まさかのまさか、あの『Fate/Zero』の正ヒロインともいわれるウェイバー・ベルベッド、長じてロード・エルメロイII世が再びFate/Stay Night直系の世界に返ってきた!ということで、同人誌小説レーベルType-Moon Books『ロード・エルメロイII世の事件簿』、その第1巻について感想を書きたいと思います。以下、Type-Moon世界の設定について特に断りもなく使っています。ご容赦ください。
魔術刻印(この世界で魔術を使うための魔術回路と呼ばれるものを移植可能な形にした人工臓器のようなもので、魔術師の家系に代々継承されるもの)の修復士として名高い魔術師、ゲリュオン・アッシュボーンが亡くなった。亡くなる前に彼は、知己の魔術師に自らの居城、剥離城アドラへの招待状を送っていた。城に集まった魔術師は7人(従者含まず)。天使で埋め尽くされたアドラの謎を解いた者に自らの遺産を継承させると言い残したアッシュボーン氏。詳細は不明なまま、彼の遺産を巡って事件は起きる…。
本シリーズはロード・エルメロイII世が魔術師にまつわる?事件を解決するというもののようです。事件簿を称するだけあり本作は推理物を基調とする物語のようでした。ミステリーはあまり読まないし、謎解きをしながら読むタイプでもないのですが、いろいろヒントはちりばめられていたのかなと思いました。しかし、犯人の動機を推し量るのには、かなり想像力の飛躍が必要そうです。多分ミステリーだと思わず読んだ方が良いと思います。ちなみに彼の直弟子として、表紙にも出ている「グレイ」という女の子が出てくるのですが、その子の正体も謎の一つかもしれません。
個人的な見解ではありますが、本作は群像劇である『Fate/Zero』をウェイバーの物語として読むなら正しくZeroの続編であり、『Fate/Stay Night』の直系に連なる物語ですので、それらが好きな人は読んで損はないと思います。Type-Moon世界の魔術関係の話、設定が好きで『魔法使いの夜』を楽しんだ人にも、妄想や考察の材料を追加してくれる一作だと思います。オススメです。
ちなみに、同人誌ですので普通の本屋には売っておらず、「とらのあな」とか「メロンブックス」とか「アニメイト」とか、いわゆる「オタク向け」の専門書店で買うことができます。この記事の投稿時点では在庫切れで中古価格が高騰していますが、通常の同人誌とは違ってほぼ確実に再版されますので、特に初版などにこだわりがなければ、ちょっと待ってから買うことをオススメします。毎年冬のコミケに合わせて出すとのことなので、そのときには必ず再版されますから…。
以下はネタバレで書きたいことを書きます。
しかしこの話、ウェイバーファンにはたまりませんね。僕もすっかりやられてしまいました。特に自分で一流に到達することはできないが、一流のなんたるかは理解でき、それを元に他人を育てることに長けるというエルメロイII世のいろいろ屈折したあり方。そしてFate/Zeroの最終盤でのイスカンダルとの別れ。涙なしには読めない見られない、Zero屈指の名シーンですが、あそこでイスカンダルがウェイバーに与えた栄誉、受けるにあまりに大きいそれを彼はいかに自分の芯としたのか、それが語られただけで涙を流さずにはいられませんでした。ねじ曲がっているようで、きちんと自分のあり方に折り合いを付けている。天衣無縫の天才よりも僕には魅力的に映ります。ちなみに、読んでいたのは新幹線の中で、隣に他人がいたんですよね…。多分「なんじゃこいつ」と思われたと思います。