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『剣と魔法の税金対策 全6巻』著:SOW イラスト:三弥カズトモ

なんとなく日本の税制のに似た仕組みで諸々が運営されている世界で、魔族の魔王と人間の勇者、そして主人公の「ゼイリシ」クゥが手を携え、次々と巻き起こる税金にまつわるトラブルに立ち向かう話。全六巻なので場所も取らず、お財布にも優しい。

おそらく橙乃ままれの「まおゆう」あたりを始祖とする、「勇者による魔王討伐のその後」に「ラスボスを倒しても解決しない、本当の世界の問題に立ち向かう」作品の1つで、物語自体読んでいて非常に面白かった。個人的すごくハマるジャンルの作品なので……。

本シリーズはファンタジー作品として面白いだけでなく、世界設定や物語のネタ元になっている日本の税制についての下調べがしっかり(少なくとも自分が理解している範囲では)していてちょっと頭がよくなった気になり、何ならそこから掘り下げることで税に対するリテラシーが向上して現実の生活にも役立つ良書である。本書を読んでいると、給与明細を見て毎回ため息をつく税金(実際のところ高いのは所得税でも住民税でもなく、厚生年金なら会社負担分含めて記載分の2倍払っている社会保険料なのだが)も、まぁ捨てたものではないのだなと思えてくること請け合いである。あるいは、本書の中でチクチク指摘されている日本の「失政」に対して、ムカッ腹が立つ人もいるかもしれない。ちょっとしたボタンの掛け違いで、ここまでひどいことにはなっていなかったんじゃないかと……。

剣と魔法の税金対策

『Landreaall(32)』著:おがきちか

年に2回の新刊が出ました。今回はアトルニアの職業の話と、次の大きなクエストが始まる話。

前半はアトルニアの職業の話、「何十年かに一度の王様の戴冠式で王冠を運ぶ職業を代々受け継いでいる祖父と子どもの話」と、「暴れん坊将軍DXが、中間搾取が酷い派遣業者に手入れをする話」の2部構成です。良いファンタジーやSFって、現実の風刺画になったりしますが、今回はなんかそんな感じでした。王冠を運ぶ仕事は、「そんなものが仕事になるのか?」と現代の感覚では思いますし、後者のエピソードで出てくる仕事は現代でもありそうな話で……。「誰にでもできる仕事」って足下を見られがちですが、それができるなら「ちゃんと暮らしていける」べきだよなぁと思います。現代も結構怪しいですね……。

後半は王城の地下のダンジョン攻略でトラブルが発生します。エピソードの始まりで事態は混乱を極めて終わりますが、はてさてどうなっているのでしょうか?エピソードの緊迫感とは別で「騎士と姫君という関係性の否定」をあれほどロマンティックにやってのけたDXとディアの仲が、大仕事をやっている現場に差し入れするくらいにアットホームなのはちょっとほっこりしますね。

次は半年後です。

他の巻の感想はこちら

  

『Landreaall (31)』著:おがきちか

本ブログで定期的に追いかけているファンタジー漫画。

前巻でアブセント・プリンセス編が完全におしまいで、この巻から本格的に次のエピソードに移行という感じみたい。DXが風花山脈からウルファネアにたどり着くまで、ディアの過去、そしてルーディとライナスの商売の話に+αという感じ。ずっとアトルニア王国やアカデミーのことをやっていましたが、これからは少し、1〜3巻のような竜がらみのエピソードが出てきたりするんでしょうか?巻としてはお話の種まきをしている状況で、ここでちりばめられた伏線が後々回収されるのでしょう。

特装版の特典冊子は『六甲の冒険』。DXたちがいるLandreaall世界の此岸ではなく、彼岸のような世界のお話です。いずれこの辺の事情も本編で語られるのでしょうか?

