Sony Walkman NW-A35 実用編

ソニー製のハイレゾウォークマン入門機、2年ほど使い込んでみた感想としては以下の通り。

購入編ファーストインプレッションノイズキャンセリング機能のインプレはこちら。本機はすでにディスコンなので、後継機種を買う際の参考になれば幸い。

良いところ

  • ノイズキャンセラー便利すぎ。電車内でまともに音楽聴くには必須の機能。ただし、アナウンスも聞こえにくくなるので、居眠りする可能性がある場合には使わない方が良いように思う。
  • 物理ボタン便利、特に再生ボタンを始め各ボタンに形状の違いとポッチがついてることで、カバンの中でも手探りで探せるようになっている。ホールドスイッチも誤動作防止に高評価。
  • SDカードは拡張性が高くて良い。
  • 本機に限定される話ではないが、Bluetoothオーディオ機能は便利。Bluetoothスピーカーと繋ぐだけで簡易な据置ステレオになり、カーシェアやレンタカーでお気に入りの音楽が聴ける。

悪いところ

  • 電源管理がイマイチ。オートパワーオフがないので、いつのまにか電池切れになっていることがある。探してみたが設定もできない。
  • 上記のように電池の消耗を抑えるなら電源をいちいち切る必要があるが、起動、そして起動時の楽曲のデータベース構築が遅い(特に大容量のSDカードを挿入してる場合)。
  • iPodもそうといえばそうなのだが、転送、充電に独自のケーブルが必要なのが今時ちと残念。iPodの場合はLightningケーブルの場合は普及率の高いiPhone系のスマートフォン所有者が持っていることが多く、併用も可能だが、本機はウォークマンの専用品である。

すでに2代前くらいの製品で、後継機種が何台か出ているが、その辺が改善されているのか、ちょっと気になる。

『昭和史 1926>>1945』著:半藤一利

個人的に歴史、特に日本の近代史、戦前史を勉強し始めたのはここ5年くらいのものだが、最初に読んでおけば良かったと思った。本書は戦前生まれの歴史の語り部的な著者が、長年の文献研究と当事者への聞き取りの結果を総合して、15回の講義としたものの口述筆記である。年代としては1926年から1945年。いわゆる戦前というやつである。

陸軍や海軍それぞれを単独に悪玉にするわけでもなく、とはいえ国民の傲慢や熱狂、メディアの扇動も取り扱い、誰かを悪者にして一面的に捉えるだけでは見えてこない「なぜあんなアホな戦争を始めたのか?」そのうえで「なんであんなアホの積み増しをやってメタクソになるまでやったのか?」を解き明かそうとしている。

とにかく昭和の元年から昭和20年の太平洋戦争終結までを一気通貫に取り扱っているので、個別の戦史や、たとえば2・26事件のような大イベントについて掘り下げる前に読んでおくべきだったと思った。ただ、近代史はとにかく登場人物が多く、エピソードもかなり具体的に残っているので、最初に興味を持ったトピックや人物を中心にひっかかるフックをいくつか作っておいて、本書でそれらの間をつなげる、みたいな読み方は結果的に良かったのかもしれない。

恐らく2019年現在は歴史の変わり目で、ついに東アジアにもきな臭い臭いが漂い始めている訳だが、そんな中で日本が国としての舵取りを間違えないように、主権者として歴史の勉強はしておかないといけないだろう。そして、本書はその勉強のどこかで読んで損のない一冊だと思った。

私立恵比寿中学開校10周年記念ライブ「MUSiCフェス」に行ってきたぞ!

二次元はともかく、三次元のアイドルはハマるとヤバいと思って意識的に避けてきた人生でした。 しかし、オクさんから、「私が好きなんだが聞いてみろ」と「私立恵比寿中学(以下エビ中)」なるアイドルを布教され、CDを聴き、ライブ映像を見、あれよあれよと沼の中、最初は分からなかったメンバーの顔と名前を覚え、ライブにも赴いて棒(公式ペンライト)も手にしてしまいました。(流石に自分でチケットまでは取りませんでしたが。)

今年結成(開校)10周年ということで、楽曲提供を受けた多数のアーティストさんと一緒の野外フェス形式のライブ「MUSiCフェス」が催されるというので行ってきました。

人の入りも上々で、最新アルバムの曲からメジャーデビュー曲、インディーズ時代の初のオリジナル曲まで、10年というグループの歴史を感じさせる選曲でした。ご本尊以外のパフォーマンスも、時々エビ中メンバーが乱入して一緒に歌ったり、楽曲提供者本人たちの曲も良曲揃いで見応えがありました。時々雨が降るハード目なコンディションでしたが、逆にそれが粋な演出になったりと野外ライブの良さも出ていたように思います。

それより面白かったのが客席で、老若男女色々な属性の人がいました。自分たちのように夫婦で?来てる人、小さい子連れてきてる家族、志半ばで夭逝したメンバーのトレードカラーのペンライトをずっとつけてる人、メンバーの名前が入った自作の?衣装着てる人、集団でオタ芸っぽいことして楽しんでる陽キャっぽい若人たち(ちゃんと節度はありました)等々、会場が明るいが故に見えた様子が興味深かったです。フジファブリックが「若者のすべて」を歌った後に涙を拭っていたと思われるおじさんが個人的にはエモかったです。僕も涙ぐんだんですが。

