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『デス・ストランディング』製作:Kojima Productions 監督:小島秀夫

ゲームの作り方の1つとして現実から「戦争」、「自動車の運転」、「洞窟探索」、「狩猟」といったなにがしかの要素を抽出して、それに遊びとしてのエンターテインメント性を持たせるというものがあると思う。この見方からするとこのゲームのテーマはズバリ「おつかい」あるいは「配送業」である。おつかいや荷物の配送なんて基本的には楽しいものではないとされている。しかし、かつて「潜入」という要素を「ステルスゲーム」としてゲームに仕立て上げた稀代のゲームクリエイターである小島秀夫監督は、この一見ゲームにならなさそうな現実の一部分を、面白いゲームに仕立ててみせた。それがこの「デス・ストランディング」である。

ストーリーとしては、「デス・ストランディング」と呼ばれる現象により「あの世」と近くなり、それを原因として生じた「時雨(ときう:ものや生き物を急激に劣化させる)」や「対消滅(死体やBTと呼ばれる化け物によって引き起こされる核爆発のような破壊を伴う現象)」によって人々が離ればなれになり、滅亡の危機に瀕している架空の未来のアメリカ大陸において、「伝説の配達人」である主人公「サム」がNPCから依頼される様々な配送依頼をこなしながら「カイラル通信」と呼ばれる物を送れるインターネットのようなもので街や人々をつないでいく話。

とにかく独自の設定や用語、様々なパラメータや操作テクニックが存在し、あれこれ覚えるのが大変ではあるが、それらのアイデアと現代の半導体によって生み出されるゲームの世界は、それこそ前に紹介した『SEKIRO』のようにいつまでもこの世界の中にいたいと思わせるような魅力を秘めている。SEKIROは戦闘がメインでマップをあちこち探索することはサブだが、こちらはマップをあちこち歩き回ること自体が目的となる。コケたりぶつけたりすると荷物が壊れるので、転ばないように、ぶつけないように気をつけて荷物を運ばなくてはならない訳だが、BT(化け物)や荷物を奪おうとしてくる人間(いるんです)だけでなく、天候や地形(主人公はちょっとした段差に躓き、渡河しようとすると流され、傾斜を上っていたら滑落する)といった自然環境が、主人公に対して様々な試練を課してくる。ちなみに貨幣経済が崩壊しているので金銭という形で報酬が支払われるわけではないが、NPC達は荷物を届けるととにかく大げさに褒めてくれる。「褒め方がアメリカンだなぁ」と思っていたが、そもそも「アメリカ」が舞台の話であった。

筆者は地理院地図やGoogleマップで地形を想像して楽しんだり、あちこち散歩をするのが好きだった訳だが、その「好き」の延長線上でメチャクチャ楽しめたので、その手の趣味をお持ちの方は是非プレイしてみて欲しい。きっと何時間も使ってしまうと思う。

『華氏451度』著:レイ・ブラッドベリ 訳:伊藤典夫

焚書といったらこれ!というSFの古典。

本を焼くことの愚かさもそうだが、人類の足跡を個人の寿命の彼方に残すことや、残そうとする人間の意地の尊さを謳っている印象だった(もちろんそれらは裏表なんだけど)。

本作では焼かれる本に対してテレビあるいはSNS的な映像メディアが社会の退廃の象徴みたいになっていたけれど、世界各国のメディアテークやウェブアーカイブみたいに、映像やウェブコンテンツなんかも本と同じく残すべきものと認識され始めているように思う。SNSの方も、エコーチェンバー化して狂気の培養槽になることもあれば、社会階級や地理的関係を飛び越えて人と人を結びつける良い効果もあって、その辺は現実がブラッドベリの想像を超えていたんだろうか。

