オーディオは沼と聞いている。スピーカー、アンプ、果ては自宅に受電する交流電源まで、こだわり出すと切りがないそうだ。正直ついていけない。とはいえ、それなりにこだわってみたいとは常々思っていた。COVID-19のパンデミックで在宅時間が長くなる中、セッティングする時間、聴く時間はたっぷりある、ということで、手持ちの機材を工夫して、PCオーディオで遊んでみた。
昔話とオーディオ観
そもそも、むかしむかし、CD-ROMドライブがパソコンに搭載され始めた頃、私の実家にはAppleのMacintosh Performa 630というパソコンがあった。そのパソコンはマルチメディア利用が想定されていたため、なんとCDを聞くことができたのだ。そしてなんとも素晴らしいことに、PC側でCDのトラック情報やアルバム情報を保持する事もできた。当時の録音メディアと言えばカセットかMDで、後者はトラック情報をメディア側に書き込むことができた(コンポで入力したトラック名がウォークマンで表示されたのには感動した)が文字は英字・数字・カタカナオンリー、入力・表示のインターフェースは非常にプアで使いにくかった。そんな中、パソコンのキーボードとIME、CRTディスプレイを使って入力と表示ができるPerformaは大変素晴らしく、音楽の管理かくあるべしと幼心に思ったものだった(後にAppleはiTunesとiPodで楽曲データ自体にトラックデータを含ませて管理・持ち歩くことを可能にしたことは有名な話である)。というわけなので、物理メディアをいちいち入れ替えて聴く昔ながらのオーディオは、レコードやカセットみたいなアナログメディアまで立ち戻らないと個人的には正当化しづらいように思っている。ようするに私はここ20年近くコンポを買っておらず、音楽はパソコンにアンプやらをつないで聴くか、DAPを持ち歩いてイヤホンで聴くものだった。
機材
こんなオーディオ観がある人間が、PCオーディオで遊ぶに当たって、手元にある機材は以下の通りだった。
パソコン:Apple MacBook Pro 2011Late(メモリを8GB、HDDを1GB SSHDに換装済み) アンプ:Elekit TU 870R(自作キットで手作りした真空管アンプ) パッシブスピーカー:Apple Pro Speakers改 (ケーブルを切って線を分離したもの)
元々1.2.3.をセットにして使っていた。ソフトウェア、ハードウェア的に以下のようにいじってみた。
Ubuntuをインストール
UbuntuのWebページからOSのisoイメージを落として、EtcherでUSBメモリに焼き込んでインストールメディアを作成 Disk Utilityでパーティションを分割、とりあえずFAT32でフォーマットしておく Altキーを押しながら再起動、表示される起動ディスクの中からEFIbootを選択、インストーラーを起動 ディスクの全フォーマット+インストールが最初に出るが、とりあえず既存の環境を残すため「他のインストール方法」を選択 Ubuntu用に確保したパーティションをExt4でフォーマット、音楽さえ聴ければいいので「最小インストール」で。 30分ほどでインストール完了、キーボードは「日本語配列」で、下手に日本語Macintoshとかするとよくないっぽい。 アカウントを作って、ログインしたら普通にトラックパッドもキーボードもUSBも、ついでにWifiも使える。意外なほどあっけない。BootcampでWindows入れるよりもよほど簡単。 キーボードショートカットと、それを使うための特殊キーの関係性がよく分かっていない。そもそもMac Windowsの両用のために、多少キー配列をいじって使っているので、今後の使い勝手を考えると是非とも使い方を覚えたいもの。 たしかにOSが軽い。最近のMac OSだと動作もっさりファンブンブンだったのが静かなもの。
LowLatencyカーネルを入れる
Linuxはどうやらカーネルによって音が変わるらしい。低遅延=LowLatencyカーネルなるものを入れればよいらしいので、最新のカーネル5.3.0-45のLowLatency版をaptからダウンロードする カーネルの切り替えは起動時にshiftキーを押すということだったが、どうもescキーを1回押せば良いようだ。grubというアプリケーション(OSの起動条件を決めるブートローダ)で設定。 Wifiのドライバーがダメになり無線LANが不通になるトラブルが起きる。何回も再起動しつつ「MacBook pro Ubuntu wifi ドライバー」で検索して出てきた対策をいくつかやっていたらいつのまにか解決。
音楽再生・リッピングソフトを導入
最初Rhythmboxを入れていたが、デコーダーを入れてもALACの再生が出来ないので最終的にAudaciousに。ハイレゾ再生する人なんかにはこっちが人気のようだ。UIはiTunesぽくてrbの方が好き。 CDのリッピングソフトはAsanderを入れた。エンコーダ入れればなんでも読める。
音楽ファイルを移動
最初APFSでフォーマットされた母艦のデータドライブをそのまま繋ごうかと思ったがうまくいかなかったのでHFS+のバックアップHDDに音楽ライブラリをコピーして移動。 各フォーマット用のソフトもいちいちインストールするのねと感動(大学のコンピュータ室にあったLinuxと違ってずっと自由なことに感動した)
スピーカーを交換
前から使っていたApple Pro Speakersの改造品。コンパクトだし、音も悪くないが、低音が物足りないしなんか音量も出ない。そこで新しいスピーカーを調達することに。 アンプのTU-870Rのインピーダンスが8Ωらしく、合うものを探してみると舶来の高級品が多い。予算と相談して良さそうだったのがイギリスのMonitor AudioというメーカーのMonitor 50というスピーカー(ペアで3万くらい)。最近発売されたばかりでレビューもほとんどないが、かっこいいので悩んで決定。 適当なケーブルで繋いで再生。解像度もよく、低音が明らかによくなった。音量の調節幅も大きくなり、アンプの本来の性能が出ている感じ。スピーカーとアンプのインピーダンスを揃えるとこうなるのか……。
オーディオをスチールラックに収納
元々デスクトップオーディオとして使っていたオーディオセットだったが、棚に並べてオーディオラックを作りたくなった。共振が気になるが余っている各種棚の棚板で防振をすることにしてスチールラックを物色。結局幅と高さ的にニトリのこれがよさそう。
https://www.nitori-net.jp/ec/product/8791244s/
立った状態で使いやすい高さで、幅もちょうど良い。
感想
2010年前後のMacは、現在のMacに比べて筐体が大きくて重たいが、メモリとHDDの交換が容易で自力メンテ・アップデートしやすく、ディスプレイやキーボード・電源の品質は割と良い。さらにCDドライブが付いていて深く考えなくてもCDのリッピングが可能。というわけで、古くなって使わなくなった機体はこんなふうにオーディオにしてしまうのはいいような気がした。みんなもやってみてほしい。
あとやることといえば、真空管の交換、アンプの部品をオーディオグレードの高級品に交換、本体からではなくDAC経由でアナログ信号を出す、くらいか。その辺はまた気が向いたらにしようと思うが、まぁこれで十分かなって感じ。