我が国日本もいまや斜陽の衰退国家で、いろいろなところがガタガタであるが、かつては我が世の春があった(社会的、文化的には問題もあったのだろうが、少なくとも経済的にはいまより良かった)。そんな我が世の春を作り上げた立役者の一人と言っていいだろうソニーの共同創業者の1人、盛田昭夫氏の自伝。発売されて30年なので、経営者の自伝としては古いものになってきているのだろうか?
非常に文化資本に恵まれた家の出身で、戦前にあって高度な教育を受けた人だったようである。理系の出身でエンジニアでありながら、営業マンとしても非凡な人だったというのが良く分かる。圧倒的な経済力、技術力を持つ外国に飛び込んでいって、現地で友人を作りながら自分たちの会社の製品を決して安売りしなかったというのは、脚色もあるのかもしれないが、非常にガッツのある人だなぁと思う。外国で、現地にいる日本人とばかり付き合うのではなく、現地人と親しく付き合え、というのは非常に共感するところ。
経営哲学なんかに関しては現代の目から見ると、たまたま戦後復興~高度経済成長の境界条件の中でたまたまうまくいっていただけなのではないかと思えなくもない(別に会社経営をやったことがあるわけではないのだが、ここ20~30年は日本社会の強みだったところが弱みに転じて社会全体を衰退させてきたという感じがするので)。「社員を家族だと思え」とか「簡単に従業員を解雇できないのは強み」というのも、一部の大企業や、一部の世代の人たちを「家族」たらしめんために就職氷河期世代を正規雇用の枠外に追いやり、会社に非依存な社会保障のシステムを構築できなかったために、結果として加速度的な少子化と人口減少を食い止める最後の砦を崩してしまったわけだし。「人は金銭のためだけに働くのではない」というのも、ワタミを代表とするブラック企業が搾取のキーワードにしてしまったわけだし。とはいて盛田氏本人は90年代後半から2000年代のドン底の時期には現役を退いていたので、当時彼がいたらどういう経営をしたのかはよく分からないが。
高度経済成長期~バブル期にいい思いをした人がどういう風にものを考えていたか等を知るには良書だと思われる。現代の人間のとしては、いいところは学んで、誤っていたと思われるところは反面教師にして、なんとかかんとかこれからもやっていかなくては。