投稿者「uterium」のアーカイブ

『音律と音韻の科学』著:小方厚

「なぜピアノの鍵盤は12個で1オクターブなのか?」「そもそもオクターブって何?」という疑問を持ったことがある人、音が波であることは知っていて音楽を聴くことを楽しみ、なんとなく法則性があるんだろうけど、それを構築している理屈が全く分からない。そんな人にはお勧めの本でしょう。

「全く音楽をやったことがない人間でもこれくらい分かるでしょう」というところから音律(どの周波数の音に名前をつけるか)と音階(音律の中のどの音を曲に使うか)の説明,音律の歴史的な変遷、音の協和という概念から和音、モードの説明へと進みます。

音楽が他の学問と違うところは感覚、技術の養成と理論が同時に行われるところでしょう。私はそのあたりをすっ飛ばしてるので後半に行けば行くほど訳が分からなくなりました。とはいえ音楽の聞こえ方が変わってくることは事実だと思うので。それだけで読んだ価値はあったかとおもいます。

コードに複雑ながら法則性があることを知っていれば、中学のときにギターを断念することもなかったろうに…。もしもの話はしてもしょうがないですが…。
この本を読んで興味を持ってこんなページを見つけたのですが、純音の聴き比べなら何とかなるかもしれなくても、曲だと調律の違いが分かりません。若干違うかな?という程度にしかならない。12セント(100分の1オクターブ)の違いなんて分かるか!

MIDIによる調律法聴きくらべのページ

『ROOM NO.1301 1~4』著:新井輝 挿画:さっち

少し前ですが、大変エロいと評判になった小説です。
彼女とは手もつなげないくせに複数の女性と関係を持ってしまう男のお話です。主人公含め13階(タイトルの1301は部屋番号)の住人の壊れっぷりというか、感覚のぶっ飛び方は非常に興味深い。その辺りから来る作品の雰囲気だけで個人的には続きが読めます。

あともう一つ、評判に偽りはありません。全年齢向けのエロといえば「寸止め」が代表的でしょうが、そっちが青少年的なもどかしさを演出するのに対して、こちらは「中抜き」、事前と事後しか書いてません、それがまた大変湿っぽい。とはいえその湿っぽさが全体の雰囲気に繋がってる部分もあるんだろうなと思いますよ。レーベルの制約もあるんだろうけどそれを逆手にとってて上手いなぁと。
つづきもいずれ読みます。

『ラッセル 幸福論』 著:バートランド・ラッセル

著者はかのバートランド・ラッセル
論理学の大家という印象しかありませんで、こんな本を書いているとは露知らず、はじめは著者が誰なのか分かりませんでした。
2部仕立てで第1部で不幸の原因を探り、第2部でそれを踏まえたうえで幸福になるための方法を提案するというものになっています。
ある方面からの幸福になりやすい心の持ち方などを提案している著作はいくらか読んできたことがありますが、ここまで包括的に扱っているものは初めて読みました。また、第1部の分析の鋭さも素晴らしくて、この本の原作が1930年に書かれたとは思えないほど、現代でも通用するようなものです。
感心した文は多々ありますが、その中から一節。

成功感によって生活がエンジョイしやすくなることは、私も否定はしない。 ―中略― また、金というものが、ある一点までは幸福をいやます上で大いに役立つことも、私は否定しない。 ―中略― 私が主張したいのは、成功は幸福の一つの要素でしかないので、成功を得るために他の要素がすべて犠牲にされたとすれば、あまりにも高い代価を支払ったことになる、ということである。

やたらに成功のみが強調される今の時代に、成功を志して日々努力しつつも、アンチテーゼとして心に留めておいてもいい一節だと思いますが。
原文はフリーで読めるそうです。しかし、原文のタイトルはConquest~なんですな。
Bertrand Russell’s The Conquest of Happiness

「聖者の異端書」 著:内田響子

作者は内田響子さんという方。
「狼と香辛料」のような、登場人物がものを食べていそうな感じのするファンタジー。キリスト教的な一神教が存在する世界が舞台。
合理的な考え方ができすぎてしまう自分に悩む小国のお姫様が主人公。結婚式の当日に相手が消失、いろいろな人から死んだことにしろと言われるが納得できずに探しに旅に出る。その旅程を手記のような形で綴ったお話。
個人的には上に書いた、主人公の逡巡と、タイトルの「聖者の異端書」というある種矛盾した文言の秘密が良かったと思いました。
狭いとはいえ色々な地域を旅するのですが、一巻完結なので個々の描写は薄め。
タイトルに引かれて手に取りましたが、当たりでした。