投稿者「uterium」のアーカイブ

『崖っぷち高齢独身者 30代・40代の結婚活動入門』著: 樋口康彦

『「婚活」時代』で一躍有名になった「結婚活動」にいそしむ40代の男性の手記。
感想を一言で言うと「モテないってこじらせると非常にややこしいことになるなぁ」という感じ。
読んでいて痛々しいとはあまり思わないのですが、出口の無い茨の道を裸で歩いているかのような赤裸々な手記にだんだん気持ちが沈んできます。自分は結婚弱者であると謙虚になってみたり相手に性的な魅力を感じないと断ってみたり、その場その場の言動や行動に一貫性がなくて多分に人間臭いです。
これに関しては、結婚を将来に対するリスクをヘッジするための恊働生活体と、性的な魅力を感じる異性(現在日本では異性婚しか制度的に認められていないので)との恋愛関係の中間に位置する現象と考えると、そりゃあ成立し難いはずだと思わなくもありません。前者であればパートナーに性的な魅力を感じなくともよく、ルームメイト的な形で共同生活をして人生のリスクを分散すればいいと思います。後者ならばそもそも恋をする相手がいることが前提であり、恋愛という状態や関係が先に立つのは変な感じがします。というか恋愛→結婚というプロセスが社会制度や常識に規定された単なる幻想なのか、それとも個人(生まれた家族以外という意味で)同士の高度な信頼関係の構築には必ず性愛が含まれなくてはならないものなのか、疑問は尽きません。
ところで、モテない私(本書によるとすでに結婚弱者)は危機感を感じるべきなのでしょうか?

崖っぷち高齢独身者 (光文社新書 354) 崖っぷち高齢独身者 (光文社新書 354)
(2008/06/17)
樋口康彦

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『放浪の天才数学者エルデシュ』著:ポール・ホフマン

原題は『The Man Who Loved Only Numbers(ただ数のみを愛した男)』。相当な奇人だったようですが、タイトルに反して子どもにも非常に優しく、自分なりに周囲への気遣いを忘れない人だったそうです。
定住地をもたず、世界中の数学者のもとをトランク一つで渡り歩き、83歳でこの世を去るまでに1500もの論文を書いたと言われる天才数学者ポール・エルデシュの伝記です。この人の凄いところは研究結果を他人と分かち合うことを厭わなかったことで、「エルデシュ数」と呼ばれる数があるそうです。エルデシュと共著を書いた人はエルデシュ数1、エルデシュ数1の人と共同研究した人は2という具合に決定されるそうですが、そもそもそのような数が考えられていること自体がこの人の偉大さというか異常さを表していると言っていいでしょう。
とにかく奇矯で、社会の中で「普通に」生きていくことは難しいだろうと思われるような人ですが、僕には迷い無く、ただ一つのことに自分の生命と人生のすべてを使っているエルデシュの生き方がとても美しく、そしてうらやましくも思えました。
ほんの十年ほど前になくなったそうで、自分が生きている時代にこんな偉大な人がいたのだということに非常に驚きました。そしてどう考えても数学に関する部分以外は非常に付き合いづらそうなエルデシュのことを優しく見守り、彼を支えた周囲の人々の心の広さに感じ入りました。

放浪の天才数学者エルデシュ 放浪の天才数学者エルデシュ
(2000/03)
ポール ホフマン

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『とらドラ8!』著:竹宮ゆゆこ 挿画:ヤス

もはや「ラブコメ」ではありませぬ。前巻までは各人が各人の思惑を知らずいびつな関係でしたが、本巻で当事者達にも事情が分かってきて、さらなる混沌に放り込まれている感じです。大人ぶって静観を決め込んでいる感じだった亜美も少し本音がのぞいたような感じですし。
この誰も幸せになれなさそうな状況は「True Tears」の中盤どころのようです。読者は傍観者なのでこんな事が言えますが、当事者は苦しくて仕方ないんでしょうね。ただ、事態は進展しそうな雰囲気が出てきてます。きっとT.T.の祐一郎みたいに竜児が何とかしてくれると信じています。次巻を待てってかんじです。後書きによると比較的待たずに読めるかもしれません。
しかし思えば長い道のりでしたが、竜児、モテモテです。

