投稿者「uterium」のアーカイブ

『大人のいない国 成熟社会の未熟なあなた』 著:内田樹

著者は内田樹と鷲田清一。最近この辺の人たちの本を良く読みますね。
読む人によっては「何を勝手なことを」と言い出してもおかしくないのに、割と納得しながら読んでいた私は批判的知性に欠けるのか、それとも本当にそう思っているのか。
大人というか、成熟というテーマで、現代という時代の解釈に第三者の視点というか、言われてみれば納得できるんだけど、自分では考えつかない、あるいは考えついても上手く言葉に出来ないことを導入する本です。
二人とも高度に知的であり、かつ恐ろしく弁が立つので凄く分かった気になるのですが、それを実際にどう実践していくかは自分で考えるしかないのだよな。
世情を見聞きするに、色々腑に落ちない事がある、そんな貴方が読めばちょっとすっきりするかもしれません。放談って感じですが、非常に小気味が良いので。
内容はオムニバスでありつつ、蛇足感はないのですが、値段の割に中身が少なく、無駄にハードカバーでごまかされている気分になりました。新書にしてページ増やして値段を下げて、ページ単価を上げてくれれば良いのになぁ、って所だけ不満。

大人のいない国―成熟社会の未熟なあなた (ピンポイント選書) 大人のいない国―成熟社会の未熟なあなた (ピンポイント選書)
(2008/10)
鷲田 清一内田 樹

商品詳細を見る

『灼眼のシャナ17』

虜囚の身にあるシャナのお話。登場するキャラクター含めて、伏線を回収して物語をたたみにかかっている感じがします。
壊滅状態にされたフレイムヘイズ側が反撃の狼煙を上げそうな感じで、これまでの短編などで個別に活躍してきた各人がシャナたちの住んでる世界に関連してくる感じでなかなかどうして面白くなってきました。
特に印象に残ったのは吉田さんが普通の人らしからぬ「世界」云々という思考を巡らす一節でした。この辺りが読者か作者を代表している感じがして大変面白いです。
つまるところこの物語はボク(悠二)と戦う美少女たるキミ(シャナ)を軸にしたセカイ系っぽいディテールを含んでいる訳です。しかし、この一節で確信が強まったのですが、意図的にそこを脱しようとしている感じを受けます。この作品ではペルベオルはじめ諸々の登場人物が口にする「この世はままならぬ」という台詞や、先代の炎髪灼眼の討ち手や古来から延々と続くフレイムヘイズと徒の戦いのエピソードからくる時間的な広がり、サイドストーリーで補完される世界の広がりが物語に厚みを加えています。不老不死の身体、卓越した戦闘能力、自在法といった個人としての強さだけでは簡単に世界は揺らがないぞ、みたいな感じになっています。まぁ悠二が蛇と合一してしまって、結局ボクとキミでセカイの危機なんで、セカイ系であることに変わりはなく、大河作品であるが故に尺をいっぱいに使っているだけとも読めるんですが。
とにかくこの辺りの世界の厚みが、私がこの作品を愛好する理由だったりします。
前巻までの話の流れがよっぽど分かりにくかったのか、本文中で要約が入ってたのもちょっとニヤけました。どっかから突っ込まれでもしたのでしょうか?
最後の伏線は何なのか、思いつかないし読み返す時間もないので、次の巻以降をまた楽しみに待とうと思います。
しかし大作になりすぎて簡単に他人に薦められんなぁw

