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『繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史』著:マット・リドレー  訳:大田直子, 鍛原多惠子, 柴田裕之

本書は

なぜ動物種の中で人類がこんなにも繁栄しているのか?に対する大胆な仮説であり
「昔は良かった」病に対するカウンターであり
自由貿易とグローバル化に対する強烈な楽観主義である

読んでみて受けた印象としては『銃・病原菌・鉄』と同じような感じであり、あの本もユーラシア大陸が東西に長いことによる耕作作物とその他技術、文明のポータビリティの良さが、ヨーロッパ文明が他の文明を駆逐しつつある現代の遠因として描かれていたが、本作でも1つの原則に従って論が進められる。経済学でいうところの比較優位の法則(筆者は経済学が専門ではないのでもしかしたら正確ではないかもしれないが)に従って専門性を深め、産物を交換することを通じて、生きるために必要な資源をより少ない時間で得られるようになることによって人類は繁栄したのであるのが本書の主要な主張だと思われる。

石器時代、他の霊長類ヒト科の諸種を滅ぼしてホモ・サピエンスが生態系の頂点に立つにいたる過程から、気候変動問題や人口問題、貧困問題まで、歴史的にみて、産物やアイデアの交換によってこれまで人類は全体として豊かになってきたので、これからもそうなるのではないか、そのための種子は現代の社会にも見られる。特にインターネットでアイデアの交換が容易になっているし、というもの。まぁ一章毎に大量の参考文献が引かれていて、なんというか学術書かと言わんばかり。

再生可能エネルギーをこき下ろしていたり(確かに景観破壊や環境破壊に繋がったりすることもある上に、電源として使い勝手は必ずしも良くないので、エネルギー問題のデウスエクスマキナではないのだけど)、遺伝子改良生物や作物マンセーなので、結構悲観的な私個人としては、理解はできるが、あんまり好きな感じではない。とはいえ、世の中全体としてどうなるかと、自分自身がどう生きるかは必ずしも一致させる必要はないんだよね。などと思ったり。読んでみると過去や現在、未来の見方に新しい視点を付け加えてくれるかもしれない一冊。

『映像の世紀』

『映像の世紀』、NHKの名作ドキュメンタリーですが、公共放送の作品の割にDVDの価格が非常に高価でして、なかなか手が出ない作品です。とはいえ、たいていの公立図書館には所蔵されていますので、借りて見ればお金はかかりません。最近の図書館はパソコン上から予約すれば他館から取り寄せてくれたりするので、もう図書館で借りて見れば良いんじゃないかと。

ということで、第2集「大量殺戮の完成」、第4集「ヒトラーの野望」、第11集「JAPAN」(タイトルが、格好つけてて大変素敵です。)を見たわけですが、20年前に見たときよりも色々理解が進んで楽しいですね。よくもまぁこんな映像が残っているもんだというような映像がてんこ盛りです。

特に第一次世界大戦を取り扱った第2集を見ると、戦争に科学技術が積極導入されて、物質の消費量と、何より死者数がうなぎ登りになっていく様子が映像でよく分かります。大砲による制圧+騎兵、歩兵突撃 → 機関砲斉射による歩兵、騎兵の掃討 → 塹壕戦 → 戦車による塹壕突破、空爆、毒ガス、潜水艦による通商破壊という戦法の変化がたかだか4年で起こってしまいます。これにコンピュータや人工衛星、精密誘導兵器、核兵器、航空母艦くらいが出てくればほぼ現代の戦争が完成するんじゃないかと思うくらいです。かつてはこの恐ろしさが分かりませんでしたが、改めてみると恐ろしい話です。

反面、今の社会につながる事象も起こってるんですよね。

– 女性の社会進出
– 腕時計の一般化による時間感覚の変容
– 大量生産技術の広範な普及
– 貴族階級のさらなる衰退

などでしょうか?本当に現代がなぜこんな風になっているのかを理解するためには、過去を理解せんとだめなのだなぁと思っております。近頃本当に、歴史の勉強が楽しいですね。

『仕事に効く教養としての「世界史」』著:出口治明

割と(とても?)有名なネット生命保険会社の会長さんが、タイトルの通り外国の会社との商談だったり海外出張だったりの時に役に立つような世界史の知識を書いた本です。専門家ではないけど、よく勉強して頭の中が整理されている人の頭の中身を、テーマに沿って書いていくとこんな感じになるかなという本。

