ファンタジーという書名ではありますが、物語世界の由来がいわゆる剣と魔法のファンタジー世界であるだけで、普通に現代の日本のように情報技術や大量輸送の技術が発達していて、地上からフロンティアはほぼ消失し、平和な時代が長く続いている、そんな世界が舞台の話です。そして、本作のテーマはズバリ「就職活動」です。ちなみに本作のタイトル、「けんとまほうのふぁんたじー」ですが、「いぬとまほうのふぁんたじー」だと思っていました。この記事を書くときに改めて気づきました。
この世界の高等教育機関である大学、要するに現代日本の大学とほとんど変わらないものと想像して良さそうです、の3年生である「チタン・骨砕」は身長2メートルで、体も頑丈、腕っ節も強く、200年前なら英雄になれたであろう逸材ですが、不器用で世の中の流れに上手く乗れず、就職活動にも苦戦中。というか、どうにも世の中の茶番めいた就職活動になじめない(この辺はまんま現代日本の就職活動の戯画です)彼の明日はどっちだ?というのが言ってしまえば本作のすべてです。彼は「冒険組合」というサークルに所属しており、1年生の頃の冒険旅行で友誼を交わした悪友ルターとロエル、同様に冒険旅行に参加したが折り合いが悪くなってしまったサークルの姫的な八方美人のヨミカ(カバーガールですね)、冒険旅行で見つけてきた犬シロがおり、他に「意識高い系(決して言動に才能が伴っているガチ勢ではない)」男子学生のイディア、サークルの先輩で日雇いの仕事をしつつ、本職は冒険者というケントマといった登場人物がいます。
本作は結局、「自分らしさとは何か?」ということがテーマのような気がします。まぁ多くの青春小説で、主人公たちは往々にしてアイデンティティの揺らぎに苦しむわけですが、まぁ高校生くらいまでのそれが自己肯定感をいかに獲得するのかという問題で終わるのに対して、本作の登場人物たちは、就職活動(寿命の異なる種族が一緒に暮らしている世界ですので、その辺の模様は色々ですが)という場において、自分のあり方と社会の都合をいかにすりあわせるのかというより難しい問題に立ち向かわなくてはならなくなったりします。やや変則的な形ではありましたが、一応自分も通過してきた道であり、主人公の苦しみには大いに共感するものがありました。
『灼熱の小早川さん』でも、『AURA 〜魔竜院光牙最後の戦い〜』でも、田中ロミオさんは常に、大勢になじめない側の人間を主人公に据えるんだよなぁと思っていたり。それを突き詰めると『クロス†チャンネル』みたいになるのかもしれませんが。氏の作風なんでしょうねぇ。私はとても好きです。