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『1518! 4』著:相田裕

今巻もすごく良かったです。というか、3巻あたりから本当に面白くなってきました。今巻は元になった同人誌版で言うと~冊目の「チェンジ・オブ・ペース」が中心になっていて、烏谷と会長弟の対決のエピソードがハイライトです。正直に言って、そこ至るまでの登場人物の配置、エピソードの積み上げ方が見事というほかありません。本作品は、物語の骨格として同人誌版があって、ある意味その骨組みに対してどういう肉付けが為されたのかということを比較して読むことができるという私にとっては極めてレアな作品なんですが、本作の肉付けは大変良質。登場人物が増えて、学校や人物のディテールが細やかになったことで作品のテーマが深まり、叙情的にも大変素晴らしい。

烏谷の、会長の、そして弟の野球への向きあい方、それが変わるのがまさに「チェンジ・オブ・ペース」で、烏谷が身を以て教える投球の駆け引きとダブルミーニングになっているんだと思います。他人からあこがれられるような在り方でなくなっても、自分が楽しんでいれば、納得していれば、一生懸命になっていればそれで良いのだ、そこに貴賤優劣はないのだ、「諦めたことから始まる物語」という帯のキャッチフレーズに偽りなしです。

どんなに栄華を極めた名選手も、いつか衰えて、あるいは不幸な出来事を原因として、第一線を退く時が来る。元いた道がキラキラしているほど、そこを降りたときの身の処し方が難しいのは、薬物依存になってしまった清原和博さん、自ら命を絶ってしまった伊良部秀輝さんを筆頭として様々なスポーツ選手のセカンドキャリアを見れば分かります(あと、会社を退職してから抜け殻のようになったり、他人に当たり散らすおじいさん達を見ていても……)。彼らほど落差が大きくなくても、いつかかつての道を降りなくてはならなくなるときのことを、我々は考えなくておかなくてはならないのだと思います。現実はフィクションほど優しくないかもしれない、それでも挫折したあなたに、諦めたあなたに、違えた道の先にも楽しいことがあるかもしれない、そんな風に思わせられる作品です。

『1518! 3』著:相田裕

一文で言うと、肩を壊した少年野球のピッチャーが、高校の生徒会で色々新しいことをはじめる話。

元々は相田裕先生が出していた『バーサス・アンダースロー』という全部で4〜5冊くらいの同人誌のシリーズがあったんですが、それを商業向けに作り直した作品です。前作の『Gunslinger Girl』で、挫折して色々失ってもなお続く人生、みたいなテーマですっごい作品を仕立て上げたんですが、本作もテーマは同じだなぁと。前作は壮大な心中の話のような感じだったんですが、本作には現代の日本が舞台ということで随分と優しくて温かい物語です。

同人誌版の場合、登場人物も限られているし、舞台もほとんどが学校で、まるで夢の中にいるような不思議な雰囲気が魅力でした。本作では色々ディテールが追加されて、最初、個人的には同人誌版の夢の中のような雰囲気が良かったなぁ思っていましたが、話が進んで、ぐんぐん良くなってきている気がします。3巻巻末の28.5話は、ヒロインの幸ちゃんと同じく目に涙が浮かんでしまいました。

イチローだって3割しか打てないわけで、残りの7割はいわば負けてるんですよね。一番目指して一生懸命頑張っても、次々新しい人が出てくるし、人間老いる以上は必ずどこかで負けたり、諦めたり、挫折を味わうんです。一番になるのも難しいけど、勝負から降りた後でどう生きていくかも結構難しい、昨今覚醒剤に手を出した元プロ野球選手がいたりしますが、成功や勝利が大きければ大きいほど、そこから降りたときは大変なのだろうと思います。挫折してもたいていの場合人生は続くわけで、そんな塩っぱい人生に折り合いつけて、どうやって楽しく生きていくか、一生懸命頑張ったことは無駄にはならないし、別のこと新しいこと始めても案外楽しめるかもしれないよ、と優しい言葉をかけてくれるような、そんな作品です。