『マージナル・オペレーションF』著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

大抵のシリーズ小説というのは完結後に短編集が出ますが、本作もその1つです。本編は主人公の一人称視点で描かれていましたが、本作はいろいろなキャラクターに主観が移ります。勿論主人公もその一人ではありますが。本エントリーでは短編ごとに感想を書きたいと思います。

『マフィアの日』
本業はゲームライターのはずなのですが、見た目がいかにもそっちの人であることで有名なマフィア梶田さんが主人公で、彼の視点で語られる物語です。一言で言うならばハードボイルド小説です。アニメで言うと、カウボーイビバップを見ているような感じ。懸想にしているソフィーは自分が大嫌いな本編の主人公アラタが好き、人生うまくいかないもんですねぇ。とはいえ、アラタが自虐的に語る自分のビジネスを、他者がどう評価しているのか?という点が興味深いです。あとは、梶田がヒロインのはずのジブリールと境遇的に近いというのもシュールで面白いところでしょうか?

『父について』
子ども達の一人、ハサンから見たアラタのについての話です。個人的にはコレが一番面白かったかなと。なぜアラタが子ども達やオマルにあれほど信頼され、尊敬されているのか、その理由が語られます。アラタとオマルという2人の保護者が現れる前の子ども達の不遇な状況が語られるんですが、ぶっちゃけ読んでて辛いです。あとは、ハサンの視点からなのでムスリム的なものの見方で家族観や結婚観が語られるのも個人的には見所かなと。同時期に発売のコミック版の補助線になる作品です。あっちも2巻から俄然面白くなってきましたよ。

『赤毛の君』
第3者から見たジニの話。個人的にはあまり興味はそそられなかったかなぁと。楽屋ネタを聞かされてるような感じと言うか…。ジニが祖母からもらった携帯絨毯の一節はすごく面白かったです。そういう風に使うんだ!という驚きと、もとの家族の愛情の一端を垣間みた気がしました。

『ミャンマー取材私記』
一人の女性ジャーナリスト、イーヴァ・クロダの目を通して描かれるアラタの話。本編でも彼は繰り返し「自分は普通だ」と言っているけど、そんなことネェだろというのが第三者の目を通して描かれます。アラタは主人公補正でか、話が進めば進むほどモテるようになるのですが、このエピソードでも同じくある瞬間に突然アラタと「寝てもいい」と言い出します。一人称で描かれているにもかかわらず、なんでいきなりそうなったのかがサッパリ分かりません。正直羨ましい。

『チッタゴンにて』
最後のエピソードで主観がアラタに戻ります。バングラデシュで傭兵家業の次のビジネスを探しに行くアラタとジブリールが主要な登場人物です。要するにデート。アラタが徐々に女性らしくなるジブリールの魅力に煩悶しているのが分かります。現在進行形で発行されている『遥か凍土のカナン』で出てきたチッタゴンの宿、曾祖父(だっけ?)とオレーナよろしく一続きの部屋に二人で泊まります。スターシステム的な演出が憎い一遍です。

本編の隙間を埋める良い短編集だったと思います。次があるなら是非、ジブリールの視点から書かれた作品を読んでみたいですねぇ。

  

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