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『ロード・エルメロイ2世の事件簿 2 case. 双貌塔イゼルマ(上)』

前巻では毎冬に出るといわれていたTYPE-MOON世界で繰り広げられる推理劇の第2幕、その前編です。今回、最初に登場するのは本作全体の主人公ロード・エルメロイ2世の義理の妹、ライネスです。

前回は失われたエルメロイ家の魔術刻印(魔術師の家に代々受け継がれる)を修復する能力があると見込まれた修復師ゲリュオン・アッシュボーンの館が舞台でしたが、今回は「美」を通じて魔術師の本願たる根源の渦(この世の全てのものの源)に至らんとするイゼルマ家の館が舞台です。イゼルマ家が完成させた美の体現者「黄金姫」と「白銀姫」のお披露目会に呼ばれたライネスは、エルメロイ2世の内弟子グレイを伴って館に赴きます。そこで繰り広げられるのは、魔術協会内部にくすぶる派閥同士の争い。イゼルマ家が入手したらしい魔法の遺物と派閥争いをめぐる策謀に巻き込まれ、「黄金姫」殺害の嫌疑をかけられたライネスは絶体絶命、そこに現れるのはエルメロイ2世、2人の弟子。

その昔TYPE-MOONが出していた設定資料集『Character Material』で少し語られるだけだったロードエルメロイ2世襲名の様子や、魔術協会の内輪もめなど、相変わらずあの世界の魔術師業界の事情がたっぷり語られます(色々設定資料集が出ているはずなので、その辺読めばすでにファンの間では公知の事実なのかもしれませんが)。

まだまだ話としては事件編という感じ。冬コミまで後4ヶ月ですね。事件といいつつ、何せ何でもありの魔術師ですから、結局真相はどうなのか?本当に黄金姫が殺されたのかすら微妙になりそうなキャラクターが出てきていますから、何がなにやらという感じです(ファンなら表紙を見れば分かりますよね?)。

疑問なのですがこの作品、魔術やら魔法やらに造詣の深い三田先生なので、実は作中で語られる魔術知識を読み解けば、犯人や真相が分かるようにできていたりするのでしょうか?

『Landreaall (26)』著:おがきちか

いやー、面白かった!

さて、アトルニアを現在の姿たらしめている「革命」の真実に、アトルニアから遠く離れたクレッサールの砂漠にて迫るDXたち。前巻までで王国の崩壊を企むクエンティンの策略にはまり、見事に分断されてしまったDXたちでしたが、本巻では仲間が集い、ついに全面対決と相成ります。奴隷商に売られたDXを助けに来たライナスとルーディー、そして「サンダーレンのマダム(9巻以来実に16巻ぶりの登場)」や奴隷商カリファの力すら借りて、父リゲインと同じくユージェニと刃を交えます。さて戦いの行方は、というところで次巻に続きます。

もう何年連載しているのか分かりませんが、主人公DXの着実な成長を感じます。なんというか、必要に応じて人に任せたり、他人の力を借りたりすることに躊躇がなくなってるんですよね。本作、主人公たちの個人のレベルとしては最初からかなり高いところにある作品ですので、パワーアップする余地というのがこういう、ジミーな対人スキルだったり、リーダーシップだったりするわけですが、パワーアップした能力が遺憾なく発揮されるという意味では意味ではロボットアニメにおける主人公機交代回くらいのカタルシスのある巻です。大変読んでいて気持ちが良い。

他方、結局かつてなにがあったのか、ということについて、色々と明らかにはなるんですが、結局最終的に本事件にどのようなオチがつくのかは見えません。現在のところの敵に当たるクエンティンにしても、彼の命を取れば全てが解決するというものでもないでしょうし、何を以て彼が敗北するのか、色々伏線は撒かれつつ、どこがどこにつながっているのかは読めません。おがきさんのストーリーテリングが光ります。あと、いろんな人の天恵(超能力のようなもの、最近だと精神干渉系の能力者が多数登場している)がいったいどういうものなのか、サッパリ分かりませんし、その辺も明らかになるのかなぁなんて。

先に書いたように、9巻以来16巻越しに登場しているキャラクターがいたり、何度も読み返して何回も楽しめるスルメのような王道ファンタジー。本レビューを見て気になった人がいたら、7巻位までかなぁ、とにかくまとめて読んでみて欲しいです。先に行けば行くほど、面白くなりますので。損はさせません。

