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『歴史とはなにか』著:岡田英弘

どうやら異端らしい歴史家の一冊。人類史に「歴史」と呼ばれるものは2種類しか存在したことがなく、地中海世界の歴史と中国の歴史ということだそうである。地中海世界の歴史はヘロドトスのそれであって、一定のエリア(昔はヨーロッパ)における国家の興亡を書いたもので、現在我々が学校で教えられる歴史はこっちの書き方である。中国の歴史は、司馬遷が書き始めた皇帝の「正統」の概念を表すものであって、フォーマットが強固に決まっていてどの王朝の歴史も同じような書き方になるせいで本当のところがどうだったのかは判別が難しいらしい。両者が出会ったのはモンゴル帝国の時代で、その時初めて「世界史」というものが誕生したということのようだ。

日本の歴史は日本書紀に始まるもので、古事記は「偽書(成立年代が偽られている)」というのが著者の説。日本書紀は天武天皇が、中国の王朝に対して日本の王朝が「正統」であることを示すために書かせたもので、万世一系といわれる日本の天皇家を中心とする歴史はこの時代に始まった(神武天皇とかどうとかは歴史というより神話上の存在)ということのようだ。

いわゆる歴史認識の問題を論じていたり、現代と古代の境界を国民国家の成立に置いて中世という区分は適当ではないと書いていたり、学校で教えられたこととは違うことがあれこれ書かれており、それも筋が通っている物だから面白い。国民国家という仕組みに限界が来ていると本書には書かれているが、その後国連やEU、NATOといった超国家的な組織の方にこそガタが来ている感じで、この本を書いた当時の著者が今の世界情勢を見たときにどのようなことを考えるのか、見て見たかったような気がする。

『会計が動かす世界の歴史 なぜ「文字」より先に「簿記」が生まれたのか』著:Rootport

「会計」、「簿記(特に複式簿記)」という切り口で世界史を縦断する一冊。本書は人間の「損得勘定」「貸し借り」という根本的な行動原理を記録する仕組みとして、「簿記」というものに着目します。複式簿記を使った会計の仕組みが発展する歴史的事件をつまみながら、暗号通貨や人工知能といった現代〜近い将来までをこの切り口で袈裟斬りです。

複式簿記は15世紀のルネサンス期イタリアで現代的な形が確定して以来、何世紀も同じ様式のものが使われ続けているそうで、そもそも文字が発明される以前のメソポタミア文明において貸借を記録するための簿記のような仕組み(テーブルゲームに使われるようなトークンが使われていたらしい)からすると千年を優に超える期間、同様の仕組みが人類社会に遍在しつつけているようです。作者はこの理由を、人類が集団生活を行う上で「貸し借り」を覚えておくことが極めて重要であり、簿記はそれを記録する仕組みとして本質的に人間が必要とするものだからではないか?としています。人間の生き物としての本性に、人類社会に共通するなにがしかの存在理由を求めるのはジョゼフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』のような論の広げ方ですね。個人的にこういう世界に対する視野が開ける感じの本は大好物なので、最初から最後まで徹頭徹尾読んでて面白くて仕方がありませんでした。

資料を掘り起こし、仮説を立てて戦わせ、歴史というジグソーパズルのピースを作るというよりは、先人の研究成果をある切り口で組み合わせ、1枚の見甲斐のある絵を組み立てるタイプの歴史の本。ダイヤモンド氏は歴史のピース作りもやっていたのかもしれませんが、タイプとしてはジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』と似たような本に感じました。

複式簿記の勉強のモチベーションを喚起する意味でも、歴史の一大スペクタクルとしても超おすすめの一冊です。複式簿記の本は一度読んであまりに問題集っぽすぎてダメだったんですが、「会計」の本を読めば良いのだと言うことがよく分かりました(そして本を買いました。)

『仕事に効く教養としての「世界史」』著:出口治明

割と(とても?)有名なネット生命保険会社の会長さんが、タイトルの通り外国の会社との商談だったり海外出張だったりの時に役に立つような世界史の知識を書いた本です。専門家ではないけど、よく勉強して頭の中が整理されている人の頭の中身を、テーマに沿って書いていくとこんな感じになるかなという本。

全10章構成で、内容的には

  1. 日本史と世界史の不可分性
  2. 歴史の発祥、中国について
  3. 宗教がなぜ生まれたのか?
  4. 中国という国を理解する鍵
  5. キリスト教
  6. ヨーロッパの大国(イングランド、フランス、ドイツ)の成り立ち
  7. 交易の重要性
  8. 遊牧民とヨーロッパ
  9. 人工国家、アメリカと共和制フランス
  10. アヘン戦争を軸に西洋文明が文明戦争の覇権を握るまで

こんな感じ。あとは前書きと、割と著者の啓発的なにおいの強い終章がついています。

個人的には読んでいてティーンエイジャーの頃のかすかな記憶が呼び覚まされるような感じ。とはいえ相変わらず人や王朝の名前は頭に入りません。自然環境の変化だったり、人間の一般的な心理だったり、そういうところから一般性や合理性のある歴史の法則性を見いだしているところがあり、その辺りは比較的楽しく読めました。個人的に歴史を勉強している動機はこの辺りなので、著者は私の先輩に当たるのかもしれませんね。

専門家が書いた本ではありませんが、一応書く際に内容のチェックはしているでしょうし、嘘は書いていないでしょう。手っ取り早く世界史の主要なトピックをさらってしまって、歴史理解の背骨を作るのにはいい本なのではないでしょうか?「世の中のあらましについてのザクッとした理解=教養」と仮定するならば本書は正しく「歴史の教養」の本だと思います。

『砂糖の世界史』 著:川北稔

砂糖という製品を媒体にして、近代の庶民生活、経済システムなどの変化を綴った本。岩波ジュニア新書なので小学生、中学生向けと思いきや、門外漢の大人にとっても良書なのは本書も同じく。

本書には「砂糖」、「コーヒー」、「お茶」、「カカオ(チョコレート)」など、現代に広くたしなまれている嗜好品が登場します。本書でそれらは近代初期に世界的に取引された商品、「世界商品」と呼ばれています。そしてそれらの世界商品がどのようにして社会に、特に日本を含めた西洋近代をベースとする社会に広がっていったのかが紹介されます。「三角貿易」という言葉がありますが、まさにその中心地域であった大西洋を中心とした南北アメリカ、ヨーロッパ、そしてアフリカが主な対象地域となります。単なる貿易についてだけでなく、当時の貴族や庶民の暮らし、そして「砂糖」などの製品を生産するために使役された現地人や黒人奴隷の様子までが縦横無尽に紹介されます。

「砂糖」という世界商品を題材とするだけで、現代に通じる生活習慣や経済システムなど、社会の諸要素がどのように成立したのかをかくも広範に説明できるのだなぁと感嘆しました。熱心な文系の学生でもない人間からすると、無味乾燥な語句と年表の組み合わせに過ぎなかった歴史に肉がついて見えてきます。確かに現代というものは、過去の歴史の土台の上に成立しているものであり、歴史を理解することは現代をよりよく理解することにつながるのだなと思いました。というか、初期の株式市場のバブルと崩壊なんて、現代と同じような物に見えてきます。正直言って人間ってここ300年くらい全く進歩してないんだと思えてきます。

ほんの3日ほど、4時間くらいで読み終わりましたし、扱っている題材は上にも書きましたが現代を理解する上で大変役に立つ興味深いものです。価格も安いですし、非常におすすめの良書です。下のアフィリエイトから是非ポチッとお願いいたします(苦笑)。