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『Landreaall (24)』 著:おがきちか

どう読んだらよいのかわからない人も多いでしょう(ランドリオールと読みます)、知る人ぞ知るおがきちか先生の長編ファンタジー漫画。ワンピースは「海賊王に俺はなる!」な漫画ですが、本作はいうなれば「俺は王様に、なるの…かな?」といった趣。2014年1回目の新刊発売です。

続き物なので紹介が難しいのですが、王位継承権を巡って、かつて行方不明になった王女の忘れ形見である姫ユージェニの登場に揺れるアトルニア王国。そんな中、彼女の母親の足跡をたどるべく旅立った主人公達の両親が行方不明に。それを追いかける主人公のDX(本当にそういう名前なんです。ちゃんと作中で理屈がついているので気になった人はぜひ読んでください。大体6~7巻くらい)と妹のイオン、そしてなぜかついてくるDXの想い人で次期王妃のメイアンディア(どういう事情なのか気になる人はぜひ(ry)。両親の無事は(読者には)語られるが、両親の、そして続いてDXの前に立ちはだかるは、いかにも怪しかったクエンティン。アトルニア王国の闇に人生を狂わされ、王制への復讐を悲願とする彼の野望がついに明らかになる本巻。

さて、やっと本巻の話ができます。いろいろなエピソードが挿入され、一つの大きな目的に向かって最初から物語が動いて いない 本作ですが、本エントリーの枕文で書いたように「王様」にまつわるエピソードこそが、この作品の本筋=グランドクエストであろうという私の読みからすると、そこにド直球で切り込んでいるのが本巻です。主人公とその両親の前に立ちはだかるクエンティンは、ユージェニを使って王制を破壊しようとするまさにラスボス的な存在(「王様」というテーマに関して本当のラスボスは彼をも縛り付ける前王の狂気と呪い)であり、そんな彼はメイアンディアをも使ってDXを篭絡しようとします。そんな彼がどんな決断を下すのか?「王様とは何か」「権力とは何か」という問いに真剣に向き合いだした16巻あたりから,彼がどんな変化を見せているのか、次巻が非常に気になります。(本作は伏線が非常に緻密なのです。その辺の巧みさは私には到底語りえないのですが、「Landreaall」で検索をかけていただければ、非常にファナティックで緻密な考察が多数読めると思います。)

他にも、ユージェニに敗れた両親はいったいどうなってしまったのか?まさかそんなところから?と引っ張ってこられたお菓子メーカー「メルメル」の伏線、いろいろ続きが気になって仕方ありません。

今回の限定版には「馬」に関する小話が書かれた小冊子がついてきます。本作の馬は相当知的な生物なのですが、まぁ彼ら彼女らが何を考えているのかが語られて、先生本人が楽しんで描いたといっていたそうですが、趣味性抜群の逸品です。

漫画なのに相当読み込まないと咀嚼できない難儀な作品なのですが、読めばその緻密な世界観と複雑に張り巡らされた伏線とその回収の絶技に、いろいろ難しいことを考える人ほどズブズブと嵌まり込んでいく珍味のような本作。作者に思う存分作品を発表してもらいたいと思っているファンとしては、何とかファンが増えないものかと苦心しています。どうかこの駄文を読んで少しでも興味を持ったら、3巻、できれば7巻くらいまで読んでいただきたい。何度読んでも面白い、お得な作品です。

LAMY 2000 万年筆の故障

筆者は普段の書き物に万年筆を使っています.消耗品がほぼインクだけで,名前の通りずっと使えるので重宝しています.ホコリっぽいところで使うならともかく,机の上での書き物でエコなのが欲しければ,万年筆一択ではないでしょうか?筆者はこのLamy2000の万年筆を買って以来,5年間シャーペンの芯と消しゴムくらいしか筆記具を買っていません.

なんですが,そのLamy2000の万年筆が今回壊れてしまいました.

R0000395

 

 

 

 

 

こんな感じで……

R0000395 のコピー

 

 

 

 

 

ペン芯とインクタンクをつないでいる接合部が割れてしまっています.

正規取扱店で修理以来ができるとのことなので,修理に出してみます.ペンポイントも交換になるのでしょうか?

