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『潮騒』 著:三島由紀夫

非常に有名な三島由紀夫大先生の青春小説。伊勢湾に浮かぶ島、歌島を舞台に、漁師の青年新治と出戻ってきた美しい少女初江が恋をする。様々な障害が二人の恋路を妨げるが、なんだかんだいって結ばれる…。

プロットだけ見ると何というかよくある話のような、というか物語に描かれる恋愛というのは概ねそんな感じのような気がします。とはいえ、非常に優雅な?文体というか、自然や、特に初江の美しさを語る文章には読み継がれるだけのものを感じますし、新鮮な素材を上手く調理した和食のような味わいです。小説というのは、中に描かれた世界に没入し、現実から離れた作品世界を楽しむものであると同時に、表現や文体の妙を楽しむものでもあるのだなぁと思わされます。こういった文章自体を楽しむやり方は、現代の小説(とはいえいわゆる「オタク向け」のエンタテインメント作品に偏っていますが)ではあまりできないなと思いますね。どういう理由なのか?

作品の美しさ、面白さとは微妙に感じる点が1つ。少なくとも新治は18歳、初江の年齢はよく分かりませんが、お互いに裸で抱き合う場面はあってもつきあいはプラトニックだし、いかにも昭和的な純潔信仰というかなんというか、これも三島先生の美意識なんでしょうか?PTAの皆さんが泣いて喜びそうな作品世界で涙が出てきます、非常にもったいないですが、素直に好きと言えない気分です。作品の完成度の高さ、美しさもさることながら、教科書に採用される理由はこの辺にもあるのでしょうか?最後に三島先生すごいなぁと思った点が一つだけ、体つきを見ただけで、処女っぽいってのが分かるんだそうです、文豪ってすごい。

『永遠の0』 著:百田尚樹

一応名前と幾ばくかの評判を耳にしたことのある本ではあったが、読んだことはなかった一作。読んでみたら見事にはまってしまった。何せ、読んだその夜に夢に見たくらいに。

主人公とその姉は、歴戦の海軍航空兵で最後特攻隊で命を落とした実の祖父(祖母の最初の夫)宮部久蔵のルーツを辿るべく、ゆかりのある人々に連絡を取り、祖父の戦歴の聞き取りを始める。優秀なパイロットでありながら非常に命を惜しみ、時には臆病者とさえ言われた祖父久蔵の本当の姿はどうだったのか、長い道のりを経て2人はついに真相に至る…。正直最後は全く予想の外でした。なんというか、内容に熱中しすぎて伏線を考えるのを忘れるくらいでした。

主人公のあり方は僕を含めた現代の若者の一般的な姿であり、もう一人の主人公である久蔵も当時の人でありながら現代人に感情移入しやすい人物造形で、ページを繰る手が止まりませんでした。彼に感情移入して戦争を戦ってきたような気分になっていたがゆえに、物語終盤の久蔵の焦燥と絶望が、本当に心に沁みました。現実に多数の戦友や教え子の死を看取り、自分の死を目の前にしてどう考えてどう思うかなんて現代人の想像の外なのでしょうけど…。

日中戦争から、真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナルに沖縄特攻まで、本作の中で語られる主人公の祖父久蔵の戦歴は、まさに太平洋戦争の戦史そのものです。戦争の流れ、日本がいかにアメリカと戦い,いかに無様に負けたかが手に取るように分かります。参考文献が巻末についている(その1つであり、中で隊長の美濃部少佐が言及されている芙蓉部隊の戦記『彗星夜襲隊』のレビューはこちら。オススメです。)ので、本作を端緒にそれらを読めば、義務教育では教えられない太平洋戦争の全貌もつかめるようになるかなと思います。面白いフィクションを読んでは、その題材について掘り下げるという人生を送ってきましたが、私の目からすると太平洋戦争に関して、本書はその役割を担い手たるに十分だと思います。平和を志向するならばなおのこと、戦争についてよく知らねばならんと思うのです。世の中きな臭くなってきていますし、自分自身や友達、子々孫々を戦争に巻き込まず、二度と国土を戦火で焼かず、諸外国の皆さんにご迷惑をかけないために、一度きちんと学ばなければならんのだろうなぁと思います。

