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『キッチンの歴史』著:ビー・ウィルソン 訳:真田由美子

主に西洋において、「台所」がいかに変化してきたのかについて歴史的な資料を漁って書かれた本です。取り扱われているテーマは以下の通り。

– 鍋釜類
– ナイフ(包丁)
– 火
– 計量(度量衡、計量カップや、レシピの変遷)
– 挽く(食べ物を混ぜたり攪拌したり、なめらかにしたり)
– 食べる(カトラリー)
– 冷やす(冷蔵庫)
– キッチン(結局のところ、昔から変わらない形をした料理道具と最新の料理機械が共存するのはなぜなのか?)

西洋の食文化ってのも、結構変わってきたのだなというのが分かって大変興味深いです。特にガスや電気コンロなどの煙の出ない熱源、そして生鮮食品を保存する冷凍冷蔵技術は食文化において非常に重要だったということがよく分かります。昔は台所というのは熱やら煙やらで劣悪な環境で、とりわけ粉を挽いたりメレンゲを作ったりといった労働は大変なものだったようで、特にお金持ちが食べるような凝った料理は、身分の低い人たちや場合によっては児童労働が担っていたようです。そう考えるとテクノロジーの進歩というものはありがたいものですねぇ、なんとか将来もこの何割引かの水準は維持されると良いんですけど……。

現代日本において偏屈なおじちゃんやおじいちゃんが、テクノロジーによって家事において楽をすることを批判したりする例がありますが(最近だと例えば高性能な抱っこひもが槍玉に上がったりしましたね)、どうも日本だけのものではないようですね。本書によれば台所仕事では結構欧米でもあったようです。

旅行で行く先の歴史を知ればその土地の見え方が変わってくるように、本書でキッチンの歴史を知れば、あなたが普段立つ台所の見え方が変わるかもしれない。そんな一冊です。

『シリア 戦場からの声 内戦 2012-2015』著:桜木健史

槍が降るなんて言葉がありますが、現代の日本に生きていると爆弾や銃弾が降ってくるということはあまり想像ができません。でも、世界にはそれが日常になっている国や地域があり、その1つが中東のシリアです。ISの件で国内のニュースで取り扱われ始めてから私はシリアのことを知ったわけですが、本書はISが対等する前、2011年頃から何度もシリアに渡り、その土地の空気を吸ってものを食べ、銃弾の雨の中取材をしてきた桜木健史さんという方の報告です。

大体第一次世界大戦後からのシリアの歴史が最初に語られて、その後は何回かのシリア取材の話が入ってきます。まだ死者を埋葬する余裕のあったアサド政権と反体制派の小競り合いの段階から、遺体を一つ一つ埋葬する余裕がなくなるくらい死が当たり前になってしまった現在の状況に至るまでが、一人の人間の目で語られます。最初は反体制派側にシンパシーを感じていたように読める筆者ですが次第にどちらの見方もそれぞれ偏っていて、かといってどちらの言い分も理解ができる、そんな風になっていきます。

本書を読んだおかげで、シリア内戦の経緯が理解できるようになってきましたし、Wikipediaなんかも併用しつつ、イスラム教の歴史と中東情勢のややこしさが分かるようになりました。シリア内戦には、イスラム教の宗派対立の側面があるのだなとよく分かりました。ただ理解が進むほど、出口がどこにあるのだろうかと途方に暮れます。アサド政権が倒れれば、政権が代表している少数派のアラウィー派の人々がどのような目に遭うのか、ちょっと想像したくはありませんし、かといってアサド政権下で言論の自由などが抑圧されていた状況が許容できるかというと、自分の身に置き換えてみればできません。本当に、どうすれば良いのでしょうね。

そんな暗い気分になる本ではありますが、これも世界のどこかで起きていること。まずは問題を認識して理解することから始めるために、この本は個人的には大変役に立つ本でありました。命をかけて現地の情報を伝えてきてくれた著者を応援する意味でも、まずは一冊いかがでしょうか?

