

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再学習を始めて思うのは,歴史,特に近,現代史は実学であるということです.特に日本は,明治維新と太平洋戦争敗戦で二度も国家,文明としての大きな転換点を迎えているわけで,日本の現代は確実にその上に建っているわけです.歳をとるほど,今とこれからを考えるためには過去,すなわち歴史を学ばないとダメだなぁと思うのです.
もうちょっと読んだら太平洋戦争かなぁと思うのですが,祖父が戦争に行ってきた人間なのでかなんとなく抵抗感があるのですよね.どこかに良い本はないかしら.

『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』 著:赤松啓介

著者は赤松啓介先生.在野の民俗学者の方だそうで.
近代~大正時代半ばくらいまでの農村地域と商家の性風俗(性風俗産業にあらず)についての個人的フィールドワークの本.日本の民俗学といえば柳田國夫ですが,親の敵かと言わんばかりにDisっております.その点はちょっとどうかと思いますが.
一言で言うと,100年前の日本って,まるで異国のようです.根本的な性への価値観からして今の我々とは大違いです.とりあえず,隠しておくべきことだとか,人前でみだりにクチにすべきでないもの,なんて価値観は皆無.いいこと,すてきなもの,当たり前のもの,ときわめてポジティブにとらえています.
タイトルにある夜這いと聞くと,とりあえず近所の娘さんのいるウチに忍び込んで無理矢理手込めにしちゃう,的な無秩序な悪習的なイメージを持つかもしれませんが(実際僕もそう思っていた),実際にはコミュニティの再生産全体を司る非常に秩序だった仕組みだったらしいと言うことがこの本を読むと分かってきます(例えば,いわゆる筆下ろしはお寺のお堂の中で行われ,般若心経を唱えてから行われるものだったらしい).多産多死型,労働集約的な産業を主産業とし,家系に受け継がれるべき財産も持たなかったコミュニティにおいては,それなりに合理的な仕組みであるように思えました.何より驚いたのが,男性が女性に強姦されるなんて話もあったらしいと言うことでしょうか?
僕自身は現代日本の価値観を内面化しているので,夜這いの風習に復活されても正直困るのですが,社会なりコミュニティなりに,キチンと性を教え,継承していく仕組みが組み込まれている点は現代日本よりも優れているのではないかと思ってしまいます.若者の性の乱れとか,非婚化セックスレスとか,表現規制問題とか,日本の再生産や性にまつわる社会問題の根本原因には,社会的にコンセンサスがとれ,生物としての人間のあり方にそれなりに調和的な「現代日本における,社会的に正しい性のあり方」を教えていくシステムが根本的に壊れてしまっていることに起因する気がします.じゃあそれをどうやって構築したらいいのかはよく分からないのですが.

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論 夜這いの民俗学・夜這いの性愛論
(2004/06/10)
赤松 啓介

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参考動画URL

『科学との正しい付き合い方』 著:内田麻里香

著者は内田麻里香さん.サイエンスコミュニケーターの方です.
タイトルの通り,科学(本書の中では科学+技術の意)とどのように付き合っていけばよいのか,というサイエンスコミュニケーションについて,特に筆者がサイエンスコミュニケーションの対象と考えている,科学技術に直接携わっていない人(いわゆる文系の人)に対して書かれた本のようです.
本書において僕がおもしろいと思った点は,科学リテラシーを
・科学的思考法
・科学に関する知識
の2つに分割していることです.そして科学的思考法そのものについては,理系の人間,科学技術に携わっている人であっても必ずしも持っていないと主張している点でしょうか.その一例として,2010年に物議をかもした「事業仕分け」における科学者たちの行動が取り上げられ,あれは科学の教条化であり,科学的思考法からもっとも遠い態度であると書かれています.
筆者の,「コミュニティの中に科学の考え方を理解し,必要な情報を取捨選択する能力を持った人を」という考え方には,社会の成員全員をすべからく教化すべしという考え方よりもいささか現実路線のような気がします.
一応科学技術に関わっている自分としてできることは,自分の専門も世の中に存在する多様な事物の一部にすぎないと相対化して,他者に対して謙虚に言葉を紡ぐことなのでしょうね.とするならば,サイエンスコミュニケーションもまたコミュニケーションの一部に他ならないと,こういう訳ですね.

科学との正しい付き合い方 (DIS+COVERサイエンス) 科学との正しい付き合い方 (DIS+COVERサイエンス)
(2010/04/15)
内田 麻理香

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『ハーモニー』 著:伊藤計劃

著者は伊藤計劃.本作が遺作となってしまいました.この作品を読む限り,これからどれほどすばらしい物語を紡いでくれただろうかと思わせます.神様に才能を愛されてしまったようにしか思えないような人です.
一応ネタバレ的なことも書くのでご注意を.

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『エロティック・ジャポン』 著:アニエス・ジアール

著者はアニエス・ジアール.日本通のフランス人だそうです.