特攻を命じた海軍上層部、そもそも人命軽視の作戦計画、兵器の設計(零戦の場合、高馬力エンジンを作れなかったときにどうにか勝てる飛行機を作ろうとした技術者の苦心の成果ともいえるのかもしれませんが)が、本作では徹底的に批判されているのですが、その様には、いわゆるブラック企業の経営者が、特に下っ端で働く兵卒相当の人間のことを人と思わず、代わりはいくらでもいるとそれこそ死ぬまでこき使う様子がダブります。そのために緩やかに負けに向かっている様子は、どうも日本人という民族の精神性は、先の大戦から余り変わっていないのではないかと思ってしまいます。嫌ですね。

本作はフィクションではありますが、今を生きる日本人すべてにとって、自分の祖父母、あるいはもっと先祖に当たる人たちは確実に太平洋戦争を経験しているということはノンフィクションです。一人一人に宮部久蔵に相当する人がいて、いわば「永遠のゼロ」があるのです。それぞれが戦争の極限状態の中で何かを見て、思って考え、そして手のひらを返した戦後の日本を生きて、自分へと血をつないできたのです。私自身既に鬼籍に入っている祖父(戦死はせずありがたいことに無事に復員できたのですが)がどこでどんな軍歴をたどったのか、調べてみたくなりました(今でも厚生労働省にしかるべき手続きを取って請求すれば、軍歴を知ることができるようです)。作中でも主人公が言及していますが、ここ何年かが太平洋戦争について体験者の肉声を聞くことのできる最後のタイミングなのではないかと思います。従ってこんな作品が現代に書かれ、広く読まれているのは、大変意義深いことだなぁと、勝手に思うのです。

『乙嫁語り(6)』 著:森薫

もはや言う事もあるまい、中央アジア譚。
この巻も非常に面白かった。テーマは、5巻が「ごちそう」、6巻は「戦争」かな?
全体的に動きが激しくて、普段の端正で緻密な線とうってかわって荒々しい描線。「エマ」を含めても、本格的に戦争を描いたのはこれが初めてじゃなかろうか?
5巻からの伏線?で手負いの鷹を活かすか殺すか、という事を決断をするときにアミルが言った「鳥は空を飛んで生きるものです このまま空も飛べずエサをもらって それでは命あっても生きているとは言いません」というセリフが、本巻での「馬は野を駆けて生き 鳥は空を飛んで生きる」というアゼルのセリフに被ります。二人が全く別のところで別の事象を目の前に言っているのが肝で、二人が兄妹であるを良く表す素晴らしい伏線だと思います。同時に、親父さんはもうろくしちゃったんだなぁと思わされるわけですが。
現実の歴史を考えると登場人物の前途は決して明るいとは言えなさそうな気がするのが何ともやるせないです。前述のセリフは、それを暗示しているような気がするのも何とも…。実際問題、ライラ、レイリ達が住んでいたアラル海は物理的にもうないわけですし…。
次巻はスミス陣ということでまた一年待とうと思います。

乙嫁語り 6巻 (ビームコミックス) 乙嫁語り 6巻 (ビームコミックス)
(2014/01/14)
森 薫

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 『ヴァンパイア・サマータイム』 著:石川博品 挿画:切符

昼を生きる人間と,夜を生きる吸血鬼が半分ずつ,世界を分け合っている世界.両親の経営するコンビニを手伝う主人公は,冷蔵庫のバックヤードから,同じ高校の吸血鬼のヒロインを見ている.とある事件をきっかけに2人の距離が縮まって行く….恋愛を「正直に」描いた良作だと思う.個人的にこの作品の白眉は,「境界」と「におい」である.
まずは「境界」について.思春期の男女にとって,異性は未知の存在だ.まぁ大人になっても分からないものだし,そもそも同性だって,腹の底で何を考えているのか分からんものだけれども.昼と夜,人間と吸血鬼,コンビニの冷蔵庫の,向こう側とこちら側,別の世界を生きている,未知の存在としてのお互いを協調するかのような「境界」のモチーフが,この作品には数多く登場する.恋愛とはいわば,相手との境界を越えて,お互いに幻想のベールをはがす過程であり,主人公達は正しくそのステップを踏んで行く.出だしでもたつき,とあるきっかけで境界を越えたら加速度的に,というのがリアル.
次に「におい」について,境界線が引いてあっても,たとえ壁があっても,密閉されていない限り漂ってくるのが「におい」である.本作では一貫して「匂い」でも「臭い」でもなく,「におい」と綴られる.悪臭か,はたまた芳香か,それを判断するのは人間であり,愛しい恋人のそれは,生臭い生き物の臭いであっても芳香なのだ.ふとした瞬間に触れた汗ばむ相手の肌,夏の暑さに香り立つ体臭,恋愛とは健全であっても決して清潔なものではないということを,本書は思い出させてくれる.
読めば恋人の躰に鼻を近づけたくなるなること請け合い(その後どうなるかに責任は持てないが).この恋の結末がいかなるものか?是非とも夏の夜に読んで欲しい一作である.

ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫) ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫)
(2013/07/29)
石川博品

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『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』 著:赤城大空 挿画:霜月えいと

赤城大空さんという方のデビュー作,何でも小学館ライトノベル大賞の優秀賞受賞作だそうで.受賞時のペンネームは「ペロペロ山根」トバしてますねぇ.有川浩さんの『図書館戦争』は言葉狩りがされた世界に関する素晴らしい思考実験だったわけですが,目の付け所はあの作品ばりにシャープだと思います.

岸田秀は「人間は本能が壊れた生き物である」と言っていて,人間の繁殖行動が「交尾」ではなく「セックス」である以上は,それが何らかの形で社会的に教育されないとマズいんだろうと思うわけですが,サブヒロイン?の暴走はまさにダメだという想像力を喚起するものでした.この辺の考察は見事.

作中で言われているように,人間が死ぬメカニズムは子どもにも教えられていて,人間が増えるメカニズムは教えられていない,でも大人は知っていて,人間は増えている.このミッシングリンクが社会的にどう埋められるのか?というところは興味があります.そこまで踏み込んじゃうとお気軽に読めるライトノベルじゃなくなってしまうのかな?

セックスレスと少子化で困ってる?世の中,「愛し合う人間同士がセックスすることは,気持ちいいし男女なら人間増えるし素晴らしいことだよ,みんなもっとセックスしよう!」くらいはっきり言ってしまって,その上で産まれてきた子どもが最大限幸せに大人になれるように諸制度を整えるくらいやっても良いと思うんですけどねぇ.私はそう思いますよ.

下ネタという概念が存在しない退屈な世界 (ガガガ文庫) 下ネタという概念が存在しない退屈な世界 (ガガガ文庫)
(2012/07/18)
赤城 大空

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性的唯幻論序説 (文春新書) 性的唯幻論序説 (文春新書)
(1999/07)
岸田 秀

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図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫) 図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)
(2011/04/23)
有川 浩

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『放浪息子 13』 著:志村貴子

昨年のアニメを見て買い始めたにわかな私ですが,相変わらず思春期マンガ(≠青春マンガ)の白眉です.
12巻以来それまでと少し変わったのかな?と思う点が2つあるので書いてみたいと思います.

1つ目は「かっこよさ」について.12巻以来「かっこいい」という単語が,様々な場面で,通念上の使われ方とは違う使われ方をされています.例えば,二鳥君に関して言うならば,姉の真帆は,文化祭で女装をしてファッションショーに出た二鳥君を「かっこいい」といい,マコちゃんは度胸のある彼を「かっこいい」といい,あんなちゃんは男らしくなって行く彼を「かっこいい」というのです.高槻くんも,ファッション誌の女性モデルを見ながら,「かっこいい」というのです.見た目も性格も非常に通念的に言うところの女性らしい二鳥君が,様々な場面で「かっこいい」と言われ,社会通念上の女性のイデアと言ってもいい女性ファッション誌のモデルが「かっこいい」と言われる,スタジオジブリのアニメ映画『紅の豚』の「カッコイイとはこういうことさ」というキャッチフレーズで使われていたかっこいいとは,明らかに違った意味,男性という概念からかっこいいという概念が切り離されてしまっています.この作品の近刊2冊を読んだとき,自分がいつの間にか男性性とかっこいいという形容詞を不可分のものだと思い込んでしまっていたことに気付きました.この作品は思春期の解体と再構築を通して,男性,女性と言う概念と絡まっている様々な概念(男装,女装,かっこいい,かわいい)を切り離して再構築しているのだなぁと思うのです.まぁ気持ち悪いという人もいるのだろうけど,僕は非常に面白い試みだな,と思います.