『千の顔をもつ英雄』著:ジョゼフ・キャンベル 訳:倉田真木、斎藤静代、関根光宏

スターウォーズの原作者、ジョージ・ルーカスが参考にしたという神話学の名著らしい。ヨーロッパの諸民族からネイティブアメリカン、アフリカの原住民族まで、世界中のありとあらゆる文化圏で語られる神話には共通する構造(本書の中ではモノミスと呼ばれる)がある。それを解説する本。よくテンプレ展開とかお約束なんて言いますが、「そもそも英雄の物語(ビルドゥングス・ロマン)はお約束やテンプレでなり立っている物なのだよ!」「な、なんだってー!」ということです。

要するに、神話の中に登場する英雄は、「冒険に誘われ」、「助力者を得てそれまでいた世界の外に出て」、「試練を乗り越えて超越的な存在となり」、「再び元の世界の戻ってくる」という共通の物語の流れに沿って動くそうです。たしかに言われてみると、こういう話の流れをしているお話はいくらでもありそうな感じ。仏教、キリスト教、イスラム教の逸話にも、こういったモノミスの構造が見いだしうるそうです。

本作、面白いのが、なぜこのように世界中の文化圏で共通する神話の構造があるのかを、心理学に求めているところだと思います。個人的には心理学は勉強したことがないので正直よく分からないんですが、どんなところでも人間は母の腹から生まれて、長じてはコミュニティに一人前だと承認され、自然の恵みや驚異の中で生きる糧を得て、老いて、病んで、死ぬという部分が共通しているからであると言っています。まぁそうなんだろうと思います。

完全な思いつきではありますが、このモノミスの構造に従わない、音楽における無調性音楽のようなお話を作ったとして、それは面白いのでしょうか?……普通にありそうな気もしますが。

ある程度物語を鑑賞して、色々と実例を知ってから読んだ方がいいでしょうね。これまで鑑賞してきた物語の見え方が少し変わってくるかもしれない一冊。『まどか☆マギカ』なんて、エポックメイキングな作品でしたけど、驚くほどモノミスに忠実に作られているような気がします。

 

『補給戦―何が勝敗を決定するのか』 著:マーチン・ファン・クレフェルト、訳:佐藤 佐三郎

軍隊に対する補給あるいは兵站(へいたん)という視点から、近代以降の戦争を詳細に考察した書籍。ある筋では話題になった一作だそう。

取り扱う戦争は18世紀のヨーロッパでの戦争から、ナポレオンの戦争を経て第一次、第二次世界大戦までの陸戦。馬車で陸上輸送を行っていた時代から鉄道を経て自動車時代へ進んでいきます。「鉄道時代になって輸送力が向上したことにより戦争が変わった」みたいなことがざっくり言われたりしますが、現実を見てみると、実はそんなに物事ががらっと変わるわけではない、ということがよく分かりました。新しい技術が問題をすべて解決しているわけではなく、旧時代の技術(鉄道時代なら馬車、自動車時代なら鉄道など)を使ってなんとかやりくりしていたりすることが多かったりするのだなぁと。最後に紹介されるノルマンディー上陸作戦までは、とにかく兵站に苦労をしたんだという話が続くわけですが、最後に紹介されるノルマンディー上陸作戦は対照的に兵站に相当な気を配って実行されたものです。とはいえ歴史を見てみると連合国が楽勝したというわけでもないようで、兵站をきっちり整えれば戦争には必ず勝てる、というものでもないのだと結論づけられます。最初の期待からすると、割と「なんと身もふたもない……」というような印象。とはいえ、大変興味深い本でした。例えば、「18世紀頃の戦争というのは他国の資源で自国の軍隊を食わせるためのものだった」という考え方には「なるほどなぁ」と膝を打ちました。ひょっとすると男性の間引きって要素もあったのかもしれませんねぇ。

個人的には一部Wikipediaなどで戦役についての知識を補いつつ読みました。とはいえ、文章で書かれるだけではなかなか具体的なイメージが沸かず、インフォグラフィクスというか、うまいこと図版を多用してくれると、より理解が進んだろうなと思いました。やはり戦線は地図と照らし合わせてなんぼでしょう。ヨーロッパの地図でも用意してチェスの駒かなんかを使って動かしながら読むといいかもしれんなぁなどと思ったり。

