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『富士山さんは思春期 8』著:オジロマコト

以前感想を書いたことがある作品です。名前のごとく大変背の高い女の子富士山さんと、幼なじみの比較的背が低めの上場くんがつきあい始めて云々という話で、少なくとも90年代後半にその年代だった私としては、「ああ懐かしい、あんな感じだったなぁ」という作品全体の感想。まぁ、当時自分には彼女なんていなかったんですが、「おつきあい」を取り巻く雰囲気がそんな感じだったなぁと。

やろうと思えば受験の後の高校時代だって続けられる作品ですので、いつまで続くのだろうなぁという感じだったのですが、この度8巻にて完結。8巻にて一大イベントが描かれるわけですけど、そこもまた、上手く落としたなぁという感じ。うんそれって重要だよね、と。至って健全ですから、ご安心?ください。

今回もう一件カップルが成立?しますが、その片割れである野球部で格好良く、女子に人気のある梅木くんが「付き合うってなにしたらいいんだっけ?」と言っているのに対して、上場くんは彼女がいて、付き合うってなにしたらいいのか知っている。上場くん、イマイチ女子に人気はないが、なかなか男気のある良い彼氏だっていうのを読者は延々イチャコラを見ているので知っている。……好対照で良いですね。不特定多数に人気があるかどうかというのは、特定の人の恋人として好適な人物なのかは別問題なのだなぁというのがよく分かります。

付き合っているのを同級生に知られるのすら恥ずかしかった、懐かしのあの頃を思い出す。思春期マンガの白眉です。
 

『富士山さんは思春期 4』 著:オジロマコト

以前,思春期マンガ特集でも感想を書いた作品です.身長が180センチある女の子富士山さんと,対照的に身長160センチの男の子上場くんが付き合っている様子を描いた作品で,中学生同士の甘酸っぱいというか,青臭い恋愛模様が描かれる作品です.

さて,本作も4巻まで来ましたが,いよいよタイトルのごとく「富士山さんは思春期」という感じになってきました.前巻まではどちらかというと男の子の上場君が思春期の青い衝動に突き動かされて積極的に洗濯機の中からパンツ引っ張りだしてみたり,透けたブラウスから除くブラジャーの線にハァハァしたりとまさに「上場君は思春期」状態だったんですが,本巻は富士山さんが色々赤面しまくりで,すっかり上場くんにお熱な感じが伝わってきます.体の距離もグッと近づき,あぁ,世の中のイチャイチャしてるカップルってのは,こういうプロセスを経てるんだなと納得する次第.

本巻で富士山さんがこうなった理由を考えてみると,本巻の主軸になっている放課後デート,その原因になった富士山さんの故障,のときに上場君が男気を見せたというところがあるのかなと(第3巻参照).富士山さんは多分それでグッと来ちゃったんではと.上場君,スケベなんだけど,富士山さんに対して思いやりがあってとても優しいのですよ.体は小さいけど器は大きいというか,こいつはいい男になるな…という感じがします.あと,バカに見えて何気にテストの成績もいいし,部活こそ真面目にやってないけど,上場君,実はすげぇ奴なんじゃないか?

「フルメタルパニック!」という作品の「女神の来日(温泉編)」というエピソードで,登場人物の一人クルツ・ウェーバーが行ったセリフ,「大人になったらエッチなことはたっくさーんできるけどな,同じクラスのあの子と,目が遭ってドキドキ……なんてのは学生のときしかできねーんだぞ?」を体現している作品と言えましょう.本作に描かれているような甘酸っぱい思春期を送ってきている諸兄も,カップル爆発しろ,と思っている灰色の青春を送ってきている諸兄も,中学生の昔を思い出して懐かしめる,良作です.次巻も期待.

 

