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『遙か凍土のカナン 3 石室の天使』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

ウクライナコサックの姫君オレーナを守りつつ、シベリアに国を作れとの密命を受けた大日本帝国陸軍の元士官、新田良造は、新たに出会った連れ合いのユダヤ人騎兵グレン、盗賊の姫ジニをつれて中央アジアを超えてサンクトペテルブルクを目指す。

……という筋書きの本作。本巻にて「寄り道=ジニの村の移設」が終わります。そして、前作の『マージナル・オペレーション』を読んでいればどこかで見たことがあるようなルックスで、どこかで聞いたことのあるような名前の女性が出てきます。彼女がどんな騒動を巻き起こすのか、そして何より、良造とオレーナの仲は進展するのか?

個人的に本作でおもしろかったのは「旅」と「開拓」の描写でしょうか。道を探し、水を求め、野営をする。未開の地を旅する人のあり方がよく描写されていて、自分も旅に出たくなってきました。それも、自転車や徒歩で、自分の足を使っての旅です。実際にはとても大変でしょうが……。野営の中で、なにせ出自の異なるメンバーの集まりですから、年齢の数え方やら何やら、文化の違いを語り合うところはなかなか興味深く読んでいました。後者は要するにテレビ番組『鉄腕DASH』の名物コーナー、DASH島のようです。アレ好きなんです……鉄腕DASH……。

あとは、良造の太公望ぶり!本作は基本的には良造の一人称視点で進むのですが、釣りに関する部分だけまさに目の色が変わったかのように文体が変わります。普段は淡々とした感じの語り口だけに、思わず吹き出してしまいました。是非本書を実際に読んでいただきたいところです。

最後の見所は、良造とオレーナの痴話ゲンカというかイチャイチャというか……というやつでしょうか。読み進めればニヤニヤすること請け合い。そして挿絵の、コサックの女性の衣装を着たオレーナがまた可愛いのです。本巻にて、二人の関係に一区切りつくのですが、さてどうなるかは読んでのお楽しみです。

『雑居時代 上』 著:氷室冴子

著者は、ライトノベルというか、ジュブナイル文芸の源流の一つといわれる氷室冴子。「上」とあるが、電子書籍版ではI(ローマ数字の1)。

美形で才気溢れる叔父に思いを寄せる優等生(実は表の顔と裏の顔を使い分けており、裏の顔は意外とじゃじゃ馬)倉橋数子は、海外に旅立つ別の親戚の屋敷の管理を買ってでる。なぜなら、突如現れた泥棒猫に最愛の叔父を寝取られたため…。そこに漫画家志望の家弓と浪人生の勉が転がり込み、かくして雑居生活が始まるのだった…。というあらすじ。他の登場人物も個性的で一筋縄でいかない人たちばかり…。まぁそもそも主人公からして近親相姦願望があるわけで…。

作品の初版は1982年、日本が十分に豊かになった後の作品だからだろう、物質的には今と変わらない感じで(デジタル機器は一切登場しないが)文体ともども古さを感じさせない。この手の文芸作品がエンターテインメントとして洗練され切っていない時代の作品だからだろう、出てくるキャラクターも「キャラ」というよりは「登場人物」という感じで、物語の展開もあっさりとしていて、現代のライトノベルに比べると、質の良い和食を食べているような感覚。

僕個人は1984年生まれなので、パソコンや携帯電話が存在しない世界というのが容易に想像できるんだけど、例えば2000年以降に生を受けた人たちに想像可能なのかはよく分からない…ので、是非とも若い読者の感想を聞いてみたいもの。彼ら、彼女らにとってこの手の世界観はむしろファンタジーのそれみたいなものなのかもしれないなぁ…。

PCゲーム『魔法使いの夜』の元ネタの1つということで読んだが、これがどうして期待以上に面白かった(氷室先生に失礼な話だが)。あと、上記の作品の原作であるのみならず、倉橋数子というキャラクターが、奈須さんが描くヒロインに色々影響を与えてるんだなぁという感じがとてもする。 血の繋がった相手を好き、という設定は『空の境界』の鮮花だろうしなぁ(ちと無理やりか)。 表の顔と裏の顔が随分違うというのは(優等生の万能超人キャラにある意味定番の設定の1つだろうが)、青子、鮮花、凛に共通の設定だしなぁ。TYPE-MOONファンは一読の価値があるかもしれない。

