『剣と魔法の税金対策 全6巻』著:SOW イラスト:三弥カズトモ

なんとなく日本の税制のに似た仕組みで諸々が運営されている世界で、魔族の魔王と人間の勇者、そして主人公の「ゼイリシ」クゥが手を携え、次々と巻き起こる税金にまつわるトラブルに立ち向かう話。全六巻なので場所も取らず、お財布にも優しい。

おそらく橙乃ままれの「まおゆう」あたりを始祖とする、「勇者による魔王討伐のその後」に「ラスボスを倒しても解決しない、本当の世界の問題に立ち向かう」作品の1つで、物語自体読んでいて非常に面白かった。個人的すごくハマるジャンルの作品なので……。

本シリーズはファンタジー作品として面白いだけでなく、世界設定や物語のネタ元になっている日本の税制についての下調べがしっかり(少なくとも自分が理解している範囲では)していてちょっと頭がよくなった気になり、何ならそこから掘り下げることで税に対するリテラシーが向上して現実の生活にも役立つ良書である。本書を読んでいると、給与明細を見て毎回ため息をつく税金(実際のところ高いのは所得税でも住民税でもなく、厚生年金なら会社負担分含めて記載分の2倍払っている社会保険料なのだが)も、まぁ捨てたものではないのだなと思えてくること請け合いである。あるいは、本書の中でチクチク指摘されている日本の「失政」に対して、ムカッ腹が立つ人もいるかもしれない。ちょっとしたボタンの掛け違いで、ここまでひどいことにはなっていなかったんじゃないかと……。

剣と魔法の税金対策

Apple Watch SE (第2世代) 40mm

運動の際の心拍数の記録などに使っていたfitbit charge 2?を、ディスプレイがへたってきたのでApple Watch SE(第2世代)に更新した。使いやすくてよくできているが、電池の持ちを考えると、家の中や家の近所で付けておくのが一番便利でネガティブな要素を感じないかなというのが全体の印象。

デザイン

古参のアップルユーザーとしては、故スティーブ・ジョブズが最初のMacの GUIを設計する際に無駄にこだわった角の丸い四角形をした筐体がいかにもアップル製品という感じがする。上下を反転させて右手首に着けられるのが便利。タッチパネルは狭いがiPhone同様に精度が良くて普通に使える。36-39mmサイズの文字盤が付いた腕時計に慣れているなら、40mmがちょうど良さそう。

用途

主に家の中での細々した雑用と、運動と睡眠の記録に使っている。外出時にスマホに加えて腕時計の電池の持ちを気にするのが嫌なので、特に複数日にわたる長時間の外出時に着けていく気にはならない。

細かな感想

  • 文字盤の逆転機能により、右手に着けるのが簡単である。これで腕時計と同時に着けることができたりする。利き手の右手だが、着け慣れると違和感がない。
  • 画面は明るく、当然のことながら晴の強い日差しの下でも見にくいということはなさそうである。これが今後経年劣化でどれくらい劣化するか……。
  • アクティビティトラッカーとしての性能は必要十分。運動の時間と、ランニングの際に心拍数を確認するのに使っている。
  • 現在進行形で乳幼児の世話をしており、食事の記録などを行う「ぴよろぐ」というアプリを制御できるのが便利。
  • Siriからタイマーを呼べるのも良い。WatchOS標準の機能以外をSiri経由で操作するには、色々セッティングしないといけないのでちと面倒。
  • 文字盤をあれこれカスタマイズできるのは便利で、文字盤にランチャーをうまく設定すると場面に応じてとても便利になる。が、結局ミリタリーウォッチっぽいアラビア数字のアナログ文字盤に落ち着いてしまう感じ。
  • 睡眠の記録は便利である。特に睡眠時間が確保しづらいときには、記録して意図的に早く寝るとか、昼寝するとかできるので、記録を取れると大変助かる。深夜に起きたときに照度の落ちた簡易な文字盤でさっと時間が確認できるのも、睡眠に集中できるように通知をコントロールしてくれるのも配慮の塊という感じである。以前、fitbitは睡眠時に着ける気にならなかった(なんか寝なくちゃいけないプレッシャーを感じてしまって逆に眠れなくなった)のだが、不思議とApple Watchは大丈夫。単に育児で毎日疲れ切っているからかもしれない。