あんまり継続的にライブ会場に足を運んだりしたことがなかったんですが、それぞれのライブで調子が良かったり悪かったり、音楽って本来は「生き物」なんだなぁと思うのでした。

7月19日にニコ生でライブの配信があるので、よかったらぜひどうぞ。

『プロフェッショナル SSL/TLS』著:Ivan Ristic、監訳:斉藤孝道

今や生活に欠かせない人類の財産、インターネット。それが最初に実装された時期は接続する人も少なく、性善説で運用できたのだろうが、様々な理由でそれが叶わなくなり、様々な人が知恵を持ち寄り、規格を作ってなんとかかんとか安全性や信頼性を担保する仕組みを作り、運用しているというのが実情のようだ。そんなインターネットで広く使われている接続の安全性確保の仕組み、SSL/TLS(Secure Socket Layer/Transport Layer Security)を詳しく紹介する一冊。最後の方には代表的なWebサーバープログラム上で適切に運用するための方法も紹介されている。

本書は個別の暗号や認証のアルゴリズムや仕組みを数学的に詳しく解説するというよりは、それらの暗号やハッシュ関数といった道具をどうやって組み合わせてSSL/TLSという仕組みが作られているのか、動いているのか?を書いている。

現代というのは、象牙の塔の記号遊び(悪く言いたいわけではない)だった整数論が現実の役に立つようになり、かつては軍隊や政府といった極めて限られた人の間でしか使われなかったような暗号を子どもですらガンガン使うという驚異的な時代である。

これらの技術をみんなが日常的に使う時代だからこそ、みんなが持っていて損はない知識だし、逆に周りが勉強しないのであれば、知識があることで他の人に差をつけることできる。いずれにせよ学んで損はないのである。ただし、日本の会社でセキュリティの知識があることを吹聴しない方が良いだろう。給料が増えないのに仕事が増えるという自体が生じかねないので……。

自分が本書を読むにあたっての知識を仕入れたのは以下の書籍あたり。暗号関連だと、最近だと結城浩さんの数学ガールなんかも良いのではなかろうか?
サイモン・シン 暗号解読
一冊で分かる暗号理論
ネットワークはなぜつながるのか?

  

『人はなぜ物語を求めるのか?』著:千野帽子

「人間は物語る動物である」ということで、人間が一般に持っている「人生に起きる様々な出来事の間に物語を紡いでしまう」という思考の癖を、心理学の研究や哲学の考察を広く紹介しながら解き明かし、時に人を苦しめるその癖から自由になるヒントを与えてくれる本。

本書に曰く、ストーリーを半ば自動的に紡いでしまうという人間の癖は、自然科学が代表ではあるが過去に学んで未来を予測し、生存に有利な能力であったのと同時に、生育歴から来る認知の傾向が本人を苦しめもする。「公正世界観念」といったように思考の癖に名前を付けて意識することで、逆にそこから自由になってこころの安寧を得ることも出来るかもしれない、という話である。要するに物事の認識の枠組みをハックしようとする試みに思えた。

結構宗教家の言葉が引用されていたりするのだが、言葉によって人間の認知の癖をどうこうするのはなるほど古来宗教の役割だったのだなぁと人間の歴史に思いを馳せたりもした(僕の知る限り仏教の一部は結構そういう方向性だよなと思ったり)。

自分の認知の枠組みをいじるのには時間がかかるだろうが、少なくとも人間には特定の思考の癖があるのだ、という事を知ることが出来るという意味で、なにか人生に対するスタンスが変わるかもしれない一冊。

『アベンジャーズ/エンドゲーム』 監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ

2018年くらいからたまたま海外出張の際の機内映画で見て、「面白いやんけ」となって見始めたMCU(Marvel Cinematic Universe)作品。先日公開が始まった『アベンジャーズ エンドゲーム』を以て大きな一区切りを迎えました。本作につながる過去の作品を見ていると「ニヤリ」とする描写をそこここに組み込みつつも物語を二転三転させ、納得の大団円に持っていくという奇跡の3時間。日本映画の当たり年、2016年のヒット作に負けず劣らずの一作でした。2時間級の長編映画を20本以上見ないと本当の面白さは分からないというなかなかスパルタな映画ですが、見ると見ないとでは大違いだと思うので、可能な限り関連作を見てから臨むべし。

5月6日を以て公式にネタバレ解禁とはなっていますが、以降でネタバレしていますので、閲覧にはご注意を。

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『1518!(7)』著:相田裕

故障で野球の夢を諦めざるを得なくなった男子高校生が、高校の生徒会のハチャメチャな活動を通じてセカンドキャリアを見つけていく物語。まだまだ読みたかったのですが、残念ながら完結です。

