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『マージナル・オペレーション F2』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

本編の後日譚に属する短編を集めた短編集です。以前、星海社のネットラジオで読者から色々とリクエストが来ていたのを覚えていますが、それへのアンサーなんだなと読んでおりました。前巻Fと同様に各話毎に手短な感想を書きます。

##第1話 私のトリさん
主人公は子どもたちの1人、サキ(確か日本人とタイ人のハーフという設定だったはず)、彼女が東京の高校に通い始めた後の、ある日の出来事を描いたエピソード。彼女がどうやってアラタの元に来たのかもちょっとだけ語られ(スモーキーマウンテン出身という設定や病弱だったという設定がより具体的に語られる)、本作を通じてサキというキャラクターに厚みが出ます。本筋とは外れますが、日本や東京が異様に時間にうるさい、それを誇らしく思っているのがおかしい、というカルチャーギャップは結構面白いなぁと。日本人に限らず西洋人ですら、産業革命以前はそう言う感覚だったらしいですし、言われてみると確かにそうかもしれません。

##第2話 新しい首輪
シリーズの主人公アラタに関わった順で言うと、メインヒロインのジブリールより早いホリーさんの話。ジブリールとアラタを奪い合う女の戦いと、ただれているようで、まったく健全なアラタとホリーの会話劇が主題なのかな。表だってキャットファイトするわけではないので、冷戦みたいなもの、周囲が大変な思いをしているのが少し笑えます。明確に書かれているわけではないですが、仕事の話に集中して、周りのことが分からなくなっているアラタって本当にかっこいいんでしょうね。それこそ対局中の棋士みたいな感じで。

##第3話 若きイヌワシの悩み
アラタに最初からついてきていた子どもたちのうち、彼に比較的近い位置で物を見ているイブンの話。傭兵をやめた後にどうするのかという話で、多分第1話のサキの話の前日譚になるのだろうと思います。イスラム圏の人の職業観が垣間見えて面白いエピソードでした。職人に弟子入りしてオンザジョブで仕事を覚える江戸時代以前の日本に近い職業観なのかな?近代化されていない地域の出身だから、学校というものはイスラムの神学校しかない、ということみたいです。

##第4話 子供使いの失踪
アラタ一行が徳島で開催されているイベント「マチアソビ」に来て、その上で騒動に巻き込まれるという話。失踪という言葉の通り、アラタがいなくなって部隊が非常に混乱します。著者の芝村さんの、おそらくは知己の人々がキャラクターとして出てくるのと、氏の他の著作からキャラクターやメカが登場します。が、それらを僕は読んでいないので、胸が躍ると言うことはありませんでした。そう言う意味でもコアなファン向けのファンサービスみたいなものかと思います。

各エピソードの後に色々とさらに短いサブエピソードが挿入されて、その中にはなかなかドキッとする物もありました。それは読んでのお楽しみとしておきましょうか。

『遙か凍土のカナン 4 未だ見ぬ楽土』 著:芝村裕吏,挿画:しずまよしのり

前巻までで寄り道は終わり、本巻から本来の目的である建国事業が始まります。
中央アジアを越え、クロパトキン将軍がいるプスコフにたどり着いた良造一行。そこから妻(←ここ重要)オレーナの養父~のいるサンクトペテルブルグにて「挨拶」を済ませた一行は、シベリア鉄道に乗り、国作りのための場所探しに向かいます。そこで出会うのは、国作りのパートナーとなる新たな「男」と出会い、ついに建国事業が始まるか?というところで本巻は終わります。上にここ重要、と書いたように良造とオレーナは結婚しています。以前のようにオレーナの求愛を躱し、いなすのではなく、距離が着実に縮まっているのがよく分かります。良造一行のメンバーであるコサックのパウローとユダヤ人のグレンが辟易しているように、口から佐藤でも吐きそうなイチャイチャは引き続き本作の見所の1つでしょう。

作者の言及の通り、「馬」の物語だそうですが、本作ではそれを象徴する出来事が起こります。このことは本巻の表紙を見れば一目瞭然。良造とオレーナの2人が馬(富士号)ではなくオートバイに乗っています。しかもハーレーダビッドソン、1900年代初頭にサンクトペテルブルグで買えるもんなんでしょうかね?本書がフィクションたるゆえん?まぁとにかく、このオートバイとの出会いに至る過程は何とも言えません。ええ。

