フィクション」タグアーカイブ

『初恋の世界 1,2』著:西烔子

都会のこだわり派コーヒー店で働きながら、「なんとなく」40歳になってしまった女性が主人公で、異動を命じられて故郷の町の支店に店長として移ってくる。そこにいたのはミステリアスな年下のイケメンで、彼が色々つっかかてきて、主人公も彼が気になる。さて、どうなるのか?

まぁ、最終的にどうなるかはともかく、とりあえず例のミステリアスなイケメンとくっつくんだろうなぁとは思うんですが、本作の重要な点は、主人公の「なんとなく40歳になってしまった」感が絶妙なところです。女性と男性では加齢に対する感覚も違うんだろうけど、一生懸命仕事をしていて、自分の好みに部屋の調度なんかを整えて、目の前にあるものをとりあえずこなしていたらいい年になっちゃった感覚は個人的によく分かります。

もう1点、本作の良いところは主人公の友人(オタ友)関係です。主人公含めて4人いるんですが、それぞれ家庭があって子育てしていたり、道ならぬ恋をしていたり、職場の男性に恋をしていたり、なんか色々あるんですが、それでも昔読んでいたマンガの既刊を大人買いして4人でごろごろしながらひたすら読んでいたり、裏ではお互いに対するあこがれや嫉妬心みたいなものも持ちつつ、昔からの関係を大切にしていて、歳をとっても仲良く遊んでる様子は得がたいなぁ、と思うのです。人生恋や愛だけでできているわけではないのです。

ということで、共感できれば男性でもきっと楽しめる作品だと思います。ぜひどうぞ。

 

『黒剣のクロニカ 2』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

伝説のアトランティス大陸が沈んで多島海になった後の古代地中海世界のような世界が舞台のファンタジー。多くの登場人物はダリドと呼ばれる獣人の姿、あるいは動植物への変身能力と、ダリスと呼ばれる超能力を持っている。そんな世界で、都市国家コフの黒剣家の末弟で、そこの当主に奴隷にされた母から生まれたフランが兄弟に復讐を誓う。脇を固めるは都市国家ヤニアの小百合家姉妹、人馬のイルケとフクロウになれるオルドネー。あと多数のフレンズ※達(概ね間違ってない)。次男のオウメスと戦う本巻、フラン以上の知将とされる兄とフランはいかに戦うのでしょうか?

衣料品が貴重なため、体を動かすときは古代オリンピックよろしく裸で(男女問わず)、「脱衣は市民の権利」という様な価値観もあり、登場人物はとにかく脱ぎます。挿画の数が限られるのが一部の人には残念か(ノリは完全に「カメラもっと下!」)。また、ダリドのおかげでみんなだいたい獣人か、動物に変身可能となっているため、2017年初頭風に言えば「性的なけものフレンズ」って感じです(「君は~が得意なフレンズなんだね!」※)。また、作中の某ヒロインとなんともマニアックなプレイがとり行われるされることになります。現代日本人からすると常識外れなんですけど、食料が貴重な作品世界の中では合理的?なのかなぁと思います。本作自体は架空の世界の話なんですが、歴史、民俗を学ぶ面白さは、世界にはこんな我々の常識とは違う常識の元に暮らしている人たちがいる、しかも相手の立場に立てばそれなりに合理的、というところだよなぁと思います。前作の『遙か凍土のカナン』もそんな感じでした。物語的には最後こそ『ソードマスターヤマト』的な感じでしたが……。

ということで、想像力豊かで、獣娘がイケるフレンズには大推薦、もっと手広くイケるようになりたいフレンズも、挑戦してみる価値のある作品です。え、ぼくがどんなフレンズかって?本作のおかげで、人馬かわいいなと思い始めました。

※けものフレンズ:2017年初頭、アニメファンの目の前に彗星のごとく現れた大ヒット作(ダークホース)である。サービス終了したスマホゲームが原作となっている作品で、実在の動物を擬美少女化した「フレンズ」達が、おそらく「ホモ・サピエンス(現生人類)」のフレンズ、あるいはゲームの「プレーヤー」である「かばんちゃん」としっちゃかめっちゃかしてもなかよしな物語である(ヒロインはサーバルキャットのフレンズ「サーバルちゃん」)。一人一人?のフレンズの個性を認める作品全体の寛容さが厳しい渡世に荒んだアニメファンの感情を揺さぶり、作品の第一印象からすると思いの外巧妙でシリアスな伏線が耳目をわしづかみにした。

  