今巻から限定版ではなく特装版となりましたが、おまけ漫画は主人公たちが身につけている武術について。前巻の最後に出てきたライナスの「裏打ち」の舞台裏が見えます。

さて、次は半年後、待ち遠しくて仕方がありません。

25巻の感想

24巻の感想

 

『女神搭載スマートフォンであなたの生活が劇的に変わる!』著:浅生楽 挿画:垂井ひろし

いわゆるFラン大学の学生海江田悠里はいかにもなグータラ学生生活を送っていたら留年してしまった。そんな彼のスマートフォンに顕現したのは、ローマ神話の運命の女神様フォルトゥーナ。彼女は主人公に人生逆転の必勝法を授ける…。

表紙がはなはだ地味で、表紙の紙も実用書っぽく、ライフハック本かビジネス本のごとしですが、意図的なものだそうです。実際のところ、人生逆転の必勝法というものも、ルーチンワークをいかに同時にこなすかとか、一つの行動でいかに複数の経験値や、他人からの信頼を得るかなど、ライトノベルというメディアとは思えない地味なものばかり。とはいえそれだけ地に足がついているということですから、やろうと思えば読者にも実行できそうなものばかり、このように物語としての面白さに加えて、ビジネス書としての性格を持ち合わせている本書の特徴でしょう。チャーチルやカエサル、織田信長など、フォルトゥーナが出会ってきた過去の偉人たちの明言やエピソードがちりばめられているわけですが、確かに彼らにも英雄譚に語られないような日常や雑事があったはずで、時代の違いこそあれ悩んだり退屈したりしながら運命に立ち向かったのだろうなぁという想像が湧いたりしました。

正直、紹介されている人生逆転メソッド、試してみたくなります。まさに本書が作中の女神搭載スマートフォンであるかのごとくです。とりあえず三位一体家事(朝、風呂を沸かしているうちに洗濯機を回し、掃除をすること、面倒なことの先に風呂という報酬を用意し、朝から風呂に入ることで体温上昇を促し、風呂上がりに洗濯物干しでベランダに出て涼を取る一石三鳥の方法、ついでに入浴中に顔や頭も洗ってしまう)は、大変快適でした。まんまと作者の意図にはまってしまっていますね。

人生は麻雀のごとく、配られた牌で勝負するしかないが、自分の意思や努力で、少しずつでも良い役を作ることはできる。といったような作中の言葉がありますが、人生一発逆転などなくて、何かが変わるとしてもそれにはそれなりの積み上げがあったりするんですよねぇ。本当、そうだと思います。

『犬と魔法のファンタジー』 著:田中ロミオ 挿画:えびら

ファンタジーという書名ではありますが、物語世界の由来がいわゆる剣と魔法のファンタジー世界であるだけで、普通に現代の日本のように情報技術や大量輸送の技術が発達していて、地上からフロンティアはほぼ消失し、平和な時代が長く続いている、そんな世界が舞台の話です。そして、本作のテーマはズバリ「就職活動」です。ちなみに本作のタイトル、「けんとまほうのふぁんたじー」ですが、「いぬとまほうのふぁんたじー」だと思っていました。この記事を書くときに改めて気づきました。

この世界の高等教育機関である大学、要するに現代日本の大学とほとんど変わらないものと想像して良さそうです、の3年生である「チタン・骨砕」は身長2メートルで、体も頑丈、腕っ節も強く、200年前なら英雄になれたであろう逸材ですが、不器用で世の中の流れに上手く乗れず、就職活動にも苦戦中。というか、どうにも世の中の茶番めいた就職活動になじめない(この辺はまんま現代日本の就職活動の戯画です)彼の明日はどっちだ?というのが言ってしまえば本作のすべてです。彼は「冒険組合」というサークルに所属しており、1年生の頃の冒険旅行で友誼を交わした悪友ルターとロエル、同様に冒険旅行に参加したが折り合いが悪くなってしまったサークルの姫的な八方美人のヨミカ(カバーガールですね)、冒険旅行で見つけてきた犬シロがおり、他に「意識高い系(決して言動に才能が伴っているガチ勢ではない)」男子学生のイディア、サークルの先輩で日雇いの仕事をしつつ、本職は冒険者というケントマといった登場人物がいます。

