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『ものづくりの科学史 世界を変えた≪標準革命≫』 著:橋下毅彦

世の中には、「原子力なんて、戦争に使われた技術を使うだなんて許せない!キーッ」という人がいるらしいです。そういう人に対して、「あなたが自分の意見を発信しているインターネットだって、もとは戦争に関係する技術ですよ。あと、原爆と原子力発電は別の技術ですよ。」と諭したり揶揄したりというのがお約束だそうです。ところが本書を読めば、「ある機械に使われている部品が、他の機械にも使える」というアイデア自体が、戦争によって大きく発展を遂げたということが分かります。まぁ、人間やはり命がかかってるところは大きく発展する(次は金もうけかなぁ…。)ということなんでしょう。

さて、そんな「ある機械に使われている部品が、他の部品にも使える。」要するに「標準化」「規格」「互換性」といった概念と、それを現実のものに実装していく過程を語ったのが本書です。本書によると標準化技術というものは戦争を発端とするようです(ちなみにフランスが起源)。物資が大量に投入され、かつ良く壊れるために修理の需要が大量発生する近代以降の戦争において、部品の標準化というのは非常に重要な軍事技術だったというわけです。しかし、フランスでは旧来の職人の反対に遭ったために標準化技術を花開かせる事はできず、結局それはアメリカで花開きました。世界各国が総力戦を戦った第一次、第二次世界大戦では、勝敗を分けた要素の1つに部品の標準化があったという指摘さえされています(日本は航空機製造における部品の標準化が非常に遅れていたらしい。)

戦後には主に経済的な理由で色々なものの標準化が行われていきます。例えば、陸上、海上輸送におけるコンテナの規格、紙のサイズ(A版、B版)、インターネットを支えるTCP/IPなどが一例です。本書では、それらが合理的に決まるものではない、という事を指摘しています。例えばコンピュータのキー配列(QWERTY配列)はタイプライター時代に作られたものであり、必ずしも合理的なものではありませんが、既に広く普及してしまっているので置換えは現実的ではありません(このようなボトムアップ的に決まった標準をデファクト・スタンダードという)。逆に何らかの組織によってトップダウン的に定められた標準を「デジューレ・スタンダード」といい、代表例は「ネジ」の規格です。最後に、標準、規格というものは巨大な技術システムを作る事で多大な利益をもたらすため、現代においては非常に重要な意味を持っていると締めくくっています。

我々が常識だと思っているものが、実は人類の偉大な発明品であるという事実に気付かされる良書です。技術系の人にも、そうでない人にも、一読を勧めたい一冊です。