『Landreaall (29)』著:おがきちか

アブセント・プリンセス編、後片付けとでも言うべき巻でしょうか。関わった人たちのその後の身の振り方が示されます。クエンティンは本作の中でもかなり明確な悪意を持った人でしたが、彼ですら不幸な過去に人生を狂わされた登場人物の一人に過ぎず、結局DX達が戦っていたのは過去の革命なんだなぁと思います。DX達の父親世代が運命に翻弄されて涙を流しつつ、それでもよかれと思って撒いた種がちゃんと芽を出したという感じです。

ついにユージェニの母親であるアンナ王女が何を考えていたのかが明らかになるんですが、彼女も愛を貫いたユージェニ同様強い女性でした。腕っ節も強いイオン、ユージェニ。けんかはできないけどディアや13巻辺りで腕を振るったトリクシーも、本作の女性はそれぞれ強くてかっこいいですね。

色々大きな切った張ったやったので、次はしばらく日常に戻るのでしょうか?で、大老、ディア、レイの人間関係はいろいろな人から様々な誤解を受けていて、色々気持ちの行き違いや誤解があるわけですが、どうもそのこんがらがったところが解消しそうな気配が。半年後が楽しみです。

ちなみに限定版には念願のアニメがついているんですが、まだ見ていないので、見てから感想は書くかもしれません。

そもそもどういう作品かはこちら

既刊の感想はこちら

 

『1518! 3』著:相田裕

一文で言うと、肩を壊した少年野球のピッチャーが、高校の生徒会で色々新しいことをはじめる話。

元々は相田裕先生が出していた『バーサス・アンダースロー』という全部で4〜5冊くらいの同人誌のシリーズがあったんですが、それを商業向けに作り直した作品です。前作の『Gunslinger Girl』で、挫折して色々失ってもなお続く人生、みたいなテーマですっごい作品を仕立て上げたんですが、本作もテーマは同じだなぁと。前作は壮大な心中の話のような感じだったんですが、本作には現代の日本が舞台ということで随分と優しくて温かい物語です。

同人誌版の場合、登場人物も限られているし、舞台もほとんどが学校で、まるで夢の中にいるような不思議な雰囲気が魅力でした。本作では色々ディテールが追加されて、最初、個人的には同人誌版の夢の中のような雰囲気が良かったなぁ思っていましたが、話が進んで、ぐんぐん良くなってきている気がします。3巻巻末の28.5話は、ヒロインの幸ちゃんと同じく目に涙が浮かんでしまいました。

イチローだって3割しか打てないわけで、残りの7割はいわば負けてるんですよね。一番目指して一生懸命頑張っても、次々新しい人が出てくるし、人間老いる以上は必ずどこかで負けたり、諦めたり、挫折を味わうんです。一番になるのも難しいけど、勝負から降りた後でどう生きていくかも結構難しい、昨今覚醒剤に手を出した元プロ野球選手がいたりしますが、成功や勝利が大きければ大きいほど、そこから降りたときは大変なのだろうと思います。挫折してもたいていの場合人生は続くわけで、そんな塩っぱい人生に折り合いつけて、どうやって楽しく生きていくか、一生懸命頑張ったことは無駄にはならないし、別のこと新しいこと始めても案外楽しめるかもしれないよ、と優しい言葉をかけてくれるような、そんな作品です。

 

  

『げんしけん 二代目の十二 21』著:木尾士目

大学オタクサークルを扱った有名作品の続編、完結です。

初代の2000年代前半に比べると、女性のオタクや腐女子の文化が随分世の中に広まってきまして、その流れを受けてか本作も男性のオタクから女性のオタクに主役が入れ替わり、最終的に初代から登場していた斑目くんに彼女ができるかどうかという話をやっておりました。ということで本巻でその決着がつくのですが、それとは別に初代のキャラクターが結構登場しまして、初代のようなワチャワチャを楽しそうにやっております。そんな同窓会のような感じがとても良いです。まぁぶっちゃけ、社会人になって昔からのオタク友達と会うときの感じがとても良く出ています。

ということで、二代目になって登場人物がガサッと入れ替わったので、読まなくなった諸氏もイルカもしれませんが、最終刊は懐かしい雰囲気がありますのでぜひリターンしてもらえればと思います。

個人的な話なんですが、大学生の時にちょうど『げんしけん』が始まりまして、さらにアフタヌーンを読み始め、家のブロードバンドが入ってインターネットも本格的にやりだし、コミケに行ったり、エロゲーを初めて買いに行ったり、僕は笹原くんと一緒にオタクになりました。失ったこともあるんでしょうが、楽しいことも多いのでまぁ後悔はありません。

 