本作は結局、「自分らしさとは何か?」ということがテーマのような気がします。まぁ多くの青春小説で、主人公たちは往々にしてアイデンティティの揺らぎに苦しむわけですが、まぁ高校生くらいまでのそれが自己肯定感をいかに獲得するのかという問題で終わるのに対して、本作の登場人物たちは、就職活動(寿命の異なる種族が一緒に暮らしている世界ですので、その辺の模様は色々ですが)という場において、自分のあり方と社会の都合をいかにすりあわせるのかというより難しい問題に立ち向かわなくてはならなくなったりします。やや変則的な形ではありましたが、一応自分も通過してきた道であり、主人公の苦しみには大いに共感するものがありました。

灼熱の小早川さん』でも、『AURA 〜魔竜院光牙最後の戦い〜』でも、田中ロミオさんは常に、大勢になじめない側の人間を主人公に据えるんだよなぁと思っていたり。それを突き詰めると『クロス†チャンネル』みたいになるのかもしれませんが。氏の作風なんでしょうねぇ。私はとても好きです。

 

 

『冴えない彼女の育て方』Blu-ray 第1巻

『冴えない彼女の育て方』2期決定おめでとうございます!

テレビ版は放映第2話(第1話)から見だしたため、見逃した第0話。その第0話が1話しか入っておらずちょっとお安かったので買ってしまいました!はい!萌え豚です。アニメ業界をダメにするガン細胞です!申し訳ありません!

とはいえ、女の子はそれぞれ大変可愛く性格設定、作画(黒ストッキングとか、崩れたギャグ顔とか、生々しい健康な肉体美とか)されており、一応ゲームを作るというグランドクエストはあって話の筋は通っていて、その中で主人公を巡る恋敵?同士の微妙な関係が上手く描写されているような気がするのですよね。美少女アニメとしては大変良質な作品なんじゃないかと思います。放映時は大変楽しく拝見しました。

一応時系列的には一番最後に当たるエピソードが描かれている第0話ですが、英梨々と恵がお互いに名前で呼び合っているところは、作中での半年分の関係の変化をしっかり感じさせるものであり、1話から見だしたおかげでちょっと感心してしまいました。結果的に面白い視聴体験になったような気がします。

今日は短いですが、これくらいでご容赦を。

『アリス・エクス・マキナ 1〜3』著:伊吹契 挿画:大槍葦人

人類は未だかつて、人の手によって人の代替になり得る知性と人格を創造したことはないわけですが、それを作ることは多くのフィクションでテーマとなっています。多くの作品において、それを容れる器、要するに人間型のロボットですが、それらの見た目は美しいと相場が決まっています。まぁそうですよね。わざわざ作るなら美しい方がいいでしょう。

ということで、本作『アリス・エクス・マキナ』もその系譜に連なる一作です。著者伊吹契さんのデビュー作だそうで、それにもかかわらずなんとあの大槍葦人氏が挿画を担当。すごいですねぇ。「アリス」、「美少女アンドロイド」ときて挿絵を頼むならこの人を置いて他にはありますまい。

さて、本作に登場する美少女アンドロイドはアリスと呼ばれるわけですが、主人公(朝倉冬治:あさくらとうじ)はアリスの人格プログラムをクライアント好みに調整する「調律師」という仕事を生業にしているプログラマです。孤児院育ちの彼には実は子どもの頃に生き別れになった美しい幼なじみ(永峰あきら)がいるのですが、ある日、彼の工房にその彼女そっくりなアリス(ロザ)が人格プログラムの調整を依頼しに来ます。その依頼の内容は「あなた(冬治)の好きなように調整して下さい」というもの。この不可解な依頼から物語は始まります。

この作品のテーマは「優しい嘘」なのかなぁと思います。基本的に大切な誰かの代替物として主人の下に来るアリスの存在そのものが、「優しい嘘」ですしね。まぁその辺は是非最後まで読んでいただくとして。個人的には嫌いではない結末でした。

レーベルが大人向け?の星海社フィクションズ、著者もしっかり社会人経験ありということで、社会が描かれているのが印象的な作品でした。社会人として働いて生活を維持すること、性欲解消の道具として売春宿で使われるアリスたち、などなど。高額(1000万円台、ただし必要なのは潤滑剤や冷却材、燃料?などとして使われるオイルくらいなので、ランニングコストは人ほどかからない)アリスを手に入れるためになんとかお金を工面する様とか結構リアル。値段の設定が、現代日本における子どもの養育費と桁が合っているのは、「人間の代わり」という作中での取り扱いを象徴しているようです。

人工の、知性と人格を備えた存在、というテーマを扱った作品として、きちんと考えられた一作です。

  