巻末に、防衛省の研究所で戦史研究などをやっておられる石津朋之さんの解説があり、本書の主要な要旨はこれを読めば足りる、と思います。とはいえ本書を読んでから読むと、それがまた実に適切な要約であるということがよく分かります。この解説だけ読んでもいいんでしょうが、本書を手に取るような向きは、そこは本文を頑張るべきではなかろうかと思います。

兵站、という言葉を知った人は是非本書を読んでみることをオススメします、ものの見方が変わるかもしれません。現実に現在戦われている戦争のみならず、例えば国内外の災害時の軍隊や救助隊の活動、フィクションにおける戦争などにおいて、どうやって必要な物資を運んできているのだろうか?といった風な想像力が働くようになるかもしれません。

『食の文化史』著:大塚滋

雨にも負けず 風にも負けず (中略)一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ (後略) 宮沢賢治

日本と、海外の食文化の歴史についての概説です。

基本的に和食というものは、「めし=食事」ということからも分かるように塩気でご飯をたくさん食べるものであって、冒頭に引用した宮沢賢治の詩にあるように、「一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ」となるわけです。なぜそんな食生活が成立するかというと、米がアミノ酸を豊富に含んでいて、とくに玄米はビタミンBも含んでいて完全食品に近いからだったりするわけです。そもそももっと昔にはお米なんて上流階級しか食べられなくて、雑穀を食べていたりしたようですが。

それ以外にも宗教的なタブーが多い豚肉の話や、牛乳の話、発酵食品やパン、メンなど、古今東西の食文化について縦横無尽に語ります。メチャクチャ面白い。コレ一冊で色々創作の小ネタになりそうです。色々うんちくを傾けるネタとしても大変優秀。

ただ飯を食べるだけでは満足できない。そんな欲張りさんにオススメの一冊。

『海軍めしたき物語』『海軍めしたき総決算』著:高橋孟

戦争体験を語った本はいくつもありますが(出版されていませんが、うちの祖父も書いています)、そのうちの1つ。坂井三郎の『大空のサムライ』のような軍人の花形の血湧き肉躍るような回顧録ではなく、海軍の艦の中でタイトルにもあるように「めしたき」、要するに調理をやっていた方のお話です。

筆者は、太平洋戦争が始まる前に海軍の主計課(いわゆる経理課ですね)を希望して志願したわけですが、当初の希望とは裏腹に最初は烹炊兵として戦艦「霧島」に乗り込み、真珠湾攻撃からミッドウェー海戦までを乗組員として過ごします。その後試験を受けて主計兵として働き始め、経理学校にも通い(この辺で結婚もする)、武昌丸という砲艦に乗り込んで南方で活動した後、沈められて命からがら生き延びます。その後日本に帰って九州の飛行場で勤務していたら、終戦を迎えたというもの。最後は何人かの同僚と馬車を引いて、故郷の愛媛に帰るまでが描かれます。

「ギンバイ(食料品など、船の備品をちょろまかすこと)」や初年兵の時に浴びる強烈で陰湿な「シゴキ」など、記事の枕にも書いていますが血湧き肉躍るところがありません、というかあの時代に生まれなくて良かったと思うことばかり。軍隊といっても、結局組織を作っているのは人間であって、自分が所属してきたクラブ活動や会社にも通じるところがあるなぁと思ったりしました。本書の中に描かれている、復員の時の秩序も何もあったもんじゃない様子は、負けた軍隊ほど情けないものはないものだな、という感じです。

勇壮な戦記物とも、悲惨な空襲の記録とも違う、別角度からの「あの戦争」いかがでしょうか?