これまでの巻の感想はこちら

『Landreaall (30)』著:おがきちか

前巻が「アブセント・プリンセス編」の後片付け編でしたが、本巻で本作にずーっと通底していた「革命」の清算が終わります。

DXとメイアンディアはお互いの気持ちを確かめあう。新しい王様としてファラオン卿が立ち元号が変わる。そして、新王の傍らにはもちろん王妃のメイアンディアがいるが、DXは一人ウルファネアへ。

3巻の時のように物語は大きく一区切り(DXの恋にも一区切り着いたし、アトルニア王国にとっても「革命」との関係性が大きく変わる)。次の展開がどうなるのか、現段階では見当がつきません。とはいえDXは一段階強くなったようだし、メイアンディアの立場についても、DXが思っている物とはちょっと違うようです。アトルニア王国の外か、中か、どこかは分かりませんが、またDXはトラブルに巻き込まれるんでしょう。次は半年後、楽しみです。

特装版にはDXの父母のリゲインとファレルのエピソードが、『淑女の剣帯』という結婚直後の話も素晴らしかったんですが、今回も面白いです。なんだかんだ、救国の英雄が庶民の女性と結婚したということが気にくわない人たちがアトルニアにいて、彼らの仲を引き裂こうとあの手この手で籠絡しようとするわけですが、さてどうなってしまうんでしょうか?という話。特装版の表紙はアンちゃんなんですけど、通常版の表紙はDXとディア、正直あっちの方がいい、というか正直素晴らしすぎるんですよねぇ。本巻のハイライトだし。卑怯だぞ一迅社!

そもそものお話の説明はこちら。

29巻までの流れはこちら。

 

 

『黒剣のクロニカ3』著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

アトランティスと呼ばれた高度な文明を誇った大陸が沈み、その時の名残でダリスという超常的な力と、ダリドという真実の姿(人魚になったり、人馬になったり、メドゥーサみたいになったり)が残る古代地中海世界のような世界。都市国家「コフ」に侵略され、コフの王族黒剣一族に奴隷に堕とされた母から生まれたフラメスが、亜人の女の子達を引き連れて兄に復讐します。さて、フラメスは復讐を果たすことができるのでしょうか?

芝村裕吏さんの作品に、これまで目を付けられていなかったものに着目することで戦いの常識を覆す、という要素がよくありますが(マージナル・オペレーションなら歩兵の情報統合による少年兵の主力化、ガンパレード・マーチなら整備兵の集中投入による人型歩行戦車の稼働率向上)、本作ならそれは主人公の神話級特殊性癖でしょうか。主人公たるや人馬のしっぽ、人魚のひれ、様々なダリドを持つ女性達の前で男性の象徴を反応させ(古代地中海的世界なのでみんな割と裸に近い、あるいは人前で服を脱ぐことに抵抗感がない)、それを以て多様な亜人女性の心を掴みます。要するに「みんなちがってみんないい(性的な意味で)」。時代遅れとされている、多様なダリドを持った戦力の適時同時運用を行い、主人公並の知略を持つ兄に立ち向かいます。

ヒロインは人馬のイルケ、かわいいよね。今巻が最終巻ですので、フラメスとイルケの恋にも決着がつきます。そっちは読んでのお楽しみということで。戦争に対して恋人から体の一部をお守りとしてもらったりする習慣ってありますよね(ニッコリ)?

 

『黒剣のクロニカ 2』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

伝説のアトランティス大陸が沈んで多島海になった後の古代地中海世界のような世界が舞台のファンタジー。多くの登場人物はダリドと呼ばれる獣人の姿、あるいは動植物への変身能力と、ダリスと呼ばれる超能力を持っている。そんな世界で、都市国家コフの黒剣家の末弟で、そこの当主に奴隷にされた母から生まれたフランが兄弟に復讐を誓う。脇を固めるは都市国家ヤニアの小百合家姉妹、人馬のイルケとフクロウになれるオルドネー。あと多数のフレンズ※達(概ね間違ってない)。次男のオウメスと戦う本巻、フラン以上の知将とされる兄とフランはいかに戦うのでしょうか?

衣料品が貴重なため、体を動かすときは古代オリンピックよろしく裸で(男女問わず)、「脱衣は市民の権利」という様な価値観もあり、登場人物はとにかく脱ぎます。挿画の数が限られるのが一部の人には残念か(ノリは完全に「カメラもっと下!」)。また、ダリドのおかげでみんなだいたい獣人か、動物に変身可能となっているため、2017年初頭風に言えば「性的なけものフレンズ」って感じです(「君は~が得意なフレンズなんだね!」※)。また、作中の某ヒロインとなんともマニアックなプレイがとり行われるされることになります。現代日本人からすると常識外れなんですけど、食料が貴重な作品世界の中では合理的?なのかなぁと思います。本作自体は架空の世界の話なんですが、歴史、民俗を学ぶ面白さは、世界にはこんな我々の常識とは違う常識の元に暮らしている人たちがいる、しかも相手の立場に立てばそれなりに合理的、というところだよなぁと思います。前作の『遙か凍土のカナン』もそんな感じでした。物語的には最後こそ『ソードマスターヤマト』的な感じでしたが……。

