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『Landreaall (26)』著:おがきちか

いやー、面白かった!

さて、アトルニアを現在の姿たらしめている「革命」の真実に、アトルニアから遠く離れたクレッサールの砂漠にて迫るDXたち。前巻までで王国の崩壊を企むクエンティンの策略にはまり、見事に分断されてしまったDXたちでしたが、本巻では仲間が集い、ついに全面対決と相成ります。奴隷商に売られたDXを助けに来たライナスとルーディー、そして「サンダーレンのマダム(9巻以来実に16巻ぶりの登場)」や奴隷商カリファの力すら借りて、父リゲインと同じくユージェニと刃を交えます。さて戦いの行方は、というところで次巻に続きます。

もう何年連載しているのか分かりませんが、主人公DXの着実な成長を感じます。なんというか、必要に応じて人に任せたり、他人の力を借りたりすることに躊躇がなくなってるんですよね。本作、主人公たちの個人のレベルとしては最初からかなり高いところにある作品ですので、パワーアップする余地というのがこういう、ジミーな対人スキルだったり、リーダーシップだったりするわけですが、パワーアップした能力が遺憾なく発揮されるという意味では意味ではロボットアニメにおける主人公機交代回くらいのカタルシスのある巻です。大変読んでいて気持ちが良い。

他方、結局かつてなにがあったのか、ということについて、色々と明らかにはなるんですが、結局最終的に本事件にどのようなオチがつくのかは見えません。現在のところの敵に当たるクエンティンにしても、彼の命を取れば全てが解決するというものでもないでしょうし、何を以て彼が敗北するのか、色々伏線は撒かれつつ、どこがどこにつながっているのかは読めません。おがきさんのストーリーテリングが光ります。あと、いろんな人の天恵(超能力のようなもの、最近だと精神干渉系の能力者が多数登場している)がいったいどういうものなのか、サッパリ分かりませんし、その辺も明らかになるのかなぁなんて。

先に書いたように、9巻以来16巻越しに登場しているキャラクターがいたり、何度も読み返して何回も楽しめるスルメのような王道ファンタジー。本レビューを見て気になった人がいたら、7巻位までかなぁ、とにかくまとめて読んでみて欲しいです。先に行けば行くほど、面白くなりますので。損はさせません。

今巻から限定版ではなく特装版となりましたが、おまけ漫画は主人公たちが身につけている武術について。前巻の最後に出てきたライナスの「裏打ち」の舞台裏が見えます。

さて、次は半年後、待ち遠しくて仕方がありません。

25巻の感想

24巻の感想

 

『犬と魔法のファンタジー』 著:田中ロミオ 挿画:えびら

ファンタジーという書名ではありますが、物語世界の由来がいわゆる剣と魔法のファンタジー世界であるだけで、普通に現代の日本のように情報技術や大量輸送の技術が発達していて、地上からフロンティアはほぼ消失し、平和な時代が長く続いている、そんな世界が舞台の話です。そして、本作のテーマはズバリ「就職活動」です。ちなみに本作のタイトル、「けんとまほうのふぁんたじー」ですが、「いぬとまほうのふぁんたじー」だと思っていました。この記事を書くときに改めて気づきました。

この世界の高等教育機関である大学、要するに現代日本の大学とほとんど変わらないものと想像して良さそうです、の3年生である「チタン・骨砕」は身長2メートルで、体も頑丈、腕っ節も強く、200年前なら英雄になれたであろう逸材ですが、不器用で世の中の流れに上手く乗れず、就職活動にも苦戦中。というか、どうにも世の中の茶番めいた就職活動になじめない(この辺はまんま現代日本の就職活動の戯画です)彼の明日はどっちだ?というのが言ってしまえば本作のすべてです。彼は「冒険組合」というサークルに所属しており、1年生の頃の冒険旅行で友誼を交わした悪友ルターとロエル、同様に冒険旅行に参加したが折り合いが悪くなってしまったサークルの姫的な八方美人のヨミカ(カバーガールですね)、冒険旅行で見つけてきた犬シロがおり、他に「意識高い系(決して言動に才能が伴っているガチ勢ではない)」男子学生のイディア、サークルの先輩で日雇いの仕事をしつつ、本職は冒険者というケントマといった登場人物がいます。

本作は結局、「自分らしさとは何か?」ということがテーマのような気がします。まぁ多くの青春小説で、主人公たちは往々にしてアイデンティティの揺らぎに苦しむわけですが、まぁ高校生くらいまでのそれが自己肯定感をいかに獲得するのかという問題で終わるのに対して、本作の登場人物たちは、就職活動(寿命の異なる種族が一緒に暮らしている世界ですので、その辺の模様は色々ですが)という場において、自分のあり方と社会の都合をいかにすりあわせるのかというより難しい問題に立ち向かわなくてはならなくなったりします。やや変則的な形ではありましたが、一応自分も通過してきた道であり、主人公の苦しみには大いに共感するものがありました。