葛飾北斎の触手春画「蛸と海女」からエロゲー,テレクラまで,日本の性風俗の総合カタログという趣.CNNがおもしろおかしく日本の珍妙な文化現象について紹介するのとは違って,割と「日本スゲー」的な書き方はされています.この本に書いてあることすべてに精通している訳ではないですけれども,現象の解釈については,?という思うところもありますが,本書のあちこちにちりばめられた大量の資料は本物です.まさに日本はエロと変態の総合デパート.変態国家ニッポン万歳.ここまで突き抜けていたらむしろ誇っていいと思います.
これほど豊穣にして爛熟した性風俗産業,性関連情報があればこそ,本書の8章「男らしさの危機」に指摘されるように性そのものの貧しさが際立つなぁという印象.ここでもやっぱり男がたたかれるのか?という感じです.高度経済成長期からバブルにかけて,経済力と男らしさを安易に結びつけすぎたせいで妙なことになってるのかなぁ?

エロティック・ジャポン エロティック・ジャポン
(2010/12/18)
アニエス・ジアール

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『恋とセックスで幸せになる秘密』 著:二村ヒトシ

著者は二村ヒトシ,AV監督ですね.
恋愛マニュアル的な本ではあるんですが,恋愛をするためには自己愛についてきちんと考えないとダメよ.という本.
この本によると,自己愛はナルシシズム(自分に対する恋,向上心の源)と自己肯定感(自分はそのままで大丈夫であるという気持ち)に分類されて,どちらも生きるためには欠くべからざるものなのだけど,現代の女性には圧倒的に後者を欠く人が多くて,それが「恋とセックスで幸せになれない秘密」になっているというもの.
自己肯定できない人間がなぜ恋とセックスで幸せになれないのか?というところをこの本では「心の穴」というもので説明しています.心の穴とは,いわば自分の中の気にくわない部分でしょうか?誰かに恋をするとき,人は自分の心の穴を恋する相手でふさごうとするそうですが,結局そんなことはできないわけで,自分の心の穴をきちんと把握してそのままつきあっていくこと(すなわち自己肯定)をしなければ幸せにはなれませんよ説きます.その助けになるのが恋愛である,とこの本では説くわけですね.どうやって自己肯定をして恋愛で幸せになるのか?が最終的にこの本では語られるわけです.
自己肯定しづらい女性に対して,男はオタクになったり「ヤリチン」になったりでインチキ自己肯定ができてしまうのが現代日本という話だそうです.そういえば著者の前著である『すべてはモテるためである』では,男はオタクになってインチキ自己肯定をして,その上できちんと女の人に恋をしなさいと説いていたわけですね.実際には男がインチキ自己肯定の世界から帰ってこなくなってしまったっぽいですが.このあたりはあとがきによると,次の本で書くつもりだそうですので,監督の本のシンパとしては気長に待とうと思います.
女性向きだし表紙もタイトルも若干手に取りにくいものではありますが,男性が読んでも心当たりがあるのではないかと思います.本書で言うところの「弱虫系男子」とやらも要は自己肯定できていないんでしょうし….

恋とセックスで幸せになる秘密 恋とセックスで幸せになる秘密
(2011/02/25)
二村 ヒトシ

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すべてはモテるためである―「キモチワルイ」が「口説ける男」になる秘訣 (ムックセレクト) すべてはモテるためである―「キモチワルイ」が「口説ける男」になる秘訣 (ムックセレクト)
(1998/05)
二村 ヒトシ

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『生きるってなんやろか?』 著:鷲田清一

著者は石黒浩と鷲田清一.某大阪大学において,学術的な知名度と共に最も一般への知名度の高そうな二人の先生の対談(どっちかというと放談)です.
内容としては,自分,心,個性,みたいなものについて色々語っている,という感じでしょうか?
若者のためのクリティカル「人生」シンキング という副題への本書の答えは,
・とにかく他人と関係しろ
・徹底的に突き抜けろ
の2点であるように思いました.
1つ目の答えのベースになっているのは,恐らく石黒先生の研究の根本的なアプローチである(と僕が勝手に思っている)「関係論的な心」というものだと思います.「心,とか自分といった実体を明確に規定できるものではなくて,それらは他者との関係性の中からステンシルのように浮かび上がるようなものである.」という考えにのっとるならば,自分とは何か,自分の人生とは何か,について答えを出すにはとにかく他人と関係するしかないということでしょう.
2つ目の答えについては,結局巷で言われるところの「個性」とか「天職」みたいなものって,所詮誰かが決めた「枠」の中でのものでしかないのだから,本当にそういうものが見つけたければ徹底的に考えろってことでしょう.
ただ,これってあくまで自分の興味の方向につきぬけて,そのまま社会の中に自分の居場所を作ってしまった成功者の言葉なんですよね.ビジネス書と一緒で他人の言葉をいくら頭で理解したって,99パーセントの人の人生にとっては何の影響もないものだと思います.ただ,この本の中にも書かれている,石黒先生の「死のうと思った」とか鷲田先生の「死ぬほど勉強した」はすごく重たいと思いました.おそらく本当にそういう風に思っていたのだろうな.人生を左右するような言葉があるとすれば,それはこういう風に自分の身体を通ったことのある言葉だけなのでしょう.

生きるってなんやろか? 生きるってなんやろか?
(2011/03/11)
石黒 浩、鷲田 清一 他

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