「会計」、「簿記(特に複式簿記)」という切り口で世界史を縦断する一冊。本書は人間の「損得勘定」「貸し借り」という根本的な行動原理を記録する仕組みとして、「簿記」というものに着目します。複式簿記を使った会計の仕組みが発展する歴史的事件をつまみながら、暗号通貨や人工知能といった現代〜近い将来までをこの切り口で袈裟斬りです。
複式簿記は15世紀のルネサンス期イタリアで現代的な形が確定して以来、何世紀も同じ様式のものが使われ続けているそうで、そもそも文字が発明される以前のメソポタミア文明において貸借を記録するための簿記のような仕組み(テーブルゲームに使われるようなトークンが使われていたらしい)からすると千年を優に超える期間、同様の仕組みが人類社会に遍在しつつけているようです。作者はこの理由を、人類が集団生活を行う上で「貸し借り」を覚えておくことが極めて重要であり、簿記はそれを記録する仕組みとして本質的に人間が必要とするものだからではないか?としています。人間の生き物としての本性に、人類社会に共通するなにがしかの存在理由を求めるのはジョゼフ・キャンベルの『千の顔を持つ英雄』のような論の広げ方ですね。個人的にこういう世界に対する視野が開ける感じの本は大好物なので、最初から最後まで徹頭徹尾読んでて面白くて仕方がありませんでした。
資料を掘り起こし、仮説を立てて戦わせ、歴史というジグソーパズルのピースを作るというよりは、先人の研究成果をある切り口で組み合わせ、1枚の見甲斐のある絵を組み立てるタイプの歴史の本。ダイヤモンド氏は歴史のピース作りもやっていたのかもしれませんが、タイプとしてはジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』と似たような本に感じました。
複式簿記の勉強のモチベーションを喚起する意味でも、歴史の一大スペクタクルとしても超おすすめの一冊です。複式簿記の本は一度読んであまりに問題集っぽすぎてダメだったんですが、「会計」の本を読めば良いのだと言うことがよく分かりました(そして本を買いました。)