灼熱の小早川さん』でも、『AURA 〜魔竜院光牙最後の戦い〜』でも、田中ロミオさんは常に、大勢になじめない側の人間を主人公に据えるんだよなぁと思っていたり。それを突き詰めると『クロス†チャンネル』みたいになるのかもしれませんが。氏の作風なんでしょうねぇ。私はとても好きです。

 

 

『Landreaall (25)』 著:おがきちか

24巻の感想はこちら(個人的にまとめた本作のあらすじもこちら)

半年に一回のお楽しみ、おがきちか先生のLandreaallの25巻です。今巻も引き続き「王制」を憎むクエンティンとの直接対決です…といっても、パーティは強制解体され絶賛大ピンチですが…。以下ネタバレを含みつつ感想を書きます。

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『魔女は月いずるところに眠る(上中下)』 著:佐藤ケイ 挿画:文倉十

電撃文庫初期の長編シリーズの1つだった『天国に涙はいらない』という作品の著者、佐藤ケイさん。民俗学や宗教学などに造詣が深く、地に足のついたファンタジーを書く作家さんで、友人がファンだったのもあり、僕自身も作品をよく読ませてもらっています。まぁ、悪く言えば理屈っぽく、ライトノベルの主要読者層であろう中高生に広く受けるという感じではなかろうなぁという印象を受けます。まぁ中高生の友人がいないので、何ともいえませんが…。広げた風呂敷を手堅くたたむ小説家としての力量は、さすがといわざるを得ません。挿絵は『狼と香辛料』の挿絵をしていた文倉十さん。魔女の、少しクラシックな衣装はお手の物ですね。

魔女残酷物語…というと、2010年代アニメの傑作の1つであろう『魔法少女 まどか☆マギカ』が思い浮かびます…が、魔法少女というテーマを脚本家の持つ世の中感で解釈してリビルドした結果陰惨になっているのがまどマギだとすると、これはそもそも「魔女」とか「黒魔術」みたいな物が持っている陰惨さをそもそもベースにしているという感じがしました。非常に無理矢理な解釈かもしれないですが。力を振るえば力に食われるという発想はCLAYMOREなんかもそうですね。

本作には、様々な能力を持った魔女が出てきますが、本作における究極の力は、「他人を理解して、他人に寄り添う力」でした。というか、本作のテーマは終始それだったのではないかと思います。「神だけがいない」という本作中の言葉にあるように、自分ではどうにもならない出来事、というかぶっちゃけ大小様々な不幸が降りかかり、思いやりが届かなかったり、素直に引き継がれなかったりして生じたすれ違いこそが、2000年にわたる魔女の因縁であり、最終的に主人公に収束します。ことの顛末がどうなるかは、本作を是非とも読んでいただきたいところです。

個人的には、本作の悪役の一人が、世の中を好きになれるかどうかと、罪を犯すかどうかの関係を語るところが非常に印象に残っています(第三巻の一幕です)。いわゆる「無敵の人(失うものがないがゆえに世の中や他人に非道なことが平気でできてしまう人)」ってこういうことなのかとふと考えてしまう一節でした。

 

『Landreaall (24)』 著:おがきちか

どう読んだらよいのかわからない人も多いでしょう(ランドリオールと読みます)、知る人ぞ知るおがきちか先生の長編ファンタジー漫画。ワンピースは「海賊王に俺はなる!」な漫画ですが、本作はいうなれば「俺は王様に、なるの…かな?」といった趣。2014年1回目の新刊発売です。

続き物なので紹介が難しいのですが、王位継承権を巡って、かつて行方不明になった王女の忘れ形見である姫ユージェニの登場に揺れるアトルニア王国。そんな中、彼女の母親の足跡をたどるべく旅立った主人公達の両親が行方不明に。それを追いかける主人公のDX(本当にそういう名前なんです。ちゃんと作中で理屈がついているので気になった人はぜひ読んでください。大体6~7巻くらい)と妹のイオン、そしてなぜかついてくるDXの想い人で次期王妃のメイアンディア(どういう事情なのか気になる人はぜひ(ry)。両親の無事は(読者には)語られるが、両親の、そして続いてDXの前に立ちはだかるは、いかにも怪しかったクエンティン。アトルニア王国の闇に人生を狂わされ、王制への復讐を悲願とする彼の野望がついに明らかになる本巻。

