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『貨幣の思想史 お金について考えた人々』著:内山節

いわゆる古典経済学とか経済哲学に取り組んできた経済学者の人々の思想を紹介しながら、「貨幣」というものが主に西洋においていかに捉えられてきたのかを紹介する本。ロック、アダム・スミス、ケインズ、マルクス等非常にメジャーな学者が多数登場しますが、その代表作とされている主要著作には余り触れていないことの方が多いような気がします。

最後まで読んでよく分かったのですが、本書は序文→12章→1章から12章→エピローグと読むのが良いように思いました。本書のエッセンスは12章に詰まっており、とりあえず著者の問題意識を12章で概観しておいて、そこで引用、紹介されている個別の学者、思想家の解説を個別にさらっていくのが良いのではないかと。

個人的に経済学についてはよく知らないのですが、本書に紹介されている人々の考えたことの系譜をたどっていく限り、経済学というのは、人間の日々の営み(経済)についても、「神様が作った理想的な秩序があるはずである」といういかにも欧州キリスト教的な、宗教的情熱に強い影響を受けてものを考えてきたようでした。そして、どうもそのやり方では上手くいかないらしい、ということに気づくのが、少なくとも経済学における「貨幣」の思想史だったのだなという感じがしました。

少なくとも現代人のほとんどは、自分の人生という一次資源のうちのいくらかを労働として売って二次資源である貨幣に変換することで生計を立てているわけです。したがって働き方・生き方を考える上で、労働の1つの大目的である「貨幣」がどのようなものであるのかを理解するために、本書は有力な補助具を与えてくれるように思いました。学生の時に読むよりは労働者として経済的に自立してからの方が、より実感を伴って読めるのではないかと思います。

『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』著:長沼伸一郎

かつて感想を書いたことがある、長沼伸一郎さんの新著。電子書籍で出ている現代経済学の直観的方法とは違って、経済学の数学的技法について解説した本。今回感想を書くのは1冊目?のマクロ経済学についての本です。ノーベル経済学賞を取るような、「動的マクロ均衡理論」と呼ばれる経済学の理論と、それに使われている数学的技法についての解説書です。ちなみに私は経済学は、S-D曲線くらいしか分かりません。ただし物理学については、解析力学は割と大学時代に真面目に勉強した、それくらいの理系の読者です。そんな人間が読んだ感想と思ってください。

数学というのは、それを専門とする本当にごくわずかな人々(数学者ですね)を除けば、日本語や英語と同じく世界を表現する道具である、と言うのが本書でよく分かります。物理学の場合は物体の運動や振る舞いを微分方程式で記述する(そしてその微分方程式を解けば物体の時間的な振る舞いの過程が分かる。)では経済学の場合は人間の経済的な行動の源泉になるような何か(目の前にある100万円を貯蓄するのか、使うのか?)を上手く微分方程式で書いてやると、その微分方程式を解くことで経済の動きが予測できる、要するに経済学はそういうことがしたいのだ、というのが繰り返し説明されます。読んでいくと、分かったような分からないような、何となくのイメージが頭にできる感じ(これが直観的理解と言うものか?)。

大学以降の比較的高度な数学は、私くらいの頭の出来だと勉強や計算をしているうちになんでこんなことをやっているのかだんだん分からなくなってくるのですが、長沼さんの著書は、常になんでこんな数式になるのか?とか、この数式はどういうことを表現したいのか?というところを上手く解説してくれるような気がします。一冊で理論や定理の全てが分かる本ではないですが、教科書と併せて読めば大学での学習が何倍にも有益になる一連の著書です。万人向けではないですが、一部の人には是が非でも薦めたい一冊です。

もう一冊の確率・統計編も読み始めたいと思います。