槍が降るなんて言葉がありますが、現代の日本に生きていると爆弾や銃弾が降ってくるということはあまり想像ができません。でも、世界にはそれが日常になっている国や地域があり、その1つが中東のシリアです。ISの件で国内のニュースで取り扱われ始めてから私はシリアのことを知ったわけですが、本書はISが対等する前、2011年頃から何度もシリアに渡り、その土地の空気を吸ってものを食べ、銃弾の雨の中取材をしてきた桜木健史さんという方の報告です。
大体第一次世界大戦後からのシリアの歴史が最初に語られて、その後は何回かのシリア取材の話が入ってきます。まだ死者を埋葬する余裕のあったアサド政権と反体制派の小競り合いの段階から、遺体を一つ一つ埋葬する余裕がなくなるくらい死が当たり前になってしまった現在の状況に至るまでが、一人の人間の目で語られます。最初は反体制派側にシンパシーを感じていたように読める筆者ですが次第にどちらの見方もそれぞれ偏っていて、かといってどちらの言い分も理解ができる、そんな風になっていきます。
本書を読んだおかげで、シリア内戦の経緯が理解できるようになってきましたし、Wikipediaなんかも併用しつつ、イスラム教の歴史と中東情勢のややこしさが分かるようになりました。シリア内戦には、イスラム教の宗派対立の側面があるのだなとよく分かりました。ただ理解が進むほど、出口がどこにあるのだろうかと途方に暮れます。アサド政権が倒れれば、政権が代表している少数派のアラウィー派の人々がどのような目に遭うのか、ちょっと想像したくはありませんし、かといってアサド政権下で言論の自由などが抑圧されていた状況が許容できるかというと、自分の身に置き換えてみればできません。本当に、どうすれば良いのでしょうね。
そんな暗い気分になる本ではありますが、これも世界のどこかで起きていること。まずは問題を認識して理解することから始めるために、この本は個人的には大変役に立つ本でありました。命をかけて現地の情報を伝えてきてくれた著者を応援する意味でも、まずは一冊いかがでしょうか?