とらドラ 8 (8) (電撃文庫 た 20-11) とらドラ 8 (8) (電撃文庫 た 20-11)
(2008/08/10)
竹宮 ゆゆこ

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『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』著:伏見つかさ 挿画:かんざきひろ

リアル妹がいると二次元妹には萌えられないと巷でよく言われますが、私も同意するところです。リアルが幻想を駆逐するために、「妹」という単語のもつ魔力が失われてしまうのです。しかし私にとって本作の妹「桐乃」はなかなか微妙なところ。なぜなら個人的にきわめてリアルな造形だからです。
妹にしろ弟にしろ何だかんだいって生まれたときから見ているもんだからカワイイモンです。思春期になってギャンギャン吠え出して、いくら罵られ、いなかった事にされようとも、ふと垣間見せる隙で兄貴をやってる気分になるモンです。「桐乃」もそんな感じでして、ツン99対デレ1のわずかな隙をして、主人公の兄貴「京介」に「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」と言わしめます。うわーリアルー。
アマゾンのおすすめメールでタイトルを見て、近所の書店へゴーでした。手に取ってみると表紙がカワイかったです。
枝葉末節はともかくタイトルにピンときた、電撃文庫を普通に読むような兄貴諸氏は買って間違いないと思います。個人的には盛大にニヤニヤしました、色々と。
サブキャラが出オチな感じなんで続くみたいです。正座して待たせていただきます。
帯を見ると、なんと来月から川上稔先生が戻っていらっしゃるらしいですYO。今回も筆が速いのでしょうか?

俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫 (1639)) 俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫 (1639))
(2008/08/10)
伏見 つかさ

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クジラの彼を再読

誰と何するでもないので予約本もあるし図書館へ。
有川浩の『クジラの彼』が返ってきていたのでもう一回借りた。
で、この人の作品の面白さって、「友達の恋愛話を聞いている感覚」を思い起こさせるところにあるのかなぁと思った。ラノベ臭くなく、かつ難解でもなく、普段話している日本語に近い絶妙な口語体というかなんというか。とはいえ実生活において「大人の恋愛話」なんて聞いたこともないのですが。
『ラブコメ今昔』買おうかなぁ。

『国家の品格』著:藤原正彦

今更。
エリート至上主義、かつ教養主義的なご年配の男性が私見を綴った本という印象は拭えません。が、「品格」というか、思考するための座標軸となるメンタリティを教えられない今の日本人ってどこか変なんじゃないの?というのは何となく分かるような気がします。完全に自由で中立的な立場をとろうとすると何もいえなくなるなぁというのは実感しているので。
あと、現在世界のパラダイムとなっている資本主義+グローバリズムは人間の本性に合ってないんじゃね?という言説については論としては根拠が不足している気もしますが、しっくりきます。共産主義と同じくいつかは思想的に超克されるんでしょうかねぇ、どんな思想なのか、僕には想像もつきませんが。原因は世界恐慌かはたまた環境問題か。後者かなぁ。

『ヰタ・セクスアリス』著:森鴎外

ヰタ・セクスアリス    新潮文庫 ヰタ・セクスアリス 新潮文庫
(1949/11)
森 鴎外

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森鴎外先生の著作。
教科書に載っていた舞姫には正直ギョッとした記憶がありますが、こちらはサラサラ読めました。
自分の顔面にコンプレックスを感じて非モテメンタリティに陥ってた割に、吉原で女性経験をして変に自信がついたりと現代的に解釈しても面白いなぁと。
個人的にはやはり硬派と書いてホモと読む古賀とイケメンの児島と三角同盟と称してつるんでるのが一番面白かったです。あと、辞書でエロい言葉を引いて率先して覚えているのとか共感しました。
変なところで横文字を使ってみたり、衒学的にエロを論じている所に非常に好感が持てました。