『高慢と偏見』著:ジェイン・オースティン 訳:富田彬

ジェインオースティンの恋愛小説。田舎町でジェントリー階級のベネット家の5人姉妹、ビングリー氏、ダーシー氏らの結婚を軸とした人間模様を描く作品。主人公はベネット姉妹の次女エリザベス(リジー)。

色々な訳者が日本語に訳している作品だが、私が読んだのは岩波文庫版。最初は取っつきにくかったが、2分冊の上巻を半分くらい読んだところで慣れてきた。この訳は代名詞がとてもわかりにくくて、誰がしゃべっているのか全然分からなかった。光文社の古典新訳が割と良いと聞くのでそちらがオススメかも(立ち読みもしていないので何ともいえないが)。

作中で「性格研究」と表現される人間の性格、心理描写、人間観察の描写が巧みで、確かに名作と言われるだけのことはあるように思う。当時女性には独立生計の道がなかったので、ある意味現代の日本以上に男性の財力が重視され、まぁ生々しいったらありゃしない。主人公のリジー、姉のジェーン(ベネット家の長女)、主人公の友人などなど、作中の女性の十人十色な結婚の様子は見物だった。著主人公のジェーンとその相手の人間関係は個人的には割と理想的な印象を受けるのだが、この辺200年前のイギリスと感覚が一致するのは人類社会に普遍的なものなのか、あるいはこの作品から影響を受けた様々な作品から僕の結婚観や恋愛観が形作られているのか。

ちなみに、作中の様子をイメージするのに役立ったのは森薫先生の『エマ』だった。もし本作に挑戦される方がいれば、是非読まれることをオススメしたい。

「高慢と偏見」とはおおよそ恋愛小説っぽくはないタイトルだが、何が高慢で、何が偏見なのかは読んでのお楽しみということで。読めばちゃんと分かります。

 

『マージナル・オペレーション改 01』著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

自分以外にあまりこのシリーズについて語っている人を見たことがないのですが、4本の外伝を挟んで新シリーズ始動です。相変わらずミャンマーの山奥でイチャイチャやいのやいのやっているところに、アラタのご先祖様が作ったシベリア共和国……ではなく中国に請われてジブリールと共に一路北朝鮮を目指すことになります(後書きにしかでてこなかった「アラタの失踪」というやつだそう)。

はるカナの登場人物と同名の人たちが出てくるわけですが、『空白の一年』で語られたシベリア国との因縁がどのように語られるんでしょうね?「やがて去る子どもたちの国」は未だ道半ばなわけですが、シベリア国の建国時代のようにはきっと行かないはずで、どういう風に話が落ちるのか割と楽しみです。しかし、主人公とはいえ秋田の新田家はすごい家系ですよね。

とはいえお話は始まったばかり。今後作品世界の情勢がかなり明らかになりそうな感じですが、シベリア共和国が現代ではどうなっているのか、非常に興味があるところです。

『紫色のクオリア』著:うえお久光 挿画:綱島志朗

なぜか人間がロボットに見える少女毬井(まりい)ゆかり、彼女からすると究極の「汎」用型ロボットに見えるボーイッシュな少女波濤学(はとうまなぶ)。この2人の少女と、ゆかりの幼なじみの天条七美(てんじょうななみ)、ジョウントという組織から来たという天才少女アリス・フォイル。登場人物はこの4人で、この4人が仲良くなるまでの気の遠くなるような長い時間の話……読者が観測する作中の時間では。そう、日本のオタクカルチャーにはよくある話ですが、出てくるのが女の子というだけで、本作はSFの白眉です。それも、銀河英雄伝説のような宇宙船がドンパチやらないタイプの。仕掛けがよくできているだけでなく、物語としてのペース配分、そして最後の種明かしにいたるまで、奇跡的なバランスで名作として成立しています。こればっかりは読めという感じ。

某白饅頭の人が傑作と言っていた一作。名前は聞いたことがあったものの、著者がうえお久光先生で驚きました。オタクの履歴書では書いてないんですが、ほぼ最初に読んだライトノベルは、うえお久光先生の『悪魔のミカタ』でした(しかも2巻)。あと、綱島志朗さんと言えばなぜか女の子がレイプされそうになるロボットマンガ、『ジンキ・エクステンド』の作者です。これも大学時代に読んでました。ということで、本作を手に取り、はからずも昔を懐かしむことになりました。

SFライトノベルの、そして単巻で完結するライトノベルとしてとてもよくできていて、とても面白い作品。超オススメです。本作の元ネタとなる、同じような仕掛けをあつかったいくつか著名なSF作品があるそうなのですが、蒙昧なのでまだ読んだことがないのです。近いうちに読んでみようと思います。
 

