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『想像の共同体』著:ベネディクト・アンダーソン 訳:白石隆、白石さや

本書は現在の「国」の基本形、国民国家の成り立ちやナショナリズム(国民国家を自分の所属する共同体であると認識する人々の意識)の成り立ちと広がりを論じた非常に著名な書籍らしいです。購入してから半年以上熟成させた後にようやく読み始めることができました。専門外な上、精読というにはほど遠い読み方をしたので、書評としては浅いのはご容赦を。

要点を書きますと
– 国民国家は、ヨーロッパの宗教共同体と君主制国家をその起源とする。
– 人々が見たこともない他人を同じ「国民」と想像できるようになるためには、活版印刷によって大量に印刷された本や辞書、それによって固定化された俗語(非ラテン語の話し言葉=フランス語やドイツ語といったようなもの)が大きな役割を果たした。
– とはいえナショナリズムはヨーロッパでのみ成長したわけではなくて、南北アメリカの旧植民地国家の独立や、東南アジアや、アフリカの旧植民地国家においてもいろいろな要素が付け加えられ、世界中に広がっていった。
– 共和主義や憲法主義的な社会革命とは同じように広がったわけではない。オーストリア帝国やタイ王国などの君主制国家においても、国民統合の手段として、上に書いたようなナショナリズム醸成のための政策を積極的にとることがあった。本書ではこれを、「公定ナショナリズム」と読んでいる。

で、結論から言うと大変興味深い一冊でした。なかなか内容を適切に要約できないのですが、とはいえ、現在の国家や国民というものを客観的に見る上で、とても良い思考の道具になりそうな本だと思いました。常々「お国のため」とおっしゃる方はいますが、全体主義と自由主義の間を取った、国家という物とのほどよい付き合い方を見つけるのに役立ちそうです。

正直勘違いや誤読もあると思いますので、読書会みたいなものに参加して、色々と意見を言い合ってみたいものですね。そういったことは文系大学のゼミの役割でしょうかね?

ポスト工業経済の社会的基礎 市場・福祉国家・家族の政治経済学

著者はG・エスピン・アンデルセン
おそらくは社会学の専門書なんでしょうし、素人なので研究内容について批判的なコメントはできませんが、非常に興味深い本でした。特徴としては、社会調査のデータに統計処理をかけて根拠としている事でしょう。
2000年に発行された本なのですが、2013年においても現在進行形である若者、女性の大量失業や格差の拡大、低い出生率といった社会問題を福祉システムの機能不全として考察、解決に向けた提言を行っている本です。
本書では社会において福祉を提供する主体を、「家族」、「福祉国家」、「市場」の3つと定め、それらが提供する教育、育児、介護、所得(雇用・労働)、保健医療などを福祉サービスと定義しています。その3つの主体の複合体を「福祉レジーム」と呼んでいます。更に、福祉レジームの主要な形態として、
自由主義型:主に市場(民間サービス)が福祉を提供する.例:アメリカ
社会民主主義型:国家が主体的に福祉を提供する.例:北欧諸国
家族主義型:家族が福祉を提供する.例:イタリア,日本
の3つを挙げ、該当国の社会統計を比較分析することで、福祉の機能不全の原因と対策を検討しています。
結論から言うと、「出生率の向上」と「失業率の低下(を実現する弾力的な労働市場の実現)」を目標とした場合、以下の方策を取るべきだと言っています。
・女性の共働きを推奨する → グローバル化により先進国ではサービス業が雇用の受け皿になるので、家事労働,保育,介護などのサービス業への需要が高まり雇用が増える.
・国家による職業教育で,特に若者と女性の失業期間を短くすること。前提として職業教育を可能とする知的レベルを公教育で保障すること.
・シングルペアレント世帯への給付と就職を徹底的にサポートすること → 長期的に考えると、シングルペアレント世帯が福祉給付に頼らず自立できることは国の福祉負担を軽減する。
・ベーシックインカムか,負の所得税で非熟練労働者の給与水準を底上げすること → 民間サービスで福祉を提供する場合は特に。非熟練労働によるサービスを利用可能な価格として提供しつつ、非熟練労働者の経済的自立を実現するには不可欠。
じゃあ日本の現状は?と言われるとどうも上手く回ってないなぁという気がします。しかしまぁ、どういう福祉レジームが成立するのかは国によってスゴクさがあるという指摘はされているので、この方針を範としつつ、我が国なりの21世紀型福祉レジームの実現を、というのを政治家の先生方には考えていただきたいものです。僕自身、そういう政治家を選挙で選びたいと思います。

『純減団体-人口、生産、消費の同時空洞化とその未来』 著:近藤修司

地方の衰退,とはよく言われる話ではあるが,実際のところどうなっているのだろうか?日本全体として人口が減少していくことはまぁわかっている訳だけれども,実際に自分たちの住んでいる町や村に,どんなことが起こりうるのだろうか?その疑問に大上段から答えた本が本書である.
タイトルの説明
本のタイトルにある「純減団体」とは,ある市町村における以下の2つの人口動態が両方ともマイナスになったものを指す.すなわち,
社会動態=(その町への転入者数)ー(その町からの転出者数)
自然動態=(その町で生まれる人の人数)ー(その町で死ぬ人の人数)
これらが両方ともマイナスになった団体を純減団体と呼んでおり,2006年時点で1844市町村中1023市町村が純減団体になっているそうである.さらに本書では,市町村が純減団体に変化するメカニズムについても考察を加えている.要は,製造業,建設業などの第二次産業の衰退によって地域経済が良くなくなり,職がないので社会動態がマイナスになる.社会動態のマイナスは若い世代から起こるために自然動態もマイナスになるというスパイラルらしい(詳しくは本書をお読みのこと).さらには今後(特に2020年代にかけて)どんなことが起こりうるのかをデータに基づいて推察してもいる.このパートは読んでいると暗澹たる気分になってきて,なかなか読み進むのがつらくなってくる….負担を追うことになる世代だけにね….
本書が何よりすごいのが,上記の考察には実際にそれを裏付けるデータがあるということである.著者は本書を書くにあたり,上記の1844市町村の人口動態などのデータを集めに集め,それに基づいて考察を行っているのである(これが上に”大上段から”と書いた理由でもある).社会学の研究として,やっている人がいそうなものだがどうなのだろうか?
ちなみに本書の1/3程度が,市町村,特に東京などの大都市圏以外の市町村が人口減少期をいかにサバイバルするかについての提言が占めている.これもまた,地方の衰退を間近で見ているが故の情熱が感じ取れる.
地方,地元の衰退に心を配る諸兄には,是非ともおすすめしたい一冊といえると思う.多少お高めではあるが,(どんな本でもそうなんだろうけど)書く労力に値段が釣り合ってないような気がする.

純減団体-人口、生産、消費の同時空洞化とその未来 純減団体-人口、生産、消費の同時空洞化とその未来
(2011/01/11)
近藤 修司

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