人類は未だかつて、人の手によって人の代替になり得る知性と人格を創造したことはないわけですが、それを作ることは多くのフィクションでテーマとなっています。多くの作品において、それを容れる器、要するに人間型のロボットですが、それらの見た目は美しいと相場が決まっています。まぁそうですよね。わざわざ作るなら美しい方がいいでしょう。
ということで、本作『アリス・エクス・マキナ』もその系譜に連なる一作です。著者伊吹契さんのデビュー作だそうで、それにもかかわらずなんとあの大槍葦人氏が挿画を担当。すごいですねぇ。「アリス」、「美少女アンドロイド」ときて挿絵を頼むならこの人を置いて他にはありますまい。
さて、本作に登場する美少女アンドロイドはアリスと呼ばれるわけですが、主人公(朝倉冬治:あさくらとうじ)はアリスの人格プログラムをクライアント好みに調整する「調律師」という仕事を生業にしているプログラマです。孤児院育ちの彼には実は子どもの頃に生き別れになった美しい幼なじみ(永峰あきら)がいるのですが、ある日、彼の工房にその彼女そっくりなアリス(ロザ)が人格プログラムの調整を依頼しに来ます。その依頼の内容は「あなた(冬治)の好きなように調整して下さい」というもの。この不可解な依頼から物語は始まります。
この作品のテーマは「優しい嘘」なのかなぁと思います。基本的に大切な誰かの代替物として主人の下に来るアリスの存在そのものが、「優しい嘘」ですしね。まぁその辺は是非最後まで読んでいただくとして。個人的には嫌いではない結末でした。
レーベルが大人向け?の星海社フィクションズ、著者もしっかり社会人経験ありということで、社会が描かれているのが印象的な作品でした。社会人として働いて生活を維持すること、性欲解消の道具として売春宿で使われるアリスたち、などなど。高額(1000万円台、ただし必要なのは潤滑剤や冷却材、燃料?などとして使われるオイルくらいなので、ランニングコストは人ほどかからない)アリスを手に入れるためになんとかお金を工面する様とか結構リアル。値段の設定が、現代日本における子どもの養育費と桁が合っているのは、「人間の代わり」という作中での取り扱いを象徴しているようです。
人工の、知性と人格を備えた存在、というテーマを扱った作品として、きちんと考えられた一作です。