 『Hatch (1),(2)』  著:村上かつら

村上かつら 『Hatch』 1,2巻
婚活が一般的になって,どうもそのブームに乗ってサービスが乱立した結果,くたびれ果ててしまった人たちすら出てきている日本社会ですが,その1側面を鋭く切り取ったのだろう村上かつらさんの作品.ある程度歳を取っても恋愛や異性の経験がない女性を取り扱った作品というと,女性の初々しい反応をほほえましく見守る感じの作品が多い印象ですが,これはなんというか,胃が重い作品….ネット上で戯画化される婚活女性とは違って,現代の清純化している若い人たちのデータを見る限り,積極的に恋愛を求めるでもなく,とはいえ他人が勝手に恋愛市場に呼び込んでくれるでもなかったちょっと引っ込み思案の普通の人,というのは結構いるんじゃなかろうかという気がします.
ストーリーとしては,28歳まで異性の経験がなかった主人公が,独身の叔母さんの死をきっかけに婚活を始めて一段落つくまでの顛末を描いた作品.その中で,主人公の過去が(主に母親との関係)掘り下げられ,最終的にそこと折り合いをつけることで一段落します.僕は良く分からんのですが,「母の呪縛」というテーマは女性の人生をあつかった作品において良く扱われる題材のようです.
私がことさらこの作品に引きつけられたのは,「経験のない」女性がいきなり恋愛と結婚の鉄火場に放り込まれて当惑する様子のリアルさだと思います.「しらじらしい」という文句が出てくるのですが,中学校か高校くらいの段階で経験が停止して,その後に大人の恋愛市場に放り込まれた人間には男女問わずリアルな感覚だと思います.ひのきのぼうと布の服で竜王の城に放り出される,というのは上手いたとえだと思います.
最後は多少駆け足感は感じなくもない.とはいえ主人公の成長というか,変化を確実に感じさせるラストで,清涼感があります.
時節柄盛り上がってもよさそうな作品なのに,検索してみてもあまりレビューを書いている人がいないのはなぜでしょう?生々しすぎるのでしょうか?
女性の感想も聞いてみたいもの.

Hatch 2 (Feelコミックス) Hatch 2 (Feelコミックス)
(2013/04/08)
村上 かつら

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Hatch 1 (Feelコミックス) Hatch 1 (Feelコミックス)
(2012/09/07)
村上 かつら

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『放浪息子 13』 著:志村貴子

昨年のアニメを見て買い始めたにわかな私ですが,相変わらず思春期マンガ(≠青春マンガ)の白眉です.
12巻以来それまでと少し変わったのかな?と思う点が2つあるので書いてみたいと思います.

1つ目は「かっこよさ」について.12巻以来「かっこいい」という単語が,様々な場面で,通念上の使われ方とは違う使われ方をされています.例えば,二鳥君に関して言うならば,姉の真帆は,文化祭で女装をしてファッションショーに出た二鳥君を「かっこいい」といい,マコちゃんは度胸のある彼を「かっこいい」といい,あんなちゃんは男らしくなって行く彼を「かっこいい」というのです.高槻くんも,ファッション誌の女性モデルを見ながら,「かっこいい」というのです.見た目も性格も非常に通念的に言うところの女性らしい二鳥君が,様々な場面で「かっこいい」と言われ,社会通念上の女性のイデアと言ってもいい女性ファッション誌のモデルが「かっこいい」と言われる,スタジオジブリのアニメ映画『紅の豚』の「カッコイイとはこういうことさ」というキャッチフレーズで使われていたかっこいいとは,明らかに違った意味,男性という概念からかっこいいという概念が切り離されてしまっています.この作品の近刊2冊を読んだとき,自分がいつの間にか男性性とかっこいいという形容詞を不可分のものだと思い込んでしまっていたことに気付きました.この作品は思春期の解体と再構築を通して,男性,女性と言う概念と絡まっている様々な概念(男装,女装,かっこいい,かわいい)を切り離して再構築しているのだなぁと思うのです.まぁ気持ち悪いという人もいるのだろうけど,僕は非常に面白い試みだな,と思います.

2つ目は,「大人になること」について.思春期とは,子どもから大人になるまでの過渡期とも取れると思うのですが,二鳥くんは作中で子どもから自分になって,いよいよ大人(社会的な存在)になろうとしているのだなぁと感じます.だから,12巻でユキさんが18になるまでダメよ,と言って,13巻で二鳥くんがある種「常識的」な人生を歩いて行った先にあるのであろう「みいたんのパパ」が出てくるんでしょうね.せっかく自分は自分,と胸を張れるようになった二鳥くんも,また放浪ですよ.あと,思春期を描く上で外せないであろう肉体的な性の話です.あぁ,二鳥くん,君もついに大人になってしまうんだね,という気分.まさに,社会と折り合いを付ける,肉体関係を持つ,の両面で,大人への階段を着実に登って行く感じです.