『マージナル・オペレーションF』著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

大抵のシリーズ小説というのは完結後に短編集が出ますが、本作もその1つです。本編は主人公の一人称視点で描かれていましたが、本作はいろいろなキャラクターに主観が移ります。勿論主人公もその一人ではありますが。本エントリーでは短編ごとに感想を書きたいと思います。

『マフィアの日』
本業はゲームライターのはずなのですが、見た目がいかにもそっちの人であることで有名なマフィア梶田さんが主人公で、彼の視点で語られる物語です。一言で言うならばハードボイルド小説です。アニメで言うと、カウボーイビバップを見ているような感じ。懸想にしているソフィーは自分が大嫌いな本編の主人公アラタが好き、人生うまくいかないもんですねぇ。とはいえ、アラタが自虐的に語る自分のビジネスを、他者がどう評価しているのか?という点が興味深いです。あとは、梶田がヒロインのはずのジブリールと境遇的に近いというのもシュールで面白いところでしょうか?

『父について』
子ども達の一人、ハサンから見たアラタのについての話です。個人的にはコレが一番面白かったかなと。なぜアラタが子ども達やオマルにあれほど信頼され、尊敬されているのか、その理由が語られます。アラタとオマルという2人の保護者が現れる前の子ども達の不遇な状況が語られるんですが、ぶっちゃけ読んでて辛いです。あとは、ハサンの視点からなのでムスリム的なものの見方で家族観や結婚観が語られるのも個人的には見所かなと。同時期に発売のコミック版の補助線になる作品です。あっちも2巻から俄然面白くなってきましたよ。

『赤毛の君』
第3者から見たジニの話。個人的にはあまり興味はそそられなかったかなぁと。楽屋ネタを聞かされてるような感じと言うか…。ジニが祖母からもらった携帯絨毯の一節はすごく面白かったです。そういう風に使うんだ!という驚きと、もとの家族の愛情の一端を垣間みた気がしました。

『ミャンマー取材私記』
一人の女性ジャーナリスト、イーヴァ・クロダの目を通して描かれるアラタの話。本編でも彼は繰り返し「自分は普通だ」と言っているけど、そんなことネェだろというのが第三者の目を通して描かれます。アラタは主人公補正でか、話が進めば進むほどモテるようになるのですが、このエピソードでも同じくある瞬間に突然アラタと「寝てもいい」と言い出します。一人称で描かれているにもかかわらず、なんでいきなりそうなったのかがサッパリ分かりません。正直羨ましい。

『チッタゴンにて』
最後のエピソードで主観がアラタに戻ります。バングラデシュで傭兵家業の次のビジネスを探しに行くアラタとジブリールが主要な登場人物です。要するにデート。アラタが徐々に女性らしくなるジブリールの魅力に煩悶しているのが分かります。現在進行形で発行されている『遥か凍土のカナン』で出てきたチッタゴンの宿、曾祖父(だっけ?)とオレーナよろしく一続きの部屋に二人で泊まります。スターシステム的な演出が憎い一遍です。

本編の隙間を埋める良い短編集だったと思います。次があるなら是非、ジブリールの視点から書かれた作品を読んでみたいですねぇ。

  

