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『チープ・シック お金をかけないでシックに着こなす法』 著:カテリーヌ・ミリネア 著:キャロル・トロイ  訳:片岡義男

古着、軍服、スポーツウェア…。それらを自由に組み合わせる事は、現代のカジュアルウェアでは常識になっている事な訳だが、おそらくは誰か、最初にその着こなしを提案した人(あるいは一団)がこの世にいたのであろう事は想像ができる。で、これはそういう現代的な着こなしを紹介した本として、かなり有名な部類に入る…らしい。

どうも本書の構成から考えるに、あらゆる服にはその産まれた地域や背景などによって系統というものがあって、それらの基本的な着こなしを理解した上で、それらを自分に似合うように自由に組み合わせなさいという事らしい。本書のタイトルであるチープ・シックを実現するには、教養がいるというわけだ。確かに、金がないなら頭を使え、というのはこの世の定石ではあるけれども。

初版が30年近く前の本なので、写真は古い。しかしどれも味があり、突飛な着こなしでも似合ってしまっている写真が多い(当然か)。なんとなく、ただしイケメンに限る、的なものを感じなくもない。

あと最後に、ファッション雑誌の編集だったり、本書で紹介をされているオシャレ(だとされている)な人たちは、意外と数、種類とも少数のものをずっと着ているというのが面白いなと。どうも現代のデザイナーの私服を見ても、ずっと同じ格好をしている人が多いような気がする。

ポスト工業経済の社会的基礎 市場・福祉国家・家族の政治経済学

著者はG・エスピン・アンデルセン
おそらくは社会学の専門書なんでしょうし、素人なので研究内容について批判的なコメントはできませんが、非常に興味深い本でした。特徴としては、社会調査のデータに統計処理をかけて根拠としている事でしょう。
2000年に発行された本なのですが、2013年においても現在進行形である若者、女性の大量失業や格差の拡大、低い出生率といった社会問題を福祉システムの機能不全として考察、解決に向けた提言を行っている本です。
本書では社会において福祉を提供する主体を、「家族」、「福祉国家」、「市場」の3つと定め、それらが提供する教育、育児、介護、所得(雇用・労働)、保健医療などを福祉サービスと定義しています。その3つの主体の複合体を「福祉レジーム」と呼んでいます。更に、福祉レジームの主要な形態として、
自由主義型:主に市場(民間サービス)が福祉を提供する.例:アメリカ
社会民主主義型:国家が主体的に福祉を提供する.例:北欧諸国
家族主義型:家族が福祉を提供する.例:イタリア,日本
の3つを挙げ、該当国の社会統計を比較分析することで、福祉の機能不全の原因と対策を検討しています。
結論から言うと、「出生率の向上」と「失業率の低下(を実現する弾力的な労働市場の実現)」を目標とした場合、以下の方策を取るべきだと言っています。
・女性の共働きを推奨する → グローバル化により先進国ではサービス業が雇用の受け皿になるので、家事労働,保育,介護などのサービス業への需要が高まり雇用が増える.
・国家による職業教育で,特に若者と女性の失業期間を短くすること。前提として職業教育を可能とする知的レベルを公教育で保障すること.
・シングルペアレント世帯への給付と就職を徹底的にサポートすること → 長期的に考えると、シングルペアレント世帯が福祉給付に頼らず自立できることは国の福祉負担を軽減する。
・ベーシックインカムか,負の所得税で非熟練労働者の給与水準を底上げすること → 民間サービスで福祉を提供する場合は特に。非熟練労働によるサービスを利用可能な価格として提供しつつ、非熟練労働者の経済的自立を実現するには不可欠。
じゃあ日本の現状は?と言われるとどうも上手く回ってないなぁという気がします。しかしまぁ、どういう福祉レジームが成立するのかは国によってスゴクさがあるという指摘はされているので、この方針を範としつつ、我が国なりの21世紀型福祉レジームの実現を、というのを政治家の先生方には考えていただきたいものです。僕自身、そういう政治家を選挙で選びたいと思います。

『民間防衛』

スイス政府謹製の一冊,国家の危機に対して,防衛組織に所属していない人がいかに振る舞うべきかを書いたマニュアル本.ABC兵器からの身の守り方から,占領下での抵抗運動のやり方まで,何でもござれ.
とはいえ,この本の重要なところは,心の持ち方について言及しているところだろう.まず最初に,祖国スイスは,そして祖国スイスが保証する自由や豊かさ,独立は,国民が様々な意味で奉仕するに値するものである,と明言しているのに衝撃を受けた.日本人は清潔な水と安全はタダだと思っている,という言葉があるが,それ以前の自由(思想,心情,表現,そして何より行動の!),あるいは民主主義も,タダで当たり前のものではないのだ.世界のニュースを見れば分かりそうなものだが,個人的には意識したことがなかった.
マニュアルとしては,普段から備える,組織として動く,非常事態においてこそ冷静さを失ってはならない.非常事態においては,ある程度私権が制限されざるを得ない,といった点が参考になるだろうか?あと,非常事態に平和主義を説くこと,侵略者の温情に期待することほど有害なことはない,というのも興味深い.福島第一原発の事故後のあの混乱を考えると,侵略の憂き目に遭おうものなら日本は一昼夜で占領されてしまうのではなかろうか?
読みながら健全な国家主義と,危機対応能力を高めるために,義務教育でこの本+情報倫理に防災の知識辺りを合わせて「安全保障」みたいな名前の教科を作って教えてもいいんじゃない?とか思った.クソの役にも立たない道徳の授業なんかよりよほど実用的だろう.

民間防衛―あらゆる危険から身をまもる 民間防衛―あらゆる危険から身をまもる
(2003/07/04)
原書房編集部

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『エロティック・ジャポン』 著:アニエス・ジアール

著者はアニエス・ジアール.日本通のフランス人だそうです.

葛飾北斎の触手春画「蛸と海女」からエロゲー,テレクラまで,日本の性風俗の総合カタログという趣.CNNがおもしろおかしく日本の珍妙な文化現象について紹介するのとは違って,割と「日本スゲー」的な書き方はされています.この本に書いてあることすべてに精通している訳ではないですけれども,現象の解釈については,?という思うところもありますが,本書のあちこちにちりばめられた大量の資料は本物です.まさに日本はエロと変態の総合デパート.変態国家ニッポン万歳.ここまで突き抜けていたらむしろ誇っていいと思います.
これほど豊穣にして爛熟した性風俗産業,性関連情報があればこそ,本書の8章「男らしさの危機」に指摘されるように性そのものの貧しさが際立つなぁという印象.ここでもやっぱり男がたたかれるのか?という感じです.高度経済成長期からバブルにかけて,経済力と男らしさを安易に結びつけすぎたせいで妙なことになってるのかなぁ?

エロティック・ジャポン エロティック・ジャポン
(2010/12/18)
アニエス・ジアール

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