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『メイドインアビス 1〜6』著:つくしあきひと

正体不明の大穴アビスに挑む少女リコとおそらくアビスの底から来たものと思われる人型ロボットの少年レグ。緻密な設定、湿度と生暖かさを感じる作画、『苺ましまろ』のように可愛いキャラクター、そしてある種のフェティシズムを感じる生々しく、残酷な物語。

個人的に主人公のリコが格好良すぎる。惚れたのは某キャラクターに放った以下の一言。

相手を理解した上で、それを否定する。サイコーです。苺ましまろみたいなビジュアルなのにめっちゃ賢くてカッコいい。この世の汚い部分を知っても、それでも希望を捨てないキャラクターって私大変萌えるので。

リコ以外にも、奈落の底=アビスに魅せられた一癖も二癖もある、時には我々の常識から遊離した思想を持った登場人物達。物語には、時々自分の世界の常識から遊離した世界を描くものがある。科学の知識が支える世界観、自分なりの人生経験、学校の勉強で教わった地理歴史の知識、自分の身の回りの社会システム、そういったものが形作る世界の見え方を覆したり、それが唯一の物ではないのだ、ということを教えてくれる一作。2017年8月現在アニメも放送中。作中に出てくる「リコ飯」的な珍味。ぜひどうぞ。

 

『初情事まであと1時間』著:ノッツ

セックスは多様だと言いつつ、ドラマとしては、事ここに至るまでにいかなる感情と人間関係の綾が織りなされるかということが重要でありましょう(文筆家になりたければまず官能小説を書け、と言う説もあるそうですし)。本作はタイトルの通り、2人の男女が初めてのセックスに至るまでのラスト1時間だけを切り取った作品です。男性同士、女性同士になるとそれはそれで漫画のジャンルが変わっちゃうんですかね。

シチュエーションとしては多彩。高校生同士が彼女の実家で、とか、大学生の先輩後輩が彼女の下宿で、といった割と現実に良くありそうなものから、魔王の城の中で全滅寸前のパーティ、宇宙人にアブダクションされた初対面の男女といったファンタジーの世界まで、手広く押さえてあります。本作の場合、男性が押し切る、というよりは女性もノリノリになるのが多い。個人的には大変結構かなと。

ノッツさんの絵自体はデフォルメされたもので、所謂成人向け漫画のようにダイレクトにセクシーな感じではありませんが、漫画的な記号を駆使した羞恥表現等が上手いのか、こっちまで恥ずかしくなってきます。登場人物達がその後どんな風にセックスするのか、興味はありますが、まぁ寸止めがいいんでしょう。

というわけで、エッチなモノに興味津々のあなた、経験があれば自らの身に起こったことを思い出して、経験がなければまだ見ぬ彼氏彼女、恋人じゃないけどセックスすることになった相手との初夜を想像してお楽しみいただければよろしいかと思います。

 

『人馬』著:墨佳遼

『セントールの悩み』、『黒剣のクロニカ』で、個人的にはなんとなく人馬ブームが来ています。その一環で面白いと噂の本書を手に取りました。

中国や日本の様な東アジア風の世界観の世界で、人間同士の戦争の道具として家畜のように人馬が扱われる時代。山に住む輓馬のように体格の良い「松風」と、人間に両手をもがれた駿足の人馬「小雲雀」を二軸に、自由と種の存続をかけた人馬達の戦いが描かれます。『セントールの悩み』は人馬族が家畜的な扱いを受ける時代を経て人権意識が発達し、形態差別が禁止されるようになった現代風の世の中の話ですので、独立した作品ではありますが、前日譚のように読める作品とも言えるかもしれません。

作画は勢い重視。種族としての滅亡も考えられるくらい厳しい、針のむしろのような時代に自由を求めて戦う主人公達の勢いや熱さが物語の軸ですから、作風とマッチしていると思います。