前巻に対して、旅をしたくなると感想を書きましたが、本作の魅力は作品の内容もさることながら、入念な資料収集に裏付けられた現実への足つきでしょう。歴史の本を読んでみたくなるような、現地に行ってみたくなるような、いろいろな、恐らくは史実のディテールに満ちあふれています。本巻では、上でも言及していますが、やはりオートバイと馬の関係。オートバイを鉄馬と呼ぶことがありますが、自転車とオートバイ、というか二輪車という機械の母は、要するに馬なのだなということがよく分かります、ペダルは鐙で、ハンドルは手綱、鞍はその名の通りサドル。乗馬という風習があったからこそ、人間は二輪車という機械を思いついたのではないかと思わされます。リスクが周知されても乗りたがる人がいるのは、ある意味人間の本能なのかもしれません。あとは、良造、というか日本人の宗教観、倫理観というものが、諸外国、特に一神教の国からするといかに異常であるのかという異文化交流の側面も、前巻に引き続いて面白いなと思った点です。

ということで、本格的な建国編は次巻以降に持ち越し、いろいろな人種、宗教の人が寄り集まって、シベリアにどんな「カナン」が築かれるのか?そして、20世紀前半は戦争の時代ということで、良造とオレーナたちの運命やいかに、ということで続きます。さて、次はいつ読めるだろうか?

 

 

『遙か凍土のカナン 3 石室の天使』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

ウクライナコサックの姫君オレーナを守りつつ、シベリアに国を作れとの密命を受けた大日本帝国陸軍の元士官、新田良造は、新たに出会った連れ合いのユダヤ人騎兵グレン、盗賊の姫ジニをつれて中央アジアを超えてサンクトペテルブルクを目指す。

……という筋書きの本作。本巻にて「寄り道=ジニの村の移設」が終わります。そして、前作の『マージナル・オペレーション』を読んでいればどこかで見たことがあるようなルックスで、どこかで聞いたことのあるような名前の女性が出てきます。彼女がどんな騒動を巻き起こすのか、そして何より、良造とオレーナの仲は進展するのか?

個人的に本作でおもしろかったのは「旅」と「開拓」の描写でしょうか。道を探し、水を求め、野営をする。未開の地を旅する人のあり方がよく描写されていて、自分も旅に出たくなってきました。それも、自転車や徒歩で、自分の足を使っての旅です。実際にはとても大変でしょうが……。野営の中で、なにせ出自の異なるメンバーの集まりですから、年齢の数え方やら何やら、文化の違いを語り合うところはなかなか興味深く読んでいました。後者は要するにテレビ番組『鉄腕DASH』の名物コーナー、DASH島のようです。アレ好きなんです……鉄腕DASH……。

あとは、良造の太公望ぶり!本作は基本的には良造の一人称視点で進むのですが、釣りに関する部分だけまさに目の色が変わったかのように文体が変わります。普段は淡々とした感じの語り口だけに、思わず吹き出してしまいました。是非本書を実際に読んでいただきたいところです。

最後の見所は、良造とオレーナの痴話ゲンカというかイチャイチャというか……というやつでしょうか。読み進めればニヤニヤすること請け合い。そして挿絵の、コサックの女性の衣装を着たオレーナがまた可愛いのです。本巻にて、二人の関係に一区切りつくのですが、さてどうなるかは読んでのお楽しみです。

『マージナル・オペレーションF』著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

大抵のシリーズ小説というのは完結後に短編集が出ますが、本作もその1つです。本編は主人公の一人称視点で描かれていましたが、本作はいろいろなキャラクターに主観が移ります。勿論主人公もその一人ではありますが。本エントリーでは短編ごとに感想を書きたいと思います。

『マフィアの日』
本業はゲームライターのはずなのですが、見た目がいかにもそっちの人であることで有名なマフィア梶田さんが主人公で、彼の視点で語られる物語です。一言で言うならばハードボイルド小説です。アニメで言うと、カウボーイビバップを見ているような感じ。懸想にしているソフィーは自分が大嫌いな本編の主人公アラタが好き、人生うまくいかないもんですねぇ。とはいえ、アラタが自虐的に語る自分のビジネスを、他者がどう評価しているのか?という点が興味深いです。あとは、梶田がヒロインのはずのジブリールと境遇的に近いというのもシュールで面白いところでしょうか?

『父について』
子ども達の一人、ハサンから見たアラタのについての話です。個人的にはコレが一番面白かったかなと。なぜアラタが子ども達やオマルにあれほど信頼され、尊敬されているのか、その理由が語られます。アラタとオマルという2人の保護者が現れる前の子ども達の不遇な状況が語られるんですが、ぶっちゃけ読んでて辛いです。あとは、ハサンの視点からなのでムスリム的なものの見方で家族観や結婚観が語られるのも個人的には見所かなと。同時期に発売のコミック版の補助線になる作品です。あっちも2巻から俄然面白くなってきましたよ。

『赤毛の君』
第3者から見たジニの話。個人的にはあまり興味はそそられなかったかなぁと。楽屋ネタを聞かされてるような感じと言うか…。ジニが祖母からもらった携帯絨毯の一節はすごく面白かったです。そういう風に使うんだ!という驚きと、もとの家族の愛情の一端を垣間みた気がしました。

