ポスト工業経済の社会的基礎 市場・福祉国家・家族の政治経済学

著者はG・エスピン・アンデルセン
おそらくは社会学の専門書なんでしょうし、素人なので研究内容について批判的なコメントはできませんが、非常に興味深い本でした。特徴としては、社会調査のデータに統計処理をかけて根拠としている事でしょう。
2000年に発行された本なのですが、2013年においても現在進行形である若者、女性の大量失業や格差の拡大、低い出生率といった社会問題を福祉システムの機能不全として考察、解決に向けた提言を行っている本です。
本書では社会において福祉を提供する主体を、「家族」、「福祉国家」、「市場」の3つと定め、それらが提供する教育、育児、介護、所得(雇用・労働)、保健医療などを福祉サービスと定義しています。その3つの主体の複合体を「福祉レジーム」と呼んでいます。更に、福祉レジームの主要な形態として、
自由主義型:主に市場(民間サービス)が福祉を提供する.例:アメリカ
社会民主主義型:国家が主体的に福祉を提供する.例:北欧諸国
家族主義型:家族が福祉を提供する.例:イタリア,日本
の3つを挙げ、該当国の社会統計を比較分析することで、福祉の機能不全の原因と対策を検討しています。
結論から言うと、「出生率の向上」と「失業率の低下(を実現する弾力的な労働市場の実現)」を目標とした場合、以下の方策を取るべきだと言っています。
・女性の共働きを推奨する → グローバル化により先進国ではサービス業が雇用の受け皿になるので、家事労働,保育,介護などのサービス業への需要が高まり雇用が増える.
・国家による職業教育で,特に若者と女性の失業期間を短くすること。前提として職業教育を可能とする知的レベルを公教育で保障すること.
・シングルペアレント世帯への給付と就職を徹底的にサポートすること → 長期的に考えると、シングルペアレント世帯が福祉給付に頼らず自立できることは国の福祉負担を軽減する。
・ベーシックインカムか,負の所得税で非熟練労働者の給与水準を底上げすること → 民間サービスで福祉を提供する場合は特に。非熟練労働によるサービスを利用可能な価格として提供しつつ、非熟練労働者の経済的自立を実現するには不可欠。
じゃあ日本の現状は?と言われるとどうも上手く回ってないなぁという気がします。しかしまぁ、どういう福祉レジームが成立するのかは国によってスゴクさがあるという指摘はされているので、この方針を範としつつ、我が国なりの21世紀型福祉レジームの実現を、というのを政治家の先生方には考えていただきたいものです。僕自身、そういう政治家を選挙で選びたいと思います。

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