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小説『ガンダムUC』著:福井晴敏

人々はそれを穀物ではなく
いつもただ存在の可能性だけで養っていた。

ようやく読み終わった福井晴敏作のガンダム小説全10巻.

主役メカはユニコーンガンダムなんて呼ばれるわけですが、ガンダム世界の暦である宇宙世紀Universal CenturyとUniCornのダブルミーニングにふさわしく、宇宙世紀ガンダムの約100年にわたる作中の歴史を総括するような作品。OVAですでに結末を知ってはいたのですが、小説で読んでみるとキャラクターの感情などがわかりやすい。読んでみると、アニメが尺の都合で色々とカットされつつ、それでも主要な流れを壊さないように非常に繊細にその作業が行われていることがよく分かります。原作もさることながら、アニメを製作したスタッフも本当に良い仕事をされたのだなと、あれだけヒットした理由が分かる気がします。

全編を通して主人公のバナージやヒロインのオードリーが様々な人とふれあいながら、最後に決意と行動を起こし、周囲の人を動かす、それに至るプロセスが丁寧に描かれるのが本作の特徴ですが、小説であるが故にその辺の描写も濃厚。特に、2人が決定的な影響を受けたであろう、砂漠でのジンネマンとバナージのやりとり、ダイナーの主人とオードリーのやりとり、個人的には本作屈指の名シーンだと思いますが、も大変すばらしい。これだけでも大満足です。

本作はガンダムの世界を借りてはいるけれど、結局技術が進んで人間が住んでいる領域が広がっているだけで、そこには貧困だったり差別だったり、大切なものを奪い去る暴力だったり、現実と大して変わりはない理不尽が相変わらず存在し続けています。現実の射影のような理不尽と不幸が描かれる作中に、物語らしく希望の光が指す本作それ自体が、やっぱり決して理不尽や不幸がなくならないこの世に想像力だけで養われている、ユニコーンそのもののような気がするのです。

上にも書いた私が一番好きなシーンが入ってるのはOVAの4巻。第1巻のモビルスーツ戦も大変素晴らしかったですが。