ということで、想像力豊かで、獣娘がイケるフレンズには大推薦、もっと手広くイケるようになりたいフレンズも、挑戦してみる価値のある作品です。え、ぼくがどんなフレンズかって?本作のおかげで、人馬かわいいなと思い始めました。

※けものフレンズ:2017年初頭、アニメファンの目の前に彗星のごとく現れた大ヒット作(ダークホース)である。サービス終了したスマホゲームが原作となっている作品で、実在の動物を擬美少女化した「フレンズ」達が、おそらく「ホモ・サピエンス(現生人類)」のフレンズ、あるいはゲームの「プレーヤー」である「かばんちゃん」としっちゃかめっちゃかしてもなかよしな物語である(ヒロインはサーバルキャットのフレンズ「サーバルちゃん」)。一人一人?のフレンズの個性を認める作品全体の寛容さが厳しい渡世に荒んだアニメファンの感情を揺さぶり、作品の第一印象からすると思いの外巧妙でシリアスな伏線が耳目をわしづかみにした。

  

『Landreaall (29)』著:おがきちか

アブセント・プリンセス編、後片付けとでも言うべき巻でしょうか。関わった人たちのその後の身の振り方が示されます。クエンティンは本作の中でもかなり明確な悪意を持った人でしたが、彼ですら不幸な過去に人生を狂わされた登場人物の一人に過ぎず、結局DX達が戦っていたのは過去の革命なんだなぁと思います。DX達の父親世代が運命に翻弄されて涙を流しつつ、それでもよかれと思って撒いた種がちゃんと芽を出したという感じです。

ついにユージェニの母親であるアンナ王女が何を考えていたのかが明らかになるんですが、彼女も愛を貫いたユージェニ同様強い女性でした。腕っ節も強いイオン、ユージェニ。けんかはできないけどディアや13巻辺りで腕を振るったトリクシーも、本作の女性はそれぞれ強くてかっこいいですね。

色々大きな切った張ったやったので、次はしばらく日常に戻るのでしょうか?で、大老、ディア、レイの人間関係はいろいろな人から様々な誤解を受けていて、色々気持ちの行き違いや誤解があるわけですが、どうもそのこんがらがったところが解消しそうな気配が。半年後が楽しみです。

ちなみに限定版には念願のアニメがついているんですが、まだ見ていないので、見てから感想は書くかもしれません。

そもそもどういう作品かはこちら

既刊の感想はこちら

 

『黒剣のクロニカ 01』著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

マジオペの外伝と、はるカナが終了して、マジオペの続編とともに始まった新シリーズ。古代の地中海世界(ローマとかギリシャとか)っぽい世界でのファンタジー。アトランティス大陸と、そこにあった高度な文明が海中に没した後の架空の多島海世界が舞台のようで、多数の小さな?島にある都市国家が覇を争う時代に、ある都市国家「コフ」で奴隷の母と、権力者「黒剣(くろがね)家」の父との間に生まれた少年「フラン」の物語。ヒロインは隣の都市国家「ヤニア」の貴族の娘、人馬の「リルケ」と人間の「オルドネー」、あと多数?そんなフランがヒロインたちと出会い、奴隷の子として蔑まれる身から身を立てて、多島海世界に覇を唱える年代記(クロニカ:クロニクル?)なんでしょう。

古代のギリシャとかローマとかをベースにした衣服とか裸体に関する考え方(布が貴重なので運動や戦争は裸で行う)から主人公やヒロインがポンポン脱ぐんですが、その割に恥ずかしがるというのが新機軸が個人的には新鮮でした。全体的に地中海岸のヌーディストビーチ(実際にあるのか知りませんが)のような、開放感を感じるお話。古代地中海世界の理解という意味ではちょっと前に読んだ『奴隷のしつけ方』は割と助けになっているのかななどと思ったりします。