2つ目は,「大人になること」について.思春期とは,子どもから大人になるまでの過渡期とも取れると思うのですが,二鳥くんは作中で子どもから自分になって,いよいよ大人(社会的な存在)になろうとしているのだなぁと感じます.だから,12巻でユキさんが18になるまでダメよ,と言って,13巻で二鳥くんがある種「常識的」な人生を歩いて行った先にあるのであろう「みいたんのパパ」が出てくるんでしょうね.せっかく自分は自分,と胸を張れるようになった二鳥くんも,また放浪ですよ.あと,思春期を描く上で外せないであろう肉体的な性の話です.あぁ,二鳥くん,君もついに大人になってしまうんだね,という気分.まさに,社会と折り合いを付ける,肉体関係を持つ,の両面で,大人への階段を着実に登って行く感じです.

淡々と綴られる作品ですが,直近静かに着実に盛り上がって行く感じの本作品,続きは9ヶ月後です.二鳥くんがあんなちゃんとどんなセ(ry

放浪息子 13 (ビームコミックス) 放浪息子 13 (ビームコミックス)
(2012/05/25)
志村貴子

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放浪息子 12 (ビームコミックス) 放浪息子 12 (ビームコミックス)
(2011/09/24)
志村貴子

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『天冥の標IV 機械仕掛けの子息たち』 著:冲方丁

作者は小川一水さん.個人的には『第六大陸』の人です.エロエロと聞いて読んでみましたが,確かに全力投球ド直球のエロでした.
宇宙船事故にあった主人公(男)が目覚めると目の前に裸のヒロインが.欲望に突き動かされて彼女と交わってみると,彼女は有機素材でできたセクサロイドで,主人公が目覚めた場所は小惑星丸ごと娼館.色々あって,主人公とヒロインは究極のセックスを目指して身体を重ねる…というのが主なストーリー.枝葉末節はあれど要はセックスしているだけというね….
とはいえ,いわゆるフランス書院的な官能小説とは違って,性科学をサイエンスするSFというか,そんな感じ.哲学的な趣すらあるような気がします.お互いに真顔で淫語を言っちゃう感じというか,純粋に,真面目に快楽を追求する姿勢は個人的には好感を持てます.そっちの方が確実に人生楽しめますよね.ありとあらゆるセックスの可能性が追求された挙句の結末は,「あ,まぁたしかにねぇ」という感じ.
シリーズをずっと読んでいるわけではないので,他の話とのつながりは良く分からないのですが,まったく分からない固有名詞が出てきているのは他の巻で説明されていたりするのでしょうね.

天冥の標?: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA) 天冥の標?: 機械じかけの子息たち (ハヤカワ文庫JA)
(2011/05/20)
小川 一水

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『マージナル・オペレーション 01』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

ガンパレードマーチの原作者 芝村裕吏先生の新作
30歳ニートが一年発起して就職したのはPMC,要は傭兵稼業.どうにもめぐりあわせが悪くて,適性がないと日本の職業社会からはじき出された主人公だったが,意外な才能を開花させて…という作品.まぁそんなにすんなりとはいかないのですが….
冴えない僕に隠された才能が,というのは中二的な妄想の最たるものでしょうが,なかなかどうしてこの作品は地に足がついているような気がします.才能だけで物事が自分の望む方向に転がることはないというのは,ある程度歳を取らないと分からないことのような.こちらで言われているように,ある程度年齢層高めの人向けの作品なのだろうな,という感じ.
地に足がついた,とか身も蓋もない,という形容詞が良く似合う作品ではありますが,ちゃんと女の子が出てくるのは安心していただきたいというか,ちゃんとエンターテインメント作品です.ジブリールちゃんマジ天使.
ちなみにここから試し読みできます.
01ということで続編の予定があるようで,非常に楽しみです.

