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『ヒトラーの正体』著:舛添要一

舛添要一さんというと、都知事をやっていた印象しかないが、実はもともと世界史の学者で、ヒトラーに関する書籍もいろいろ読んだそうだ。ということで、本書は長年の読書や研究の成果を生かし、ヒトラーに関して来歴や様々な側面を俯瞰的に書いたヒトラーの入門書である。

代替内容は2つに分かれて、前半がヒトラーの半生、後半がヒトラーの「反ユダヤ主義」、「プロパガンダ」、そして「ヒトラーに従った大衆心理」という3つのトピックについて語る感じである。前半部だとヒトラーがワイマール憲法下で合法的に独裁体制を構築する過程がかなり詳細に書かれており、後半の3つに先立つ1つめのトピックといえるかもしれない。ホロコーストに至る反ユダヤ主義の流れはヨーロッパに長年根を張っていたもので、ヒトラー自身もウィーンで反ユダヤ思想家の影響を受けて自身の思想を醸成したというのが本書の説である。技術の発達やなんやかやで、長年醸成された反ユダヤ主義が行くところまで行ってしまったのがホロコースト、と解釈することも出来るようだ。

舛添さんとしては、トランプ大統領を代表として2019年現在の世相にヒトラー台頭時の世相を重ねてみているようで、それが本書をものした理由の一つであるようだ。ヒトラーが独裁体制を構築するうえで鍵になったのがワイマール憲法の48条の緊急事態条項で、その辺を考えると、昨今日本国憲法の改憲を希望している代議士の人たちがいの一番にそこに手を付けようとしているのはどうもまずいような予感がする。昨今東アジアの地政学的情勢が大きく動こうとしている中、戦争に巻き込まれた際のことを考えておく必要はあると思うわけだが、改憲ではなく現行憲法下における非常事態への対策法規でなんとかならないものなのだろうか?改憲するならむしろ勤労の義務を削除し、人権保障の観点をより強める方向で改憲していただきたいもんである。

目からうろこが落ちる、みたいな体験はなかったが、全体を俯瞰する本で参考文献も豊富なため、ヒトラーに興味は出たがどれから手を付ければ、と思っている際には良い本なのではないだろうか?

『ネオナチの少女』著:ハイディ・ベネケンシュタイン 訳:平野卿子

正統派のナチズムを継承している家庭に生まれた女性が、所謂ネオナチのメンバーとして青春時代を送りつつも、その中で後に夫となる男性と出会い、そして彼の子どもを妊娠したことを大きな契機としてネオナチを脱退するまでを描いた自伝。

ネオナチというとビジュアルくらいしか思いつかないのだが、どういう人たちなのかと言うことについてもよく分かった一冊だった。大抵の人間は人生があまり上手くいっていないチンピラで、自分の劣等感をごまかすために懐古的で排外的なイデオロギーに傾倒していることにして暴れ回っているということのようで、日本にも似たような人はいるよなぁなどと思ったりした。

彼女がネオナチを脱退できたのは、もちろん本書に書いてあるように、夫となる男性との出会いや妊娠という契機もあるだろうが、詰まるところ彼女自身のが生まれ持った人間性や知性、特に自分の体験を客観的に見るメタ認知能力に、ネオナチの思想が堪えられなかったということなのだろうなと思う。正当なナチズムを曲がりなりにも実践しようとしている家庭に生まれてしまったことも、逆にネオナチとして活動している人々の大言壮語や言行不一致に気づく原因になっていたようにも読めた。

本書の中で指摘されているようにネオナチの思想は非常に偏向していると思うし、ネオナチのメンバーもろくでなしばかりという彼女の指摘も、本書の中の描写を見る限りは頷ける。しかし、ネオナチの思想に染まり、排外主義的な活動をしている人たちの現状は、100%彼らの責任に帰されるものなのか、というのは、最近読んだ本的にはちょっと思ったりする。彼らの中には、公的なサポートを受けられない程度に色々なハンディを負った人がいて、そんな彼らに手を差し伸べたのは極右思想だけだったりしなかったのだろうか、などと。