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『逃げられない世代 日本型先送りシステムの限界』 宇佐美典也

帯には「2036年完全崩壊」などと剣呑な文句が踊るが、別にその年限でいきなり国が崩壊して日本が外国に侵略されるとかそういう話ではなく、安全保障、社会保障のパラダイムを変えざるを得なくなりますよ、しかもそれは問題に対処するために前向きに行われるのではなく、限界が来てやむにやまれず……となりますよ、という話。2036年というタイミングは主に、日本の国債を日本国内で消化しきれなくなり、外国に売らざるを得なくなるのが大体その辺りということらしい。

著者は経産省の元官僚で、1981年生まれ。2018年現在の20、30代は崩壊の2036年にまだ現役(40~50歳代)で一部の人間は組織の意思決定を担っており、働けなくなったら劣化した社会保障制度の世話にならなければならない、というのが「逃げられない」ということのよう。要するに投資家のジムロジャースが言っているようなことである(ジム・ロジャースは逃げろと言っているわけだが。)

日本の国会中継、特に本会議が政治ショーで、実質的な法案審議は委員会でやっているという話は既に知っていたが、法案作成の段階で野党が対案提示して法文修正を行うようなことは日本の立法システム上不可能で、それ故に野党が実質以上に(与野党共にクソみたいな政治家はいるんでしょうけど)無能に見えてしまうというのは恥ずかしながら知らなかった。

第二次世界大戦~冷戦~現在につながる日本の安全保障上の立ち位置の整理は結構分かりやすい。自由貿易と孤立主義の天秤で揺れるアメリカをなんとか自由貿易側に引きつけるように努力するのが日本が目指す方向、というのは割と納得感がある。とはいえ一面的なものの見方にならないように、引き続き勉強を続けていきたいところ。

流石に本書の内容をすぐには消化できないが、今の日本の現状をさまざまな統計データやらを駆使して複眼的に説明して、「逃げられない」ことを立証しようとしている。他の本やら何やらで個人的に「裏を取ってる」こともあるが、ソフトランディングのために段階的な消費税増税を提唱していることについては、個人的には悪手という感じがする。今の日本経済には消費税増税に耐えられるだけの体力がなく、個人消費が冷え込んで貧しい人が更に追い込まれることになると思うのだが……。

しかしまぁ要するに人口動態に政治が追いつかず、本書に記載もないですが失われた20年の失政で人口減少のソフトランディングにも失敗したツケを支払わされるわけで、「未来の年表」もそうですが、我々の世代は割食ってる感じがどうしてもする(日中・太平洋戦争に巻き込まれた祖父の世代は他本当に大変だったとは思うが)。気候変動で気象も極端化すると言われているし、首都直下地震やら南海トラフやらも控えている……。……みんな頑張ろうな。

ポスト工業経済の社会的基礎 市場・福祉国家・家族の政治経済学

著者はG・エスピン・アンデルセン
おそらくは社会学の専門書なんでしょうし、素人なので研究内容について批判的なコメントはできませんが、非常に興味深い本でした。特徴としては、社会調査のデータに統計処理をかけて根拠としている事でしょう。
2000年に発行された本なのですが、2013年においても現在進行形である若者、女性の大量失業や格差の拡大、低い出生率といった社会問題を福祉システムの機能不全として考察、解決に向けた提言を行っている本です。
本書では社会において福祉を提供する主体を、「家族」、「福祉国家」、「市場」の3つと定め、それらが提供する教育、育児、介護、所得(雇用・労働)、保健医療などを福祉サービスと定義しています。その3つの主体の複合体を「福祉レジーム」と呼んでいます。更に、福祉レジームの主要な形態として、
自由主義型:主に市場(民間サービス)が福祉を提供する.例:アメリカ
社会民主主義型:国家が主体的に福祉を提供する.例:北欧諸国
家族主義型:家族が福祉を提供する.例:イタリア,日本
の3つを挙げ、該当国の社会統計を比較分析することで、福祉の機能不全の原因と対策を検討しています。
結論から言うと、「出生率の向上」と「失業率の低下(を実現する弾力的な労働市場の実現)」を目標とした場合、以下の方策を取るべきだと言っています。
・女性の共働きを推奨する → グローバル化により先進国ではサービス業が雇用の受け皿になるので、家事労働,保育,介護などのサービス業への需要が高まり雇用が増える.
・国家による職業教育で,特に若者と女性の失業期間を短くすること。前提として職業教育を可能とする知的レベルを公教育で保障すること.
・シングルペアレント世帯への給付と就職を徹底的にサポートすること → 長期的に考えると、シングルペアレント世帯が福祉給付に頼らず自立できることは国の福祉負担を軽減する。
・ベーシックインカムか,負の所得税で非熟練労働者の給与水準を底上げすること → 民間サービスで福祉を提供する場合は特に。非熟練労働によるサービスを利用可能な価格として提供しつつ、非熟練労働者の経済的自立を実現するには不可欠。
じゃあ日本の現状は?と言われるとどうも上手く回ってないなぁという気がします。しかしまぁ、どういう福祉レジームが成立するのかは国によってスゴクさがあるという指摘はされているので、この方針を範としつつ、我が国なりの21世紀型福祉レジームの実現を、というのを政治家の先生方には考えていただきたいものです。僕自身、そういう政治家を選挙で選びたいと思います。