実際の人間の歴史を見ると、肌の色が違ったり、宗教が違ったりというだけで「人間」に随分ひどい扱いをしてきたという事実がありますから、本作の人馬の扱い、決して架空のこととは言えないんですよね。色々問題はありますが、全体としてみると人間社会って良くなってますよね。

2巻で第一部完結、第二部も出るかも、とのことで、今から追いかけるには最適な作品だと思います。

 

『ぱらのま』著:kashmir

おそらく”Paranormal(超常、非日常)”と言う単語が名前の由来なのであろう紀行?マンガ。

にょろにょろっとした黒髪のナイスバディの残念なおねえさんが、デパ地下で買った駅弁を食べるためだけに電車に乗って富士山の方に行ってみたり、うどん食べるために寝台電車に乗って香川に行ってみたり。よく考えれば電車旅オンリーのマンガ。言われてみれば「鉄子」なのか。

とりあえず主人公は学生なのか働いているのかとか気になるのだが、まぁ本作においてそんなことはどうでも良いのかもしれない。なんとなく独り言や思考がおっさん臭い感じがして実に好みである。正直に告白すると、Twitterで下のコマの画像が流れてきて興味を持ったのだが、全編実に面白く読むことができた。

『ぱらのま』107ページより引用

Kashmir先生の作風、画風なんだろうが、日本を舞台にしているのに、妖精郷を覗いているような、そんな不思議な雰囲気のするマンガである。個人的に、こういう作風の作品は、なんとなく世界に安心感があって、その雰囲気に浸りたくて何度も読み返してしまうのだよな。

 

 

『初恋の世界 1,2』著:西烔子

都会のこだわり派コーヒー店で働きながら、「なんとなく」40歳になってしまった女性が主人公で、異動を命じられて故郷の町の支店に店長として移ってくる。そこにいたのはミステリアスな年下のイケメンで、彼が色々つっかかてきて、主人公も彼が気になる。さて、どうなるのか?

まぁ、最終的にどうなるかはともかく、とりあえず例のミステリアスなイケメンとくっつくんだろうなぁとは思うんですが、本作の重要な点は、主人公の「なんとなく40歳になってしまった」感が絶妙なところです。女性と男性では加齢に対する感覚も違うんだろうけど、一生懸命仕事をしていて、自分の好みに部屋の調度なんかを整えて、目の前にあるものをとりあえずこなしていたらいい年になっちゃった感覚は個人的によく分かります。

もう1点、本作の良いところは主人公の友人(オタ友)関係です。主人公含めて4人いるんですが、それぞれ家庭があって子育てしていたり、道ならぬ恋をしていたり、職場の男性に恋をしていたり、なんか色々あるんですが、それでも昔読んでいたマンガの既刊を大人買いして4人でごろごろしながらひたすら読んでいたり、裏ではお互いに対するあこがれや嫉妬心みたいなものも持ちつつ、昔からの関係を大切にしていて、歳をとっても仲良く遊んでる様子は得がたいなぁ、と思うのです。人生恋や愛だけでできているわけではないのです。

ということで、共感できれば男性でもきっと楽しめる作品だと思います。ぜひどうぞ。

 

『Landreaall (29)』著:おがきちか

アブセント・プリンセス編、後片付けとでも言うべき巻でしょうか。関わった人たちのその後の身の振り方が示されます。クエンティンは本作の中でもかなり明確な悪意を持った人でしたが、彼ですら不幸な過去に人生を狂わされた登場人物の一人に過ぎず、結局DX達が戦っていたのは過去の革命なんだなぁと思います。DX達の父親世代が運命に翻弄されて涙を流しつつ、それでもよかれと思って撒いた種がちゃんと芽を出したという感じです。

ついにユージェニの母親であるアンナ王女が何を考えていたのかが明らかになるんですが、彼女も愛を貫いたユージェニ同様強い女性でした。腕っ節も強いイオン、ユージェニ。けんかはできないけどディアや13巻辺りで腕を振るったトリクシーも、本作の女性はそれぞれ強くてかっこいいですね。

