『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』 著:赤松啓介

著者は赤松啓介先生.在野の民俗学者の方だそうで.
近代~大正時代半ばくらいまでの農村地域と商家の性風俗(性風俗産業にあらず)についての個人的フィールドワークの本.日本の民俗学といえば柳田國夫ですが,親の敵かと言わんばかりにDisっております.その点はちょっとどうかと思いますが.
一言で言うと,100年前の日本って,まるで異国のようです.根本的な性への価値観からして今の我々とは大違いです.とりあえず,隠しておくべきことだとか,人前でみだりにクチにすべきでないもの,なんて価値観は皆無.いいこと,すてきなもの,当たり前のもの,ときわめてポジティブにとらえています.
タイトルにある夜這いと聞くと,とりあえず近所の娘さんのいるウチに忍び込んで無理矢理手込めにしちゃう,的な無秩序な悪習的なイメージを持つかもしれませんが(実際僕もそう思っていた),実際にはコミュニティの再生産全体を司る非常に秩序だった仕組みだったらしいと言うことがこの本を読むと分かってきます(例えば,いわゆる筆下ろしはお寺のお堂の中で行われ,般若心経を唱えてから行われるものだったらしい).多産多死型,労働集約的な産業を主産業とし,家系に受け継がれるべき財産も持たなかったコミュニティにおいては,それなりに合理的な仕組みであるように思えました.何より驚いたのが,男性が女性に強姦されるなんて話もあったらしいと言うことでしょうか?
僕自身は現代日本の価値観を内面化しているので,夜這いの風習に復活されても正直困るのですが,社会なりコミュニティなりに,キチンと性を教え,継承していく仕組みが組み込まれている点は現代日本よりも優れているのではないかと思ってしまいます.若者の性の乱れとか,非婚化セックスレスとか,表現規制問題とか,日本の再生産や性にまつわる社会問題の根本原因には,社会的にコンセンサスがとれ,生物としての人間のあり方にそれなりに調和的な「現代日本における,社会的に正しい性のあり方」を教えていくシステムが根本的に壊れてしまっていることに起因する気がします.じゃあそれをどうやって構築したらいいのかはよく分からないのですが.

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論 夜這いの民俗学・夜這いの性愛論
(2004/06/10)
赤松 啓介

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