灼眼のシャナ 17 (17) (電撃文庫 た 14-23) 灼眼のシャナ 17 (17) (電撃文庫 た 14-23)
(2008/11/10)
高橋 弥七郎

商品詳細を見る

『ちぐはぐな身体 ファッションって何?』

著者は鷲田清一、個人的に最近熱い思想家です。
私事ですが、去年くらいからどういう風に服を着ようか、自分なりに考えるようになりました。ですが、どうもカッコいい(流行の?)服みたいなものも年によって変わっていくみたいで、なかなか落としどころが分かりません。結局センスのいいやつが勝つんだろうと思う訳ですが、そのセンスというのも、流行という一定のルールに縛られながら、それを逸脱しないようにいかに自分の個性を表出させるか、というもののようです。逆に個性を極めすぎると、奇天烈過ぎてかえってダサく見えるみたいなものもあるようで、全く訳が分かりません。
こういう自分自身を他者から区別する道筋が、必然性の無いルールみたいなものに既に縛られているという構造は何も流行の服に限った物ではなく、ジェンダーによる服装のコードだったり、身体の恥部の箇所の規定だったり、私たちの身体にまつわるあらゆる部分を縛っている。しかし、それは悪いことばかりではなくて、自分で自分自身を完全に認識することが出来ないが故に揺らぐ自分自身の輪郭を、衣服や身だしなみのルールに従うことで固定化しているのだ。というのが本書の主張の一つで、かなりしっくりきました。
我々は思考やコミュニケーションの形態だけでなく、身体的な意味においても人々の間で共有されるルールにガチガチに縛られて生きているのだというのは非常に興味深いです。群れる生き物である以上,コミュニケーションが人間にとってかなり大切な事象であり、自分の外見も含めて他人とのコミュニケーションの手段なんだろうなと思いました。モテる(異性とのコミュニケーションの舞台に上る)ための服とか、脱オタ(擬態)のための服とかいったものが極めて無難なものになる所以。
この本を読めばファッションセンスが良くなるとか、そういうことは無いです。ただ、服ってなんなんだみたいなのに納得がしたい向きにはおすすめというか、自分なりの思考の端緒になる一冊なのではないでしょうか?哲学者の書いた本にしてはかなり普及帯の難易度だと思うので。
中で引用されていた中島梓(実は栗本薫と同一人物らしい)の「コミュニケーション不全症候群」も面白そうなので、折りをみて読んでみようと思います。

ちぐはぐな身体―ファッションって何? (ちくま文庫) ちぐはぐな身体―ファッションって何? (ちくま文庫)
(2005/01)
鷲田 清一

商品詳細を見る

『All You Need Is Kill』 著:桜坂洋 挿画:安倍吉俊

著者は桜坂洋。
しばらく確保していたのですが、友人とメッセでメタフィクションの話になったので引っ張りだしてきました。
この手のループ型メタフィクション系の作品では短い上に、凄くまとまりが良くて、入門としては最適な気がします。その分ループを脱出したろうと決意するまでの経緯が薄い感じですが、人間5回も殺されればくそ度胸が着くのかなぁ。あり得ない状況だから想像できない。
不老不死にしてもそうですが,時間から遊離してしまうが故の孤独こそ真の孤独なのかなぁと思いました.どんなに孤独でも世界のどこかには自分と同じ時間を共有してくれる人間がいるかもしれませんが,この作品のようになってしまうとどうしようもないですからねぇ.いざ自分がその立場に置かれた時にゃどうなるんでしょう,なかなか想像しがたいものです.

ALL YOU NEED IS KILL (集英社スーパーダッシュ文庫) ALL YOU NEED IS KILL (集英社スーパーダッシュ文庫)
(2004/12)
桜坂 洋

商品詳細を見る

『境界線上のホライゾン1下』

境界線上のホライゾン 1下 (1) (電撃文庫 か 5-31 GENESISシリーズ) 境界線上のホライゾン 1下 (1) (電撃文庫 か 5-31 GENESISシリーズ)
(2008/10/10)
川上 稔

商品詳細を見る

分厚いです。近所の本屋で買ったのですが一冊しか入荷していませんでしたよ。800ページて何ね!?
で、内容ですが、大変に熱い。それこそ設定やらキャラクター紹介やらを上巻で説明し終えているので、あとがきにあるように1巻からクライマックスな感じです。超人体術を余すこと無く表現していると言える戦闘シーンもさることながら、舌戦も大変素敵でした。変態描写も増量でサービス満点。これだけ分量があって破綻してないのが凄いよなぁ。
好きな一節は主人公達の隣のクラスの先生の言葉。

