パイロット キャップレス万年筆 (マットブラック 細字)

最近仕事が忙しく、大学院生時代に景気づけに買ったHappy Hacking Keyboardみたいに仕事の道具買うか、と思い立って、携帯用の万年筆として世界で唯一無二のノック式万年筆を買いました。出かけたついでに丸善で買ったんですが、定価だった代わりに色々おまけが。売り子のお姉様が色々教えてくださったんですが、まぁ10年近く付き合ってますから、大体分かってる話でした。

買ったもの+もらったもの一式。LAMY2000と同じくマットブラックのニブの小さい万年筆をまた買ったしまった……。ノックはボールペンよりもしっかりしている印象。

左の万年筆は引退予定の携帯用の細字。祖父の万年筆をニコイチにしたもので、キャップは925シルバー。ニブが柔らかくて書き味は好きなんですが、ペンケースに入れて持ち歩いているとキャップが外れやすく、すぐペン先が乾いてしまうので自宅で据え置きようにしようかなと思います。

書いてみた感じ。やや固いかも。線の細さは試筆したこともあり、好み。なんとニブは18金らしいが、小さいことにより固くなりがちなところを素材で解決、って感じなんだろうな。書いていると柔らかくなるらしい。

付属品の万年筆クリーニングキット+カートリッジインク一式。下の青いスポイトがミソなわけですけど、確かに便利かも。コンバーターよりも強い水圧で、多くの水を押し出せるので、使う際に注意は必要ですが、掃除が簡便になり便利かも。

というわけで使ってみます。

『経済数学の直観的方法 確率・統計編』著:長沼伸一郎

確率・統計というと、釣り鐘型の正規分布曲線を思い浮かべますが、確か二項分布からあそこに至るまでの証明がややこしかったり(僕が数学ダメなだけかもしれませんが)、平均は分かるが、標準偏差や分散が分かりにくかったり、なんであの計算式になっているのか分からなかったりと、青息吐息で単位だけ取った記憶がよみがえります。

何回か著書を紹介している長沼伸一郎氏の著作。今回のテーマは、確率統計。主に正規分布の話から、ブラウン運動の数学的取り扱いや、投資オプションを決める際の数学的背景となっているブラック・ショールズ理論のさわりまでがテーマです。

最初に、標準偏差や分散といった確率統計理論上の主要概念を、「釣り鐘型」→「三角形」への簡略化を使って紹介します。正規分布というのは、何かを計測したときの値のばらつきのうち、とにかく偏りがあるものは人間が調整してしまうので、最後に残った完全にランダムなものをどう扱うかを一生懸命考えたら我々の宇宙では「たまたま」あんな形の曲線が残った。説明がややこしいので、平均値を底辺の中点とする二等辺三角形で置き換えて説明する、というもので、一度確率統計で苦しんでいたので、確かによく分かりました。

後半どころは、そもそも勉強したことがなかったが、「ランダムウォーク:酔っ払いの千鳥足」を放置するとどこまでたどり着く可能性があるか?という問題に対して、前半で分かった気になった正規分布が絡んできて、これもまた分かった気になります。ブラックショールズ理論、伊藤のレンマ、の辺りはもう一度読み返す必要がありそうですが、連動性を上手く利用した無リスクポートフォリオなんて、良くまぁこんなものを思いついたものだ、大変関心をしました。

難解そうに見える理論も、細かい数学的な補足はともかくとして、最初に思いついた人の発想は案外単純なのでは?という考え方は物理数学の直観的方法にも書いてあったと思いますが、本書もやはりその辺を突いてくるので、それを使ってテストの問題が解けるかはともかくとして、苦手意識がマシになる、良質な副読本です。

  

Sony Walkman NW-A35 試聴編

さて、この前の更新で見た目やら使い心地について書いたNW-A35で実際に音楽を聴いてみた感想をば。基本的に音源はMP3、AACで、それをDSEE HXでハイレゾアップコンバートして、SonyのMDR-EX800STで聴いています。[アーティスト名/曲名/アルバム名/感想]って感じで。