さて、やっと本巻の話ができます。いろいろなエピソードが挿入され、一つの大きな目的に向かって最初から物語が動いて いない 本作ですが、本エントリーの枕文で書いたように「王様」にまつわるエピソードこそが、この作品の本筋=グランドクエストであろうという私の読みからすると、そこにド直球で切り込んでいるのが本巻です。主人公とその両親の前に立ちはだかるクエンティンは、ユージェニを使って王制を破壊しようとするまさにラスボス的な存在(「王様」というテーマに関して本当のラスボスは彼をも縛り付ける前王の狂気と呪い)であり、そんな彼はメイアンディアをも使ってDXを篭絡しようとします。そんな彼がどんな決断を下すのか?「王様とは何か」「権力とは何か」という問いに真剣に向き合いだした16巻あたりから,彼がどんな変化を見せているのか、次巻が非常に気になります。(本作は伏線が非常に緻密なのです。その辺の巧みさは私には到底語りえないのですが、「Landreaall」で検索をかけていただければ、非常にファナティックで緻密な考察が多数読めると思います。)

他にも、ユージェニに敗れた両親はいったいどうなってしまったのか?まさかそんなところから?と引っ張ってこられたお菓子メーカー「メルメル」の伏線、いろいろ続きが気になって仕方ありません。

今回の限定版には「馬」に関する小話が書かれた小冊子がついてきます。本作の馬は相当知的な生物なのですが、まぁ彼ら彼女らが何を考えているのかが語られて、先生本人が楽しんで描いたといっていたそうですが、趣味性抜群の逸品です。

漫画なのに相当読み込まないと咀嚼できない難儀な作品なのですが、読めばその緻密な世界観と複雑に張り巡らされた伏線とその回収の絶技に、いろいろ難しいことを考える人ほどズブズブと嵌まり込んでいく珍味のような本作。作者に思う存分作品を発表してもらいたいと思っているファンとしては、何とかファンが増えないものかと苦心しています。どうかこの駄文を読んで少しでも興味を持ったら、3巻、できれば7巻くらいまで読んでいただきたい。何度読んでも面白い、お得な作品です。

『境界線上のホライゾン1下』

境界線上のホライゾン 1下 (1) (電撃文庫 か 5-31 GENESISシリーズ) 境界線上のホライゾン 1下 (1) (電撃文庫 か 5-31 GENESISシリーズ)
(2008/10/10)
川上 稔

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分厚いです。近所の本屋で買ったのですが一冊しか入荷していませんでしたよ。800ページて何ね!?
で、内容ですが、大変に熱い。それこそ設定やらキャラクター紹介やらを上巻で説明し終えているので、あとがきにあるように1巻からクライマックスな感じです。超人体術を余すこと無く表現していると言える戦闘シーンもさることながら、舌戦も大変素敵でした。変態描写も増量でサービス満点。これだけ分量があって破綻してないのが凄いよなぁ。
好きな一節は主人公達の隣のクラスの先生の言葉。

楽しいことが一杯あればいいと思う。嫌なこともあるだろうが、それ以上にいいことを見つけられればいいと思う。それも、就職とか、裕福とか、そういうこととは別のこと。
(中略)
上手く生きていく方法を教えることが出来るとは思えない。だが、自覚して教えていることが一つだけある。それは、
「そのためにも、……死なないこと。絶対に、自分で自分を殺さないこと。ーーそれだけは憶えておいて下さい」

フィクションとはいえ良い先生です。最近の若者は幼いと文句はたれるくせに、「資産運用」みたいな大人になってから覚えればいい些末なことを小学校から教えるよりも遙かに教育的です。結局勉強するのは自分なので、教育自体が教えられることはこういう事だけなんだろうと思います。
表紙の裏にキャラクターメイキングが書いてあるのに下巻で気づきました。続きをワクテカしながら待ってます。次はいつだろうか?

『境界線上のホライゾン1上』

川上稔先生の新作にござります。しかしのっけから500ページ超えとはぶっ飛ばしています。設定集が740ページあるとか、物語の骨子はティーンエイジャーのときにできているとかどんだけーです。
独特でぶっ飛んでいる会話と高速度カメラでとった動画をスローモーションで再生しているかのような独特の殺陣の描写が稔節です、これだけでお腹いっぱい。ハイテク剣とか鎧とかたまらんです。さとやすさんの絵も相変わらずまロくて素敵にござります。
とにかく世界観と登場人物が複雑極まりなく、把握するのに必死でしたが、本書を通過しておくことで次巻以降が楽になるのでしょうか?
キャラ的に好みを言うと、弄られっぷりに浅間、百合っぽいのでマルガとマルゴット、でも