今のところベルトの交換などもしていないが、サードパーティ製も含めて様々なものが選べるのは売れている製品の特権だろう。これでもっと電池が持ってくれればいうことはない。また、結局の所バッテリーか有機ELディスプレイが製品寿命を決めるものと思われるので、それらの耐久性がどんなものかといったところか。

『タクティクスオウガ リボーン』 製作:スクウェア・エニックス 

結局、タクティクスオウガ的なゲームをずっと追い求めて、タクティクスオウガはここ20年以上唯一のものであった。

このゲームとの出会いは昔々小学校高学年から中学生くらいの頃。スーパーファミコンだかセガサターンだかで出たオリジナルのタクティクスオウガをゲーム雑誌かなにかで見て、美しいスリークォータービューのグラフィックに憧れていつかプレイしたいと思っていたがかなわなかった。結局、大学生になってからプレイステーションで発売されていた移植版を買ってプレイしたのだった(ディスクは誰かに貸してそのままどこに行ったか分からなくなってしまった)。後にリメイクされた「タクティクスオウガ 運命の輪」はハードを持っていなかったためにスルーして、今回さらにリメイクされたので購入してプレイした。ちなみに本シリーズの派生作品ともいえる『ファイナルファンタジータクティクス」も好きなゲームで、2年くらい前にiOS版で「やり納め(隠し要素まで含めて完全にデータをコンプリート)」した。

結論からいうと

かなり良いバランスに調整されたリメイク版で、ストーリーの重厚さは相変わらず、昔からの1ファンとしてものすごく楽しめた。

細かい感想をリスト化してみると

  • 大人になってみても、やはりストーリーは面白い。今回は特に主人公の立場(人種差別に憤る若者)に強く感情移入してプレイを始めてみたが、特に1章の最後は胃が痛くなるような選択を強いられる。
  • ゲームバランスはよく練られていてやり応えがある。色々な装備や魔法、職業が設定されているが、それぞれ戦術次第でキラリと光るものが見えてくる。
  • 特に中盤は後半ほど装備で押し切れないため、とにかくボスに集中砲火してマップをギリギリクリアするといったような綱渡りを強いられた。
  • 有名な「死者の宮殿」に潜ってレアアイテムを集めるのはやはり楽しい。本作はこの死者の宮殿を代表として後半に隠し要素や装備集めのクエストが多く設定されており、後半になっても作業感があまり出ないのは相変わらずよくできていると思う。

ちなみに現在(1周目の最終盤)の主人公である。やはりカチュア姉さんは殺せないのでロードではなくバッカニア、左手のロンバルディアは性能が低いかと思いきや片手武器なのにカウンターが付いている。右手に持っている短剣は毒を付与できる。毒は防御系スキルやレベル差を貫通して割合ダメージを与えられるので強い。仕様上右手武器で反撃するので、短剣を右手に持つことで手数を増やして毒を撒ける。毒、魅了、麻痺、沈黙、恐怖……とこのゲームはデバフが強い。

現代のゲームなのでプレイしやすいように良く練られたゲームで、かつタクティクスオウガがタクティクスオウガである点は失われていないので古参勢にもオススメだと思う。何度も移植され2回もリメイクされた作品であるということから、名作といって差し支えないので、未プレイの人も是非プレイしてみて欲しい。今時のゲームなので色々なプラットフォームで遊べるので、とりつきやすいと思う。

