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『補給戦―何が勝敗を決定するのか』 著:マーチン・ファン・クレフェルト、訳:佐藤 佐三郎

軍隊に対する補給あるいは兵站(へいたん)という視点から、近代以降の戦争を詳細に考察した書籍。ある筋では話題になった一作だそう。

取り扱う戦争は18世紀のヨーロッパでの戦争から、ナポレオンの戦争を経て第一次、第二次世界大戦までの陸戦。馬車で陸上輸送を行っていた時代から鉄道を経て自動車時代へ進んでいきます。「鉄道時代になって輸送力が向上したことにより戦争が変わった」みたいなことがざっくり言われたりしますが、現実を見てみると、実はそんなに物事ががらっと変わるわけではない、ということがよく分かりました。新しい技術が問題をすべて解決しているわけではなく、旧時代の技術(鉄道時代なら馬車、自動車時代なら鉄道など)を使ってなんとかやりくりしていたりすることが多かったりするのだなぁと。最後に紹介されるノルマンディー上陸作戦までは、とにかく兵站に苦労をしたんだという話が続くわけですが、最後に紹介されるノルマンディー上陸作戦は対照的に兵站に相当な気を配って実行されたものです。とはいえ歴史を見てみると連合国が楽勝したというわけでもないようで、兵站をきっちり整えれば戦争には必ず勝てる、というものでもないのだと結論づけられます。最初の期待からすると、割と「なんと身もふたもない……」というような印象。とはいえ、大変興味深い本でした。例えば、「18世紀頃の戦争というのは他国の資源で自国の軍隊を食わせるためのものだった」という考え方には「なるほどなぁ」と膝を打ちました。ひょっとすると男性の間引きって要素もあったのかもしれませんねぇ。

個人的には一部Wikipediaなどで戦役についての知識を補いつつ読みました。とはいえ、文章で書かれるだけではなかなか具体的なイメージが沸かず、インフォグラフィクスというか、うまいこと図版を多用してくれると、より理解が進んだろうなと思いました。やはり戦線は地図と照らし合わせてなんぼでしょう。ヨーロッパの地図でも用意してチェスの駒かなんかを使って動かしながら読むといいかもしれんなぁなどと思ったり。

巻末に、防衛省の研究所で戦史研究などをやっておられる石津朋之さんの解説があり、本書の主要な要旨はこれを読めば足りる、と思います。とはいえ本書を読んでから読むと、それがまた実に適切な要約であるということがよく分かります。この解説だけ読んでもいいんでしょうが、本書を手に取るような向きは、そこは本文を頑張るべきではなかろうかと思います。

兵站、という言葉を知った人は是非本書を読んでみることをオススメします、ものの見方が変わるかもしれません。現実に現在戦われている戦争のみならず、例えば国内外の災害時の軍隊や救助隊の活動、フィクションにおける戦争などにおいて、どうやって必要な物資を運んできているのだろうか?といった風な想像力が働くようになるかもしれません。