学校というと、「いじめ」と呼ばれる暴力や教員の過酷な労働環境等、現実には必ずしも楽園ではないのだけれど、色々なキラキラが詰まった場所であることもまた事実。本作は本当に丁寧に、学校と、そこで頑張る高校生活のポジティブな面を描いてきた作品でした。相田先生は本作が商業連載2本目なんですが、1作目の『Gunslinger girl』と同じく「取材に基づいて緻密に設定された舞台の上で」「残酷な運命に挫折して傷ついた人たちが立ち直っていく過程を丁寧に描く」という部分が共通していて、それが作品世界への没入感と登場人物への共感につながるのかなと思ったりしました。次回作はどんな作品になるのでしょうか?楽しみです。

「普通の」学生生活を描いた作品として、とてもよくできている作品です。登場人物同士が関わり合いの中で人間的に成長していく様子が丁寧に描かれていて、心が洗われるようです。個人的に大変オススメな作品です。

過去の感想はこちら

『昭和16年夏の敗戦』著:猪瀬直樹

太平洋戦争開戦間近の昭和16年7月、「総力戦研究会」という当時の若手エリート達が集められた場で、太平洋戦争の多角的なシミュレーションが行われた。その結果は「日本必敗」、さらにその過程も実際の敗戦の過程にほぼ一致した。後に首相となる東條英機も聴講していたと言われるシミュレーションの結果は、なぜ実際の政治判断に活かされなかったのか? 

というようなことを書いた一冊。総力戦研究会のシミュレーションは当時の大日本帝国が置かれていた国際状況に沿った情勢の設定が教官側から行われ、学生達はそれぞれの専門性に概ね沿った形で「大臣」を分担する「疑似内閣」を構成する形で情勢設定に対する国としての対処を考える、というものだったようである。読んでみると意外と総力戦研究会一色という感じでもなく、実際の開戦経緯の解説や、「独裁者」のイメージとはかけ離れた、天皇の忠臣としての東條英機の人物描写等が多く含まれる。

完全に歴史の後知恵だが、日中・太平洋戦争を現在から見ると「なんで勝てる見込みのない戦争をやったんや、当時の日本人は阿呆やったんか?」と思えてしまうわけだが、優秀な若い奴を集めてしがらみなく検討させれば、不都合だが合理的な判断は下せたのである。問題はその先、現実には合理的な判断は採用されず、トップの思い込みと部門間の力学、そして空気が物事を決めていき、結論に都合のいい皮算用がねつ造されさえする。で、勝てない戦争に負ける。

日露戦争の成功体験に目を曇らせて判断を誤り、日中・太平洋戦争の敗戦に至る道筋を、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」からバブル崩壊を経て30年以上にわたる平成の凋落に重ねてみる向きはあるが、自分にもどうしてもそう見えてしまう。結局日本の課題は、不都合だが合理的な根拠や事実を真摯に受け止めて、組織の力学を飛び越え、我田引水したがる利害関係者を黙らせ、(時には痛みを伴い、効果が出るまでに長い時間がかかる)本質的な対策を行えるか、そういうことができる組織を作れるか、ということにあるのだろうなぁ。歴史上2回目の失敗を繰り返そうとしているというのには、日本社会や日本文化が抱える本質的な瑕疵の存在があるような気がするのが非常に辛い(自分も恐らくその一端を担っているのであろうことも。)

戦争に関する本を沢山読んで研究しているわけではないが、そもそも当時の人たちが日中・太平洋戦争をどのように考えていたのか?については
加藤陽子「それでも日本人は戦争を選んだ」
当時の大本営の資源計画がいかに杜撰であったか、シーレーンの崩壊が実際にはどのように推移したかについては
大井篤「海上護衛戦」
が役に立った。本書を読んでみようという人の参考になると嬉しい。

  

『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』著:高殿円 挿画:雪広うたこ

シャーロック・ホームズには二次創作にあたる「パスティーシュ」という物が多数作られており(様々な作品に様々な二次創作物が連なる現代の日本においては珍しくもないわけだが)、それに連なる一作。「シャーリー」というタイトルから分かるようにホームズもワトソン(ジョン・ワトソン→ジョー・ワトソン)もレストレード警部(グロリア・レストレード)もモリアーティ教授(ジェームズ・モリアーティ→ヴァージニア・モリアーティ)もみんな女性化しており、舞台は現代、主役二人を中心に設定も大胆なアレンジが為されている。

「大胆な」アレンジと書いたが、その設定が不要で不快かと言われると全くそのようなことはなく、これぐらいブリブリの設定は大好きである。ホームズとワトソン、二人とも大変魅力的な人物で、関係性は今風に言うならば「尊い」というやつ。いわゆるところの「百合」好きなら読んで損はないだろう。個人的に惜しむらくは、ロンドンの地名や地理に疎かったところ。実在の都市な訳だから旅行ガイドブックか、グーグルマップでも見ながら読めば良かったかもしれない。実際に行っていればより一層楽しめただろう。

書き下ろしではなく、雑誌に連載された小説の集成で続き物の第一巻という感じで、色々思わせぶりな断章が含まれており、是非とも続きが読みたい(このまま続刊が出ないと個人的には生殺しである)。