色々大きな切った張ったやったので、次はしばらく日常に戻るのでしょうか?で、大老、ディア、レイの人間関係はいろいろな人から様々な誤解を受けていて、色々気持ちの行き違いや誤解があるわけですが、どうもそのこんがらがったところが解消しそうな気配が。半年後が楽しみです。

ちなみに限定版には念願のアニメがついているんですが、まだ見ていないので、見てから感想は書くかもしれません。

そもそもどういう作品かはこちら

既刊の感想はこちら

 

『1518! 3』著:相田裕

一文で言うと、肩を壊した少年野球のピッチャーが、高校の生徒会で色々新しいことをはじめる話。

元々は相田裕先生が出していた『バーサス・アンダースロー』という全部で4〜5冊くらいの同人誌のシリーズがあったんですが、それを商業向けに作り直した作品です。前作の『Gunslinger Girl』で、挫折して色々失ってもなお続く人生、みたいなテーマですっごい作品を仕立て上げたんですが、本作もテーマは同じだなぁと。前作は壮大な心中の話のような感じだったんですが、本作には現代の日本が舞台ということで随分と優しくて温かい物語です。

同人誌版の場合、登場人物も限られているし、舞台もほとんどが学校で、まるで夢の中にいるような不思議な雰囲気が魅力でした。本作では色々ディテールが追加されて、最初、個人的には同人誌版の夢の中のような雰囲気が良かったなぁ思っていましたが、話が進んで、ぐんぐん良くなってきている気がします。3巻巻末の28.5話は、ヒロインの幸ちゃんと同じく目に涙が浮かんでしまいました。

イチローだって3割しか打てないわけで、残りの7割はいわば負けてるんですよね。一番目指して一生懸命頑張っても、次々新しい人が出てくるし、人間老いる以上は必ずどこかで負けたり、諦めたり、挫折を味わうんです。一番になるのも難しいけど、勝負から降りた後でどう生きていくかも結構難しい、昨今覚醒剤に手を出した元プロ野球選手がいたりしますが、成功や勝利が大きければ大きいほど、そこから降りたときは大変なのだろうと思います。挫折してもたいていの場合人生は続くわけで、そんな塩っぱい人生に折り合いつけて、どうやって楽しく生きていくか、一生懸命頑張ったことは無駄にはならないし、別のこと新しいこと始めても案外楽しめるかもしれないよ、と優しい言葉をかけてくれるような、そんな作品です。

 

  

『げんしけん 二代目の十二 21』著:木尾士目

大学オタクサークルを扱った有名作品の続編、完結です。

初代の2000年代前半に比べると、女性のオタクや腐女子の文化が随分世の中に広まってきまして、その流れを受けてか本作も男性のオタクから女性のオタクに主役が入れ替わり、最終的に初代から登場していた斑目くんに彼女ができるかどうかという話をやっておりました。ということで本巻でその決着がつくのですが、それとは別に初代のキャラクターが結構登場しまして、初代のようなワチャワチャを楽しそうにやっております。そんな同窓会のような感じがとても良いです。まぁぶっちゃけ、社会人になって昔からのオタク友達と会うときの感じがとても良く出ています。

ということで、二代目になって登場人物がガサッと入れ替わったので、読まなくなった諸氏もイルカもしれませんが、最終刊は懐かしい雰囲気がありますのでぜひリターンしてもらえればと思います。

個人的な話なんですが、大学生の時にちょうど『げんしけん』が始まりまして、さらにアフタヌーンを読み始め、家のブロードバンドが入ってインターネットも本格的にやりだし、コミケに行ったり、エロゲーを初めて買いに行ったり、僕は笹原くんと一緒にオタクになりました。失ったこともあるんでしょうが、楽しいことも多いのでまぁ後悔はありません。

 