熱交換換気装置と寝室の環境

実は最近、我が家に熱交換換気装置が付いた。これは仕事場にしている部屋に付いているものだが、寝室にも一つ付いている。室温にそれほど影響を与えずに常時換気をすることができるので、基本的に付けっぱなしにしている。で、この装置が入って以来気づいたのだが、「よく眠れる」気がするのだ。体感でいうと導入前に比べて1時間くらい睡眠時間が短くても大丈夫、といった感じか。

本件で気づいたのだが、睡眠の質を上げるために寝室の温度湿度は気を遣う人も多いが、空気の質、具体的にいうと酸素の量も実は大事なのではなかろうか?今でも使われているのか分からないが、身体の回復を早めるために高濃度酸素カプセルに入るアスリートがいるくらいなので、きっと大事なのだろうと思われる。

ちなみに、寝室には

  • エアコン
  • 除湿機+サーキュレーター
  • 加湿器
  • 空気清浄機
  • 熱交換換気装置

と部屋の空気をあれこれいじり回す機械がたくさん入っており、床置きのものも多いので窓際がさながら高層ビル群のようになっている。統合できればすっきりするのだろうが、一台の価格が高くなったり、壊れたときの修理が面倒だったりするのだろう。

いずれにせよこの熱交換換気装置がえらく気に入ってしまって、自分で家を持つことになったら、是非とも寝室に取り付けたいなぁと思うのである。睡眠の質が上がって回復力が上がる機械なんて、相当投資効率が良いと思うのだ。

『神々の山嶺 1〜5』 原作:夢枕獏 画:谷口ジロー

エベレストに初めて登頂したジョージ・マロリー卿が残したカメラと、そこに残されているはずの初登頂の証拠のネガフィルムをめぐって繰り広げられる濃厚な人間ドラマ。そこに、深町と羽生という山に魅せられた二人の男の人生が絡み合う。

原作を夢枕獏、作画を谷口ジローで分担しており、人物から登山器具、果ては国内海外の山の風景まで、全五巻に渡って濃厚なストーリーと緻密な作画が物語を彩る。個人的には今回初めて読んだが昔から有名な作品で、インターネット上で数々のコラージュが作られているが、それを抜きにして正統派の登山マンガとして面白い作品だった。

登山をテーマにしたマンガをいくつか読んだことがあるが、大体同様の展開になるというか、やはりとにかく己の身体一つで頂を目指す登山に魅せられた人というのは孤独になり、それが故に己と向き合い、周囲から孤立し……時々山に殉ずる……という展開になりがちな気がする。とはいえ、どれを読んでも割と面白くなってしまうのは登山が人類普遍のロマンだからだろうか?しかしさすがは『孤独のグルメ』の谷口ジロー、山の上のテントの中で食べているビスケットやインスタントスープが実に美味そうなのだ。

『神々の山嶺』 第5巻 P.25より引用

『湾岸MIDNIGHT C1ランナー』著:楠みちはる

この長距離巡航のコツのエピソードを読みたくて買ったシリーズ。

楠みちはる『湾岸MIDNIGHT C1ランナー』6巻 75ページより引用

楠みちはる『湾岸MIDNIGHT C1ランナー』6巻 79ページより引用

前作にも出てきた自動車チューナーの一つであるRGOのステッカーを付けたRGO非公認のRX-7が最近首都高に出没するらしい……というところから始まる名作、湾岸MIDNIGHTの続編。前作に登場した人物や車に加えて、例の野良RX-7のドライバーであるノブは、インターネット、スマホ時代の自動車・自動車チューニング雑誌のあり方を模索する会社GTカーズの経営に巻き込まれながら、周囲の大人達に教えられたり、大人達に刺激を与えたり……という人間模様が描かれる。

首都高でレースをするのは変わらず湾岸ミッドナイトなんだが、本作はちょっと違う味付けで、上の世代の大人たちが、これから世の中に出ていく下の世代に何をしてあげられるかを考えているシーンが多かった。時代設定がバブルの時代から動かなかったように見えた無印と違って今作はハッキリと2010年前後が舞台なので、チューニングカーというものがはっきり昔の代物になってしまっているがゆえに、次の世代に何を残すのかみたいなトーンになったのかなと思った。