絶版だが、2014年ごろから電子書籍で入手可能。Kindle版では一応「原文のまま」となっているが、結構言葉狩りに逢っているかも…。その場合は古本を入手すればいいとは思うが。

 

ストライクウィッチーズ スオムスいらん子中隊 (1),(2) 著:ヤマグチノボル 挿画:島田フミカネ,上田梯子 原著:島田フミカネ,Projekt Kagonish

「パンツじゃないから恥ずかしくないもん」のキャッチフレーズで世間の一部の耳目をさらい,昨今の萌えミリタリーブームの先駆けとなったのであろうストライクウィチーズの外伝小説です.とりあえず手に入れた2巻までの感想をば.

本編よりさかのぼること〜年,本編で主人公グループとなった統合戦闘航空団(各国のエースパイロットを集めて作った国籍混成部隊)の先駆けとなった「スオムスいらん子中隊」が主人公となっています.要するに女の子が集まってキャッキャしてるだけなんでしょ?と言われるかもしれませんが,まぁおおむねその通りでございますという感じ.とはいえ個人的にはこれは「ネウロイとの戦争」を描いているという点において,世界観を広げる正統な外伝だなと思いました.本編だと個別のネウロイと戦ってはいるんだけど,全体としてネウロイVS人類の製品がどうなっているのか?というマクロな構造はあまり前面に出ていなかったように思います.しかし本作では,人類というかウィッチとネウロイの一進一退の戦況があり,その中でいらん子中隊がどう戦っていくのか,という話の構造になっています.この点にまずなるほどと思わされました.地上型のネウロイに対して航空歩兵では火力や鉄量が足りないという描写も印象的.2巻には本編では出てこなかった陸戦型ウィッチもチラッと出てきます.

とはいえ,本作の作者はかのルイズ@ゼロの使い魔を生み出したヤマグチノボル先生,出てくる美少女達も可愛くカッコよく描かれています.最初は各国の問題児が集められたという意味の「いらん子」を体現したまさに烏合の衆というにふさわしい状態だったのですが,様々な強敵ネウロイの出現に対して考えを改め,部隊の結束を固め,成長していきます.このあたりはまさに王道.後は割と濃厚な百合…というかレズビアン描写でしょうか?約一名が風紀を乱しまくります.

本編で作品世界に興味を持ったら,世界観を広げる意味でオススメの一作です.特に左脳で作品を理解する人間にはうってつけでしょう.ついでに最近出た画集+設定資料集の『WORLD WITCHES』辺りも併用すればかなり世界観が広がるのではないでしょうか?


 

『フルメタル・パニック! アナザー7』 著:大黒尚人 挿画:四季童子

本作の前身であるフルメタルパニック!の面白いところの1つは、少年向けエンターテインメントの定石である「戦闘能力の向上」という現象があまり表に出ていなかった(主人公の相楽宗介が、少年兵出身であるために最初から熟練の兵士という設定)事のように思える。まぁ、逆に単なる戦闘兵器(少年兵)から、ある意味で普通の人間へと回復していく過程が彼の成長となったわけだけども。で、本作が商業的な理由以外にどのような意図で始まったのかは置いておいて、単なるAS(Arm Slave:本作における搭乗型ロボット兵器)の試作機、派生機、発展機の紹介ではない、本作独特の方向性にいこうとしているように思う。

戦いを生業にする人の一つの山が、「最初の殺人」だというのはどこでだかは知らないけど良く言われる事なんだけれども、どうもここ2話くらいそのテーマが主題に挙がっているらしく、個人的にはとても楽しんでいる。前作ではその辺を戦士の不文律と呼んでいた気がするが、前作では描かれなかったその辺りが、どのように描かれるのか、今後も楽しみである。

ところで、主人公と、彼と同じ引き金を引いた菊乃の2名は戦士の最初の一山を超えられたのだろうか?どうもそうではないような気がしてしまうのだよな…。勿論作中でも戦ってるんだけど、じゃあ次、目の前にいる人を撃たなくてはならなくなったときに彼らはためらいなく引き金を引けるんだろうか?