『Landreaall (28)』著:おがきちか

非常に長期間に渡って描かれたアトルニア王国の過去に迫る「アブセント・プリンセス」編も完結です。27巻にてクエンティン、ユージェニ姫との決戦に勝利したDX一行。しかしクエンティンの隠し弾、人の秘めたる強い思いを暴走させる呪いが、オズモおじさん、タリオ卿と昼食を取っているアニューラスの中で炸裂します。クエンティンの呪いは大老も襲い、窓から身を投げようとしているところを助け出したフィルとエカリープのロビン。彼らが大老の部屋を訪れた目的は、ロビンを、祖父と目されている大老に会わせること。そして砂漠に放り出されたリゲインとファレルは?ということで、これらのイベントが決着します。

かねてから謎であったメイアンディアの天恵は、「記憶を取り戻させる」というものでした(色々応用は利くようですが)。大老の側にメイアンディアが寄り添っている理由は、呆けてしまった大老の記憶を取りもどさせて、国王として役目を果たせるようにするというもののようです。淑女と騎士という立場の上に強い信頼関係が結ばれた二人ですが、なんか複雑ですねぇ。

個人的にとても良かったなぁと思ったのは、クエンティンと六甲の相似性でしょうか?ディアの天恵で失われていた記憶を取り戻したクエンティン。その中にはアンナ王女と恋人の従騎士の思いやりというか恩というか、そういう記憶がありました。片や六甲は、知性を持った人型の道具とも言うべきニンジャとして生まれ、自分の命を非常に軽いものと、当初考えていました。そしてルッカフォート家の面々をはじめとして、人間として生きて良いのだよ、と言われて、ニンジャとしての自意識と絶えず衝突してきました。最たる物は23巻の六甲のセリフ「恩を返すために生きなければ」でしょうか?このセリフから考えると、自分に注がれた恩や思いやりを思い出してしまったクエンティンは、今後も生きなければならないんでしょうね。

生まれはあまり幸福ではなかったけれど、育つ過程で受けた恩や思いやり、その人本来の人間性のおかげで他人に害を与えず生きている人たち、『彼氏彼女の事情』の有馬くんとか、ハリー・ポッターシリーズのハリーなんかもそうですね。そういう話には年々弱くなる気がします。キャラクター本人への共感というよりは、どちらかというとそういう子たちを見守るおじさん役として、現実の若い子たちには優しくせんといかんなぁと思うのです。

他の巻の感想はこちら

Landreaallという作品全体についてはこちら

『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』著:永田カビ

持っている人には当たり前すぎても、持ってない人にはどうやって手に入れたら良いのか全く分からないのが「自尊心」とか「自信」というものだそうですが、おそらくそれにまつわる作品。

どうも親との関係が良くなかったのか、自分を大切にできなくなってしまい、自傷癖や摂食障害を持っているくらいだった著者が、一年発起してレズビアン風俗に挑戦してみて(してみるまでの過程で)、いろいろなことに気づく話。

タイトルにレポ、とありますが真に迫っている作品だと思います。頭のいい人なのかな?著者が少しずつ「自分を大切にすること」に気づいていくというか思い出していくというか、そういう過程がとても上手く言葉になっていると思います。たとえば、著者の場合特有の事情なのかもしれませんが、身だしなみを整えるといった当たり前の習慣も自尊心に結びついている(言われてみれば関連ありそうですが)ものなのだなと。

著者が風俗のお姉さんと関係を持ったときに気づいたことは、女性と女性だけの関係に限った話じゃないよなぁと思います。男女の関係でも、男性同士の関係でも一緒だと思います。荒廃している日本の「性」について縦横無尽に語った労作『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』にも似たようなことが書いてあったような。

pixivでも読めるんですが、色々と掘り下げてあってすごくわかりやすくなってますし、おまけマンガも着いているので、著者の創作活動を応援する意味でも是非一冊。とても良い作品ですよ。

pixivの実体験マンガは時々本当にすごい物がありますね。『死んで生き返りましたれぽ』も真に迫ったとても良い作品でした。こちらも是非どうぞ。