2014年6月の読書録

2014年6月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:2250ページ
ナイス数:19ナイス

人類は衰退しました 9 (ガガガ文庫)人類は衰退しました 9 (ガガガ文庫)感想
本作にて改めて思ったんだけども,わたしちゃん頭も切れるわ肉体的にもタフだわ潜在能力をブッパしてなくても十分すごいよね…といいつつ,あれだけ生きるのが大変な時代に,旧人類最後の高等教育機関で教育を受けた超エリートだもんな,さもありなん.メタ的には主人公補正なんだけど.
読了日:6月29日 著者:田中ロミオ
マージナル・オペレーション(2) (アフタヌーンKC)マージナル・オペレーション(2) (アフタヌーンKC)感想
原作短編集の,ハサンの回想の話が入っているというか,子どもたちの初期の冷遇っぷりとオマルが子どもたちのためにいかに骨を折り,更にそこにアラタが希望を運んできたのかがよく分かる.今のところ原作を補完するような位置づけになっているなぁと思う.
読了日:6月24日 著者:キムラダイスケ
恋は光 1 (ヤングジャンプコミックス)恋は光 1 (ヤングジャンプコミックス)
読了日:6月23日 著者:秋枝
マージナル・オペレーション [F] (星海社FICTIONS)マージナル・オペレーション [F] (星海社FICTIONS)感想
個人的にはハサン視点の短編が面白かった.子ども達がなぜ主人公をあんなに慕うのかが良く分かった.少年兵としての地獄のような体験からすれば,彼がどんなにありがたかったか計り知れない.その辺りが率直に語られてるのが良かった.
読了日:6月17日 著者:芝村裕吏,しずまよしのり
海上護衛戦 (角川文庫)海上護衛戦 (角川文庫)感想
初めて読んだが名著。この本が現代まで読み継がれ、遂には復刻を果たしたのは大変喜ばしいことだと思う。なんと言うか、負けるべくして負けたというか、太平洋戦争はグダグダだったのね…。そして、『蛍の墓』や『はだしのゲン』、『夏のあらし!』に描かれたような不幸はあるいは防げたのかもしれないという事も分かった。上に立つ人を選べるのなら、バカは選んじゃダメですわ、ホントに。
読了日:6月15日 著者:大井篤
アゲイン!!(12)<完> (KCデラックス)アゲイン!!(12)<完> (KCデラックス)
読了日:6月12日 著者:久保ミツロウ
中学性日記(2) (アクションコミックス(月刊アクション))中学性日記(2) (アクションコミックス(月刊アクション))感想
色々な人の思春期のヰタセクスアリスな体験を集めれば,この作品になるのかなぁと.おれも女子とこんな体験がしたかった……!ロリコンの友人に勧めてみようと思った.
読了日:6月12日 著者:シモダアサミ
新賢明なる投資家 上~割安株の見つけ方とバリュー投資を成功させる方法~《改訂版――現代に合わせた注解付き》 (ウィザードブックシリーズ)新賢明なる投資家 上~割安株の見つけ方とバリュー投資を成功させる方法~《改訂版――現代に合わせた注解付き》 (ウィザードブックシリーズ)感想
要するに博打なんだけど,本書によれば,打ち方はあるようだ.とにかく手数料を押さえて,欲を出さないこと.実際やってみるとなかなか難しいのだろうなぁ.
読了日:6月7日 著者:ベンジャミン・グレアム,ジェイソン・ツバイク
艦隊これくしょんー艦これーコミックアラカルト 舞鶴鎮守府編 4 (角川コミックス・エース 179-40)艦隊これくしょんー艦これーコミックアラカルト 舞鶴鎮守府編 4 (角川コミックス・エース 179-40)
読了日:6月5日 著者:角川ゲームス
アナーキー・イン・ザ・JK (ヤングジャンプコミックス)アナーキー・イン・ザ・JK (ヤングジャンプコミックス)
読了日:6月5日 著者:位置原光Z
レストー夫人 (ヤングジャンプコミックス)レストー夫人 (ヤングジャンプコミックス)
読了日:6月5日 著者:三島芳治

読書メーター

ものの「運用法」:ジーンズの修理

衣類というものは消耗品であり、上着や半ズボンなど、肌に直接触れないとか着られる季節が限られているものでない限りは、いかに上手に選んだとして もデザイン的に古びる、あるいは布が消耗して壊れるなどして数年で着られなくなるものだと思います。そんな中でジーンズというものは、普通のシルエットの物を選べばデザインが陳腐化することも少なく、多少古びた物を履いていてもそれなりの味があって許される気がします。また、最初は堅いデニム生地が、履く度に自分の体になじみ、自分の身体の捌きに応じた色落ちがするジーンズは長く付き合えるファッションアイテムとしてエコな一品と言えるでしょう。

とはいえ、古いけど味があるものとボロボロのものには違いがあるということで、ここでは穴の開いたジーンズをリペア専門店で修理してもらうということを紹介したいと思います。

今回修理に出したジーンズです。

 

P1050152

 

 

 

 

 

 

 

2006年から2008年くらいに買ったはずの普通のリーバイス501です。特にビンテージでもない本当に普通のマレーシア製です。色落ちで水色に近くなってきて、これはこれで合わせやすいジーンズです。