 『ヴァンパイア・サマータイム』 著:石川博品 挿画:切符

昼を生きる人間と,夜を生きる吸血鬼が半分ずつ,世界を分け合っている世界.両親の経営するコンビニを手伝う主人公は,冷蔵庫のバックヤードから,同じ高校の吸血鬼のヒロインを見ている.とある事件をきっかけに2人の距離が縮まって行く….恋愛を「正直に」描いた良作だと思う.個人的にこの作品の白眉は,「境界」と「におい」である.
まずは「境界」について.思春期の男女にとって,異性は未知の存在だ.まぁ大人になっても分からないものだし,そもそも同性だって,腹の底で何を考えているのか分からんものだけれども.昼と夜,人間と吸血鬼,コンビニの冷蔵庫の,向こう側とこちら側,別の世界を生きている,未知の存在としてのお互いを協調するかのような「境界」のモチーフが,この作品には数多く登場する.恋愛とはいわば,相手との境界を越えて,お互いに幻想のベールをはがす過程であり,主人公達は正しくそのステップを踏んで行く.出だしでもたつき,とあるきっかけで境界を越えたら加速度的に,というのがリアル.
次に「におい」について,境界線が引いてあっても,たとえ壁があっても,密閉されていない限り漂ってくるのが「におい」である.本作では一貫して「匂い」でも「臭い」でもなく,「におい」と綴られる.悪臭か,はたまた芳香か,それを判断するのは人間であり,愛しい恋人のそれは,生臭い生き物の臭いであっても芳香なのだ.ふとした瞬間に触れた汗ばむ相手の肌,夏の暑さに香り立つ体臭,恋愛とは健全であっても決して清潔なものではないということを,本書は思い出させてくれる.
読めば恋人の躰に鼻を近づけたくなるなること請け合い(その後どうなるかに責任は持てないが).この恋の結末がいかなるものか?是非とも夏の夜に読んで欲しい一作である.

ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫) ヴァンパイア・サマータイム (ファミ通文庫)
(2013/07/29)
石川博品

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『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』 著:赤城大空 挿画:霜月えいと

赤城大空さんという方のデビュー作,何でも小学館ライトノベル大賞の優秀賞受賞作だそうで.受賞時のペンネームは「ペロペロ山根」トバしてますねぇ.有川浩さんの『図書館戦争』は言葉狩りがされた世界に関する素晴らしい思考実験だったわけですが,目の付け所はあの作品ばりにシャープだと思います.

岸田秀は「人間は本能が壊れた生き物である」と言っていて,人間の繁殖行動が「交尾」ではなく「セックス」である以上は,それが何らかの形で社会的に教育されないとマズいんだろうと思うわけですが,サブヒロイン?の暴走はまさにダメだという想像力を喚起するものでした.この辺の考察は見事.

作中で言われているように,人間が死ぬメカニズムは子どもにも教えられていて,人間が増えるメカニズムは教えられていない,でも大人は知っていて,人間は増えている.このミッシングリンクが社会的にどう埋められるのか?というところは興味があります.そこまで踏み込んじゃうとお気軽に読めるライトノベルじゃなくなってしまうのかな?

セックスレスと少子化で困ってる?世の中,「愛し合う人間同士がセックスすることは,気持ちいいし男女なら人間増えるし素晴らしいことだよ,みんなもっとセックスしよう!」くらいはっきり言ってしまって,その上で産まれてきた子どもが最大限幸せに大人になれるように諸制度を整えるくらいやっても良いと思うんですけどねぇ.私はそう思いますよ.