  • 坂本真綾/0331Medley/15周年記念LIVE _Gift_ +1/メドレーの中にデビュー曲の「Active Heart」と言う曲があるのですが、そこでの声の伸びがとても良い。武道館ライブのライブ音源なんですが、武道館の空間に広がっていく残響がiPhoneよりも良い気がする。
  • Pat Metheny & Charie Haden/The Moon is a Harsh Mistress/Beyond the Missouri Sky (Short Stories)/ギターが郷愁を誘う一曲。ギターの音の残響がiPhoneより良いような気がする。
  • Nujabes/Counting Stars/2nd Collection/ドラムとギター、うわごとのようなボーカル、消え入りそうなピアノが立体的に聞こえる。元々良いイヤホンだが、音量がそこそこでも音のディテールが消えないような、そんな気がする。
  • Glenn Gould/Goldberg Variations/Goldberg Variations/鼻歌交じりで一部に有名な連作。鼻歌がiPhoneよりもよく聞こえてくる。集中すると、Gouldのピアノがどこにどういう向きで置いてあるか分かるような気がする。

あまりたくさん聴いてみているわけではないですし、そこまで僕は耳が良くないので、本当にそうなのかは分かりませんが、ハイレゾ(のアップコンバート)というのは、良いイヤホンやヘッドホンと組み合わせることで、音の立体感、位置関係、生々しさ、残響といった楽曲の情報量が増える、という事なのかもしれません。まぁ多少良いイヤホンであれば、音量を大きくすれば、情報量増えますけどね……。

ハイレゾのプレーヤーとしては価格が手ごろですし、UIも改善されて、価格に対して満足感の高い製品ではないかと思います。お耳に自信のある方、どうでしょうか?

 

 

試聴に使った音源はこちら

 

Sony Walkman NW-A35 購入編

著名な環境学者で、ガジェットマニアでもある安井至先生が絶賛していたソニーのハイレゾ対応ウォークマンNW-A35。私は大学入学時に偶然手に入れたiPod mini以来、MDウォークマンをiPodに切り替えて、それ以来3機種くらいiPodを買い換えて、最近は使い古しのiPhone 4を使っていた訳ですが、そんなに良いならと買って聴き比べをしてみました。ちなみに何ヶ月か前に試聴してみたんですが、タッチパネルの反応が余りに悪くてちょっとなぁと思っておりました。最近のファームウェアアップデートで反応が良くなったらしく、触ってみたら良かったのもあり。

ものはこれ。赤にしました。昔は黒で色々揃えていたんですが、鞄の中で目立つ方がいいなと最近思います。

ちなみにハイレゾ音源は全く持っておらず、基本的には256bps AACあるいは320bps MP3をソフトウェアでアップコンバートして聴いています。イヤホンはSONYのMDR-EX800ST。

電機店で触ってみたときから分かっていましたが、確かに実用的なタッチパネル反応速度になっていました。Macからのデータの転送もとにかく音楽ファイルが詰まったフォルダをドラッグアンドドロップして、パソコンとの接続を切ればOK。ジャケット画像も勝手に転送されます。

聴き比べてみた感じは……。これからということで。

2017年6月26日追記
iPod nanoと比較すると、自動パワーオフ機能がない模様。電源ボタンを長押ししてスイッチを切らないと、いつの間にか電池がえらい消耗していることがありました。設定にはオートパワーオフの設定はないようです。

『ぱらのま』著:kashmir

おそらく”Paranormal(超常、非日常)”と言う単語が名前の由来なのであろう紀行?マンガ。

にょろにょろっとした黒髪のナイスバディの残念なおねえさんが、デパ地下で買った駅弁を食べるためだけに電車に乗って富士山の方に行ってみたり、うどん食べるために寝台電車に乗って香川に行ってみたり。よく考えれば電車旅オンリーのマンガ。言われてみれば「鉄子」なのか。

とりあえず主人公は学生なのか働いているのかとか気になるのだが、まぁ本作においてそんなことはどうでも良いのかもしれない。なんとなく独り言や思考がおっさん臭い感じがして実に好みである。正直に告白すると、Twitterで下のコマの画像が流れてきて興味を持ったのだが、全編実に面白く読むことができた。

『ぱらのま』107ページより引用

Kashmir先生の作風、画風なんだろうが、日本を舞台にしているのに、妖精郷を覗いているような、そんな不思議な雰囲気のするマンガである。個人的に、こういう作風の作品は、なんとなく世界に安心感があって、その雰囲気に浸りたくて何度も読み返してしまうのだよな。

 

 

『初恋の世界 1,2』著:西烔子

都会のこだわり派コーヒー店で働きながら、「なんとなく」40歳になってしまった女性が主人公で、異動を命じられて故郷の町の支店に店長として移ってくる。そこにいたのはミステリアスな年下のイケメンで、彼が色々つっかかてきて、主人公も彼が気になる。さて、どうなるのか?