楽しいことが一杯あればいいと思う。嫌なこともあるだろうが、それ以上にいいことを見つけられればいいと思う。それも、就職とか、裕福とか、そういうこととは別のこと。
(中略)
上手く生きていく方法を教えることが出来るとは思えない。だが、自覚して教えていることが一つだけある。それは、
「そのためにも、……死なないこと。絶対に、自分で自分を殺さないこと。ーーそれだけは憶えておいて下さい」

フィクションとはいえ良い先生です。最近の若者は幼いと文句はたれるくせに、「資産運用」みたいな大人になってから覚えればいい些末なことを小学校から教えるよりも遙かに教育的です。結局勉強するのは自分なので、教育自体が教えられることはこういう事だけなんだろうと思います。
表紙の裏にキャラクターメイキングが書いてあるのに下巻で気づきました。続きをワクテカしながら待ってます。次はいつだろうか?

『はじめて学ぶジェンダー論』

ジェンダーというと、保健の教科書に載っているような「体の性別以外の部分での男らしさ、女らしさ」的な理解と、小うるさいフェミニストのおばちゃんの理論武装(失礼)みたいなイメージしかなかったのですが、案外人間ってのは常識という名前のジェンダーに縛られて生きているんだなと言うのが分かりました。
最近の世相とかを見てると、たしかにジェンダー問題ってのは女性だけのものではないんではないかと思います。ここのコメント欄で盛り上がっているように「スイーツ(笑)に寄生されるなんて結婚は人生の墓場!」とか「なんで男が必ず声をかけて交際関係をリードしなくてはならないのか」と主張して「男のジェンダーしんどいよ」と言い出している男性も少なくないような気がします。現代日本ではこの手の問題がねじれてきているんだなぁという印象が。
結局この本でも村上龍が言うように「自立した個人として他人と関係しろ」と主張しています。個人的に同意しますし、自分としても目指したいところなんですが、それを「スピリチュアル」と言っているのが個人的にNGでした。なにせ自分の中で一二を争う「胡散臭いワード」なもので。そんな宗教的な概念に頼らなくても、現実を生きている存在として、個として確立された自由な存在というのは一つの理想型と言い切ってしまって良いのではないかと思うのです。
とはいえこういうジェンダー論も現代特有のものなのかなと思わなくもないです。昔は生活、生存上の余裕のなさから、共同体でリスクをヘッジしなくてはならず、個人主義なんて許されなかったのだろうし。こういう現代的な思想というのは、現代社会が文明の力を使って生存リスクを下げ、人間を個人単位に解体することを許容したという証左なんでしょう。200年、300年後、天然資源が尽きて再び人類に余裕が無くなったときに、どういった人間の単位が発生するのか、見てみたい気もします。
どういう行動をするにしろ、いままでこういう思想に触れたことのない人には、無意識下で自分を縛っているなにかを意識下に引きずり下ろして自分を再構築する意味で、この本は読む価値があると思います。スピリチュアル云々はお好みで。

『いぬかみっ1~14+』

友人から貸してもらいました。
映画版でやたらに変態を強調するのでどんな作品やねんと思っていましたが。なにげにハートフル、というかこういうの好きです。いぬかみ(犬神)だけあって登場人物の1/3が犬っぽいのが犬好きとしては大変にかわいい。ともはね(幼女)とかいいですね、父性本能がくすぐられます。
とかく変態変態いっておりますが、基本的に共同生活系のハートフルラブコメです。主人公が最後にモテるようになるのもお約束。王道です。デレデレ言い寄られるのがお好きならきっと満足できるでしょうな。僕も好きです。愛するよりも愛されたいMAJIDE!

