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『ロード・エルメロイII世の事件簿 case.冠位決議(中)』著三田誠 挿画:坂本みねぢ

本作も気づけば数年に渡って出続けているわけですが、ついに最初の事件から主人公の宿敵として暗躍し続けたドクター・ハートレスの真意が明らかになります。

本シリーズ、特に途中からはこれはどうやって着地点に至るのか、などと恥ずかしながら物語を読めてない感じだったのですが、今巻にてやっとこ理解が追いついたというか、ロード・エルメロイII世あるいはウェイバー・ベルベットの物語は、結局そこなんだよなと思わせる展開になりました。

冬木の聖杯を解体するエルメロイII世と、イスカンダルに未練たっぷりの本シリーズ冒頭のエルメロイII世を見比べると、世界のためにヒロイン(イスカンダル)との縁を断ち切るギャルゲーの主人公的なエルメロイII世が見えてきてなかなかエモいわけですけど、『Fate/Stay Night』から見たとき、『Fate/Zero』とはまた違った外伝として読めるのかしら?などと思ったりします。(先の展開が予想していない方向に行く可能性もありますが。)Zeroからすると、ヒロイン(ウェイバー)が主人公になる外伝みたいでもあり……。

キャラクターの造形として、自己の適性や年齢なりに成し遂げてきたキャリアと、自分の理想像にギャップがある自己受容度の低さがエルメロイII世の魅力なので、結局そこは崩れないんだろうと思っていますけど、一皮剥ける(のであろう)エルメロイII世の姿がとても楽しみです。

『ロード・エルメロイII世の事件簿 3 case. 双貌塔イゼルマ(下)』著:三田誠 挿画:坂本みねぢ

第四次聖杯戦争を生き延びたウェイバーが、ロード・エルメロイII世となって、第五次聖杯戦争を解体するまでの間の物語、第三弾(第二弾の解決編)です。

ある方向に突き抜けることでこの世の根源に至ろうとする魔術師、その中でも「美しい」という事を突き詰めることを目指したバリュエレータ家の成果、黄金姫と白銀姫のお披露目会に参加したライネス(主人公、ロードエルメロイII性の義理の妹)は誰かの策略にはまり、黄金姫の殺害容疑をかけられてしまいます。自分で自分の疑いを晴らさなくてはならなくなったライネスが「詰み」かけていたところに義兄のII世が、そしてなぜかエルメロイ教室の問題児、フラットとスヴィンがやってくきます。一方事件の裏では魔術世界の勢力争いが渦巻き、お披露目会の参加者の1人、アトラム(第五次聖杯戦争:Fate/Stay Nightのキャスターのマスター)がバリュエレータ家の持っているある魔術的な遺物(これも本作で明かされます)を奪うべく軍勢を呼び寄せます。さて、II世とライネスらは大きくなってしまった騒ぎをどう収束させ、謎を解くのでしょうか?

主題は、エルメロイ教室の愉快な仲間たちが大暴れ。といったところでしょうかね?要するに謎解きはともかく、騒ぎの収束については力業です。教室のお披露目会のような感じ。第1巻では内弟子のグレイの正体が明かされたわけですが、今巻で魔術世界におけるエルメロイ教室の異常性みたいなものがいくらか明らかになりました。原作者認定でFate本編と地続きという事だそうで推理小説というよりはType-Moon世界の解説書、あるいは世界を広げる外伝という感じですね。個人的には以前ほど熱心にType-Moon作品を追いかけなくなったので、どうも初出ではないようですが、フラット、スヴィン両名とも独特で強そう。ちなみに今回のラスボスはType-Moon作品では足かけ15年くらい?登場しているあいつでした。

『ロード・エルメロイ2世の事件簿 2 case. 双貌塔イゼルマ(上)』

前巻では毎冬に出るといわれていたTYPE-MOON世界で繰り広げられる推理劇の第2幕、その前編です。今回、最初に登場するのは本作全体の主人公ロード・エルメロイ2世の義理の妹、ライネスです。

