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『高慢と偏見』著:ジェイン・オースティン 訳:富田彬

ジェインオースティンの恋愛小説。田舎町でジェントリー階級のベネット家の5人姉妹、ビングリー氏、ダーシー氏らの結婚を軸とした人間模様を描く作品。主人公はベネット姉妹の次女エリザベス(リジー)。

色々な訳者が日本語に訳している作品だが、私が読んだのは岩波文庫版。最初は取っつきにくかったが、2分冊の上巻を半分くらい読んだところで慣れてきた。この訳は代名詞がとてもわかりにくくて、誰がしゃべっているのか全然分からなかった。光文社の古典新訳が割と良いと聞くのでそちらがオススメかも(立ち読みもしていないので何ともいえないが)。

作中で「性格研究」と表現される人間の性格、心理描写、人間観察の描写が巧みで、確かに名作と言われるだけのことはあるように思う。当時女性には独立生計の道がなかったので、ある意味現代の日本以上に男性の財力が重視され、まぁ生々しいったらありゃしない。主人公のリジー、姉のジェーン(ベネット家の長女)、主人公の友人などなど、作中の女性の十人十色な結婚の様子は見物だった。著主人公のジェーンとその相手の人間関係は個人的には割と理想的な印象を受けるのだが、この辺200年前のイギリスと感覚が一致するのは人類社会に普遍的なものなのか、あるいはこの作品から影響を受けた様々な作品から僕の結婚観や恋愛観が形作られているのか。

ちなみに、作中の様子をイメージするのに役立ったのは森薫先生の『エマ』だった。もし本作に挑戦される方がいれば、是非読まれることをオススメしたい。

「高慢と偏見」とはおおよそ恋愛小説っぽくはないタイトルだが、何が高慢で、何が偏見なのかは読んでのお楽しみということで。読めばちゃんと分かります。

 

『潮騒』 著:三島由紀夫

非常に有名な三島由紀夫大先生の青春小説。伊勢湾に浮かぶ島、歌島を舞台に、漁師の青年新治と出戻ってきた美しい少女初江が恋をする。様々な障害が二人の恋路を妨げるが、なんだかんだいって結ばれる…。

プロットだけ見ると何というかよくある話のような、というか物語に描かれる恋愛というのは概ねそんな感じのような気がします。とはいえ、非常に優雅な?文体というか、自然や、特に初江の美しさを語る文章には読み継がれるだけのものを感じますし、新鮮な素材を上手く調理した和食のような味わいです。小説というのは、中に描かれた世界に没入し、現実から離れた作品世界を楽しむものであると同時に、表現や文体の妙を楽しむものでもあるのだなぁと思わされます。こういった文章自体を楽しむやり方は、現代の小説(とはいえいわゆる「オタク向け」のエンタテインメント作品に偏っていますが)ではあまりできないなと思いますね。どういう理由なのか?

作品の美しさ、面白さとは微妙に感じる点が1つ。少なくとも新治は18歳、初江の年齢はよく分かりませんが、お互いに裸で抱き合う場面はあってもつきあいはプラトニックだし、いかにも昭和的な純潔信仰というかなんというか、これも三島先生の美意識なんでしょうか?PTAの皆さんが泣いて喜びそうな作品世界で涙が出てきます、非常にもったいないですが、素直に好きと言えない気分です。作品の完成度の高さ、美しさもさることながら、教科書に採用される理由はこの辺にもあるのでしょうか?最後に三島先生すごいなぁと思った点が一つだけ、体つきを見ただけで、処女っぽいってのが分かるんだそうです、文豪ってすごい。