P1050151

 

 

 

 

 

右の膝に穴が空いています。

今回は自分で修理するのではなくプロに任せてみます。私自身も1年ほど前からお世話になっているリペアショップ、大阪梅田の北側にあるWoreksというお店です。古着屋が多いと言われる梅田中崎町に近いです。梅田茶屋街のロフト裏辺りからアクセスするのが分かりやすいと思います。

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修理後です。

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右ひざの穴がふさがれています。

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裏から見るとこんな感じ。また、生地が弱っていると言われた股下も補強してあります。  グラシン紙というか、ガーゼを1枚剥いだ奴と言うか、そんな感じの当て布がしてあります。のり付けしてあるみたいでちょっと固いんですが、何回か洗濯するうちに馴染んできます。

2か所の修理で2000円+税でした。同じリーバイスで、新しいのを買うよりは安いですね。

裁縫道具があれば自分でやってもいいんでしょうが、デニム生地はなんだかんだ言って堅いですし、見た目や裏地の処理なんかを見ても、ジーンズの修理はプロに任せてもいいんじゃないかなぁと思います。このジーンズをこれ以上修理するかどうかは正直迷っているのですが、これでしばらくは履き続けられそうです。

 

『海上護衛戦』 著:大井篤

「艦これ」ブームをきっかけに復刊された一冊ということで、最近こんな本ばかり読んでいるんですが、これもまた大変興味深い一冊でした。負け戦には学ぶことが多いといいますが、本書に語られる過去の大戦の負け様は。現代の日本にも通ずるところがあるような気がします。なにせ、日本が海上交通による資源の輸入に頼っているということに変わりはない訳ですから。

本書は要するに「海上護衛戦」とか「商戦護衛」と呼ばれる作戦行動、つまりは資 源を運ぶために海上を行き来する船を海軍が防衛する行為、を帝国海軍がいかに軽視し、そのためにいかにしてあの悲惨な敗戦を経験するに至ったのか?を時系列に沿って淡々と描いていく本です。太平洋戦争の後半に行くにつれて、日本が確保すべき海上交通、海上輸送線が、ものの見事に破壊されていきます。船、運んでいた資源、運んでいた船員や運ばれていた軍属の人たちの命、こういっちゃなんですが「もったいない」の一言につきます。戦争がいかに不毛な行為か、思い知らせるようです。

そもそもが批判的な視点から書かれた本とはいえ、太平洋戦争がいかにグダグダだったのかをこれでもかと見せつけられて、なかなかに辛いです。誰でも知ってそうな孫氏やマキャベリの本を読んでたら、そもそもが「これはアカン」となりそうなエピソードばかり。そもそもが国 民を飢えさせないために始めたはずの戦争の目的と手段が見事に主従逆転している様は、現場で適切な判断をするのがいかに難しいのかということを思い知らされると同時に、「もうちょっと何とかならんかったんか?」と思わざるを得ません。日本の学校教育で語られる、「火垂るの墓」的な苦しい夏の日々をもしかしたら避けられたのかもしれないと思うと、切なくなってきます。

古参のミリオタの方からは、解説の人選だったり、帯に描かれた「艦これ」のキャラクターだったりで批判をする人がどうもいるようなのですが、本書が復刊されたことは素直に喜んでいいんじゃないかなぁと思うのです(今更安全保障に ついての本を読み始めたような「にわか」の戯れ言ではありますが)。本書の前書きに語られるように、著者は本書を広く頒布して、後世の歴史家の判断材料を増やすことを意図していたようですから。歴史家でなくっても、賢者たらんと歴史に学び、飢えたり死んだり殺したりせずに済むために、本書は読んで間違いのない本の1つなのではないかと思います。

ちなみに本書を読むにあたり,以下のネット上の記事が非常に役立ちました.「やる夫でわかるシリーズ」には本当にハッとするようなスレッドが時々ありますね.大変勉強になります.このシリーズは今後も続いていくものと思われるので,大変楽しみに待っています.
やるやらできやら 艦これで学ぶ帝国海軍

思春期マンガ特集

気付けば書棚に「青春」ではなく「思春期」を取り扱ったマンガが多い…ということで、まとめて感想なり、紹介なりをしてみようと思います。作品の巻数等は投稿日(2014年6月15日前後現在)。