『マージナル・オペレーション F2』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

本編の後日譚に属する短編を集めた短編集です。以前、星海社のネットラジオで読者から色々とリクエストが来ていたのを覚えていますが、それへのアンサーなんだなと読んでおりました。前巻Fと同様に各話毎に手短な感想を書きます。

##第1話 私のトリさん
主人公は子どもたちの1人、サキ(確か日本人とタイ人のハーフという設定だったはず)、彼女が東京の高校に通い始めた後の、ある日の出来事を描いたエピソード。彼女がどうやってアラタの元に来たのかもちょっとだけ語られ(スモーキーマウンテン出身という設定や病弱だったという設定がより具体的に語られる)、本作を通じてサキというキャラクターに厚みが出ます。本筋とは外れますが、日本や東京が異様に時間にうるさい、それを誇らしく思っているのがおかしい、というカルチャーギャップは結構面白いなぁと。日本人に限らず西洋人ですら、産業革命以前はそう言う感覚だったらしいですし、言われてみると確かにそうかもしれません。

##第2話 新しい首輪
シリーズの主人公アラタに関わった順で言うと、メインヒロインのジブリールより早いホリーさんの話。ジブリールとアラタを奪い合う女の戦いと、ただれているようで、まったく健全なアラタとホリーの会話劇が主題なのかな。表だってキャットファイトするわけではないので、冷戦みたいなもの、周囲が大変な思いをしているのが少し笑えます。明確に書かれているわけではないですが、仕事の話に集中して、周りのことが分からなくなっているアラタって本当にかっこいいんでしょうね。それこそ対局中の棋士みたいな感じで。

##第3話 若きイヌワシの悩み
アラタに最初からついてきていた子どもたちのうち、彼に比較的近い位置で物を見ているイブンの話。傭兵をやめた後にどうするのかという話で、多分第1話のサキの話の前日譚になるのだろうと思います。イスラム圏の人の職業観が垣間見えて面白いエピソードでした。職人に弟子入りしてオンザジョブで仕事を覚える江戸時代以前の日本に近い職業観なのかな?近代化されていない地域の出身だから、学校というものはイスラムの神学校しかない、ということみたいです。

##第4話 子供使いの失踪
アラタ一行が徳島で開催されているイベント「マチアソビ」に来て、その上で騒動に巻き込まれるという話。失踪という言葉の通り、アラタがいなくなって部隊が非常に混乱します。著者の芝村さんの、おそらくは知己の人々がキャラクターとして出てくるのと、氏の他の著作からキャラクターやメカが登場します。が、それらを僕は読んでいないので、胸が躍ると言うことはありませんでした。そう言う意味でもコアなファン向けのファンサービスみたいなものかと思います。

各エピソードの後に色々とさらに短いサブエピソードが挿入されて、その中にはなかなかドキッとする物もありました。それは読んでのお楽しみとしておきましょうか。

『ロード・エルメロイII世の事件簿 1 case. 剥離城アドラ』著:三田誠、挿画:坂本みねぢ

まさかのまさか、あの『Fate/Zero』の正ヒロインともいわれるウェイバー・ベルベッド、長じてロード・エルメロイII世が再びFate/Stay Night直系の世界に返ってきた!ということで、同人誌小説レーベルType-Moon Books『ロード・エルメロイII世の事件簿』、その第1巻について感想を書きたいと思います。以下、Type-Moon世界の設定について特に断りもなく使っています。ご容赦ください。

魔術刻印(この世界で魔術を使うための魔術回路と呼ばれるものを移植可能な形にした人工臓器のようなもので、魔術師の家系に代々継承されるもの)の修復士として名高い魔術師、ゲリュオン・アッシュボーンが亡くなった。亡くなる前に彼は、知己の魔術師に自らの居城、剥離城アドラへの招待状を送っていた。城に集まった魔術師は7人(従者含まず)。天使で埋め尽くされたアドラの謎を解いた者に自らの遺産を継承させると言い残したアッシュボーン氏。詳細は不明なまま、彼の遺産を巡って事件は起きる…。

本シリーズはロード・エルメロイII世が魔術師にまつわる?事件を解決するというもののようです。事件簿を称するだけあり本作は推理物を基調とする物語のようでした。ミステリーはあまり読まないし、謎解きをしながら読むタイプでもないのですが、いろいろヒントはちりばめられていたのかなと思いました。しかし、犯人の動機を推し量るのには、かなり想像力の飛躍が必要そうです。多分ミステリーだと思わず読んだ方が良いと思います。ちなみに彼の直弟子として、表紙にも出ている「グレイ」という女の子が出てくるのですが、その子の正体も謎の一つかもしれません。