全10章構成で、内容的には

  1. 日本史と世界史の不可分性
  2. 歴史の発祥、中国について
  3. 宗教がなぜ生まれたのか?
  4. 中国という国を理解する鍵
  5. キリスト教
  6. ヨーロッパの大国(イングランド、フランス、ドイツ)の成り立ち
  7. 交易の重要性
  8. 遊牧民とヨーロッパ
  9. 人工国家、アメリカと共和制フランス
  10. アヘン戦争を軸に西洋文明が文明戦争の覇権を握るまで

こんな感じ。あとは前書きと、割と著者の啓発的なにおいの強い終章がついています。

個人的には読んでいてティーンエイジャーの頃のかすかな記憶が呼び覚まされるような感じ。とはいえ相変わらず人や王朝の名前は頭に入りません。自然環境の変化だったり、人間の一般的な心理だったり、そういうところから一般性や合理性のある歴史の法則性を見いだしているところがあり、その辺りは比較的楽しく読めました。個人的に歴史を勉強している動機はこの辺りなので、著者は私の先輩に当たるのかもしれませんね。

専門家が書いた本ではありませんが、一応書く際に内容のチェックはしているでしょうし、嘘は書いていないでしょう。手っ取り早く世界史の主要なトピックをさらってしまって、歴史理解の背骨を作るのにはいい本なのではないでしょうか?「世の中のあらましについてのザクッとした理解=教養」と仮定するならば本書は正しく「歴史の教養」の本だと思います。

『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』著:加藤陽子

明治維新以後の日清戦争〜第二次世界大戦に至る日本を中心とした世界の動き(主に戦争)を扱った本。東大で近代史を研究されている加藤陽子先生が、中学生、高校生の歴史研究サークルの男の子たちに集中講義をするという形式の本です。一つ一つの戦争に対して様々な国の関係者の発言が引用され、おそらくは大学の教養課程で教えられるようなレベルの知識もちりばめられており、とはいえ語り口は平易で読みやすい良書です。

個人的にこの本を手に取った目的としては、なんで第二次世界大戦であんなにも国力差のある米国に対して戦争を始めて、ムチャクチャな作戦もたくさんやって、若い人や優秀な人の命をたくさん使い潰し、国民を餓死寸前までに追い込むような愚行をやってしまったのか、やらざるをえなかったのかを知りたいというのがありました。しかし、やはり一冊本を読んだだけでははっきり言えるものではありませんね。

おそらくこの本は、高校世界史日本史をやって、基本的な歴史の流れを把握した上で読むべき本なんだろうなと思いました。僕はその辺の知識がすっぽり抜け落ちているので、そのせいでピンとこない部分がたくさんありました。とりあえず山川書店の世界史、日本史の教科書でも読んで、その辺の話をきちんと理解してから、読み返してみようと思います。

どうもこの先20年くらいで、政治や安全保障など、難しいことを考えなくてもノホホンと平和に楽しく暮らせる時代は終わりそうで、その時にはこの本に書いてあるような近代戦争史を物を考える基礎として学んでおかないと、なにがなにやら分からないうちにひどいことに巻き込まれてしまうような気がするのです。ということで、日本の近代史を頭に入れた上で本書を是非どうぞ。

『砂糖の世界史』 著:川北稔

砂糖という製品を媒体にして、近代の庶民生活、経済システムなどの変化を綴った本。岩波ジュニア新書なので小学生、中学生向けと思いきや、門外漢の大人にとっても良書なのは本書も同じく。

本書には「砂糖」、「コーヒー」、「お茶」、「カカオ(チョコレート)」など、現代に広くたしなまれている嗜好品が登場します。本書でそれらは近代初期に世界的に取引された商品、「世界商品」と呼ばれています。そしてそれらの世界商品がどのようにして社会に、特に日本を含めた西洋近代をベースとする社会に広がっていったのかが紹介されます。「三角貿易」という言葉がありますが、まさにその中心地域であった大西洋を中心とした南北アメリカ、ヨーロッパ、そしてアフリカが主な対象地域となります。単なる貿易についてだけでなく、当時の貴族や庶民の暮らし、そして「砂糖」などの製品を生産するために使役された現地人や黒人奴隷の様子までが縦横無尽に紹介されます。

