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『女騎士さん、ジャスコ行こうよ』 著:伊藤ヒロ 挿画:霜月えいと

編集部が株式会社イオンに許諾を取ったとか取らないとかということで発売前に話題になった一作。無事許諾されたそうですが、結局使い切っていないようです……。作者は存じ上げませんが、挿絵は無駄に気合いの入ったハエの交尾絵を描いた霜月えいとさん。

具体的には、県境で辺境中の辺境という町(村?)に西洋ファンタジー世界風の異世界から女騎士とお姫様が亡命してきて、それをきっかけに騒動が起きるという作品。タイトルからお察しの通り、ギャグ作品です。それもハイコンテキストな。ここ何年かのネット界、オタク界の事情を追いかけてこなければさっぱり事情が分からないんじゃないだろうか?1000年とか100年後の人は、僕たちがいろいろな資料を読まないと古典をちゃんと理解できないのと同じく、様々な参考資料を漁らないと本作を読むことはできないのではないかと思わせます。なにせ本作の女騎士は、ファンタジー世界の人物からするといわばメタ的に、守護対象の貴人を人質に陵辱されるというお約束を知っており、それがたびたびネタにされますからねぇ…。現代のオタクはそれを半ば常識として知っていますが、100年後の研究者がそれを理解するためには、鳥山明デザインのスケベな衣装の女戦士(詳しくないのでこれがオリジナルなのかは知りませんが、どなたか詳しい方、教えてください)や、そこから派生する成人向けパソコンゲーム史をひもとかないといけないわけですからね…。

どうも本作の現実(に近い、主人公たちが生活する)世界は異世界との交流がそれなりにあるらしく、お姫様のポー姫が日本通(オタク外国人的な意味で)いわゆる都会的な生活がしたいにもかかわらずこの世界で市民権が得られるのは亡命先の平家町だけ。インターネットはADSLはおろか、ISDNすらなく、おそらくは2010年代なのであろう作中世界においても深夜にテレホーダイ(懐かしいですねぇ)を使わなければならないという…。それで不満を募らせたポー姫は…。

本作の見所は無駄に気合いの入った田舎あるあるネタ(大型ショッピングセンター、いわゆるジャスコネタ含む)と、舞台である平家町の、結構異世界から亡命者がやってきてそれが町民と普通に暮らしているという設定でしょうか?何せタコ型宇宙人に某ラブクラフト的な異形の怪物までいますからね。後者に至っては、主人公の通う高校の生徒をやっていて、普通に美人のクラスメイト的な扱いを受けているという。誰も違和感を持っていないんですが、まぁ分かってやっている「突っ込んじゃいけないネタ」というやつでしょう。ヨソ者にうるさいはずの田舎町なのに、知性はあっても人間ではない存在まで許容している平家町という舞台が不思議でしょうがありません。主人公たち以外、普通のおじいちゃんおばあちゃんですからね?

ヨソ者と田舎、変化を許容するのか、許容しないのか?というところは意外と考えるところがあるなぁと思ったりしました。案外考えさせられる……いややっぱり本作は、頭を空っぽにしてノリを楽しむ作品なのでしょう。ということで1000年後にまで残れば、きっと未来の日本文化研究者を混乱の渦に巻き込むこと必至の作品、いかがでしょうか?

『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』 著:赤城大空 挿画:霜月えいと

赤城大空さんという方のデビュー作,何でも小学館ライトノベル大賞の優秀賞受賞作だそうで.受賞時のペンネームは「ペロペロ山根」トバしてますねぇ.有川浩さんの『図書館戦争』は言葉狩りがされた世界に関する素晴らしい思考実験だったわけですが,目の付け所はあの作品ばりにシャープだと思います.

岸田秀は「人間は本能が壊れた生き物である」と言っていて,人間の繁殖行動が「交尾」ではなく「セックス」である以上は,それが何らかの形で社会的に教育されないとマズいんだろうと思うわけですが,サブヒロイン?の暴走はまさにダメだという想像力を喚起するものでした.この辺の考察は見事.

作中で言われているように,人間が死ぬメカニズムは子どもにも教えられていて,人間が増えるメカニズムは教えられていない,でも大人は知っていて,人間は増えている.このミッシングリンクが社会的にどう埋められるのか?というところは興味があります.そこまで踏み込んじゃうとお気軽に読めるライトノベルじゃなくなってしまうのかな?

セックスレスと少子化で困ってる?世の中,「愛し合う人間同士がセックスすることは,気持ちいいし男女なら人間増えるし素晴らしいことだよ,みんなもっとセックスしよう!」くらいはっきり言ってしまって,その上で産まれてきた子どもが最大限幸せに大人になれるように諸制度を整えるくらいやっても良いと思うんですけどねぇ.私はそう思いますよ.

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