まぁ、最終的にどうなるかはともかく、とりあえず例のミステリアスなイケメンとくっつくんだろうなぁとは思うんですが、本作の重要な点は、主人公の「なんとなく40歳になってしまった」感が絶妙なところです。女性と男性では加齢に対する感覚も違うんだろうけど、一生懸命仕事をしていて、自分の好みに部屋の調度なんかを整えて、目の前にあるものをとりあえずこなしていたらいい年になっちゃった感覚は個人的によく分かります。

もう1点、本作の良いところは主人公の友人(オタ友)関係です。主人公含めて4人いるんですが、それぞれ家庭があって子育てしていたり、道ならぬ恋をしていたり、職場の男性に恋をしていたり、なんか色々あるんですが、それでも昔読んでいたマンガの既刊を大人買いして4人でごろごろしながらひたすら読んでいたり、裏ではお互いに対するあこがれや嫉妬心みたいなものも持ちつつ、昔からの関係を大切にしていて、歳をとっても仲良く遊んでる様子は得がたいなぁ、と思うのです。人生恋や愛だけでできているわけではないのです。

ということで、共感できれば男性でもきっと楽しめる作品だと思います。ぜひどうぞ。

 

浅草 かなや刷毛の馬毛歯ブラシ

歯は食の喜びや踏ん張るときの馬力を支える大事な器官で、それを維持する歯磨き、それに使う歯ブラシは稼働率が高い道具で、死蔵している服なんかに比べればはるかに投資効率が良い、いわゆるところの「捗る」道具です。ということで、今回は浅草、かなや刷毛店の馬毛歯ブラシをご紹介。

1本320円、3本だと900円。3本パックはこんな箱に入っています。

中身はこんなの。地味ですね。

磨き心地はナイロン糸の一般的なブラシに比べてマイルド。店の人曰く歯や歯茎を痛めにくいんだとか。最初は正直馬毛?とか思っていましたが、ナイロン糸が発明されるまでは天然繊維として使われていたもので、人類の歴史で考えると遙かにこちらの方が使用歴が長いのですよね。

使い古した歯ブラシと比較してみます。左が9ヶ月くらい使ったもの。何となく毛の密度が薄いような気がしますか?

角度を変えるとこんな感じ。左が使ったものです。10%くらい毛が短くなっていて、なんとなく毛束が痩せてる感じ。こんな風に適度に毛が「負ける」のが、優しい使い心地の秘密なのかも。新品に替えたらはるかに磨き心地が良くなったので、半年に1回は替えた方がいいのかもしれません。

毎日使うものですし、ちょっと変わったもの、良いものを使ってみたくなったらこの歯ブラシ、いかがでしょうか?

 

『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』著:長沼伸一郎

かつて感想を書いたことがある、長沼伸一郎さんの新著。電子書籍で出ている現代経済学の直観的方法とは違って、経済学の数学的技法について解説した本。今回感想を書くのは1冊目?のマクロ経済学についての本です。ノーベル経済学賞を取るような、「動的マクロ均衡理論」と呼ばれる経済学の理論と、それに使われている数学的技法についての解説書です。ちなみに私は経済学は、S-D曲線くらいしか分かりません。ただし物理学については、解析力学は割と大学時代に真面目に勉強した、それくらいの理系の読者です。そんな人間が読んだ感想と思ってください。

数学というのは、それを専門とする本当にごくわずかな人々(数学者ですね)を除けば、日本語や英語と同じく世界を表現する道具である、と言うのが本書でよく分かります。物理学の場合は物体の運動や振る舞いを微分方程式で記述する(そしてその微分方程式を解けば物体の時間的な振る舞いの過程が分かる。)では経済学の場合は人間の経済的な行動の源泉になるような何か(目の前にある100万円を貯蓄するのか、使うのか?)を上手く微分方程式で書いてやると、その微分方程式を解くことで経済の動きが予測できる、要するに経済学はそういうことがしたいのだ、というのが繰り返し説明されます。読んでいくと、分かったような分からないような、何となくのイメージが頭にできる感じ(これが直観的理解と言うものか?)。

大学以降の比較的高度な数学は、私くらいの頭の出来だと勉強や計算をしているうちになんでこんなことをやっているのかだんだん分からなくなってくるのですが、長沼さんの著書は、常になんでこんな数式になるのか?とか、この数式はどういうことを表現したいのか?というところを上手く解説してくれるような気がします。一冊で理論や定理の全てが分かる本ではないですが、教科書と併せて読めば大学での学習が何倍にも有益になる一連の著書です。万人向けではないですが、一部の人には是が非でも薦めたい一冊です。

もう一冊の確率・統計編も読み始めたいと思います。

   

『黒剣のクロニカ 2』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

伝説のアトランティス大陸が沈んで多島海になった後の古代地中海世界のような世界が舞台のファンタジー。多くの登場人物はダリドと呼ばれる獣人の姿、あるいは動植物への変身能力と、ダリスと呼ばれる超能力を持っている。そんな世界で、都市国家コフの黒剣家の末弟で、そこの当主に奴隷にされた母から生まれたフランが兄弟に復讐を誓う。脇を固めるは都市国家ヤニアの小百合家姉妹、人馬のイルケとフクロウになれるオルドネー。あと多数のフレンズ※達(概ね間違ってない)。次男のオウメスと戦う本巻、フラン以上の知将とされる兄とフランはいかに戦うのでしょうか?