「砂糖」という世界商品を題材とするだけで、現代に通じる生活習慣や経済システムなど、社会の諸要素がどのように成立したのかをかくも広範に説明できるのだなぁと感嘆しました。熱心な文系の学生でもない人間からすると、無味乾燥な語句と年表の組み合わせに過ぎなかった歴史に肉がついて見えてきます。確かに現代というものは、過去の歴史の土台の上に成立しているものであり、歴史を理解することは現代をよりよく理解することにつながるのだなと思いました。というか、初期の株式市場のバブルと崩壊なんて、現代と同じような物に見えてきます。正直言って人間ってここ300年くらい全く進歩してないんだと思えてきます。

ほんの3日ほど、4時間くらいで読み終わりましたし、扱っている題材は上にも書きましたが現代を理解する上で大変役に立つ興味深いものです。価格も安いですし、非常におすすめの良書です。下のアフィリエイトから是非ポチッとお願いいたします(苦笑)。

『ものづくりの科学史 世界を変えた≪標準革命≫』 著:橋下毅彦

世の中には、「原子力なんて、戦争に使われた技術を使うだなんて許せない!キーッ」という人がいるらしいです。そういう人に対して、「あなたが自分の意見を発信しているインターネットだって、もとは戦争に関係する技術ですよ。あと、原爆と原子力発電は別の技術ですよ。」と諭したり揶揄したりというのがお約束だそうです。ところが本書を読めば、「ある機械に使われている部品が、他の機械にも使える」というアイデア自体が、戦争によって大きく発展を遂げたということが分かります。まぁ、人間やはり命がかかってるところは大きく発展する(次は金もうけかなぁ…。)ということなんでしょう。

さて、そんな「ある機械に使われている部品が、他の部品にも使える。」要するに「標準化」「規格」「互換性」といった概念と、それを現実のものに実装していく過程を語ったのが本書です。本書によると標準化技術というものは戦争を発端とするようです(ちなみにフランスが起源)。物資が大量に投入され、かつ良く壊れるために修理の需要が大量発生する近代以降の戦争において、部品の標準化というのは非常に重要な軍事技術だったというわけです。しかし、フランスでは旧来の職人の反対に遭ったために標準化技術を花開かせる事はできず、結局それはアメリカで花開きました。世界各国が総力戦を戦った第一次、第二次世界大戦では、勝敗を分けた要素の1つに部品の標準化があったという指摘さえされています(日本は航空機製造における部品の標準化が非常に遅れていたらしい。)

戦後には主に経済的な理由で色々なものの標準化が行われていきます。例えば、陸上、海上輸送におけるコンテナの規格、紙のサイズ(A版、B版)、インターネットを支えるTCP/IPなどが一例です。本書では、それらが合理的に決まるものではない、という事を指摘しています。例えばコンピュータのキー配列(QWERTY配列)はタイプライター時代に作られたものであり、必ずしも合理的なものではありませんが、既に広く普及してしまっているので置換えは現実的ではありません(このようなボトムアップ的に決まった標準をデファクト・スタンダードという)。逆に何らかの組織によってトップダウン的に定められた標準を「デジューレ・スタンダード」といい、代表例は「ネジ」の規格です。最後に、標準、規格というものは巨大な技術システムを作る事で多大な利益をもたらすため、現代においては非常に重要な意味を持っていると締めくくっています。

我々が常識だと思っているものが、実は人類の偉大な発明品であるという事実に気付かされる良書です。技術系の人にも、そうでない人にも、一読を勧めたい一冊です。

理系のための日本近代史私的選書

自分の個人的な経験を一般化するのはどうかと思うのですが,理系の皆さまには歴史にアレルギーを持っておられる方が多いのではないかと思います.自分自身も高校時代,年号の暗記に嫌気がさして歴史をまともに学ぶ気がなかった人間だったのですが,最近私的に再学習をしています.
この記事では,自分が近代史の再学習のために読んだ本を紹介したいと思います.比較的偏っている自覚はあるので,もっと色々な史観の本を読むべきなんでしょうが.ご紹介いただけると幸いです.
驕れる白人と闘うための日本近代史
江戸時代の日本の封建制度は、当時の西洋人が思っていた以上に良くできていたのだ、という本。日本のサービス業が異常にサービスがいいのは江戸時代以来らしい。

