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『黒剣のクロニカ3』著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

アトランティスと呼ばれた高度な文明を誇った大陸が沈み、その時の名残でダリスという超常的な力と、ダリドという真実の姿(人魚になったり、人馬になったり、メドゥーサみたいになったり)が残る古代地中海世界のような世界。都市国家「コフ」に侵略され、コフの王族黒剣一族に奴隷に堕とされた母から生まれたフラメスが、亜人の女の子達を引き連れて兄に復讐します。さて、フラメスは復讐を果たすことができるのでしょうか?

芝村裕吏さんの作品に、これまで目を付けられていなかったものに着目することで戦いの常識を覆す、という要素がよくありますが(マージナル・オペレーションなら歩兵の情報統合による少年兵の主力化、ガンパレード・マーチなら整備兵の集中投入による人型歩行戦車の稼働率向上)、本作ならそれは主人公の神話級特殊性癖でしょうか。主人公たるや人馬のしっぽ、人魚のひれ、様々なダリドを持つ女性達の前で男性の象徴を反応させ(古代地中海的世界なのでみんな割と裸に近い、あるいは人前で服を脱ぐことに抵抗感がない)、それを以て多様な亜人女性の心を掴みます。要するに「みんなちがってみんないい(性的な意味で)」。時代遅れとされている、多様なダリドを持った戦力の適時同時運用を行い、主人公並の知略を持つ兄に立ち向かいます。

ヒロインは人馬のイルケ、かわいいよね。今巻が最終巻ですので、フラメスとイルケの恋にも決着がつきます。そっちは読んでのお楽しみということで。戦争に対して恋人から体の一部をお守りとしてもらったりする習慣ってありますよね(ニッコリ)?

 

『人馬』著:墨佳遼

『セントールの悩み』、『黒剣のクロニカ』で、個人的にはなんとなく人馬ブームが来ています。その一環で面白いと噂の本書を手に取りました。

中国や日本の様な東アジア風の世界観の世界で、人間同士の戦争の道具として家畜のように人馬が扱われる時代。山に住む輓馬のように体格の良い「松風」と、人間に両手をもがれた駿足の人馬「小雲雀」を二軸に、自由と種の存続をかけた人馬達の戦いが描かれます。『セントールの悩み』は人馬族が家畜的な扱いを受ける時代を経て人権意識が発達し、形態差別が禁止されるようになった現代風の世の中の話ですので、独立した作品ではありますが、前日譚のように読める作品とも言えるかもしれません。

作画は勢い重視。種族としての滅亡も考えられるくらい厳しい、針のむしろのような時代に自由を求めて戦う主人公達の勢いや熱さが物語の軸ですから、作風とマッチしていると思います。

実際の人間の歴史を見ると、肌の色が違ったり、宗教が違ったりというだけで「人間」に随分ひどい扱いをしてきたという事実がありますから、本作の人馬の扱い、決して架空のこととは言えないんですよね。色々問題はありますが、全体としてみると人間社会って良くなってますよね。

2巻で第一部完結、第二部も出るかも、とのことで、今から追いかけるには最適な作品だと思います。