『ミャンマー取材私記』
一人の女性ジャーナリスト、イーヴァ・クロダの目を通して描かれるアラタの話。本編でも彼は繰り返し「自分は普通だ」と言っているけど、そんなことネェだろというのが第三者の目を通して描かれます。アラタは主人公補正でか、話が進めば進むほどモテるようになるのですが、このエピソードでも同じくある瞬間に突然アラタと「寝てもいい」と言い出します。一人称で描かれているにもかかわらず、なんでいきなりそうなったのかがサッパリ分かりません。正直羨ましい。

『チッタゴンにて』
最後のエピソードで主観がアラタに戻ります。バングラデシュで傭兵家業の次のビジネスを探しに行くアラタとジブリールが主要な登場人物です。要するにデート。アラタが徐々に女性らしくなるジブリールの魅力に煩悶しているのが分かります。現在進行形で発行されている『遥か凍土のカナン』で出てきたチッタゴンの宿、曾祖父(だっけ?)とオレーナよろしく一続きの部屋に二人で泊まります。スターシステム的な演出が憎い一遍です。

本編の隙間を埋める良い短編集だったと思います。次があるなら是非、ジブリールの視点から書かれた作品を読んでみたいですねぇ。

  

『遥か凍土のカナン2 旅の仲間』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

大日本帝国陸軍の退役騎兵が,コサックのお姫さまとウクライナにコサック国家を作ろうとする物語、その2

デルフィニア戦記然り、銀河英雄伝説そして水滸伝然り、国家をめぐる話というのは古今東西巻を追うごとにいろいろな出自の個性的な仲間が増えるというのが定番ですが、上記の大作に比べれば小規模とはいえ、紆余曲折あって仲間が増えるのがこの第2巻です。この巻では2人旅の仲間が増えるのですが、そのうちの1人は著者の前著『マージナル・オペレーション』を読んでいれば、表紙でどういう人かバレバレですね。今後は主要登場人物がもうちょっと増えつつ、その他のモブが膨れ上がっていくんだろうなぁという予感がします。

個人的に心が動いたのは、世界の広がりでしょうか。インド~中央アジアの原野の描写から感じる空間の広がり、前述の某登場人物の来歴に関する時間的な広がり、本作は完全な幻想世界ではなく現実’みたいな世界観ですが、そういえば私自分が生きているこの世界にもこんな広大な時間的空間的な広がりがあるのだなと不思議な気持ちになります。作者は実際にあの辺を走り回っていたんだそうで、凄い話です。

主人公は前作と同じく、前巻から引き続いてすさまじい朴念仁です。で、ヒロインとのやりとりは本作の一つの大きな魅力なのでしょうが、それはここでは置いておいて、主人公、なかなか人としてドギツいことになっています。昔の人で、かつ軍人・兵士(士官?)だからという言葉では片づけづらいです。ヒロインのオレーナと出会う前から親交のあった某女性への感情が、なかなかねじれています。

しかし主人公パーティ、日本人、ウクライナ人…と人種的に多様ですね。日本人には想像しにくいですが、大陸の国ってのはこんな感じで人種的に雑多で混沌とした感じになるもんなんですかね?

前巻の第1巻全部と第2巻の第1章、第2章の冒頭がWebサイトで試読できますので、そちらを読まれてから買うかどうか判断されたらいかがでしょうか?

次巻は夏の終わりとのことなので、首を長くして待ちたいと思います。

<参考URL>
作品公式サイト(試し読みもこちらから):http://sai-zen-sen.jp/fictions/harukana/
第1巻発売時の著者、挿絵画家インタビュー:http://www.4gamer.net/games/999/G999905/20131114058/

『マージナル・オペレーション 01』 著:芝村裕吏 挿画:しずまよしのり

ガンパレードマーチの原作者 芝村裕吏先生の新作
30歳ニートが一年発起して就職したのはPMC,要は傭兵稼業.どうにもめぐりあわせが悪くて,適性がないと日本の職業社会からはじき出された主人公だったが,意外な才能を開花させて…という作品.まぁそんなにすんなりとはいかないのですが….
冴えない僕に隠された才能が,というのは中二的な妄想の最たるものでしょうが,なかなかどうしてこの作品は地に足がついているような気がします.才能だけで物事が自分の望む方向に転がることはないというのは,ある程度歳を取らないと分からないことのような.こちらで言われているように,ある程度年齢層高めの人向けの作品なのだろうな,という感じ.
地に足がついた,とか身も蓋もない,という形容詞が良く似合う作品ではありますが,ちゃんと女の子が出てくるのは安心していただきたいというか,ちゃんとエンターテインメント作品です.ジブリールちゃんマジ天使.
ちなみにここから試し読みできます.
01ということで続編の予定があるようで,非常に楽しみです.

マージナル・オペレーション 01 (星海社FICTIONS) マージナル・オペレーション 01 (星海社FICTIONS)
(2012/02/21)
芝村 裕吏

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