主人公のノブも、自分より少し下の世代の等身大の若者って感じで親しみが持てた。前作の主人公のアキオは、だんだん悟りを開いた仏法僧というか、首都高の付喪神みたいになっていったので……。で、最後の最後に少しだけ悪魔のZが出てくるのだが、本当に首都高に取り憑いていて、ミッドナイトブルーのS30Zの形をした妖怪みたいな扱いになってて少しクスッときた。このシーンはノブが首都高を走るドライバーとして、悪魔のZに見える資格を得たという解釈をするべきなのだと思うが。

本作のタイトルの首都高のC1(都心環状線一号)だが、実際走ってみると直線がほとんどなく、クネクネ上下左右に曲がるのでワインディングロードのようで結構楽しい(速度によっては怖く感じる。)ドライビングプレジャーがある道であるのは確かなのだが、ここで300km/hでレースをされると迷惑極まりないな、と思う。そういう意味で湾岸ミッドナイトはあくまでフィクションであり、フィクションであるがゆえに面白いのである。

ちなみに首都高に乗るときは箱崎インターで降りることが多いのだが、必ず道を間違えて一つ先の木場で降りることになってしまう。木場は木場で昔の生活圏なので懐かしさがあるといえばあるのだが。

 

Wenger Commando Chronograph (model 70725) 復活

元々大学受験で浪人した際に、試験の時に見る時計が必要だろうからと親が買ってくれた時計だった。それ以来20年近く、手元で動いては止まり動いては止まりしてきた時計である。

このモデル、90年代後半に大ヒットしたテレビドラマと映画のシリーズ『踊る大捜査線』の劇場版第1弾で主人公がつけていた時計として有名である。……なのだが、有名なのは文字盤にSAK(Swiss Army Knife)の文字が入った初代モデルであり、これはどうやら2代目か3代目らしい。このモデル、同じ型番と商品名で文字盤に複数のバージョンがあり、代が進むにつれて、文字盤のデザインがシンプルになっていったのである。正直な話古いモデルほどカッコ良いとされており、SAKデザインのものは現在でもネットオークションでそこそこの値段(中古品でも当時の新品の実売価格並)で売られている。まぁ自分としてはこのモデルがやはり一番だと思う。

というわけで高価でもないし、特に希少なものでもないのだが、自分は気に入ったものは大事にするタイプなのと、直径39mmのクロノグラフというのは今となっては案外希少で、ずっと手元に置いている。

今回、2年近く前に止まって以来ずっと動かしていなかったのだが今回、ムーブメントを交換して前線復帰とあいなった。いつの間にかクロノグラフのリセットボタンの軸が曲がってしまっており、ガラスやボディも傷だらけ、防水性能も落ちていて満身創痍であるが、ETA社の汎用クロノグラフムーブメントを搭載しているおかげで発売から20年以上経ってもこうして直すことができる。ありがたい限りである。老境に入りつつある親との思い出がある品であるし、今回のようにインターバルは開くかもしれないが、直せる限り直して時々左手首に収まることだろう。

ジモティーで不用品処分した 雑感

引っ越しなど生活に変化が出れば、必然的に家財に不要なものが出てくる。個人的にはここ最近がそのタイミングだったもので、Webサービス「ジモティー」であれこれ処分をしてみた。この記事ではその時に思ったことを言語化してみたいと思う。

今回処分したのは

  • 自転車(このブログでも紹介したフラットバーロード)
  • ローラー台
  • ダンベルセット
  • 室内用物干し台

の四点だった。

ヤフオク、メルカリより手軽

これらのネットオークション、落札側として使ったことはあったが、出品側は梱包などの手続きが面倒で使ったことがなかった。それに対して今回利用したジモティーは手渡しが基本なので始めるハードルは低い。逆に言うと、女性の場合は使いにくいだろうなとは思う。実際僕が取引した相手は、男性が使いそうなものが多かったこともあるがみんな男性だった。……が、統計的には利用者の60%が女性ということで、単に僕には見えていなかっただけのような気もする。

都市部が有利?