マージナル・オペレーション 01 (星海社FICTIONS) マージナル・オペレーション 01 (星海社FICTIONS)
(2012/02/21)
芝村 裕吏

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Gunslinger Girlについて熱く語ってみる

自分が好きな物語には一定の傾向があって,そのうちの一つが,「実存はどこにあるのか」というものだったりします.たとえばCLAMPの「ちょびっツ」では,人工物と人間の恋愛という,わりとよくあるSF的な題材を扱い,最終的に自分と相手との関係の中に心とか知性というものが生じるのであって,実存を担保するのは「心」とか「思い出」だということが描かれました.同じくCLAMPの『ツバサ』では,小狼からさくらへの愛情において,相手との時間の蓄積(=思い出)が欠損しても,相手が存在すること自体で実存は担保されているのだと主張されました.

では,記憶(思い出)も,体も喪失された存在の実存はどうなるのかという問題を取り扱ったのがこの『GUNSLINGER GIRL』という作品だと考えています.この作品は虐待などで心身ともボロボロになった少女を薬漬けにして洗脳してサイボーグに改造してテロリストと戦わせるという,オタクの気持ち悪いところが結晶したような作品です.そんな作品ですが,自分はこの作品に「実存はどこにあるのか」というテーマを見出して非常に愛しております.登場するサイボーグ少女(作品中では義体と呼ばれる)達は,改造前におおよそ受け入れがたい事件によって存在を否定されています.さらに勝手な都合で死を運命づけられた(テロリストと戦うので死と隣り合わせ+メンテナンスのために投与される薬物で中毒を起こして死ぬ運命にある)第二の人生を歩まされているわけです.そんな,記憶も体も偽物,本物の人生はロクなものでない彼女たちの実存はどこにあるの?というわけです.話の作りも,複数登場する義体たちのいろいろな生き様が描かれて考えさせるような作りになっており,自分は作者の思惑にどっぷりハマっている感じです.

さらに自分がこの作品を愛するもう一つの理由は,「いびつさ」です.この作品の義体は大人と「フラテッロ(イタリア語で兄弟)」というペアで行動をしており,ペアごとの人間関係が作品の軸になっています.フラテッロの義体が過去のない存在なのに対して,大人の方は過去に縛られまくり,過去をよりどころに生きてるような人達です,ペアなんだけどつり合いが取れていないいびつな関係です.これに関しては最新刊の12巻で,主人公2人が縛られ続ける過去の事件が語られ,ますます際立つ感じです.作品自体もいびつな形をしていて,オタク受けしそうな設定や「なんで?」っていうようなツッコミどころ(なんで少女だけがサイボーグになるのかとか)があったりするわりに,舞台であるイタリアに関しては綿密な取材によって政治,文化などがこれでもか!というくらいにリアリティをもって描かれています.
初見は「ウゲッ」でも読んでみるとなかなか味わい深い.珍味のような作品ではないでしょうか?

GUNSLINGER GIRL 12 (電撃コミックス) GUNSLINGER GIRL 12 (電撃コミックス)
(2010/04/27)
相田 裕

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GUNSLINGER GIRL 1 (電撃コミックス) GUNSLINGER GIRL 1 (電撃コミックス)
(2002/11)
相田 裕

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『All You Need Is Kill』 著:桜坂洋 挿画:安倍吉俊

著者は桜坂洋。
しばらく確保していたのですが、友人とメッセでメタフィクションの話になったので引っ張りだしてきました。
この手のループ型メタフィクション系の作品では短い上に、凄くまとまりが良くて、入門としては最適な気がします。その分ループを脱出したろうと決意するまでの経緯が薄い感じですが、人間5回も殺されればくそ度胸が着くのかなぁ。あり得ない状況だから想像できない。
不老不死にしてもそうですが,時間から遊離してしまうが故の孤独こそ真の孤独なのかなぁと思いました.どんなに孤独でも世界のどこかには自分と同じ時間を共有してくれる人間がいるかもしれませんが,この作品のようになってしまうとどうしようもないですからねぇ.いざ自分がその立場に置かれた時にゃどうなるんでしょう,なかなか想像しがたいものです.

ALL YOU NEED IS KILL (集英社スーパーダッシュ文庫) ALL YOU NEED IS KILL (集英社スーパーダッシュ文庫)
(2004/12)
桜坂 洋

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