『境界線上のホライゾン1上』

川上稔先生の新作にござります。しかしのっけから500ページ超えとはぶっ飛ばしています。設定集が740ページあるとか、物語の骨子はティーンエイジャーのときにできているとかどんだけーです。
独特でぶっ飛んでいる会話と高速度カメラでとった動画をスローモーションで再生しているかのような独特の殺陣の描写が稔節です、これだけでお腹いっぱい。ハイテク剣とか鎧とかたまらんです。さとやすさんの絵も相変わらずまロくて素敵にござります。
とにかく世界観と登場人物が複雑極まりなく、把握するのに必死でしたが、本書を通過しておくことで次巻以降が楽になるのでしょうか?
キャラ的に好みを言うと、弄られっぷりに浅間、百合っぽいのでマルガとマルゴット、でも

「いい?どんなに着飾っていたって、ただ着飾っているだけなら趣味。人から見た自分を意識して着飾るようになって表現。それによって人を惹き付けられる着飾りができて御洒落。そして自分が欲しい点数を持っている人の目を奪う着飾りが出来たらー憧れを手にした、と言うのよね。」

この辺のやり取りで東とミリアムが一位です。主人公のトーリはまだ得体が知れません。今後に期待。

『オタクはすでに死んでいる』

著者はオタキングこと岡田斗司夫。
案外今のオタクはダメだ!とこき下ろす本ではなかったのが安心。
この本で言うところの「オタクが死んだ」は「強制収容所→隠者の楽園」だったオタクという共通の幻想はもはや消え果ててしまって、アニメとかマンガとかいったコンテンツの消費に血道を上げるただの消費者になってしまったよという事だと思います。
基本的に「求道的にある種の文化を担う現代の隠者」=「オタク」という認識を著者は持っていて、それを前提で話を進めているわけですが、本来的にはこの定義が正しいですね。
なぜ「オタクが死んだ」のかに対して本書では特に、特定の文化を維持するために払われるべき排他的な努力がオタク文化においては払われなかったことを挙げています。隠者であるが故でしょうか?きっとみんな優しかったんですよ。
個人的には加えて、オタク文化に資本主義というか商売が過剰に入り込んだこと。個々のコンテンツそれ自体は非常に入り口が広いので、著者が言うところの「強いオタク」になれない、むしろ辛い現実から逃避したい人たちの受け皿になったということ。などがあるのではないかと思いました。いずれも本書にも何となく示されていることではありますが。
最終的に「成熟したくない病」にかかっている日本社会について語っているわけですが、なかなか言い回しが上手い上に割合謙虚で好きです。全体的に大分丸めて書いている印象は受けますが。

そういう「一方的な損を引き受ける覚悟」を大人と言うんですけどね。「一方的な得だけ、要求する根性」を子供っぽい、と言うんですけどねぇ。

自分もこんな風に自分の言葉で上手いこと言える人間になりたいものです。幼稚な趣味を持ちつつもね。

オタクはすでに死んでいる (新潮新書 258) オタクはすでに死んでいる (新潮新書 258)
(2008/04/15)
岡田斗司夫

商品詳細を見る

『白』

著者は原研哉,『デザインのデザイン』以来読んだデザインの本.
内容としては単なる色に留まらない,白という概念からイメージされるさまざまな事柄と,「白」を大切にしてきた日本的な感性について語った本という感じでしょうか.何分教養不足のためその程度のことしか言えません.
注連縄で作った方形の聖域をもって神様の拠り所とし,そこを神社の中心に据えるという日本神道の考え方には特に感心しました.汎神論的な思考ではそうやって神殿を作るんやなぁというか.
この本に語られる感性は著者独特のものとしても,ペダンチックを目指す人間としては,本書の題材となっている日本文化の基礎的教養位身につけるべきなのかしらと思いました.茶道華道は難しいにしても,国立博物館に等伯の松林図を見に行くくらいのことはできるだろうか?

白
(2008/05)
原 研哉

商品詳細を見る