『放浪息子』 著:志村貴子 全15巻完結
言わずと知れた思春期マンガの大著でしょう。小学校高学年から高校3年生まで、体も心も大きく変わる思春期を丸ごと描ききった一作です。ただ思春期の少年少女を描くだけでなく、色々なセクシュアリティを持つ彼ら彼女らを、繊細な絵柄と話の展開で魅せます。その様はまさに「男らしさ」「女らしさ」とはなにか?という根本的な問いを我々に投げかけるかのようです。個人的には、墓場まで持ってこうと思っている作品。
過去に書いた感想はこちら

『中学性日記』 著:シモダアサミ 2014年6月現在 1巻 以降続刊
本作は肉体的な側面から思春期、というか第二次性徴期を取り扱ってるのかな?毛が生えたり胸が大きくなったり、あぁ確かに昔そんな事で悩んでたなぁと思い出す事請け合い。男としては、何かと女子と関わりのある作品に出てくる男の子連中が羨ましくて仕方が無い。
過去に書いた感想はこちら

『クズの本懐』 著:横槍メンゴ 2014年現在 3巻 以降続刊
これを思春期マンガと呼んでいいのかは分かりませんが、ただたださわやかな青春マンガよりはいささか肉感的で生々しい感じなので選出。とはいえ、肉体面というよりは精神面が中心的なテーマっぽい作品。ペッティングレベルの性描写があるんですが、それがまた「ぬくもりを求める」という感じで、単純に男性向けのちょっとエッチなマンガという感じもしません、即物的な感じがないんですよね。

『思春期シンドローム』 著:赤星トモ 2014年現在 1巻 以降続刊
この作品は女子高生が主人公のオムニバス作品。どっちかというと友人関係が話の軸になっているのかなという感じ。コンプレックスだったり、変なキャラ作り(いわゆる中二病)だったり、男性なのでこんな感じなのかしら?と共感はせず(できず)俯瞰的に眺めている感じ。

『富士山さんは思春期』 著:オジロマコト 2014年6月現在 3巻 以降続刊
この作品は幼なじみ同士が付き合い始めて…という作品です。男の子の目から見たときの「彼女」の生々しさの描写が秀逸、汗や肌の香り、体温が伝わってくるかのようです。彼女である富士山さんは181センチ成長中といういわゆる「巨女」ですが、まぁその辺はあんまり関係ないかなぁという感じ。あと、161センチの主人公が結構男らしくて、しっかり彼氏をしてるのがまた良いです。個人的に、この作品を読んだ時に感じる感覚はその辺で初々しいカップルを見たときに思わず応援したくなる気分に似ています。

というわけで手持ちの、ティーンエイジャーが主人公の作品のうち,「青春」というよりは「思春期」という気がする作品を集めてみました.絵柄も切り口も多様で,日本の漫画は多様性がありますね。

『ものづくりの科学史 世界を変えた≪標準革命≫』 著:橋下毅彦

世の中には、「原子力なんて、戦争に使われた技術を使うだなんて許せない!キーッ」という人がいるらしいです。そういう人に対して、「あなたが自分の意見を発信しているインターネットだって、もとは戦争に関係する技術ですよ。あと、原爆と原子力発電は別の技術ですよ。」と諭したり揶揄したりというのがお約束だそうです。ところが本書を読めば、「ある機械に使われている部品が、他の機械にも使える」というアイデア自体が、戦争によって大きく発展を遂げたということが分かります。まぁ、人間やはり命がかかってるところは大きく発展する(次は金もうけかなぁ…。)ということなんでしょう。

さて、そんな「ある機械に使われている部品が、他の部品にも使える。」要するに「標準化」「規格」「互換性」といった概念と、それを現実のものに実装していく過程を語ったのが本書です。本書によると標準化技術というものは戦争を発端とするようです(ちなみにフランスが起源)。物資が大量に投入され、かつ良く壊れるために修理の需要が大量発生する近代以降の戦争において、部品の標準化というのは非常に重要な軍事技術だったというわけです。しかし、フランスでは旧来の職人の反対に遭ったために標準化技術を花開かせる事はできず、結局それはアメリカで花開きました。世界各国が総力戦を戦った第一次、第二次世界大戦では、勝敗を分けた要素の1つに部品の標準化があったという指摘さえされています(日本は航空機製造における部品の標準化が非常に遅れていたらしい。)