「いい?どんなに着飾っていたって、ただ着飾っているだけなら趣味。人から見た自分を意識して着飾るようになって表現。それによって人を惹き付けられる着飾りができて御洒落。そして自分が欲しい点数を持っている人の目を奪う着飾りが出来たらー憧れを手にした、と言うのよね。」

この辺のやり取りで東とミリアムが一位です。主人公のトーリはまだ得体が知れません。今後に期待。

『皇国の守護者1 反逆の戦場』著:佐藤大輔

巻末よりあらすじを引用

雪氷舞う<皇国>最北の地に
鋼の奔流が押し寄せた
最新の装備に身を固めた
<帝国>軍の破竹の進撃に
<皇国>軍は為す術なく壊走する
敵情視察を命じられた
殿軍の兵站将校、新城中尉は
僚友の為、剣牙虎の千早と共に
死力を尽くし、敵の猛攻に
立ち向かうが……

ということで熱狂的なファンを持つ皇国の守護者です。文体はいかにも戦記ものっぽいややお堅い感じ。ラノベに脳が最適化されていたせいで慣れるまで時間がかかりました。
この作品、なにより主人公の新城直衛が素敵でございます。戦記の主人公なら身の丈六尺を超える偉丈夫が標準、ラノベなら美少年かそこそこ見れる顔の中肉中背って感じでしょうがこの作品の場合、短身で顔は凶相と言い切っています。何より近親感がわきます。
かといって胆力のある勇者なのかと思いきや、突撃のときに小便ちびります。そのくせ

死して無能な護国の鬼となるより生きて姑息な弱兵と誹られた方が好みだ

なんて言ってのけます。

まぁ、戦記モノなので戦上手なのは当然なんですが。それ以外にも色々性格が捻じ曲がってて、読んでいて飽きません。自分の性格も勘定に入れて自分を飼いならしている直衛には憧れます。
主人公の性格でも結構お腹いっぱいになれますが、この作品の肝はやはり直衛の愛虎、千早でしょう。イメージはプリンセス天功の飼い虎ですが、巨体で主人公にじゃれるのがカワイイの何の。マダラオオキバネコ可愛いよマダラオオキバネコ。

という感じです。ストーリーはとにかく雪原が赤く染まります。いかにも寒そうです。軍事関係は良く分からんのですが、ファンタジーでありながらしっかり積み上げがあって話に厚みがあります。
非常に良質のコミックがあり、それから入ったのですが、原作者と漫画家が喧嘩してこれからってところで終わってしまったらしく。原作を読んで作品の面白さを確認しただけに本当に惜しまれてなりません。

皇国の守護者〈1〉反逆の戦場 (C・NOVELSファンタジア) 皇国の守護者〈1〉反逆の戦場 (C・NOVELSファンタジア)
(1998/07)
佐藤 大輔商品詳細を見る

『MAMA』著:紅玉いづき 挿画:カラス

あらすじ
魔術の盛んな国ガーダルシアのおちこぼれ少女トトは、数百年前に封印された孤独な<人喰いの魔物>を偶然に目覚めさせてしまう、片耳と引き換えに彼と契約し、強大な魔力を得たトトは、彼のママになることを決意する…。

というわけで、『ミミズクと夜の王』の紅玉いづき先生の新作です。ようやく読むことができました。

やはりこの作品の肝はトトと魔物の歪な関係でしょう。愛に飢えている人間の気持ちは、普通の愛情の連鎖の中にいたには決して理解できないのでしょうが、前者を救えるのは、やはり後者しかいないんだよななどと思ったり。
『ミミズク~』と同じく読んだあとに心が温かくなる素敵なお話でした。この先生の書く物語には、やはり独特の読後感があります。次回作も楽しみに待たせていただきます。

「聖者の異端書」 著:内田響子

作者は内田響子さんという方。
「狼と香辛料」のような、登場人物がものを食べていそうな感じのするファンタジー。キリスト教的な一神教が存在する世界が舞台。
合理的な考え方ができすぎてしまう自分に悩む小国のお姫様が主人公。結婚式の当日に相手が消失、いろいろな人から死んだことにしろと言われるが納得できずに探しに旅に出る。その旅程を手記のような形で綴ったお話。
個人的には上に書いた、主人公の逡巡と、タイトルの「聖者の異端書」というある種矛盾した文言の秘密が良かったと思いました。
狭いとはいえ色々な地域を旅するのですが、一巻完結なので個々の描写は薄め。
タイトルに引かれて手に取りましたが、当たりでした。