衣料品が貴重なため、体を動かすときは古代オリンピックよろしく裸で(男女問わず)、「脱衣は市民の権利」という様な価値観もあり、登場人物はとにかく脱ぎます。挿画の数が限られるのが一部の人には残念か(ノリは完全に「カメラもっと下!」)。また、ダリドのおかげでみんなだいたい獣人か、動物に変身可能となっているため、2017年初頭風に言えば「性的なけものフレンズ」って感じです(「君は~が得意なフレンズなんだね!」※)。また、作中の某ヒロインとなんともマニアックなプレイがとり行われるされることになります。現代日本人からすると常識外れなんですけど、食料が貴重な作品世界の中では合理的?なのかなぁと思います。本作自体は架空の世界の話なんですが、歴史、民俗を学ぶ面白さは、世界にはこんな我々の常識とは違う常識の元に暮らしている人たちがいる、しかも相手の立場に立てばそれなりに合理的、というところだよなぁと思います。前作の『遙か凍土のカナン』もそんな感じでした。物語的には最後こそ『ソードマスターヤマト』的な感じでしたが……。

ということで、想像力豊かで、獣娘がイケるフレンズには大推薦、もっと手広くイケるようになりたいフレンズも、挑戦してみる価値のある作品です。え、ぼくがどんなフレンズかって?本作のおかげで、人馬かわいいなと思い始めました。

※けものフレンズ:2017年初頭、アニメファンの目の前に彗星のごとく現れた大ヒット作(ダークホース)である。サービス終了したスマホゲームが原作となっている作品で、実在の動物を擬美少女化した「フレンズ」達が、おそらく「ホモ・サピエンス(現生人類)」のフレンズ、あるいはゲームの「プレーヤー」である「かばんちゃん」としっちゃかめっちゃかしてもなかよしな物語である(ヒロインはサーバルキャットのフレンズ「サーバルちゃん」)。一人一人?のフレンズの個性を認める作品全体の寛容さが厳しい渡世に荒んだアニメファンの感情を揺さぶり、作品の第一印象からすると思いの外巧妙でシリアスな伏線が耳目をわしづかみにした。

  

『走ることについて語るときに僕が語ること』著:村上春樹

村上春樹のエッセイ。村上春樹というと、親の蔵書の「ノルウェイの森」を読んだことがあるくらいで、(思春期の自分にとっては完全にスケベ小説だった)特にフォローしているわけではない作家である。基本的にあまのじゃくなのでベストセラー作家の本って買いたくなくなるのだ。要するに、「僕が買わなくても誰かが買うでしょ?」という気持ちになる。じゃあなんでこの本を買ったのかというと、旅行に持って行くつもりだった本を家に忘れてしまい、空港で売っていた本で目を引いたのがこれだったという顛末である。

……というくらい村上春樹に対する関心が薄い人間なので、村上春樹がかなり本格的な市民ランナーだったというのを本書で初めて知った。しかも結構ランナー歴が長いらしい。あと、地味に大学を卒業してしばらく飲食店やっていたとか、若くして結婚しているとか、世界中いろんな街に住んでいるとか、彼の人となりを知ることが出来るという意味で村上春樹初心者向けといえるかもしれない、作家の人となりを知ることが必要かどうかを置いておいて。エッセイとはいえ、するすると入ってくるそうめんみたいな文章はやはり村上春樹である。作家らしく色々ものを考えながら走っていて、それらが大作家らしく上手く文章になっているなと感心した。とまれ、彼の健康に対するスタンスには共感するところがある。彼ほどの作家と比べると自分のやっていることなど月とスッポンであろうが。

なんだかよく分からないがこの記事を書いていると知らぬ間に村上春樹という単語を連呼しており、これが村上春樹という作家の魔力なのかもしれないと思いつつ、そろそろ村上春樹という文字列がゲシュタルト崩壊してきたので、この辺で筆を置きたいと思う。