戦後には主に経済的な理由で色々なものの標準化が行われていきます。例えば、陸上、海上輸送におけるコンテナの規格、紙のサイズ(A版、B版)、インターネットを支えるTCP/IPなどが一例です。本書では、それらが合理的に決まるものではない、という事を指摘しています。例えばコンピュータのキー配列(QWERTY配列)はタイプライター時代に作られたものであり、必ずしも合理的なものではありませんが、既に広く普及してしまっているので置換えは現実的ではありません(このようなボトムアップ的に決まった標準をデファクト・スタンダードという)。逆に何らかの組織によってトップダウン的に定められた標準を「デジューレ・スタンダード」といい、代表例は「ネジ」の規格です。最後に、標準、規格というものは巨大な技術システムを作る事で多大な利益をもたらすため、現代においては非常に重要な意味を持っていると締めくくっています。

我々が常識だと思っているものが、実は人類の偉大な発明品であるという事実に気付かされる良書です。技術系の人にも、そうでない人にも、一読を勧めたい一冊です。

2014年5月の読書録

2014年5月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:2694ページ
ナイス数:19ナイス

「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》 (講談社学術文庫)「ものづくり」の科学史 世界を変えた《標準革命》 (講談社学術文庫)感想
「原子力は戦争のための技術だから使っちゃダメ!キーッ!」と言ってしまう人への盛大な皮肉と言うか。そもそも[ある機械に使われてるネジを他のネジでも使える」という「概念」自体が、戦争の賜物なのだというのが非常に興味深い。まぁ、人間命がかかれば必死になりますわ。
読了日:5月30日 著者:橋本毅彦
昔話のできるまで (ヤングジャンプコミックス)昔話のできるまで (ヤングジャンプコミックス)感想
メガネで巨乳の女子高生…。それはともかく、表題作「昔話のできるまで」で、最後にメインの2人が子ども作る気満々なのが面白かった。その辺の性におおらかな感じも、日本神話っぽいというか。まさかアオハル連載していたときは短編集で読めると思っていなかったので、ありがたやありがたやという感じ。
読了日:5月25日 著者:山田穣
雑居時代 上 (集英社文庫―コバルトシリーズ 52-G)雑居時代 上 (集英社文庫―コバルトシリーズ 52-G)感想
PCゲーム『魔法使いの夜』の元ネタの1つということで読んだが,これがどうして期待以上に面白かった(氷室先生に失礼な話だが).日本が十分に豊かになった後の作品だからだろう,物質的には今と変わらない感じで(デジタル機器は一切登場しないが)文体ともども古さを感じさせない. あと,上記の作品の原作であるのみならず,倉橋数子というキャラクターが,奈須さんが描くヒロインに色々影響を与えてるんだなぁという感じがとてもする.血の繋がった相手を好き,という設定は『空の境界』の鮮花だろうしなぁ(ちと無理やりか).
読了日:5月20日 著者:氷室冴子
マージナル・オペレーション(1) (アフタヌーンKC)マージナル・オペレーション(1) (アフタヌーンKC)感想
原作のファンなんだけども,アラタが自分が殺人に加担していたと知った後にシャウイーのところに行くシーン,身体に出るくらい精神がショックを受けたときに,他人のぬくもりを求めるという描写は,やはり絵があると違うもんだなぁと.ジブリールたんはよ.
読了日:5月10日 著者:キムラダイスケ
アルスラーン戦記(2) (少年マガジンコミックス)アルスラーン戦記(2) (少年マガジンコミックス)感想
今のところはファンタジーの王道という感じの展開.原作未読で,先が読みたければ原作を読むべきなんだろうけど,グッとこらえて先を待つべし.
読了日:5月10日 著者:荒川弘
アルスラーン戦記(1) (少年マガジンコミックス)アルスラーン戦記(1) (少年マガジンコミックス)
読了日:5月10日 著者:荒川弘
ストライクウィッチーズ 弐ノ巻―スオムスいらん子中隊恋する (角川スニーカー文庫)ストライクウィッチーズ 弐ノ巻―スオムスいらん子中隊恋する (角川スニーカー文庫)感想
テレビアニメ本編では分かりにくかったが、本作で、あの作品世界ではきちんと戦争をやっているのが分かった。読みやすく軽快な文章と端々から感じる第二次大戦への造詣がまさに良質の外伝だなと。
読了日:5月10日 著者:ヤマグチノボル
ストライクウィッチーズ―スオムスいらん子中隊がんばる (角川スニーカー文庫)ストライクウィッチーズ―スオムスいらん子中隊がんばる (角川スニーカー文庫)
読了日:5月10日 著者:ヤマグチノボル
魔女は月出づるところに眠る 中巻 ―月を引き下ろす者たち― (電撃文庫)魔女は月出づるところに眠る 中巻 ―月を引き下ろす者たち― (電撃文庫)
読了日:5月6日 著者:佐藤ケイ
後宮楽園球場 ハレムリーグ・ベースボール (集英社スーパーダッシュ文庫)後宮楽園球場 ハレムリーグ・ベースボール (集英社スーパーダッシュ文庫)
読了日:5月6日 著者:石川博品
薄花少女 1 (IKKI COMIX)薄花少女 1 (IKKI COMIX)
読了日:5月3日 著者:三浦靖冬
がらくたストリート (3) (バーズコミックス)がらくたストリート (3) (バーズコミックス)感想
一応完結ということで安心した.待っていてよかった.個人的にはこれこそが日常系作品.黒字出るくらい売れて欲しいよねぇ….
読了日:5月1日 著者:山田穣