『紫色のクオリア』著:うえお久光 挿画:綱島志朗

なぜか人間がロボットに見える少女毬井(まりい)ゆかり、彼女からすると究極の「汎」用型ロボットに見えるボーイッシュな少女波濤学(はとうまなぶ)。この2人の少女と、ゆかりの幼なじみの天条七美(てんじょうななみ)、ジョウントという組織から来たという天才少女アリス・フォイル。登場人物はこの4人で、この4人が仲良くなるまでの気の遠くなるような長い時間の話……読者が観測する作中の時間では。そう、日本のオタクカルチャーにはよくある話ですが、出てくるのが女の子というだけで、本作はSFの白眉です。それも、銀河英雄伝説のような宇宙船がドンパチやらないタイプの。仕掛けがよくできているだけでなく、物語としてのペース配分、そして最後の種明かしにいたるまで、奇跡的なバランスで名作として成立しています。こればっかりは読めという感じ。

某白饅頭の人が傑作と言っていた一作。名前は聞いたことがあったものの、著者がうえお久光先生で驚きました。オタクの履歴書では書いてないんですが、ほぼ最初に読んだライトノベルは、うえお久光先生の『悪魔のミカタ』でした(しかも2巻)。あと、綱島志朗さんと言えばなぜか女の子がレイプされそうになるロボットマンガ、『ジンキ・エクステンド』の作者です。これも大学時代に読んでました。ということで、本作を手に取り、はからずも昔を懐かしむことになりました。

SFライトノベルの、そして単巻で完結するライトノベルとしてとてもよくできていて、とても面白い作品。超オススメです。本作の元ネタとなる、同じような仕掛けをあつかったいくつか著名なSF作品があるそうなのですが、蒙昧なのでまだ読んだことがないのです。近いうちに読んでみようと思います。
 

小説『ガンダムUC』著:福井晴敏

人々はそれを穀物ではなく
いつもただ存在の可能性だけで養っていた。

ようやく読み終わった福井晴敏作のガンダム小説全10巻.

主役メカはユニコーンガンダムなんて呼ばれるわけですが、ガンダム世界の暦である宇宙世紀Universal CenturyとUniCornのダブルミーニングにふさわしく、宇宙世紀ガンダムの約100年にわたる作中の歴史を総括するような作品。OVAですでに結末を知ってはいたのですが、小説で読んでみるとキャラクターの感情などがわかりやすい。読んでみると、アニメが尺の都合で色々とカットされつつ、それでも主要な流れを壊さないように非常に繊細にその作業が行われていることがよく分かります。原作もさることながら、アニメを製作したスタッフも本当に良い仕事をされたのだなと、あれだけヒットした理由が分かる気がします。

全編を通して主人公のバナージやヒロインのオードリーが様々な人とふれあいながら、最後に決意と行動を起こし、周囲の人を動かす、それに至るプロセスが丁寧に描かれるのが本作の特徴ですが、小説であるが故にその辺の描写も濃厚。特に、2人が決定的な影響を受けたであろう、砂漠でのジンネマンとバナージのやりとり、ダイナーの主人とオードリーのやりとり、個人的には本作屈指の名シーンだと思いますが、も大変すばらしい。これだけでも大満足です。

本作はガンダムの世界を借りてはいるけれど、結局技術が進んで人間が住んでいる領域が広がっているだけで、そこには貧困だったり差別だったり、大切なものを奪い去る暴力だったり、現実と大して変わりはない理不尽が相変わらず存在し続けています。現実の射影のような理不尽と不幸が描かれる作中に、物語らしく希望の光が指す本作それ自体が、やっぱり決して理不尽や不幸がなくならないこの世に想像力だけで養われている、ユニコーンそのもののような気がするのです。