下ネタという概念が存在しない退屈な世界 (ガガガ文庫) 下ネタという概念が存在しない退屈な世界 (ガガガ文庫)
(2012/07/18)
赤城 大空

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性的唯幻論序説 (文春新書) 性的唯幻論序説 (文春新書)
(1999/07)
岸田 秀

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図書館戦争  図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫) 図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1) (角川文庫)
(2011/04/23)
有川 浩

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『マージナル・オペレーション 01』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

ガンパレードマーチの原作者 芝村裕吏先生の新作
30歳ニートが一年発起して就職したのはPMC,要は傭兵稼業.どうにもめぐりあわせが悪くて,適性がないと日本の職業社会からはじき出された主人公だったが,意外な才能を開花させて…という作品.まぁそんなにすんなりとはいかないのですが….
冴えない僕に隠された才能が,というのは中二的な妄想の最たるものでしょうが,なかなかどうしてこの作品は地に足がついているような気がします.才能だけで物事が自分の望む方向に転がることはないというのは,ある程度歳を取らないと分からないことのような.こちらで言われているように,ある程度年齢層高めの人向けの作品なのだろうな,という感じ.
地に足がついた,とか身も蓋もない,という形容詞が良く似合う作品ではありますが,ちゃんと女の子が出てくるのは安心していただきたいというか,ちゃんとエンターテインメント作品です.ジブリールちゃんマジ天使.
ちなみにここから試し読みできます.
01ということで続編の予定があるようで,非常に楽しみです.

マージナル・オペレーション 01 (星海社FICTIONS) マージナル・オペレーション 01 (星海社FICTIONS)
(2012/02/21)
芝村 裕吏

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『灼熱の小早川さん』 著:田中ロミオ 挿画:西邑

田中ロミオ先生の新作.しかしヒロインがメガネ,黒髪,委員長,どんだけ俺を萌え殺す気かと.
この作品を読んでいると,高校2年の時のクラスを思い出す.思い返せばこの作品の1年B組のような感じで,割と居心地が悪かったのだ.多分個人個人は善良だったのだけど,集団行動に無気力で規律や秩序はない,みたいなね.
勉強,スポーツ,人間関係,何事もそつなく器用にこなす主人公飯嶋直幸は,入学した高校でヒロイン小早川千尋に出会う.学級崩壊気味のクラスに掉さした彼女と深くかかわることになった主人公は…という話.
ヒロインを好きになった主人公の気持ちはすごく分かる.というか頑張ってる女の子の余裕のない様子を見たら,なんとか力になってあげたいとか思って好きになってしまうわい.往々にして,男の側の勘違い空回りだったりするけどな!
ヒロイン観察系,というあおり文句のとおり主人公の心理描写は比較的あるんだけど,ヒロインの心情は主人公がたまたま見つけたヒロインが管理人のブログへの書き込みでしか語られず,そしてそれは途中から出てこなくなる.ラストが駆け足なのは多分そのせいで,あそこはまさにずっと小早川さんのターンなのだ.あそこで彼女が何を考えているのか?ということを想像するのは個人的には楽しかったけど,逆に彼女の一人称で補完する話を読んでみたいなぁとも思う.きっと自分の気持ちと,主人公の裏切りと,自分を助けてくれたという事実で,心は千々に乱れたのだろうな.
タイトルとモチーフは明らかに『灼眼のシャナ』だよなぁと.炎の剣だし….
色々掘り下げが足りない気もするけど,田中ロミオの流れるような筆致に加えて,とにかく小早川さんが可愛い.久しぶりにグッと来てしまった.
あと,ヒロインは絶対ムッツリスケベだと思う.

灼熱の小早川さん (ガガガ文庫) 灼熱の小早川さん (ガガガ文庫)
(2011/09/17)
田中 ロミオ

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『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(2)』