読書メーター

『雑居時代 上』 著:氷室冴子

著者は、ライトノベルというか、ジュブナイル文芸の源流の一つといわれる氷室冴子。「上」とあるが、電子書籍版ではI(ローマ数字の1)。

美形で才気溢れる叔父に思いを寄せる優等生(実は表の顔と裏の顔を使い分けており、裏の顔は意外とじゃじゃ馬)倉橋数子は、海外に旅立つ別の親戚の屋敷の管理を買ってでる。なぜなら、突如現れた泥棒猫に最愛の叔父を寝取られたため…。そこに漫画家志望の家弓と浪人生の勉が転がり込み、かくして雑居生活が始まるのだった…。というあらすじ。他の登場人物も個性的で一筋縄でいかない人たちばかり…。まぁそもそも主人公からして近親相姦願望があるわけで…。

作品の初版は1982年、日本が十分に豊かになった後の作品だからだろう、物質的には今と変わらない感じで(デジタル機器は一切登場しないが)文体ともども古さを感じさせない。この手の文芸作品がエンターテインメントとして洗練され切っていない時代の作品だからだろう、出てくるキャラクターも「キャラ」というよりは「登場人物」という感じで、物語の展開もあっさりとしていて、現代のライトノベルに比べると、質の良い和食を食べているような感覚。

僕個人は1984年生まれなので、パソコンや携帯電話が存在しない世界というのが容易に想像できるんだけど、例えば2000年以降に生を受けた人たちに想像可能なのかはよく分からない…ので、是非とも若い読者の感想を聞いてみたいもの。彼ら、彼女らにとってこの手の世界観はむしろファンタジーのそれみたいなものなのかもしれないなぁ…。

PCゲーム『魔法使いの夜』の元ネタの1つということで読んだが、これがどうして期待以上に面白かった(氷室先生に失礼な話だが)。あと、上記の作品の原作であるのみならず、倉橋数子というキャラクターが、奈須さんが描くヒロインに色々影響を与えてるんだなぁという感じがとてもする。 血の繋がった相手を好き、という設定は『空の境界』の鮮花だろうしなぁ(ちと無理やりか)。 表の顔と裏の顔が随分違うというのは(優等生の万能超人キャラにある意味定番の設定の1つだろうが)、青子、鮮花、凛に共通の設定だしなぁ。TYPE-MOONファンは一読の価値があるかもしれない。

絶版だが、2014年ごろから電子書籍で入手可能。Kindle版では一応「原文のまま」となっているが、結構言葉狩りに逢っているかも…。その場合は古本を入手すればいいとは思うが。