周りに住んでいる人が多く、多様であるほど自分が売り出したものが売れる確率も上がる。従ってこのジモティーというサービス、人口密度が高い都市部に住んでいる方が有利なように思われる。とはいえ地方や郊外では自家用車を輸送に使えるので、マッチングする範囲は広げられるようにも思われるのでなんともいえない。

みんなが使うものはすぐ売れる。ニッチなものはヤフオクへ?

ジモティーは近所で買い手を探す分、ニッチなものを欲しがっている人に出会う確率は当然下がるだろうと推測される。実際、買い手が着くまでの時間は
物干し台>ダンベルセット>自転車>>ローラー台
だった。後者二つは最初の値付けがちょっと強気だったからかもしれないが、なんだかんだ2週間〜時間がかかった。

不要なものでも手間賃は取れ

無料を筆頭に確かに安ければ早く買い手がつくのだが、そうはいっても輸送や受け渡し、簡単な梱包と時間なりなんなりこちらもコストを持ち出すわけで、100円でも500円でもいいので手間賃は取ったらいいと思った。品物のページに「手間賃です」とはっきり書くのも買い手の納得が得られやすいかもしれない。とにかく粗大ゴミ処分のチケット代が浮けばよい、大きな重量物を家に取りに来てもらいたい、早く処分したい、といった事情であれば、無料で出すのが誠実という気もする。

メールや受け渡しは紳士的に

受け渡しの際には直接会うわけだし、買い手との交渉の段階から紳士的に接するべきだろう。品物の状態などについて嘘はつかずに誠実に書くのが回り回って買い手の信頼を得られるように思う。一人、受け渡しの際にコンビニでお茶を買ってきて渡してくれた人がいて、「人間力」の違いを感じた。そういうちょっとした気遣いって大事だなぁと。値段や受け渡し条件の交渉をしている際にはマメに記事タイトルを編集するなどするとお互いに不毛な連絡が減って良い感じであった。

最後に

コロナ禍で人と会って話したりする機会が減っていたのもあって、見知らぬ人とコミュニケーションを取るのが意外と楽しかったりした。コミュ障の自覚があったのだが、それでもこのご時世というのは特殊であるらしい。

『老人喰い ーー高齢者を狙う詐欺の正体』 著:鈴木大介

「オレオレ詐欺」という言葉が広く知れ渡ってから何年経ったか記憶にないが、それは一向になくなる気配を見せず、一日に何百、何千万円、年間に何百億円ものお金が動く高齢者を狙った詐欺、その実態や原因に迫ったルポルタージュ。著者の鈴木大介氏は、貧困家庭などに生まれ育ち、表の社会に受容されないが故に反社会勢力などに取り込まれていく少年達を主に取材するジャーナリストである。

本書によれば、高齢者詐欺というものは通常のビジネスと同様かそれ以上に高度にシステム化、分業化されているということである。高齢者の名簿を作り、その名簿に様々な付加情報を加えていく名簿屋、連絡用の携帯電話番号(盗品)や転売された銀行口座など必要なリソースを供給する業者、被害者と接してお金を回収する出し子や受け子と呼ばれる人を手配する人、等々、高齢者詐欺というのは一種の分業制ビジネス化しているのだ。本書の中では物語形式で描かれているが、特にそれぞれの案件でリーダー役をやる人に関しては、適正がある者を選抜し、育成する高度なシステムが確立していて、そこで選抜される人物というのは、機会にさえ恵まれていれば優秀なビジネスマンだったり、あるいはベンチャー企業の社長になって何人もの社員を養うことさえできたのではないかという胆力や知力、向上心の持ち主であるということである。