ある意味きわめてリアルで、かつ限りなくフィクションである妹がでてくるシリーズ。今回はオタクを扱う作品では避けて通れないアレの話です。
一応気を使ったつもりですが、うまくネタバレ回避できている自信ががないんで未読の方はご注意を。
この作品の売りとして、フィクションなんだけどリアルなディテールがあると思っていて、それが前回は妹の桐乃と兄貴の京介の関係だったわけですね。じゃあ今回は何かというとオタクが背負ってる原罪というか、世間との関係って奴です。
そりゃあね、成人向け云々ってので肩身が狭いのは事実なんだけど、でも大抵のオタクは誰に迷惑をかけるでもなく、ただ余暇時間を自分の好きなことに当てているだけなんですよね。自分で作品を楽しむ、あるいは気の合うオタク友達と楽しむってだけならすごく楽しい、それこそオタクで良かった、この世は天国なんではないかという陶酔感ってこの人種をやってるなら少なからず経験があるんではないかと思います。
ただね、娑婆との関係ではそう簡単にはいきません。具体的に言うと一般人の友達だったり、年取ってから目覚めたのなら昔のクラスメイトとか、職場とか。M事件とかのせいか、日本の世間はオタクに厳しくて、実際はマシになってきていても、娑婆で自分がオタクだと認知されることには非常に抵抗感があると思うのです。嫌われるんじゃないかとかさ。いざそうなったときにオタクやめるのか、世間から逃げるのか、隠れるのか、開き直るのか、オタクとして生きるということを決意した瞬間から向き合わなきゃいけない問題なんではないかと思います。オタクって、割とお手軽にハッピーになれる分、人生の難易度は高くなる気がします。
さて閑話休題、今回は桐乃がその問題と戦います。そして兄貴の京介はそのために体を張ります。えぇ、兄貴ですからね。すごくテンプレートで上手く行き過ぎなんだけど、逃げない桐乃はカッコイイし、京介もすごく兄貴です。
でも京介が妹のために全力で体を張れるのは、幼なじみの麻奈実との絶対にお互いを裏切らないっていう信頼関係があるからだったりすると思うので、この作品で一番すごいのはきっと彼女なんだろうな。
もうちょっと読みどころがあったりするんですが、こんな感じで。
次回がどんな感じになるのか楽しみです。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈2〉 (電撃文庫) 俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈2〉 (電撃文庫)
(2008/12/05)
伏見 つかさ

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『灼眼のシャナ17』

虜囚の身にあるシャナのお話。登場するキャラクター含めて、伏線を回収して物語をたたみにかかっている感じがします。
壊滅状態にされたフレイムヘイズ側が反撃の狼煙を上げそうな感じで、これまでの短編などで個別に活躍してきた各人がシャナたちの住んでる世界に関連してくる感じでなかなかどうして面白くなってきました。
特に印象に残ったのは吉田さんが普通の人らしからぬ「世界」云々という思考を巡らす一節でした。この辺りが読者か作者を代表している感じがして大変面白いです。
つまるところこの物語はボク(悠二)と戦う美少女たるキミ(シャナ)を軸にしたセカイ系っぽいディテールを含んでいる訳です。しかし、この一節で確信が強まったのですが、意図的にそこを脱しようとしている感じを受けます。この作品ではペルベオルはじめ諸々の登場人物が口にする「この世はままならぬ」という台詞や、先代の炎髪灼眼の討ち手や古来から延々と続くフレイムヘイズと徒の戦いのエピソードからくる時間的な広がり、サイドストーリーで補完される世界の広がりが物語に厚みを加えています。不老不死の身体、卓越した戦闘能力、自在法といった個人としての強さだけでは簡単に世界は揺らがないぞ、みたいな感じになっています。まぁ悠二が蛇と合一してしまって、結局ボクとキミでセカイの危機なんで、セカイ系であることに変わりはなく、大河作品であるが故に尺をいっぱいに使っているだけとも読めるんですが。
とにかくこの辺りの世界の厚みが、私がこの作品を愛好する理由だったりします。
前巻までの話の流れがよっぽど分かりにくかったのか、本文中で要約が入ってたのもちょっとニヤけました。どっかから突っ込まれでもしたのでしょうか?
最後の伏線は何なのか、思いつかないし読み返す時間もないので、次の巻以降をまた楽しみに待とうと思います。
しかし大作になりすぎて簡単に他人に薦められんなぁw

灼眼のシャナ 17 (17) (電撃文庫 た 14-23) 灼眼のシャナ 17 (17) (電撃文庫 た 14-23)
(2008/11/10)
高橋 弥七郎

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