絶版になってしまっている本で、古本を手に入れたのですが、是非とも復刊して欲しいですよねぇ……。

 

『繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史』著:マット・リドレー  訳:大田直子, 鍛原多惠子, 柴田裕之

本書は

なぜ動物種の中で人類がこんなにも繁栄しているのか?に対する大胆な仮説であり
「昔は良かった」病に対するカウンターであり
自由貿易とグローバル化に対する強烈な楽観主義である

読んでみて受けた印象としては『銃・病原菌・鉄』と同じような感じであり、あの本もユーラシア大陸が東西に長いことによる耕作作物とその他技術、文明のポータビリティの良さが、ヨーロッパ文明が他の文明を駆逐しつつある現代の遠因として描かれていたが、本作でも1つの原則に従って論が進められる。経済学でいうところの比較優位の法則(筆者は経済学が専門ではないのでもしかしたら正確ではないかもしれないが)に従って専門性を深め、産物を交換することを通じて、生きるために必要な資源をより少ない時間で得られるようになることによって人類は繁栄したのであるのが本書の主要な主張だと思われる。

石器時代、他の霊長類ヒト科の諸種を滅ぼしてホモ・サピエンスが生態系の頂点に立つにいたる過程から、気候変動問題や人口問題、貧困問題まで、歴史的にみて、産物やアイデアの交換によってこれまで人類は全体として豊かになってきたので、これからもそうなるのではないか、そのための種子は現代の社会にも見られる。特にインターネットでアイデアの交換が容易になっているし、というもの。まぁ一章毎に大量の参考文献が引かれていて、なんというか学術書かと言わんばかり。

再生可能エネルギーをこき下ろしていたり(確かに景観破壊や環境破壊に繋がったりすることもある上に、電源として使い勝手は必ずしも良くないので、エネルギー問題のデウスエクスマキナではないのだけど)、遺伝子改良生物や作物マンセーなので、結構悲観的な私個人としては、理解はできるが、あんまり好きな感じではない。とはいえ、世の中全体としてどうなるかと、自分自身がどう生きるかは必ずしも一致させる必要はないんだよね。などと思ったり。読んでみると過去や現在、未来の見方に新しい視点を付け加えてくれるかもしれない一冊。

『男の作法』 著:池波正太郎

個人的には俺ツエー系ラノベの源流なんじゃないかと思えなくもない『剣客商売』の池波正太郎先生が、男の道楽について語ったエッセイ。同時期に伊丹十三の『ヨーロッパ退屈日記』も読みましたが、スノッブ臭が強すぎて個人的にはこっちの方が好みでした。

そばの食べ方、浮気について、万年筆について(いかにも作家らしい)、和服について、色々と生活の細々したところについて語るわけですが、戦前に生まれた方だけのことはあり、ちょっと時代錯誤な気もしないことはありません。とはいえ、自分なりにアレンジすれば現代の生活のちょっとした楽しみに出来そうなものもあります.特に,いろいろなことに気をやりながら同時平行に物事を進める、それを訓練するためには台所仕事が良いみたいな話は激しく同意するところです。特に平日の朝に弁当を詰めつつ朝食も作る際には同時並行作業が必須です。なんとなくこの辺りは、以前感想を書いた『女神搭載スマートフォンであなたの生活が劇的に変わる!』にも書いてあったような気もします。昭和の人なので家の仕事は女の仕事だとは言っていますが、男でもやったら良いんではないですかと思わなくもありません。まぁ、家事も賃仕事も、男女問わず出来た方が良いに決まってますよ。所帯の中でお互いスペアになりうるってのは、生活共同体としてより強固になるし。

あと、世の中お互い様というか、人間お互い支え合って世の中が成立しているから。他人に対する配慮を忘れちゃいけないっていうのはそう思うなぁと。信じられないくらい自分のことしか考えてないような人って、結構いますからねぇ……。

女性が本書を読んでどう思うかは分からんけど、男性なら、生活に「道楽」を持ち込んで日々を楽しくするヒントが載っているような気がする一冊。

『仕事に効く教養としての「世界史」』著:出口治明

割と(とても?)有名なネット生命保険会社の会長さんが、タイトルの通り外国の会社との商談だったり海外出張だったりの時に役に立つような世界史の知識を書いた本です。専門家ではないけど、よく勉強して頭の中が整理されている人の頭の中身を、テーマに沿って書いていくとこんな感じになるかなという本。

全10章構成で、内容的には

  1. 日本史と世界史の不可分性
  2. 歴史の発祥、中国について
  3. 宗教がなぜ生まれたのか?
  4. 中国という国を理解する鍵
  5. キリスト教
  6. ヨーロッパの大国(イングランド、フランス、ドイツ)の成り立ち
  7. 交易の重要性
  8. 遊牧民とヨーロッパ
  9. 人工国家、アメリカと共和制フランス
  10. アヘン戦争を軸に西洋文明が文明戦争の覇権を握るまで

