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『湾岸MIDNIGHT (1)~(42)』 著:楠みちはる

インターネット、特にTwitterを見ていると、『らーめん西遊記』と並んでページの抜粋が時々流れてくる本作。妙に含蓄のある台詞を登場人物が言っているようなので、やはり原典に当たらねばなるまいとシリーズ42巻を一気買いすることとなった。

テーマは「チューニングカー」と呼ばれる改造車を使い、東京の首都高速道路を使って夜な夜な繰り広げられる公道レース(当然非合法、いうなれば主人公たちは暴走族の一種といってもよい)である。主人公は日産の初代フェアレディZを元にしたミッドナイトブルーの改造車、通称「悪魔のZ」を操り、ポルシェ911「ブラックバード」やスカイラインGT-R、RX-7といったスポーツカーたちと、時速80~100キロは出しているトラックや一般車の間を縫って、時速300キロのスラロームを繰り広げる。モノローグモリモリのレースそれ自体もそうだが、それぞれの車両の持ち主の人生模様と、自動車のチューニングに携わる人たちの交わりも本作の魅力である。

悪魔のZと戦う自動車とドライバーが1組作品にログインしてきて、悪魔のZと戦ってログアウトする、というのを数巻かけてやるのが定番で、その裏で通奏低音のようにブラックバードとの濃厚なつばぜり合い&塩の送り合いが繰り広げられる。その様はまるで複数ヒロインのエピソードが並行世界のように繰り広げられるギャルゲーアニメ『アマガミSS』のようである。うん、よく考えたらコレ、アマガミSSなんだ(作品的には『湾岸〜』が古い)。

ちなみに、個人的に好きな名台詞は、32巻のコレである。

『湾岸ミッドナイト 32巻』68〜69ページより引用

「安くて」「人気」で「数が出ている」というのは趣味の世界においてはしばしば馬鹿にされがちな要素であるが、失敗も含めて試行錯誤がしやすく、ノウハウが蓄積、共有されやすいものの中からは最終的によいものが出てくる。高い山は裾野が広いのである。

本作のテーマは自動車だが、趣味や仕事、なんでもいいが自分だけの何か、他人には理解されないようなこだわりを持っている人には本作の名台詞がしみるのではないだろうか(本記事の筆者には実に染みた。)