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『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』著;渡邊格

無印良品的な(無印良品の製品自体は都会的で工業的に作られたものな訳ですけど)、地産地消、伝統的な技術の継承を中国地方で実践しているパン屋「タルマーリー」さんの哲学の話です。
 
高度資本主義から一定の距離を置いて、家族が食べていけるくらいの「小商い」をする。これを腐る経済と呼んでいるようです。単に田舎でのんびり暮らしたいというものでなく、マルクスの考え方を土台にしつつ、資本家、というか経済の都合による労働力や人生の搾取をいかに回避するか、という理念に基づいた実践です。
 
共産主義社会は上手くいかないという歴史的な事実を筆者はちゃんと分かっていて、資本主義社会の片隅でちょっと違う道を実践するという感じです。古代に発見された素朴な葡萄酒やパンが高度で複雑な味わいを持つパンやワインになったり、素朴な体操の技が現在のE難度などと呼ばれるようなものに発展したり、人間というものは総じて凝り性で、何かと高度化させてしまうもののようですが、「金を儲ける」という仕組みが行きすぎてしまうとどうも人間にはついて行きづらいものになるらしいというのは、資本主義経済の中で生きるにしても頭の片隅に置いておいても良いのかなぁと思いますね。
 
今後人工知能と呼ばれるものが発達してより経済に占める資本の影響力が強くなるとき、資本主義経済は補助的な制度を使ってよほど強く修正をかけないと人間を幸せにしないのではないかという仮説を個人的に持っているのですが、この仮説は合っているのでしょうか?そして本当にそんな風にソフトランディングできるんでしょうか?資本主義と科学技術のもたらす恩恵(それなしにはおそらく地球の上に90億人もの人は住めないだろう)を否定せず、かといって高度資本主義経済の異様さの中で自分をすり減らしてしまわないための対局点として、本書のような視点を持って、自分がそういった生活をできないにしても、そういったところから物を買ったりして共存することこそ、「普通の人」にできることかなぁなどと思ったりします。たとえ金持ちの道楽だと言われようとも。