著者の芝村さん曰く「少年」の話だそうですが、かつて少年だった自分からすると、なんとなくフランの物言いには思い当たる節を感じなくもありません。女性が主人公を見てどういう風に思うのかはちょっと興味あります。

キャラクターデザインのしずまよしのりさん曰く、リルケは二重臓器にならないように馬体の方はスリムとのこと。腸とかはほとんど入っていなくて、ほとんど足の延長みたいな感じなんでしょうか?ちなみに性器は四足動物と同じ感じについてるらしいですが、トイレどうしてるんでしょうね(『セントールの悩み』を読んで以来,その辺にうるさい)。古代の地中海世界っぽく性には奔放ですが、性的嗜好に人馬を含むのはかなり特殊な性癖とされているらしいです。ただまぁ、有蹄動物のスリムな足にエロスを感じるのは手塚治虫大先生を考えると特殊ではありますが、不思議ではないような気もします。ちなみにリルケが人馬な理由は、読んでのお楽しみということで。

 

 

『Landreaall (28)』著:おがきちか

非常に長期間に渡って描かれたアトルニア王国の過去に迫る「アブセント・プリンセス」編も完結です。27巻にてクエンティン、ユージェニ姫との決戦に勝利したDX一行。しかしクエンティンの隠し弾、人の秘めたる強い思いを暴走させる呪いが、オズモおじさん、タリオ卿と昼食を取っているアニューラスの中で炸裂します。クエンティンの呪いは大老も襲い、窓から身を投げようとしているところを助け出したフィルとエカリープのロビン。彼らが大老の部屋を訪れた目的は、ロビンを、祖父と目されている大老に会わせること。そして砂漠に放り出されたリゲインとファレルは?ということで、これらのイベントが決着します。

かねてから謎であったメイアンディアの天恵は、「記憶を取り戻させる」というものでした(色々応用は利くようですが)。大老の側にメイアンディアが寄り添っている理由は、呆けてしまった大老の記憶を取りもどさせて、国王として役目を果たせるようにするというもののようです。淑女と騎士という立場の上に強い信頼関係が結ばれた二人ですが、なんか複雑ですねぇ。

個人的にとても良かったなぁと思ったのは、クエンティンと六甲の相似性でしょうか?ディアの天恵で失われていた記憶を取り戻したクエンティン。その中にはアンナ王女と恋人の従騎士の思いやりというか恩というか、そういう記憶がありました。片や六甲は、知性を持った人型の道具とも言うべきニンジャとして生まれ、自分の命を非常に軽いものと、当初考えていました。そしてルッカフォート家の面々をはじめとして、人間として生きて良いのだよ、と言われて、ニンジャとしての自意識と絶えず衝突してきました。最たる物は23巻の六甲のセリフ「恩を返すために生きなければ」でしょうか?このセリフから考えると、自分に注がれた恩や思いやりを思い出してしまったクエンティンは、今後も生きなければならないんでしょうね。

生まれはあまり幸福ではなかったけれど、育つ過程で受けた恩や思いやり、その人本来の人間性のおかげで他人に害を与えず生きている人たち、『彼氏彼女の事情』の有馬くんとか、ハリー・ポッターシリーズのハリーなんかもそうですね。そういう話には年々弱くなる気がします。キャラクター本人への共感というよりは、どちらかというとそういう子たちを見守るおじさん役として、現実の若い子たちには優しくせんといかんなぁと思うのです。

他の巻の感想はこちら

Landreaallという作品全体についてはこちら

『Landreaall (27)』著:おがきちか

半年に一度のお楽しみ。おがきちか先生の大作ファンタジーLandreaallの27巻です。

26巻は「さあ反撃開始だ」という感じでしたが、本巻はDXたちとクエンティン、ユージェニの戦いの決着までが描かれます(シーンが王城に飛んだり、砂漠に飛んだりしますが)。大変長く、数年にわたりこのエピソードをやっていますが、アトルニアの王城にたまった様々な澱を一気に押し流すような、そんな新しい流れの湧き出し口を見ているようです。3巻の火竜との決戦に匹敵するくらいDXもイオンも、そしてディアも満身創痍になるわけですが、伏線の回収と戦いの盛り上がりとで主人公たちもかくやというような読後感。ファン冥利に尽きます。ということで、継続して読んでおられた方で、ここ最近読んでなかったという方は是非お読みください、面白いですよ。ということで。

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