淡々と綴られる作品ですが,直近静かに着実に盛り上がって行く感じの本作品,続きは9ヶ月後です.二鳥くんがあんなちゃんとどんなセ(ry

放浪息子 13 (ビームコミックス) 放浪息子 13 (ビームコミックス)
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志村貴子

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志村貴子

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『レインツリーの国』著:有川浩

著者は有川浩先生。
図書館戦争の2巻で名前が出てきて、登場人物たちの状況とオーバーラップしていたという小説を、実際に出版してみましたという形式の作品です。文庫版になっていたので買いました。
最近Twitter婚みたいな話がちょっと話題になりましたが、そんな感じで主人公は男性、あるサイトで、ある女性と本の感想をやり取りする中で相手の人間性に共感し、恋が芽生えるが、実は彼女には秘密があって…というストーリー。
その秘密がお互いを隔てる大きな壁となって立ちはだかる訳ですが、言葉の応酬で傷だらけになりながらも、徐々に相互理解を深めていきます。自分ならば序盤で逃げ出しとるわというような心と心のぶつかり合いを乗り越えていく主人公の男気と言うか、恋する男のパワーには個人的に敬服するというか、あてられそうになります。主人公はどう考えても最初からベタ惚れです。
彼女の秘密のところでデリケートなネタを取り扱っているのですが、最大限配慮してというか、真正面から思いやりを持って小説の材料としているように感じられました。あとがき、解説にもその事が触れられていたのですが、そちらも素晴らしかったです。本編を読んで何かしら感じるところがあるなら、読まずには終わるべからずかと。
CLAMPのマンガに個として強くある事、『十二国記』に自分ではどうにもならない事に対して腹をくくる事を教えられた自分ですが、色恋というか、「基本的に相互理解と思いやり」という、「ぼくのかんがえたれんあい」が多分にこの有川浩先生の影響を受けている事は本作品で良く分かりました。
個人的に全ジャンルの本の中で今年の五指、最低でも十指には入る良質の恋愛小説です。文庫版は400円と安価なので、キュンキュンしたい向きには是非オススメします。

レインツリーの国 (新潮文庫 あ 62-1) レインツリーの国 (新潮文庫 あ 62-1)
(2009/06/27)
有川 浩

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『すべてはモテるためである』 著:二村ヒトシ

以前エントリーに書いた、文化系トークラジオLife 「草食系男子の本懐」の回で紹介されてた本です。
大阪の都心の大型書店にもなく、入手にえらい苦労をしました。出版社にはあるみたいなので、書店で注文かネット通販で入手するのがよいのではないでしょうか?
現代の日本に住んで普通に生活している人の不幸の原因は、だいたい「モテないこと」に端を発しているのであるから、「すべてはモテるためである」と説きます。じゃあモテない人はなんでモテないのかというと、多かれ少なかれ、タイプの違いはあれ、「キモチワルイ(本書における専門用語)」からだと。
んで、どういう人がモテるのかというと、「キモチワルくない人」=「自分の居場所が、まっとうな自信と謙虚さに結びついている人」だそうです。イメージとして確かにそんな気がしてきます。
自分で精神の改造に成功したとして、じゃあ他人、特に女の子に「キモチワルさ」を出さない訓練をするためには、「フーゾクに行け!(ただし正しいやり方で)」と。お金で何とかなる物はさっさと自分で工面して何とかしてしまえと。買えない物を手に入れるためのステップにしろと。そのように説きます。
結局「自意識の檻」を出て、「他人」と誠実に付き合えるようになれば、それがすなわち「モテる」ということだと。バカな事をするときも、それが通じる相手(本書では「自分と同じ土俵に乗ってくれている」)に対してだけやれと。
『草食系男子の恋愛学』の中の人ほどには、自分の性欲や男性性を脱色できない人(自分含む)にはかなり役立つのではないかと。僕自身は非常に感銘を受けました。口語体の本文も実用書って感じで個人的には好きです。
名著、と紹介されてましたが、確かにその通り。手放さずにバイブルにしていこうと思います。

すべてはモテるためである―「キモチワルイ」が「口説ける男」になる秘訣 (ムックセレクト) すべてはモテるためである―「キモチワルイ」が「口説ける男」になる秘訣 (ムックセレクト)
(1998/05)
二村 ヒトシ