前回は失われたエルメロイ家の魔術刻印(魔術師の家に代々受け継がれる)を修復する能力があると見込まれた修復師ゲリュオン・アッシュボーンの館が舞台でしたが、今回は「美」を通じて魔術師の本願たる根源の渦(この世の全てのものの源)に至らんとするイゼルマ家の館が舞台です。イゼルマ家が完成させた美の体現者「黄金姫」と「白銀姫」のお披露目会に呼ばれたライネスは、エルメロイ2世の内弟子グレイを伴って館に赴きます。そこで繰り広げられるのは、魔術協会内部にくすぶる派閥同士の争い。イゼルマ家が入手したらしい魔法の遺物と派閥争いをめぐる策謀に巻き込まれ、「黄金姫」殺害の嫌疑をかけられたライネスは絶体絶命、そこに現れるのはエルメロイ2世、2人の弟子。

その昔TYPE-MOONが出していた設定資料集『Character Material』で少し語られるだけだったロードエルメロイ2世襲名の様子や、魔術協会の内輪もめなど、相変わらずあの世界の魔術師業界の事情がたっぷり語られます(色々設定資料集が出ているはずなので、その辺読めばすでにファンの間では公知の事実なのかもしれませんが)。

まだまだ話としては事件編という感じ。冬コミまで後4ヶ月ですね。事件といいつつ、何せ何でもありの魔術師ですから、結局真相はどうなのか?本当に黄金姫が殺されたのかすら微妙になりそうなキャラクターが出てきていますから、何がなにやらという感じです(ファンなら表紙を見れば分かりますよね?)。

疑問なのですがこの作品、魔術やら魔法やらに造詣の深い三田先生なので、実は作中で語られる魔術知識を読み解けば、犯人や真相が分かるようにできていたりするのでしょうか?

『ロード・エルメロイII世の事件簿 1 case. 剥離城アドラ』著:三田誠、挿画:坂本みねぢ

まさかのまさか、あの『Fate/Zero』の正ヒロインともいわれるウェイバー・ベルベッド、長じてロード・エルメロイII世が再びFate/Stay Night直系の世界に返ってきた!ということで、同人誌小説レーベルType-Moon Books『ロード・エルメロイII世の事件簿』、その第1巻について感想を書きたいと思います。以下、Type-Moon世界の設定について特に断りもなく使っています。ご容赦ください。

魔術刻印(この世界で魔術を使うための魔術回路と呼ばれるものを移植可能な形にした人工臓器のようなもので、魔術師の家系に代々継承されるもの)の修復士として名高い魔術師、ゲリュオン・アッシュボーンが亡くなった。亡くなる前に彼は、知己の魔術師に自らの居城、剥離城アドラへの招待状を送っていた。城に集まった魔術師は7人(従者含まず)。天使で埋め尽くされたアドラの謎を解いた者に自らの遺産を継承させると言い残したアッシュボーン氏。詳細は不明なまま、彼の遺産を巡って事件は起きる…。

本シリーズはロード・エルメロイII世が魔術師にまつわる?事件を解決するというもののようです。事件簿を称するだけあり本作は推理物を基調とする物語のようでした。ミステリーはあまり読まないし、謎解きをしながら読むタイプでもないのですが、いろいろヒントはちりばめられていたのかなと思いました。しかし、犯人の動機を推し量るのには、かなり想像力の飛躍が必要そうです。多分ミステリーだと思わず読んだ方が良いと思います。ちなみに彼の直弟子として、表紙にも出ている「グレイ」という女の子が出てくるのですが、その子の正体も謎の一つかもしれません。

個人的な見解ではありますが、本作は群像劇である『Fate/Zero』をウェイバーの物語として読むなら正しくZeroの続編であり、『Fate/Stay Night』の直系に連なる物語ですので、それらが好きな人は読んで損はないと思います。Type-Moon世界の魔術関係の話、設定が好きで『魔法使いの夜』を楽しんだ人にも、妄想や考察の材料を追加してくれる一作だと思います。オススメです。

ちなみに、同人誌ですので普通の本屋には売っておらず、「とらのあな」とか「メロンブックス」とか「アニメイト」とか、いわゆる「オタク向け」の専門書店で買うことができます。この記事の投稿時点では在庫切れで中古価格が高騰していますが、通常の同人誌とは違ってほぼ確実に再版されますので、特に初版などにこだわりがなければ、ちょっと待ってから買うことをオススメします。毎年冬のコミケに合わせて出すとのことなので、そのときには必ず再版されますから…。

公式サイト

以下はネタバレで書きたいことを書きます。
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