ではなぜそんな優秀な人物が、犯罪に手を染めるのか?端的に言ってしまえば社会の閉塞感と、世代間格差である。大学の学歴を要求する職業や会社は多い割に、大学の学費は値上がりしていて大学に通えない、通えても奨学金という名の莫大な借金を抱えざるをえず、そうまでして入った会社でまともに働いても、社会保険料や健康保険、住民税などでごっそり持って行かれる。自分たちがなかなか明るい展望の見えない人生を送る一方で町中に眼をやると、立派な家に住み、自分たちが納めた年金で悠々と暮らしているように見える高齢者が視界に入る。社会保障制度、教育制度等々それぞれは社会的に正しいとされているシステムだが、それによって自分たちは人生の希望を奪われている、ならば非合法な手段であれ、自分たちから希望を奪った連中から「取り戻す」のだ……。

そこそこの待遇で働いていて守るものがそれなりにある人であっても、2020年代の現役世代に、毎月の給与明細を見て支給額と手取額の落差に肩を落としてことがない人はいないだろう。被害者は気の毒だし、自分や自分の身内が被害にあえば憤り、犯人に厳罰を求めるだろうことは確実であるが、彼らが自己を正当化する理屈は一応通っているように自分には思える。

最近、犯罪の「責任」と「原因」ということについてよく考える。犯罪を犯した人間に一義的にその責任があることは確かなのだが、その犯罪を犯すに至った原因は、その人にだけ帰されるものでは必ずしもないのではないかということである。犯罪者の責任をいくら追及しても、原因をなんとかしない限り同種の犯罪はなくならない。まして高齢者詐欺のようにシステム化されたものについては、そこに新しい若者が惹きつけられる社会状況が存在する限り、絶対になくならないだろうと思う。

この記事を執筆した時点で、日本各地で起きている一連の強盗傷害事件があるが、マスコミの報道を見る限り、恐らく本書に書かれていることと同様のシステムが存在しているのではないかということが想像される。おそらく、この手の事件は増えこそすれ、なくならないのではないだろうか?

『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』 著:吉川祐介

千葉県の北東部の、公共交通機関のネットワークから遠く離れた地域には、1970年代頃から開発された分譲地がたくさんあるという。その多くには分譲された区画数を大きく下回る住宅が建っていて大半は更地や原野になっているそうだ。

空き家問題や限界集落など、人口が絶賛減少中&都市圏への極端な人口集中が進む日本には不動産に絡む様々な問題が存在する。本書はその中でも都市圏の超郊外に存在するある種の「分譲地」が抱える問題を取り上げたものである。本書ではタイトルにある限界ニュータウンとか、限界分譲地とかいった単語で呼ばれるこの「分譲地」がどういった経緯で生み出され、どういった現状にあり、どのような問題を抱えているのかを丁寧な実地調査と精緻な分析に基づいて紹介し、一定の解決策を見いだす良書である。詳しくは本書に譲るが、土地の値段が急上昇していた時代に原野商法と似て非なる経緯で生まれ、バブル崩壊後の地価の急落で不良債権化して流動性が低下し、今に至るというもののようである。まさに昭和平成の負の遺産という感じ。

著者はYouTubeやブログもやっており、僕がこの著者の書く文章や語り口が好きなのは、根っこの部分では当時の土地バブルに踊らされた人々のことを馬鹿にしていないことである。前時代的で、現在からすると奇妙に見える社会的な事象や遺物には、その時代なりの合理性や経緯というものが存在するはずで、著者の書く文章やYouTubeでの語り口は、それに対する想像力が感じられるのだ。是非この本やYouTubeが当たって、奥さんとお二人の生活が少し華やかなものになると良いなぁと思っている(実際当たって複数回重版しているようだが、YouTubeの方が儲かるらしい。文筆業は結構厳しい)。

本書を読んで思ったのだが、資産や不動産、会社などの法人をキチンと精算する人というのはそれだけで立派である。