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『カフーを待ちわびて』著:原田マハ

南の島の孤独な青年明青のもとに,彼が本土に旅行をしたときに書いた「嫁にこないか」という絵馬を見て,謎の女性幸がやってくる,そこから凪いだ海のような主人公の生活に変化が….
という話.
まず,南国の穏やかな雰囲気が非常に魅力的.ヒロインの幸が主人公の明青から見ていかに美しいのかってのもよく描写されてて大変素敵.普通の小説なのにヒロインに恋してしまいそう.
美少女ゲームなら「ヘタレ」といわれてもおかしくないくらい主人公が憶病なんだけど,彼の境遇を考えるに無理はないのかなぁと読後少し思った.ただ,幸が来たことで明青の眼に映る世界が広がって,変わっていく感じも良かった.
ただ,話の中では起承転結してるんだけれども,転で終わっているともとれる終わり方が若干消化不良.
映像ではどのように表現されているのか確かめてみたい作品.

『崖っぷち高齢独身者 30代・40代の結婚活動入門』著: 樋口康彦

『「婚活」時代』で一躍有名になった「結婚活動」にいそしむ40代の男性の手記。
感想を一言で言うと「モテないってこじらせると非常にややこしいことになるなぁ」という感じ。
読んでいて痛々しいとはあまり思わないのですが、出口の無い茨の道を裸で歩いているかのような赤裸々な手記にだんだん気持ちが沈んできます。自分は結婚弱者であると謙虚になってみたり相手に性的な魅力を感じないと断ってみたり、その場その場の言動や行動に一貫性がなくて多分に人間臭いです。
これに関しては、結婚を将来に対するリスクをヘッジするための恊働生活体と、性的な魅力を感じる異性(現在日本では異性婚しか制度的に認められていないので)との恋愛関係の中間に位置する現象と考えると、そりゃあ成立し難いはずだと思わなくもありません。前者であればパートナーに性的な魅力を感じなくともよく、ルームメイト的な形で共同生活をして人生のリスクを分散すればいいと思います。後者ならばそもそも恋をする相手がいることが前提であり、恋愛という状態や関係が先に立つのは変な感じがします。というか恋愛→結婚というプロセスが社会制度や常識に規定された単なる幻想なのか、それとも個人(生まれた家族以外という意味で)同士の高度な信頼関係の構築には必ず性愛が含まれなくてはならないものなのか、疑問は尽きません。
ところで、モテない私(本書によるとすでに結婚弱者)は危機感を感じるべきなのでしょうか?

崖っぷち高齢独身者 (光文社新書 354) 崖っぷち高齢独身者 (光文社新書 354)
(2008/06/17)
樋口康彦

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『とらドラ8!』著:竹宮ゆゆこ 挿画:ヤス

もはや「ラブコメ」ではありませぬ。前巻までは各人が各人の思惑を知らずいびつな関係でしたが、本巻で当事者達にも事情が分かってきて、さらなる混沌に放り込まれている感じです。大人ぶって静観を決め込んでいる感じだった亜美も少し本音がのぞいたような感じですし。
この誰も幸せになれなさそうな状況は「True Tears」の中盤どころのようです。読者は傍観者なのでこんな事が言えますが、当事者は苦しくて仕方ないんでしょうね。ただ、事態は進展しそうな雰囲気が出てきてます。きっとT.T.の祐一郎みたいに竜児が何とかしてくれると信じています。次巻を待てってかんじです。後書きによると比較的待たずに読めるかもしれません。
しかし思えば長い道のりでしたが、竜児、モテモテです。

とらドラ 8 (8) (電撃文庫 た 20-11) とらドラ 8 (8) (電撃文庫 た 20-11)
(2008/08/10)
竹宮 ゆゆこ

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『ROOM NO.1301 1~4』著:新井輝 挿画:さっち

少し前ですが、大変エロいと評判になった小説です。
彼女とは手もつなげないくせに複数の女性と関係を持ってしまう男のお話です。主人公含め13階(タイトルの1301は部屋番号)の住人の壊れっぷりというか、感覚のぶっ飛び方は非常に興味深い。その辺りから来る作品の雰囲気だけで個人的には続きが読めます。

あともう一つ、評判に偽りはありません。全年齢向けのエロといえば「寸止め」が代表的でしょうが、そっちが青少年的なもどかしさを演出するのに対して、こちらは「中抜き」、事前と事後しか書いてません、それがまた大変湿っぽい。とはいえその湿っぽさが全体の雰囲気に繋がってる部分もあるんだろうなと思いますよ。レーベルの制約もあるんだろうけどそれを逆手にとってて上手いなぁと。
つづきもいずれ読みます。