『御霊セラピスト印旛相模の世直し研修』著:浅生楽 挿画:小宮国春

ポケモンGOでスマホ片手に徘徊もとい、散歩をする人が世界的に増えている2016年の夏ですが、ブラタモリが地理学会から表彰されたのと相まって世はにわかに散歩ブームと言わんばかりです。カメラもって気になる風景を撮り歩いても、史跡を辿っても、町歩きは楽しいものです。

本作は大学4年生で、他人の相談に乗るのが得意なセラピスト性質の女性、印旛相模(いんばさがみ)が平将門の御霊(ごりょう)、将門の上司で特殊な育ち方をした巫女、川久五月(かわくさつき)と共に、関東平野を流れる川の周辺で巻き起こる様々な霊的なトラブルを解決するというお話。

著者曰く、いろいろな側面を持つ作品だそうですが、東京平野、武蔵野台地の各地の地勢、歴史が紹介されるため、私にとっては完全にブラタモリでした。ちなみに日本史はほとんど忘れてしまい、東国武士ネタはサッパリでした平将門くらいは分かるけど他の歴史上の登場人物は某窃視狂くらいしか分かりませんでした。しかし、武士って発想は完全にヤンキーですね。日本社会が芸能界を始めヤンキー、ヤクザ的なものだと言われるとそうかもしれませんが。

(特に人生が上手くいっていない)人の心の持ちようや、カルト宗教同然の洗脳手法で人から労働力を搾取するブラック企業の有様、1995年のオウムの同時多発テロ事件以来、日本社会の一般的な感覚として宗教を忌避する人が増えて、翻ってこの世にカルト宗教的なものが蔓延してしまったという世相分析などは、個人的には割と「そうだよなぁ」と思うところがありました。本当に、今の日本社会のミクロ的にもマクロ的にもなんとなく居心地が悪い感じは何とかならないもんですかねぇ。

本作の著者の前作は生活を物理的に効率化、改善するライフハック紹介小説だったわけですが、「叶うかどうかは別として、何かを望むこと」自体はその人の勝手(意訳)など、固定観念でこわばっている肩がすこし緩みそうな考え方がちりばめられており、本作は楽しく生きるための心持ちについての示唆に富んでいるように思います。個人的な実感ではありますが、自分の「望み」とか「欲」を自覚することは本当に大切なことです。幸福、満足、あるいは諦めの基準になるものですから。ちなみに自分の「望み」が分からない人は、とりあえず「今夜は〜が食べたいな」とか、そういう小さいことから自分の内なる欲求に従う訓練をするのがいいのではないかと思っています。

色々雑ぱくに書いてきましたが、現代の世相と日本史を上手くミックスして調理したやや高年齢層向けライトノベルとして普通に面白い作品です(とはいえ予備知識が足りなさすぎると楽しめなさそうではある)。物理的な接触はありませんが、相模と五月のちょっと親密な関係もありますので、お好きな方はどうぞ。

 

『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』著:永田カビ

持っている人には当たり前すぎても、持ってない人にはどうやって手に入れたら良いのか全く分からないのが「自尊心」とか「自信」というものだそうですが、おそらくそれにまつわる作品。

どうも親との関係が良くなかったのか、自分を大切にできなくなってしまい、自傷癖や摂食障害を持っているくらいだった著者が、一年発起してレズビアン風俗に挑戦してみて(してみるまでの過程で)、いろいろなことに気づく話。

タイトルにレポ、とありますが真に迫っている作品だと思います。頭のいい人なのかな?著者が少しずつ「自分を大切にすること」に気づいていくというか思い出していくというか、そういう過程がとても上手く言葉になっていると思います。たとえば、著者の場合特有の事情なのかもしれませんが、身だしなみを整えるといった当たり前の習慣も自尊心に結びついている(言われてみれば関連ありそうですが)ものなのだなと。

著者が風俗のお姉さんと関係を持ったときに気づいたことは、女性と女性だけの関係に限った話じゃないよなぁと思います。男女の関係でも、男性同士の関係でも一緒だと思います。荒廃している日本の「性」について縦横無尽に語った労作『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』にも似たようなことが書いてあったような。

pixivでも読めるんですが、色々と掘り下げてあってすごくわかりやすくなってますし、おまけマンガも着いているので、著者の創作活動を応援する意味でも是非一冊。とても良い作品ですよ。

pixivの実体験マンガは時々本当にすごい物がありますね。『死んで生き返りましたれぽ』も真に迫ったとても良い作品でした。こちらも是非どうぞ。