『皇国の守護者1 反逆の戦場』著:佐藤大輔

巻末よりあらすじを引用

雪氷舞う<皇国>最北の地に
鋼の奔流が押し寄せた
最新の装備に身を固めた
<帝国>軍の破竹の進撃に
<皇国>軍は為す術なく壊走する
敵情視察を命じられた
殿軍の兵站将校、新城中尉は
僚友の為、剣牙虎の千早と共に
死力を尽くし、敵の猛攻に
立ち向かうが……

ということで熱狂的なファンを持つ皇国の守護者です。文体はいかにも戦記ものっぽいややお堅い感じ。ラノベに脳が最適化されていたせいで慣れるまで時間がかかりました。
この作品、なにより主人公の新城直衛が素敵でございます。戦記の主人公なら身の丈六尺を超える偉丈夫が標準、ラノベなら美少年かそこそこ見れる顔の中肉中背って感じでしょうがこの作品の場合、短身で顔は凶相と言い切っています。何より近親感がわきます。
かといって胆力のある勇者なのかと思いきや、突撃のときに小便ちびります。そのくせ

死して無能な護国の鬼となるより生きて姑息な弱兵と誹られた方が好みだ

なんて言ってのけます。

まぁ、戦記モノなので戦上手なのは当然なんですが。それ以外にも色々性格が捻じ曲がってて、読んでいて飽きません。自分の性格も勘定に入れて自分を飼いならしている直衛には憧れます。
主人公の性格でも結構お腹いっぱいになれますが、この作品の肝はやはり直衛の愛虎、千早でしょう。イメージはプリンセス天功の飼い虎ですが、巨体で主人公にじゃれるのがカワイイの何の。マダラオオキバネコ可愛いよマダラオオキバネコ。

という感じです。ストーリーはとにかく雪原が赤く染まります。いかにも寒そうです。軍事関係は良く分からんのですが、ファンタジーでありながらしっかり積み上げがあって話に厚みがあります。
非常に良質のコミックがあり、それから入ったのですが、原作者と漫画家が喧嘩してこれからってところで終わってしまったらしく。原作を読んで作品の面白さを確認しただけに本当に惜しまれてなりません。

皇国の守護者〈1〉反逆の戦場 (C・NOVELSファンタジア) 皇国の守護者〈1〉反逆の戦場 (C・NOVELSファンタジア)
(1998/07)
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『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか』著:西村博之

研究室の先輩から借りまして。

ひろゆきってよく知りませんでした。なんとなく変人だなって印象はありましたが、つまるところこの人は徹底的なリアリストなんですね、世の中を凄くシンプルに見てて、ホント言ってることが

見も蓋もない。見習いたい部分もあるなと思います。
面白いけど中身は薄め。独特の視点を導入できるという点においては有用かも。

『MAMA』著:紅玉いづき 挿画:カラス

あらすじ
魔術の盛んな国ガーダルシアのおちこぼれ少女トトは、数百年前に封印された孤独な<人喰いの魔物>を偶然に目覚めさせてしまう、片耳と引き換えに彼と契約し、強大な魔力を得たトトは、彼のママになることを決意する…。

というわけで、『ミミズクと夜の王』の紅玉いづき先生の新作です。ようやく読むことができました。

やはりこの作品の肝はトトと魔物の歪な関係でしょう。愛に飢えている人間の気持ちは、普通の愛情の連鎖の中にいたには決して理解できないのでしょうが、前者を救えるのは、やはり後者しかいないんだよななどと思ったり。
『ミミズク~』と同じく読んだあとに心が温かくなる素敵なお話でした。この先生の書く物語には、やはり独特の読後感があります。次回作も楽しみに待たせていただきます。