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『経済数学の直観的方法 確率・統計編』著:長沼伸一郎

確率・統計というと、釣り鐘型の正規分布曲線を思い浮かべますが、確か二項分布からあそこに至るまでの証明がややこしかったり(僕が数学ダメなだけかもしれませんが)、平均は分かるが、標準偏差や分散が分かりにくかったり、なんであの計算式になっているのか分からなかったりと、青息吐息で単位だけ取った記憶がよみがえります。

何回か著書を紹介している長沼伸一郎氏の著作。今回のテーマは、確率統計。主に正規分布の話から、ブラウン運動の数学的取り扱いや、投資オプションを決める際の数学的背景となっているブラック・ショールズ理論のさわりまでがテーマです。

最初に、標準偏差や分散といった確率統計理論上の主要概念を、「釣り鐘型」→「三角形」への簡略化を使って紹介します。正規分布というのは、何かを計測したときの値のばらつきのうち、とにかく偏りがあるものは人間が調整してしまうので、最後に残った完全にランダムなものをどう扱うかを一生懸命考えたら我々の宇宙では「たまたま」あんな形の曲線が残った。説明がややこしいので、平均値を底辺の中点とする二等辺三角形で置き換えて説明する、というもので、一度確率統計で苦しんでいたので、確かによく分かりました。

後半どころは、そもそも勉強したことがなかったが、「ランダムウォーク:酔っ払いの千鳥足」を放置するとどこまでたどり着く可能性があるか?という問題に対して、前半で分かった気になった正規分布が絡んできて、これもまた分かった気になります。ブラックショールズ理論、伊藤のレンマ、の辺りはもう一度読み返す必要がありそうですが、連動性を上手く利用した無リスクポートフォリオなんて、良くまぁこんなものを思いついたものだ、大変関心をしました。

難解そうに見える理論も、細かい数学的な補足はともかくとして、最初に思いついた人の発想は案外単純なのでは?という考え方は物理数学の直観的方法にも書いてあったと思いますが、本書もやはりその辺を突いてくるので、それを使ってテストの問題が解けるかはともかくとして、苦手意識がマシになる、良質な副読本です。

  

『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』著:長沼伸一郎

かつて感想を書いたことがある、長沼伸一郎さんの新著。電子書籍で出ている現代経済学の直観的方法とは違って、経済学の数学的技法について解説した本。今回感想を書くのは1冊目?のマクロ経済学についての本です。ノーベル経済学賞を取るような、「動的マクロ均衡理論」と呼ばれる経済学の理論と、それに使われている数学的技法についての解説書です。ちなみに私は経済学は、S-D曲線くらいしか分かりません。ただし物理学については、解析力学は割と大学時代に真面目に勉強した、それくらいの理系の読者です。そんな人間が読んだ感想と思ってください。

数学というのは、それを専門とする本当にごくわずかな人々(数学者ですね)を除けば、日本語や英語と同じく世界を表現する道具である、と言うのが本書でよく分かります。物理学の場合は物体の運動や振る舞いを微分方程式で記述する(そしてその微分方程式を解けば物体の時間的な振る舞いの過程が分かる。)では経済学の場合は人間の経済的な行動の源泉になるような何か(目の前にある100万円を貯蓄するのか、使うのか?)を上手く微分方程式で書いてやると、その微分方程式を解くことで経済の動きが予測できる、要するに経済学はそういうことがしたいのだ、というのが繰り返し説明されます。読んでいくと、分かったような分からないような、何となくのイメージが頭にできる感じ(これが直観的理解と言うものか?)。

大学以降の比較的高度な数学は、私くらいの頭の出来だと勉強や計算をしているうちになんでこんなことをやっているのかだんだん分からなくなってくるのですが、長沼さんの著書は、常になんでこんな数式になるのか?とか、この数式はどういうことを表現したいのか?というところを上手く解説してくれるような気がします。一冊で理論や定理の全てが分かる本ではないですが、教科書と併せて読めば大学での学習が何倍にも有益になる一連の著書です。万人向けではないですが、一部の人には是が非でも薦めたい一冊です。

もう一冊の確率・統計編も読み始めたいと思います。

   

『放浪の天才数学者エルデシュ』著:ポール・ホフマン

原題は『The Man Who Loved Only Numbers(ただ数のみを愛した男)』。相当な奇人だったようですが、タイトルに反して子どもにも非常に優しく、自分なりに周囲への気遣いを忘れない人だったそうです。
定住地をもたず、世界中の数学者のもとをトランク一つで渡り歩き、83歳でこの世を去るまでに1500もの論文を書いたと言われる天才数学者ポール・エルデシュの伝記です。この人の凄いところは研究結果を他人と分かち合うことを厭わなかったことで、「エルデシュ数」と呼ばれる数があるそうです。エルデシュと共著を書いた人はエルデシュ数1、エルデシュ数1の人と共同研究した人は2という具合に決定されるそうですが、そもそもそのような数が考えられていること自体がこの人の偉大さというか異常さを表していると言っていいでしょう。
とにかく奇矯で、社会の中で「普通に」生きていくことは難しいだろうと思われるような人ですが、僕には迷い無く、ただ一つのことに自分の生命と人生のすべてを使っているエルデシュの生き方がとても美しく、そしてうらやましくも思えました。
ほんの十年ほど前になくなったそうで、自分が生きている時代にこんな偉大な人がいたのだということに非常に驚きました。そしてどう考えても数学に関する部分以外は非常に付き合いづらそうなエルデシュのことを優しく見守り、彼を支えた周囲の人々の心の広さに感じ入りました。

放浪の天才数学者エルデシュ 放浪の天才数学者エルデシュ
(2000/03)
ポール ホフマン

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