こんな感じ。あとは前書きと、割と著者の啓発的なにおいの強い終章がついています。

個人的には読んでいてティーンエイジャーの頃のかすかな記憶が呼び覚まされるような感じ。とはいえ相変わらず人や王朝の名前は頭に入りません。自然環境の変化だったり、人間の一般的な心理だったり、そういうところから一般性や合理性のある歴史の法則性を見いだしているところがあり、その辺りは比較的楽しく読めました。個人的に歴史を勉強している動機はこの辺りなので、著者は私の先輩に当たるのかもしれませんね。

専門家が書いた本ではありませんが、一応書く際に内容のチェックはしているでしょうし、嘘は書いていないでしょう。手っ取り早く世界史の主要なトピックをさらってしまって、歴史理解の背骨を作るのにはいい本なのではないでしょうか?「世の中のあらましについてのザクッとした理解=教養」と仮定するならば本書は正しく「歴史の教養」の本だと思います。

『憲法主義 条文に書かれていない本質』著:南野森 内山奈月

2015年現在憲法を改正するだの、特に安全保障関係で日本の国の方針が大きく変わりそうな状況にあり、近い将来、改正に向けた動きが進むのだろうなぁという気がします。しかし、特に学校で教わったこともなく、自分として何も語る言葉、考える軸を持たないため、いろいろネットで探してみて良さそうな本があったので読んでみたという次第。結論としては、憲法改正問題に興味を持った人の最初の1冊として、非常にいい本なのではないかと思います。細かいことは、巻末に関連書籍が紹介されていますから、そこからいくつかかいつまんで読んでみれば良いのではないかと。

形式としては、憲法学の先生である南野森先生が、本書執筆時大学入学を控えるティーンエイジャーに、日本国憲法を題材にして、憲法学の考え方を講義をするという形式の本。最近感想を書いた『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』と同様の形式です。流行っているんでしょうか?お相手の内山奈月さんという方、どうもアイドルグループAKB48のメンバーらしく、私としては本書を読むまで名前を聞いたことはありませんでした。しかしまぁ、さすが慶応大学に入学予定ということもあり、よく勉強、というか特に日本国憲法についてはよく記憶している。先生がいちいち覚えていない条文を指摘したりと受け答えも聡明で快活な感じで書かれており(おそらく実際の受け答えも書かれ方に準じるものと推測されます)、個人的にはなかなか好印象でした。

触れられている内容としては、目次のタイトルと対応づけると以下のようになります。

  1. 憲法の基本(憲法が憲法たるための仕組みについての紹介、最高法規、硬性憲法、違憲審査制)
  2. 人権と立憲主義(憲法の成り立ち、社会契約と立憲主義)
  3. 国民主権と選挙(一票の格差問題、直接、間接民主制)
  4. 内閣と違憲審査制(最高裁判官の国民審査、日本の立法のやり方)
  5. 憲法の未来と変化(改憲、集団的自衛権)

前述の通り、全くの門外漢である私にとって非常にいい本でした。特に「立憲主義」つまりは憲法とは国民ではなく、国家権力の暴走を抑止するものであるという考え方、この立憲主義を実現するための道具建ての部分は、なるほどと思わせるものでした。まさにタイトルにあるとおり条文に書かれていない、条文の背後にある考え方や意図、日本国の政府が条文をいかに解釈してきたのかということが2人のやりとりを通じて解説されます。日本国憲法が「なぜ」こんな風に書かれているのかが分かれば、それを「なぜ」変えなければならないのか、改正案が「なぜ」このように書き換えられているのか、改正案は妥当なのか、こういったことが以前よりも分かるようになるような気がします。こういう疑問を持っている人には役に立つ本なのではないかと思います。

個人的には、義務教育終了時に本書に書かれているくらいの知識が全国民に一度インストールされているくらいじゃないと、十分な国民的議論を尽くした憲法改正なんてできないんじゃないかなと思うんですが…。改憲したい側は別に国民的議論なんてどうでもいいのかもしれませんけどね。