個人的な見解ではありますが、本作は群像劇である『Fate/Zero』をウェイバーの物語として読むなら正しくZeroの続編であり、『Fate/Stay Night』の直系に連なる物語ですので、それらが好きな人は読んで損はないと思います。Type-Moon世界の魔術関係の話、設定が好きで『魔法使いの夜』を楽しんだ人にも、妄想や考察の材料を追加してくれる一作だと思います。オススメです。

ちなみに、同人誌ですので普通の本屋には売っておらず、「とらのあな」とか「メロンブックス」とか「アニメイト」とか、いわゆる「オタク向け」の専門書店で買うことができます。この記事の投稿時点では在庫切れで中古価格が高騰していますが、通常の同人誌とは違ってほぼ確実に再版されますので、特に初版などにこだわりがなければ、ちょっと待ってから買うことをオススメします。毎年冬のコミケに合わせて出すとのことなので、そのときには必ず再版されますから…。

公式サイト

以下はネタバレで書きたいことを書きます。
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『Landreaall (25)』 著:おがきちか

24巻の感想はこちら(個人的にまとめた本作のあらすじもこちら)

半年に一回のお楽しみ、おがきちか先生のLandreaallの25巻です。今巻も引き続き「王制」を憎むクエンティンとの直接対決です…といっても、パーティは強制解体され絶賛大ピンチですが…。以下ネタバレを含みつつ感想を書きます。

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『遙か凍土のカナン 4 未だ見ぬ楽土』 著:芝村裕吏,挿画:しずまよしのり

前巻までで寄り道は終わり、本巻から本来の目的である建国事業が始まります。
中央アジアを越え、クロパトキン将軍がいるプスコフにたどり着いた良造一行。そこから妻(←ここ重要)オレーナの養父~のいるサンクトペテルブルグにて「挨拶」を済ませた一行は、シベリア鉄道に乗り、国作りのための場所探しに向かいます。そこで出会うのは、国作りのパートナーとなる新たな「男」と出会い、ついに建国事業が始まるか?というところで本巻は終わります。上にここ重要、と書いたように良造とオレーナは結婚しています。以前のようにオレーナの求愛を躱し、いなすのではなく、距離が着実に縮まっているのがよく分かります。良造一行のメンバーであるコサックのパウローとユダヤ人のグレンが辟易しているように、口から佐藤でも吐きそうなイチャイチャは引き続き本作の見所の1つでしょう。

作者の言及の通り、「馬」の物語だそうですが、本作ではそれを象徴する出来事が起こります。このことは本巻の表紙を見れば一目瞭然。良造とオレーナの2人が馬(富士号)ではなくオートバイに乗っています。しかもハーレーダビッドソン、1900年代初頭にサンクトペテルブルグで買えるもんなんでしょうかね?本書がフィクションたるゆえん?まぁとにかく、このオートバイとの出会いに至る過程は何とも言えません。ええ。

前巻に対して、旅をしたくなると感想を書きましたが、本作の魅力は作品の内容もさることながら、入念な資料収集に裏付けられた現実への足つきでしょう。歴史の本を読んでみたくなるような、現地に行ってみたくなるような、いろいろな、恐らくは史実のディテールに満ちあふれています。本巻では、上でも言及していますが、やはりオートバイと馬の関係。オートバイを鉄馬と呼ぶことがありますが、自転車とオートバイ、というか二輪車という機械の母は、要するに馬なのだなということがよく分かります、ペダルは鐙で、ハンドルは手綱、鞍はその名の通りサドル。乗馬という風習があったからこそ、人間は二輪車という機械を思いついたのではないかと思わされます。リスクが周知されても乗りたがる人がいるのは、ある意味人間の本能なのかもしれません。あとは、良造、というか日本人の宗教観、倫理観というものが、諸外国、特に一神教の国からするといかに異常であるのかという異文化交流の側面も、前巻に引き続いて面白いなと思った点です。

ということで、本格的な建国編は次巻以降に持ち越し、いろいろな人種、宗教の人が寄り集まって、シベリアにどんな「カナン」が築かれるのか?そして、20世紀前半は戦争の時代ということで、良造とオレーナたちの運命やいかに、ということで続きます。さて、次はいつ読めるだろうか?