上にも書いた私が一番好きなシーンが入ってるのはOVAの4巻。第1巻のモビルスーツ戦も大変素晴らしかったですが。

『天冥の標IV 機械仕掛けの子息たち』 著:冲方丁

作者は小川一水さん.個人的には『第六大陸』の人です.エロエロと聞いて読んでみましたが,確かに全力投球ド直球のエロでした.
宇宙船事故にあった主人公(男)が目覚めると目の前に裸のヒロインが.欲望に突き動かされて彼女と交わってみると,彼女は有機素材でできたセクサロイドで,主人公が目覚めた場所は小惑星丸ごと娼館.色々あって,主人公とヒロインは究極のセックスを目指して身体を重ねる…というのが主なストーリー.枝葉末節はあれど要はセックスしているだけというね….
とはいえ,いわゆるフランス書院的な官能小説とは違って,性科学をサイエンスするSFというか,そんな感じ.哲学的な趣すらあるような気がします.お互いに真顔で淫語を言っちゃう感じというか,純粋に,真面目に快楽を追求する姿勢は個人的には好感を持てます.そっちの方が確実に人生楽しめますよね.ありとあらゆるセックスの可能性が追求された挙句の結末は,「あ,まぁたしかにねぇ」という感じ.
シリーズをずっと読んでいるわけではないので,他の話とのつながりは良く分からないのですが,まったく分からない固有名詞が出てきているのは他の巻で説明されていたりするのでしょうね.

天冥の標?: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA) 天冥の標?: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)
(2011/05/20)
小川 一水

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『ハーモニー』 著:伊藤計劃

著者は伊藤計劃.本作が遺作となってしまいました.この作品を読む限り,これからどれほどすばらしい物語を紡いでくれただろうかと思わせます.神様に才能を愛されてしまったようにしか思えないような人です.
一応ネタバレ的なことも書くのでご注意を.

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『境界線上のホライゾン1下』

境界線上のホライゾン 1下 (1) (電撃文庫 か 5-31 GENESISシリーズ) 境界線上のホライゾン 1下 (1) (電撃文庫 か 5-31 GENESISシリーズ)
(2008/10/10)
川上 稔

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分厚いです。近所の本屋で買ったのですが一冊しか入荷していませんでしたよ。800ページて何ね!?
で、内容ですが、大変に熱い。それこそ設定やらキャラクター紹介やらを上巻で説明し終えているので、あとがきにあるように1巻からクライマックスな感じです。超人体術を余すこと無く表現していると言える戦闘シーンもさることながら、舌戦も大変素敵でした。変態描写も増量でサービス満点。これだけ分量があって破綻してないのが凄いよなぁ。
好きな一節は主人公達の隣のクラスの先生の言葉。

楽しいことが一杯あればいいと思う。嫌なこともあるだろうが、それ以上にいいことを見つけられればいいと思う。それも、就職とか、裕福とか、そういうこととは別のこと。
(中略)
上手く生きていく方法を教えることが出来るとは思えない。だが、自覚して教えていることが一つだけある。それは、
「そのためにも、……死なないこと。絶対に、自分で自分を殺さないこと。ーーそれだけは憶えておいて下さい」

フィクションとはいえ良い先生です。最近の若者は幼いと文句はたれるくせに、「資産運用」みたいな大人になってから覚えればいい些末なことを小学校から教えるよりも遙かに教育的です。結局勉強するのは自分なので、教育自体が教えられることはこういう事だけなんだろうと思います。
表紙の裏にキャラクターメイキングが書いてあるのに下巻で気づきました。続きをワクテカしながら待ってます。次はいつだろうか?

『境界線上のホライゾン1上』

川上稔先生の新作にござります。しかしのっけから500ページ超えとはぶっ飛ばしています。設定集が740ページあるとか、物語の骨子はティーンエイジャーのときにできているとかどんだけーです。
独特でぶっ飛んでいる会話と高速度カメラでとった動画をスローモーションで再生しているかのような独特の殺陣の描写が稔節です、これだけでお腹いっぱい。ハイテク剣とか鎧とかたまらんです。さとやすさんの絵も相変わらずまロくて素敵にござります。
とにかく世界観と登場人物が複雑極まりなく、把握するのに必死でしたが、本書を通過しておくことで次巻以降が楽になるのでしょうか?
キャラ的に好みを言うと、弄られっぷりに浅間、百合っぽいのでマルガとマルゴット、でも

「いい?どんなに着飾っていたって、ただ着飾っているだけなら趣味。人から見た自分を意識して着飾るようになって表現。それによって人を惹き付けられる着飾りができて御洒落。そして自分が欲しい点数を持っている人の目を奪う着飾りが出来たらー憧れを手にした、と言うのよね。」

この辺のやり取りで東とミリアムが一位です。主人公のトーリはまだ得体が知れません。今後に期待。