驕れる白人と闘うための日本近代史 (文春文庫) 驕れる白人と闘うための日本近代史 (文春文庫)
(2008/09/03)
松原 久子

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逝きし世の面影
上の本と同じく江戸時代の日本社会の完成度の高さを、こちらは当時の来日した外国人の手記などを徹底的に引用して書いている本。ある筋では有名な本らしい。

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー) 逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)
(2005/09)
渡辺 京二

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夜這いの民俗学,性愛論
近代日本社会に特有の人口再生産システム、「夜這い」の実相を実体験を基に示す。客観性がないという批判はありつつも、夜這いという単語に抱きがちな背徳的な印象を覆す。

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論 夜這いの民俗学・夜這いの性愛論
(2004/06/10)
赤松 啓介

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マクニール世界史
世界史の本の中では比較的読みやすいと言われる本。一応欧米の帝国主義の文脈の中で、日本近代の維新が触れられています。 世界の流れの中での日本をざっと見るにはいいかも。

世界史 下 (中公文庫 マ 10-4) 世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)
(2008/01)
ウィリアム・H. マクニール

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日本語が亡びるときー英語の世紀の中で
日本語のこれからを述べる本なのですが、論は明治時代の知識人層がいかにして西洋の学問を輸入したのか、に立脚しています。現在でも日本語で文学や学問ができるのは、この頃の日本人の非凡な努力あってのことなのです。

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で 日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で
(2008/11/05)
水村 美苗

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再学習を始めて思うのは,歴史,特に近,現代史は実学であるということです.特に日本は,明治維新と太平洋戦争敗戦で二度も国家,文明としての大きな転換点を迎えているわけで,日本の現代は確実にその上に建っているわけです.歳をとるほど,今とこれからを考えるためには過去,すなわち歴史を学ばないとダメだなぁと思うのです.
もうちょっと読んだら太平洋戦争かなぁと思うのですが,祖父が戦争に行ってきた人間なのでかなんとなく抵抗感があるのですよね.どこかに良い本はないかしら.

『驕れる白人と闘うための日本近代史』

自分は一応理系でして,歴史の暗記科目っぷりに嫌気がさして,地理に逃げ,理系に走ったクチです.という訳で最近歴史をもう一回勉強しようとして読み始めたのがこの本です.
教科書問題でも話題になりますが,なぜ日本の歴史というのはいわゆる「自虐史観」的になるのでしょうか?その理由は日本が近現代において二回敗北している(一度明治維新のときに西洋文明に屈し,そして第二次大戦で敗北した)ことにあるのでしょう.この本はそんな日本の常識的な歴史の語り方を大きく逸脱した近代史(江戸~明治時代)の本です.
内容を要約すると,近代~この本が書かれた時期までの一般的な欧米人の感覚とは大きく異なり,日本には独自のかなり高度な文明,社会が存在していたのだ,ということです.たとえば日本の農民は西洋の農奴とは大きく異なるものであった,とか行った感じで,言われるままに自分たちの歴史をいたずらに下に見る必要はないと説きます.
驕れる白人,とタイトルにあるように,かなり攻撃的な調子で書かれているように感じます.たとえば欧米人は日本に対して「技術だけ盗みやがって」などと言っていたわけですが,彼らを文明の勝者たらしめた科学技術はそもそもイスラム世界に保存されていたものを十字軍で収奪してきてアレンジしたものなわけで,そのことを差し置いてジャパンバッシングするのは傲慢ではないの?というわけです.
確かに西洋文明は文明戦争(そんなものあるのか?)の勝者であり,科学技術+資本主義は問題を含みつつも史上最も多くの人たちを養うことに成功しています.そんな勝った文明側の欧米人が,今も上から目線で日本のことをみているのかはよく分かりません.この本が書かれたのは1989年であり,それから20年で日本のポップカルチャーが輸出されたり,日本の経済的な地位が低下したりと状況は変わっており,自分で確かめてみないと分からなくなっているように思います.
優等生的な回答をすると,過去のことでよその国の人とむやみやたらにケンカをするのは生産的ではないですが,バカにしてくる相手に一矢報いられるだけの歴史の教養と語学力はこれからもっと重要になるんでしょうね.その歴史の教養が,一部のマニアの物になってしまっている日本の現状ってどうなんでしょうね.自分も不勉強組に入る同じ穴のムジナなわけですけども.

驕れる白人と闘うための日本近代史 (文春文庫) 驕れる白人と闘うための日本近代史 (文春文庫)
(2008/09/03)
松原 久子

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