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『魔女は月いずるところに眠る(上中下)』 著:佐藤ケイ 挿画:文倉十

電撃文庫初期の長編シリーズの1つだった『天国に涙はいらない』という作品の著者、佐藤ケイさん。民俗学や宗教学などに造詣が深く、地に足のついたファンタジーを書く作家さんで、友人がファンだったのもあり、僕自身も作品をよく読ませてもらっています。まぁ、悪く言えば理屈っぽく、ライトノベルの主要読者層であろう中高生に広く受けるという感じではなかろうなぁという印象を受けます。まぁ中高生の友人がいないので、何ともいえませんが…。広げた風呂敷を手堅くたたむ小説家としての力量は、さすがといわざるを得ません。挿絵は『狼と香辛料』の挿絵をしていた文倉十さん。魔女の、少しクラシックな衣装はお手の物ですね。

魔女残酷物語…というと、2010年代アニメの傑作の1つであろう『魔法少女 まどか☆マギカ』が思い浮かびます…が、魔法少女というテーマを脚本家の持つ世の中感で解釈してリビルドした結果陰惨になっているのがまどマギだとすると、これはそもそも「魔女」とか「黒魔術」みたいな物が持っている陰惨さをそもそもベースにしているという感じがしました。非常に無理矢理な解釈かもしれないですが。力を振るえば力に食われるという発想はCLAYMOREなんかもそうですね。

本作には、様々な能力を持った魔女が出てきますが、本作における究極の力は、「他人を理解して、他人に寄り添う力」でした。というか、本作のテーマは終始それだったのではないかと思います。「神だけがいない」という本作中の言葉にあるように、自分ではどうにもならない出来事、というかぶっちゃけ大小様々な不幸が降りかかり、思いやりが届かなかったり、素直に引き継がれなかったりして生じたすれ違いこそが、2000年にわたる魔女の因縁であり、最終的に主人公に収束します。ことの顛末がどうなるかは、本作を是非とも読んでいただきたいところです。

個人的には、本作の悪役の一人が、世の中を好きになれるかどうかと、罪を犯すかどうかの関係を語るところが非常に印象に残っています(第三巻の一幕です)。いわゆる「無敵の人(失うものがないがゆえに世の中や他人に非道なことが平気でできてしまう人)」ってこういうことなのかとふと考えてしまう一節でした。