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『女子のてにをは (1)』 著:るなツー

アニメを見ている人ならば、男性向け深夜アニメの一つの主流として、女性しか出てこない作品があるという事をご存知でしょう。良くあるのが、女子校にカメラを設置したような感じで、そこでの女の子たちのキャッキャウフフを神の視点で鑑賞するという作品です。中には、ソフトな女性同性愛(いわゆる百合)だったり、そこから一歩踏み込んでしまった作品もあって、男性に人気を博している状況です。

本作はそんな感じで女性ばかり、特に女子高生のてにをはつまりは学校生活、日常生活を綴った作品です。特定の主人公がいないオムニバス形式の作品。上記のようにゴテゴテした感じはうけず、あくまでサラッと流す感じ。百合作品やそこから一歩踏み込んでる作品と比べると、コーラと無糖炭酸くらいの違いはあるように感じます。まぁどうも共学のようで男子も普通に出てきますし。

帯にもあるように、どうも30歳になって絵を描きはじめた女性が41歳にして単行本レビューというふれこみで、著者のプロフィール故か、厳密な時代考証は不明ですがレトロな感じ。何せ、「図書カード」、「昼休みに放送委員にかけてもらうCD」などなど、今でもあるのかどうか分からない懐かしいアイテムが満載です。個人的には、昭和後期から平成初期くらいの偏差値のそこそこ高い高校なのかな?という印象を受けます。荒れてる感じもないですし、十分に物質的文化的に豊かですし。

以前感想を書いた『思春期シンドローム』も同じようなテーマを扱っていますが、絵柄も作風も全く違って面白いです。素材とストーリー以外にもいろいろな味付けが出てくるのがマンガの面白さ。著者の来歴を含めて、日本のマンガ界の裾野の広さ、作風の多様さを表す一作と言えましょう。

『雑居時代 上』 著:氷室冴子

著者は、ライトノベルというか、ジュブナイル文芸の源流の一つといわれる氷室冴子。「上」とあるが、電子書籍版ではI(ローマ数字の1)。

美形で才気溢れる叔父に思いを寄せる優等生(実は表の顔と裏の顔を使い分けており、裏の顔は意外とじゃじゃ馬)倉橋数子は、海外に旅立つ別の親戚の屋敷の管理を買ってでる。なぜなら、突如現れた泥棒猫に最愛の叔父を寝取られたため…。そこに漫画家志望の家弓と浪人生の勉が転がり込み、かくして雑居生活が始まるのだった…。というあらすじ。他の登場人物も個性的で一筋縄でいかない人たちばかり…。まぁそもそも主人公からして近親相姦願望があるわけで…。

作品の初版は1982年、日本が十分に豊かになった後の作品だからだろう、物質的には今と変わらない感じで(デジタル機器は一切登場しないが)文体ともども古さを感じさせない。この手の文芸作品がエンターテインメントとして洗練され切っていない時代の作品だからだろう、出てくるキャラクターも「キャラ」というよりは「登場人物」という感じで、物語の展開もあっさりとしていて、現代のライトノベルに比べると、質の良い和食を食べているような感覚。

僕個人は1984年生まれなので、パソコンや携帯電話が存在しない世界というのが容易に想像できるんだけど、例えば2000年以降に生を受けた人たちに想像可能なのかはよく分からない…ので、是非とも若い読者の感想を聞いてみたいもの。彼ら、彼女らにとってこの手の世界観はむしろファンタジーのそれみたいなものなのかもしれないなぁ…。

PCゲーム『魔法使いの夜』の元ネタの1つということで読んだが、これがどうして期待以上に面白かった(氷室先生に失礼な話だが)。あと、上記の作品の原作であるのみならず、倉橋数子というキャラクターが、奈須さんが描くヒロインに色々影響を与えてるんだなぁという感じがとてもする。 血の繋がった相手を好き、という設定は『空の境界』の鮮花だろうしなぁ(ちと無理やりか)。 表の顔と裏の顔が随分違うというのは(優等生の万能超人キャラにある意味定番の設定の1つだろうが)、青子、鮮花、凛に共通の設定だしなぁ。TYPE-MOONファンは一読の価値があるかもしれない。

絶版だが、2014年ごろから電子書籍で入手可能。Kindle版では一応「原文のまま」となっているが、結構言葉狩りに逢っているかも…。その場合は古本を入手すればいいとは思うが。