『矛盾社会序説 その「自由」が世界を縛る』著:御田寺 圭

帯に「気鋭の論客」とあるが、最近はインターネット上の文章投稿サービスNoteで、月額課金Webマガジンでブイブイ言わせている方の初著書。いわゆる「反ポリコレ」的な内容の文章を書く人であれこれ揶揄されたりすることもあるようだが、個人的にはむしろ優しい善人なのではないかと思っていたりする(単に私がすでに著者の思想に薫陶を受けてしまっている、あるいは著者と思想や思考回路が近い、ということかもしれないが)。

肝心の本の中身だが、「矛盾」とタイトルにあるように、一般に良いこととされる概念や言葉の裏にある不都合な事柄を実に意地悪く指摘、暴露する。「頑張る人が報われる社会」は恐らく「失敗した人にさらに石を投げる社会」であり、「付き合う相手を自由に選べる社会」や「ハラスメントを全く受けずに済む社会」は「どうしても他人から選ばれない人が孤独になる社会」や「他人との関わりが希薄な社会」である。「人の命に貴賤はない」が、「障碍者施設や児童養護施設は社会的階層が高い人々が住む地域にふさわしくないと反対運動が起きる」のである。とまぁ詳しくは本書を読んでいただきたいが、よくもまぁこんな鬱々とするような話題ばかりかき集めてきたなといいたくなる一冊である。確かに非常に偏ったものの見方、とらえ方ではあるのだが、色々と根拠となるデータが示されているように、全くの妄想というわけでもない。

排外主義、極右の台頭、非婚化といった社会の土台が崩れるような現象が世界中であれこれ起きているが、その根本にあるのは結局こういう我々の社会が推し進めてきたあれこれの「裏面」なのかもしれない。「自由」や「正義」「多様性」といったことを良いことだと信じる人ほど(実際の所我々はそれらの恩恵をなにがしかは受けているわけで)、こういう「毒」を一服飲んでおいた方が狂わずに済むかもしれない。